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蛇足の章 『誤先生、天国でテレビに出る』
第29話 本能寺と魔方陣
しおりを挟む『神様TV』の画面が、深刻なBGMと共に暗転する。
スタジオは、まるでドキュメンタリー番組のような重い空気に包まれた。
司会の神山 叡智が、ひときわ重い声色で切り出した。
司会者・神山: 「そして、『誤先生』最大のミステリーにして、最大の功績。運命の『本能寺の変』です」
スタジオの解答者たちが、固唾を飲んでVTRを見つめる。
画面には、炎に包まれる本能寺の、やけにリアルなCGが映し出された。
ナレーション(以下、ナレ): 「西暦1582年、明智光秀の謀反。しかし、織田信長は、この最大の危機を、紙一重で回避しています」
天国・信長: 「(ピクリ)……回避、とな」
ナレ: 「なぜ、彼は逃げられたのか? 全ての鍵は、あの日、呉学人が取った『不可解な行動』にありました」
天国・学人: 「(ビクッ)……ふ、不可解な行動……? (小声)いや、あれはただ、必死にお使いの途中で道に迷っていただけだが……」
ナレ: 「天正十年、初夏。信長は、呉学人を安土城に呼び出し、ある『密書』を羽柴秀吉に届けるよう命じます。……表向きは」
白衣の歴史学者Aが、再び興奮気味に登場する。
歴史学者A: 「(目をカッと見開き)あの密書は、真っ赤なダミーです! 秀吉に届けるなど、口実、カバーストーリーに過ぎません!」
軍事アナリストB: 「そうです。あの密命の真の目的は、ただ一つ。すでに謀反の兆候を察知していた信長が、光秀の元へ放った『最終警告』。その使者こそが、呉学人だったのです」
天国・学人: 「(目を見開く)私が、警告……!? しかも『最終』の!?」
天国・信長: 「(腕を組み、ニヤリ)……ほう?」
ナレ: 「呉学人は、その『天運』をもって、光秀が謀反の密議を交わす寺院へと、寸分の狂いなく…………辿り着きます」
(再現ドラマ:例の西洋彫刻のような呉学人(役)が、雨に濡れたように見せかけた姿で、光秀のいる寺の門を叩く)
ナレーション: 「『道に迷った』。それは、敵を油断させるための、彼一流の『ブラフ(はったり)』でした。この『誤先生』の出現に、光秀は戦慄します」
歴史学者A: 「『なぜ、この男が、この刻に、この場所に!?』……光秀は、信長に全て見抜かれたとパニックに陥りました。これが、歴史の分岐点です」
天国・学人: 「(叫び)違う! ブラフじゃない! 本気で迷ったんだ! あの時は本当に死ぬかと思った! 寒いわ、腹は減るわ、おまけに腰は痛むわで!」
天国・利家: 「(爆笑)はっはっは! 学人、お主、あの哀れな迷子姿も『演技』だったのか! ぬう、一本取られたわ!」
ナレーション: 「だが、警告は、彼の作戦の第一段階に過ぎなかった。彼の『本当の任務』は、ここから始まるのです」
スタジオ・狭間: 「え、まだ何かあるんですか!? ハードル上げすぎでしょ!」
ナレ: 「VTRをご覧ください。これは、呉学人が密命を受けてから、光秀の寺に『辿り着く』までの、彼の足取りを再現したものです」
画面に、京を中心とした古地図が映し出される。
学人の移動ルート(本編第19話参照)が、仰々しい赤い線で描かれていく。
(安土→京→丹波(北)→引き返す→坂本(東)→京の周辺をぐるぐる→光秀の寺)
軍事アナリストB: 「一見、無意味に道に迷い、彷徨っているだけに見えます。愚かです。……我々も、そう思っていました。この『図形』に気づくまでは」
赤い線が、複雑に交差し、一つの巨大な『紋様』を地図上に描く。
軍事アナリストB: 「(声を震わせ)……これは、ただの移動ではない。『魔方陣』です! 彼は京の都そのものを結界とする、巨大な『呪術儀式』を行っていたのです!」
スタジオ解答者: 「「 ええーーーっ!? 」」
天国・学人: 「(白目)ま、まほうじん……?」
軍事アナリストB: 「彼が撒き散らしたという『ゴガクシン粒子』を触媒に、京の地脈を刺激する! この『呉学人魔方陣』こそが、光秀の軍勢の統制を乱し、判断力を奪う、彼の真の『神算鬼謀』だったのです!」
ナレ: 「魔方陣を完成させた呉学人。彼が光秀の前に現れたのは、『儀式は完了した』という、信長への合図だったのかもしれません」
天国・慶次: 「(目を輝かせ)なんと! 学人、お主、ただ迷っておったのではなかったのだな! 京の都に『傾いた』絵図を描いていたとは! なんと風流だ!」
天国・学人: 「(半泣き)描いてない! 描いてません! ただ必死だったんだ! 高松城はどっちだー!って!」
ナレ: 「そして、クライマックス。呉学人は、なぜ、光秀を止めなかったのか? 彼は、信長が『必ず逃げられる』と確信していたからです。なぜなら……」
ここで、VTRにUFO肯定派のジャーナリストDが乱入してくる。
ジャーナリストD: 「(興奮気味に)答えは一つ! あの『魔方陣』は、光秀の軍を妨害すると同時に、『時空転送』の座標軸だったんですよ!」
ジャーナリストD: 「呉学人=異星人です! 彼は、本能寺が炎上するその瞬間、あの魔方陣(転送陣)を起動させ、京の上空に待機させていた母艦へ、信長公を『ビーム転送』させたのです!」
CG:炎に包まれる本能寺。信長が天を仰ぐと、空が割れ、光の柱が降り注ぎ、信長が(なぜか仁王立ちのまま)吸い上げられていく。
スタジオ・パピコ: 「(手を叩いて)あ! やっぱり! ほら、だから(第27話で)Wi-Fi欲しかったんだよ! 転送ビーム、ギガ使うもん!」
スタジオ・狭間: 「繋がった! そこ繋げなくていいんだよ! ていうか信長公、宇宙船に乗ったの!?」
── 天国 ──
呉学人は、真っ白になって燃え尽きていた。
その口から、魂が抜けたように言葉が漏れる。
天国・学人: 「……魔方陣……転送……びーむ……」
利家と慶次が、腹を抱えて雲の上を転げ回っている。
天国・利家: 「ひぃっ! 学人、『てんそう』! 『もえ(燃え)』よりすごいぞ!」
天国・慶次: 「異星の友よ! よくぞ殿を『てんそう』してくれた!」
ただ一人、信長だけが、腕を組み、真剣な顔で学人をじっと見つめていた。
天国・信長: 「…………学人よ」
天国・学人: 「(ビクビクしながら)……は、はいっ」
天国・信長: 「(静かに)……貴様、あの時、京の周りをぐるぐる回っておったのは……」
天国・信長: 「本当に、わしを『てんそう』するための『魔方陣』を描いておったのか? それとも……」
信長は、ニヤリと笑った。
天国・信長: 「ただ、本気で道に迷っておっただけか? どっちだ?」
天国・学人: 「(涙目で絶叫)迷ってただけです! 必死に高松城を目指してたら、なぜか丹波にいたんです! 信じてください!!」
学人の悲痛な叫びは、二人の大爆笑にかき消された。
テレビ番組は、いよいよ最後の「遺産」の紹介へと移ろうとしていた。
── つづく ──
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