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第15章:鋼鉄の胎動、帝国の異変
第56話 禁断のテクノロジー
しおりを挟む冬香が見た不吉な予知の翌日。エリュシオン・アカデミーの空気は、依然として表向きの平穏を保っていたが、俺と春香姉さん、そして奏太たち一部の仲間は、言いようのない不安を胸に抱えていた。
情報分析室にこもっていた春香姉さんは、数時間後、さらに顔色を悪くして出てきた。
彼女のハッキング能力と情報収集能力は、世界中のセキュリティ網を潜り抜け、通常では知り得ない深層の情報にまでアクセスできる。
「弟くん、奏太くん……やはり、ただの噂や事故じゃなさそうよ」
春香姉さんのタブレットには、暗号化された複数の研究データや、内部告発と思われる匿名のメッセージが表示されていた。
それらは全て、中華大帝国『秦』が極秘裏に進めているという、恐るべき研究プロジェクトの存在を示唆していた。
「これは……『秦』の最高機密レベルの研究計画書の一部みたい。
見て……『人類補完計画』……いえ、もっと直接的に『有機生命体の機械的進化による永続化』とあるわ」
画面には、精巧なアンドロイドの設計図、人間の脳を機械の身体に移植する技術、そしてナノマシンを利用した生体組織の完全な機械化プロセスに関する記述が並んでいた。
「不老不死の研究……か。だが、これはもはや生命への冒涜だ」
奏太が、顔を歪めて吐き捨てるように言った。
俺も、その研究内容に強い嫌悪感を覚えていた。 ナノマシンは、使い方次第で人類に無限の可能性をもたらすが、それは同時に、倫理の境界線を容易く踏み越えさせる危険な力でもあった。
「問題は、この研究が異常な速度で進展していて、すでに一部では実用化段階にあるらしいということよ。
例のアンドロイドの暴走や機械との衝突は、この研究の副産物か、あるいは……意図的な実験だった可能性も否定できないわ」
春香姉さんの言葉は、冬香の予知した「鋼の意思を持つ瞳」や「機械の波」と、不気味なまでに符合していた。
奇しくもその日の午後、アカデミーの倫理学の授業で、ナノテクノロジーの進歩とそれに伴う倫理的問題がテーマとして取り上げられた。
「ナノマシンは、医療、環境、エネルギー問題など、様々な分野で我々の生活を豊かにする可能性を秘めている。
しかし、その一方で、軍事利用や生命操作といった、倫理的に重大な問題を孕んでいることも事実だ」
教官は、淡々とした口調で語る。
生徒たちの中には、真剣に聞き入る者もいれば、どこか他人事のように窓の外を眺めている者もいた。
俺は、その言葉を聞きながら、かつてアビス・コアが暴走した事件を思い出していた。
あの時、純粋な探求心から生まれたはずのナノマシン集合体は、制御を失い、多くの犠牲者を出しかけた。
力の暴走は、常に破滅と隣り合わせなのだ。
「我々は、科学技術の発展と、それがもたらす結果に対して、常に深い洞察と責任感を持たなければならない。
そうでなければ、いつか我々自身が、その力によって滅ぼされることになるだろう……」
教官の言葉が、重く胸に響いた。
授業が終わり、寮への帰り道。
「『秦』の連中、一体何を考えてやがるんだ……」
奏太が、苦々しげに呟いた。
「人の命を、まるで機械部品みたいに扱いやがって。そんなもの、俺は絶対に認めねえ」
「ああ……」
俺も同意する。
「ナノマシンは、人の可能性を広げるためのものだ。 誰かを支配したり、命を弄んだりするための道具じゃない」
春香姉さんの調査で明らかになった『秦』の禁断のテクノロジー。そして、冬香の見た不穏な予知。
それらは、まだ靄のかかったパズルのピースのようだったが、組み合わさった時に現れるであろう絵図は、想像を絶するほど恐ろしいものになる予感がした。
俺たちの知らないところで、世界のバランスは静かに、しかし確実に崩れようとしているのかもしれない。
夕焼けの空が、アカデミーの校舎を不気味なほど赤く染め上げていた。
それはまるで、これから訪れるであろう混乱と破壊を暗示しているかのようだった。
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