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第4話 泣き虫な下僕と🐾危険な「水場」
しおりを挟む🐾ここからは、次女・ジョーの視点でお送りします🐾
私たちの下僕である「マユミ」は、本当に手のかかる生き物だ。
毎日毎日、外から帰ってくると疲れ果てた顔をして、ため息ばかりついている。
長女のメグお姉ちゃんや、三女のベス、末っ子のエイミーは、そんな下僕にすり寄って甘えるのが仕事だと思っているみたいだけれど、私は違う。
私は誇り高き黒猫。
安易に喉を鳴らして機嫌を取るような真似はしない。
キャットタワーの最上段から、この頼りない下僕がちゃんと生きていけるよう、厳しく監視してあげるのが私の役目なのだ。
あれは今から二年ほど前。マユミが、今までで一番ひどい「悲しい匂い」をさせて帰ってきた日のこと。
光る板(スマホとかいうらしい)を見ては、この世の終わりのような顔をして、とうとう家の中で一番危険な「水場」――お風呂に一人で閉じこもってしまった。
(……まったく、何をしているのよ)
扉の向こうからは、クンクン、ヒック、という情けない音が聞こえてくる。
猫にとって、水は恐ろしいものだ。
あんなところに自ら好んで入っていくなんて、人間というのは本当に愚かな生き物だと思う。
でも、あのまま水場で泣き続けて、もし溺れでもしたらどうするのか。
ご飯を出してくれる下僕がいなくなったら、メグお姉ちゃんたちも困るだろう。
「しょうがないわね。私が監視してあげないと、ダメみたいじゃない」
私は決死の覚悟で、冷たい脱衣所の床を歩き、すりガラスの扉をカリカリと引っ掻いた。
「にゃあぁーーっ!(早く開けなさいよ、溺れてないでしょうね!)」
少しだけ開いた隙間から中を覗くと、マユミは案の定、お湯の中で目を真っ赤に腫らして縮こまっていた。
私は濡れた床に顔をしかめながらも、湯船の縁に飛び乗った。足元がツルツル滑って最悪の気分だったけれど、ここで引き下がるわけにはいかない。
とりあえず「しっかりしなさいよ」という意味を込めて、濡れた肩をポンと叩いてやった。
すると、マユミはなぜか黄色いプラスチックの丸い器を、お湯の上にプカプカと浮かべて差し出してきたのだ。
(……はっ? 何よこれ)
匂いを嗅いでみるが、食べ物ではない。ただのプラスチックだ。
でも、マユミはすがるような、期待に満ちた目で私を見つめている。
(……まあ、下僕がわざわざ用意してくれたんだし。これに乗れば、足が濡れずに監視を続けられるわね)
私は「仕方なく」その黄色い小舟に乗り込んでやった。
するとどうだろう。お湯の熱が薄いプラスチック越しにじんわりと伝わってきて、冷えていた肉球から全身へと、たまらなく心地よい温もりが広がっていくではないか。
(な、なによこれ。悪くないじゃない……)
ゴロゴロゴロゴロ……
しまった。不覚にも喉が鳴ってしまった。
私は慌てて顔を背け、「別に気持ちいいわけじゃないんだからね! 下僕が用意したから乗ってあげてるだけよ!」と尻尾をパタンパタンと振ってアピールした。
でも、それを見たマユミが「ふふっ……あははっ!」と、ようやくいつものように笑ってくれたのだ。
(……まあ、悪くないわね)
私は目を細め、そのまま洗面器の中でウトウトとまどろむことにした。
すべては、この泣き虫な下僕を監視し、安心させるための「優しさ」なのだから。
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