【完結】新・信長公記 ~ 軍師、呉学人(ごがくじん)は間違えない? ~

月影 流詩亜

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蛇足の章 『誤先生、天国でテレビに出る』

​第25話 その男、『誤先生(GO-SENSEI)』

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 ​どこまでも、どこまでも続く、純白の雲海。

 完璧で、変化のない、天国。

​その一角に設えられた、実に立派な四阿あずまやでは、四人の男が、永遠とも思える時間を持て余していた。

 ここでは、時間そのものが緩やかに淀んでいる。

​「……つまらん」

 ​碁盤を睨みつけ、織田信長が呟いた。その指が、盤面をコツ、と苛立たしげに叩く。

 ​パチリ、と澄んだ音を立てて、向かいに座る呉学人が白石を置いた。
 教科書通りの、隙のない堅実な手。悪く言えば、この上なく面白みのない一手だ。

​「平和が一番にございます。殿も、そう思われませんか?」

 ​学人が穏やかに言うと、信長はフンと鼻を鳴らした。

​「貴様の言う『平和』は『退屈』の別名じゃ。この息の詰まる碁盤の上と、何ら変わりはせんわ」

​「まあまあ、殿。学の言う通り、いくさのない世というのは良いものです」

 ​そう言って豪快に笑うのは、前田利家(犬千代)だ。その声は、生前と変わらず朗々ろうろうと響く。
 その隣では、長身の男が、もはや隠す気もなく、くぁ、と大きなあくびをした。

​「うむ。退屈は退屈だ。ここの酒は美味いが、どうにも『渇』が足りん」

 ​前田慶次は、手入れの行き届いた朱槍に寄りかかり、碁盤には目もくれていない。

​「なあ、学人よ。何か面白いことはないか? さすがの俺も、毎日これではかぶきようがないわ」

​「面白いこと、ですか……」

 ​学人が困ったように眉を寄せた。

(大抵、この人たちの言う『面白いこと』は、『面倒ごと』の始まりなのですが……)

 ​そう学人が内心でため息をついた、その時だった。

​ピ──♪

 ​天上的でありながら、妙に場違いな『電子音』と共に、何もない空間が陽炎かげろうのように揺らいだ。

 そして、巨大な光の板――『神様TV・現世うつしよ娯楽チャンネル』が起動した。

​「おお! 始まったぞ! 現世の出し物だ!」

 ​慶次が、待ってましたとばかりに身を乗り出す。

​「はあ……」

 ​学人は、今度こそ深いため息をついた。

​「どうせまた、大河ドラマの再放送でしょう。あるいは、戦国IF特集か」

​(現世の人間たちは、何度同じ『本能寺』を繰り返せば気が済むのだろうか。いい加減、心臓に悪い)

 ​だが、画面に映し出されたのは、いつものドラマとは様子が違った。
 ​やけに派手で騒々しいCG。地球が真っ二つに割れ、噴き出すマグマの中からピラミッドがせり上がり、見慣れた陣羽織のシルエットが浮かび上がる。
そして……

 ​ドーーーン!!

 ​雷鳴と共に、『誤』という、やけに達筆な一文字が画面いっぱいに大写しになった。


​『《驚天動地! オーバー・ヒストリーSP》』

​『《~ニッポンを作った“誤”先生!? 未来軍師 GO-GAKUJINの謎~》』

​「…………はっ?」

 ​呉学人の間の抜けた声が、穏やかな天国の四阿に響き渡った。


 ​場面は切り替わり、現世のテレビスタジオ。

 煌びやかで、少々悪趣味なセットの中、知的な雰囲気の司会者が重々しく口を開いた。


 ​司会者・神山 叡智かみやま えいち: 「こんばんは。『オーバー・ヒストリー』の時間です。今夜は、戦国史最大のブラックボックス。織田信長を影で操り、天下統一の青写真を描いたとされる謎の男……」


​天国・信長: 「(ピクリ)……ほう?」

 ​信長の眉が、面白そうに跳ね上がった。


​司会者・神山: 「その名も、GO-GAKUJIN! 呉学人! 人は彼をこう呼びます――『誤先生ごせんせい』と!」


​テロップに【誤先生(ごせんせい)】と、これでもかと大書される。

​芸人・狭間 瞬はざま しゅん: 「いやいや神山さん、ちょっと待ってください!」

 ​スタジオの芸人枠、狭間が素早くツッコミを入れる。

​狭間: 「開始5秒で盛りすぎですよ! 『信長を操った』とか、もう悪役じゃないですか! しかも『誤』ってミステイクの『誤』! 呉学人さんにめちゃくちゃ失礼でしょ!」

​不思議系・電脳寺 パピコでんのうじ ぱぴこ: 「あ、パピコ知ってるー」
​人気タレントのパピコが、不思議な角度で首を傾げた。

​パピコ: 「GO-GAKUJIN。GOTOキャンペーンの基礎作った人でしょ? 宇宙と交信して」

​狭間: 「全然違うわ! 時代も何もかも! 合ってるの『GO』だけだろ! 宇宙は関係ない!」



​── ​天国 ──

​呉学人のこめかみに、青筋がピクリと浮いていた。その肩が、小刻みに震えている。

​「…………『誤』…………」

​ぼそりと呟く親友の隣で、沈黙を破ったのは利家だった。

(ぷっ)……こらえきれず、息が漏れる。

​「(ぷっ)……ぶはーーーーーっ!!」

 ​利家は腹を抱え、雲の上をごろごろと転げ回った。

​「はっはっは! 学人! 『誤先生』だとよ! 偉くなったな、おい! 『誤る』先生とは!」

​「が、学人よ……!」慶次も涙目だ。

「『ごーとー』とやら、お主、そんな大層な『傾奇(かぶき)』まで考えておったのか! さすがは俺の友だ!」

 ​二人が大爆笑する中、信長だけは笑っていなかった。
 彼は腕を組み、口の端を吊り上げ、実に、実に楽しそうな顔で画面を見つめている。

​「(ニヤリ)……くくく。『わしを操った』か」

 ​信長が、値踏みするような目で学人を見る。

​「面白いことを言う。なあ、学人よ。貴様、わしを操っておったのか?」

​「め、滅相もございません!」

 ​学人は、青い顔で叫んだ。

​「(頭痛)……嫌な予感が、ひしひしとする……」

 ​こめかみを押さえる学人をよそに、テレビ番組は構わず進行していく。


​司会者・神山: 「謎多き『誤先生』
まずは、彼が歴史の表舞台に躍り出た、あの戦いのVTRからご覧ください!」



 ─ つづく ─






※作者より

リクエストを頂きました。
また、大ヒット記念として蛇足の章 全 6話を書き足しました。

 よろしくお願いします。

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感想 1

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