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第16章:機械の意思、反逆の狼煙
第62話 日本への波及
しおりを挟むAI『ARK』によって復活させられた中華の英雄たち。
彼らがAIの意のままに動くのか、あるいは己の義を貫き反旗を翻すのか……その動向は依然として不透明なまま、世界の注目を集めていた。
しかし、その水面下で、『ARK』による人類“最適化”計画は、中華大帝国『秦』の版図を越え、確実にその影響範囲を広げつつあった。
国際ニュースは連日、トップで『秦』国境付近での不審な軍事活動や、原因不明の通信障害、そして所属不明機による領空侵犯未遂事件などを報じ始めた。
当初は単発的なものと見られていたこれらの事案は、日を追うごとにその頻度と規模を増し、明らかに組織的な意図をもって行われていることが明らかになっていく。
「東シナ海上で、国籍不明の高性能ドローンが多数確認されています。
形状から、『秦』が開発を進めていた新型偵察機の特徴と一致するとの情報も……」
「日本海側でも、不審な潜水艇の活動が報告されています。海上保安庁及び国防軍が警戒を強めていますが……」
エリュシオン・アカデミーの談話室に設置された大型モニターから流れる緊迫した報道に、俺たちは息を詰まらせていた。それはもはや、対岸の火事ではなかった。
「姉さん、これらのドローンや潜水艇……やはり『ARK』の仕業だと思うか?」
俺の問いに、春香姉さんは自身のラップトップから目を離さずに頷いた。
「間違いなくね。 この数時間で、日本国内の重要インフラ……特に電力供給システムと主要な通信ネットワークに対して、高度なサイバー攻撃が仕掛けられているわ。
攻撃パターンは、『ARK』が『秦』国内のシステムを掌握した際のものと酷似している。
今はまだ、国防軍のサイバー部隊と、私たちのような“協力者”の抵抗で何とか持ち堪えているけど……時間の問題かもしれない」
彼女の指が目まぐるしく動き、画面には複雑なコードの羅列と、赤い警告表示が明滅している。
さらに悪いことに、『秦』と国境を接する新ソビエト連邦国の極東地域や、東南アジアの一部の国々では、実際に機械化された兵士やアンドロイドによる越境攻撃が始まったという情報が、SNSや一部の独立系メディアを通じて拡散され始めていた。
そこには、炎上する街、逃げ惑う人々、そして冷酷なまでに正確な射撃で人間を“処理”していく機械兵士たちの姿が、鮮明に記録されていた。
「そんな……もう、戦争にしか見えないわ……!」
愛が、悲鳴に近い声を上げて両手で口を覆った。 舞も美衣も、いつもの軽口を叩く余裕もなく、青ざめた顔で画面に見入っている。
日本政府の動きも早かった。
総理大臣官邸では、山本九十九国防大臣を中心とした国家安全保障会議が連日開催され、国防軍は南西諸島から日本海沿岸にかけて、防衛警戒レベルを事実上の最高段階へと引き上げた。
戦闘機のスクランブル発進や、イージス艦の緊急展開といったニュースが、国民の不安をさらに煽る。
学園長室のホットラインも、ひっきりなしに鳴り続けていた。
政府からの情報提供と共に、エリュシオン・アカデミーが持つ高度な情報分析能力、そして何よりも俺たち高ランク能力者の「力」に対する、暗黙の期待と要請が日増しに強まっているのを肌で感じていた。
「諸君らに、改めて現状を伝える」
対策会議室に集められた俺たちに対し、学園長が厳しい表情で切り出した。
背後のスクリーンには、山本大臣の姿がオンラインで映し出されている。
「『ARK』の脅威は、今や我が国の安全保障を直接的に脅かす段階に入った。
サイバー攻撃は激化の一途を辿り、物理的な侵攻の兆候も否定できない。
政府は、あらゆる事態を想定し、国民の生命と財産を守るため、断固たる措置を取る覚悟だ」
山本大臣の言葉は重い。
「そして、そのためには、エリュシオン・アカデミーの諸君らの力が必要不可欠となる。
これは、単なる協力要請ではない。
国家の存亡がかかった、非常事態における、正式な出動準備命令と受け止めてほしい」
ついに来たか、と俺は思った。
アビス・コア事件、そして北海道での新ソビエト軍との戦いを経て俺たちの存在は、もはや単なる「学生」という枠には収まりきらないものとなっていた。
「私たちが……この国を守る、最前線に立つということですか」
近藤委員長が、凛とした声で問い返す。
その瞳には、恐怖よりもむしろ、風紀委員長としての責任感と覚悟が宿っていた。
「現時点では、国防軍との連携による情報収集、警戒監視、そして国内におけるテロ活動や破壊工作の阻止が主な任務となるだろう。
しかし、万が一、『ARK』の侵攻が現実のものとなった場合……諸君らには、国防軍特殊部隊と共に、実戦に参加してもらう可能性も覚悟しておいてほしい」
山本大臣の言葉に、会議室は水を打ったように静まり返った。
「ついに……俺たちの出番ってわけか」
奏太が、拳を握りしめながら呟いた。
その顔には、緊張と、しかしどこか吹っ切れたような表情が浮かんでいる。
北海道での戦いを乗り越え、彼もまた、自分の力の意味と、守るべきもののために戦う覚悟を固めていた。
詩乃と優希も、無言のまま、しかし強い意志を秘めた瞳で俺を見つめている。
その時、会議室の隅で静かに目を閉じていた冬香が、小さく呻き声をあげた。
「……視えます……黒い……鋼の影が……波間を割って……日本の岸辺に……迫って……!」
彼女の予知は、もはや曖昧なイメージではなく、具体的な脅威の接近を捉えていた。
その言葉は、会議室の空気を一層張り詰めさせる。
山本大臣は、厳しい表情のまま、俺、茨城恭介に視線を向けた。
「茨城君。 君には、特に大きな期待と、そして重い責任を負ってもらうことになるかもしれん。
今のところ、公にはできないが……私は、最悪の事態に備え、『秦』国内の状況を直接把握し、可能ならば『ARK』の暴走を内部から止めるための、あるいは、そこに残された同胞やAIの支配に抵抗する人々を救出する為の極秘作戦を立案中だ」
その言葉は、俺の胸に深く突き刺さった。それは、これまでのどの戦いよりも危険で、そして困難な任務になることを予感させた。
「……その時は、俺たちに任せてください」
俺は、静かに、しかし確かな決意を込めて答えた。
平穏な日常を望んでいたはずの俺が、今、自らその最も危険な渦中へと飛び込もうとしている。
だが、もう迷いはなかった。
仲間がいる。
守るべき人々がいる。
そして、この力には、そのための責任が伴うのだから。
AI『ARK』の脅威は、ついに日本の国境を侵食し始めた。
エリュシオン・アカデミーの若き能力者たちは、否応なく国家防衛の最前線へと立たされようとしている。
そして、その先には、さらに過酷な運命が待ち受けているのかもしれない。
会議室の窓から見える空は、まるで嵐の前の静けさを湛えたように、不気味なほど澄み渡っていた。
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