俺が信長で、幼馴染が吉乃と濃姫!? ~転生幼馴染トリオ、本能寺フラグ回避して戦国スローライフ目指します

月影 流詩亜

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最終章:その後の三人 ~戦国スローライフ、ここに極まれり~

第48話 西へ、海へ ~魔王の伝説が消える場所~

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​ 丹波の山里を後にした俺たち三人は、商人に身をやつし、西へ西へと旅を続けた。

​ 秀吉から受け取った「隠居料」は、想像以上に莫大だった。
 だが、俺たちはそれを湯水のように使うことはしなかった。
 派手な動きは目立つし、何より俺たちが求めているのは贅沢な暮らしではなく、心安らかな日々だからだ。

​ 陸路を避け、大坂から船に乗った。
 瀬戸内の海は驚くほど青く、凪いでいた。

​「わぁ……! 見て、大ちゃん! 海だよ! どこまでも続いてる!」

​ 船縁ふなべりから身を乗り出して、空(お空)が歓声を上げる。

 潮風になびく髪、太陽を反射して輝く水面。
 その笑顔は、戦国の世の血なまぐささを一切感じさせない、ただの少女のものだった。

​「はしゃぎすぎですよ、お空。落ちたらどうするんです」

​ 海(お島)が、呆れたように、しかし口元に穏やかな笑みを浮かべて窘める。
 彼女の眼差しはかつて軍略図をにらんでいた頃とは別人のように柔らかい。

​ 俺、大吉は舵を取る船頭の背中越しに、遠ざかる畿内を眺めていた。

​ 安土城……本能寺……岐阜……

 俺が駆け抜け、燃やし、築き上げた場所。

 それらが水平線の彼方へ消えていくにつれ、肩に乗っていた見えない重荷が、一つ、また一つと海へ溶けていくのを感じた。


​ ◇

​ 
旅の途中、寄港した港町で、興味深い噂話を耳にした。
 宿場の飯屋で、商人たちが酒を酌み交わしながら話している。

​「聞いたか?  羽柴様が、大坂にデカイ城を築くらしいぞ」

「安土城を超える規模だとか。いやはや、太閤様も派手好きよな」

「それに比べて、信長公は恐ろしかったなぁ……
 あの方は、人間じゃなかった……魔王だったよ」

​ 俺は茶を啜りながら、その話に耳を傾けた。

 魔王・信長……その名は既に、現実の人間を離れ、物語の中の存在になりつつある。

 恐怖の象徴として語られる己の過去。

 だが、不思議と腹は立たなかった。

​(ああ……それでいい)

​ 俺は心の中で頷いた。

 信長という「魔王」が人々の記憶の中で強大であればあるほど、今ここにいる「大吉」という小市民の影は薄くなる。
 俺の悪名は、俺たちの平和を守る最強の防壁なのだ。

​「……怖いお話ですねぇ、お前さん」

​ 海が、わざとらしい怯えた演技で俺の袖を引く。
 その瞳は「計算通りですね」と笑っていた。

​「まったくだ。くわばらくわばら」

​ 俺は演技に合わせて身震いし、空が吹き出しそうになるのを脇腹をつついて止めた。


​ ◇


​ 旅を続けて数ヶ月……俺たちがたどり着いたのは、九州の玄関口、博多の町だった。

​ ここは、大陸との交易で栄え、異国の文化も入り混じる活気ある港町だ。
 秀吉の支配もまだ完全には及んでおらず、何より自由な空気が満ちている。

​「ここだ……」

​ 賑わう市場、潮の香り、行き交う人々の博多弁。

 俺は直感した。ここなら、紛れ込める。

 ここなら、誰にも邪魔されず、新しく始められる。

​「気に入った?」

​ 空が覗き込んでくる。

​「ああ、ここに根を下ろそう」

​「賛成です。物流の拠点としても申し分ない。食料も豊富ですし、何より……」

​ 海が、遠くに見える青い海を指差した。

​「この海の向こうには、まだ私たちの知らない世界が広がっています。
 狭い日本の中央で天下を取り合うなんて、なんだか馬鹿らしく思えてきませんか?」

​「違いない」

​ 俺は笑った。

 天下布武なんて、この広い海の前では、子供の陣取り合戦に過ぎない。


​ ◇


​ 俺たちは、博多の町外れ、海が見える小高い丘の上に、一軒の古い空き家を見つけた。
 かつては茶屋だったというその家は、ボロボロだが手入れをすれば住めそうだ。
 秀吉からの隠居料を使えば、御殿のような屋敷だって買える。
 だが、俺たちはあえて、自分たちの手で直せるこの家を選んだ。

​「よし! 今日からここが、俺たちの城だ!」

​ 俺が宣言すると、空が腕まくりをした。

​「まずは大掃除だね! 私は床を磨くから、大ちゃんは屋根の修理お願い!」

​「わたくしは、庭の手入れと、近所への挨拶回りの品を見繕ってきます。
 商売を始めるなら、最初が肝心ですから」

​ 海は早くも「女将」の顔になっている。

​ そう、俺たちはここで店を開くことにしたのだ。

 武士は廃業。

 天下人も引退。

 これからは、汗水垂らして働く市井の民だ。

​ 屋根に登り、金槌を振るう。

 眼下には博多湾が広がり、カモメが鳴いている。

 トン、トン、トン

 乾いた音が、俺の新しい人生のリズムを刻む。
​ ふと、作業の手を止めて、汗を拭った。

 庭では、空と海が何やら言い合いながら草むしりをしている。

​「もう、海ちゃん! それは雑草じゃなくて薬草だよ!」

「え? こんなただの草が? 紛らわしいですね……」

​ 平和だ……涙が出るほど、平和だ。

​ 俺は屋根の上で大の字になった。

 青い空。

 流れる雲。

​ 十兵衛、見てるか。

 蘭丸、笑ってるか。

 俺は今、幸せだぞ。

​ お前たちがくれたこの命、この時間。

 一秒たりとも無駄にせず、噛み締めて生きる。

​「おーい! あなたー! お昼ですよー!」

「早く降りてこないと、食べちゃうよー!」

​ 下から、愛しい声が呼んでいる。

​「おう! 今行く!」

​ 俺は起き上がり、屋根から飛び降りた(もちろん、梯子を使って)。

 魔王は死んだ。
 
 ここにいるのは、ただの愛妻家(二人の妻持ちだが)の店主、大吉だ。

​ さあ、開店準備だ。

 俺たちの「戦国スローライフ」

 小さな店の、ささやかで賑やかな毎日が、まもなく始まろうとしていた。



​ ── 最終話へ続く ──


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感想 1

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みんなの感想(1件)

みちのあかり
ネタバレ含む
2025.12.27 月影 流詩亜

ありがとうございます。

引き続き、よろしくお願いします。

解除

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