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第5話 三姉妹の呆れ顔と🐾私の言い分
しおりを挟む🐾ジョー視点🐾
「ブルルッ」
お風呂場での『監視任務』を終え、リビングに戻ってきた私は、少しだけ湿ってしまった前足を軽く振って水滴を飛ばした。
部屋の中央では、相変わらず三つの毛玉がホットカーペットの上でだらけきっている。
私が戻ってきた気配に気づき、長女のメグがむくりと顔を上げた。
「ジョー、またあの恐ろしい『水場』に行っていたの? 肉球が湿っているわよ」
メグお姉ちゃんは、呆れたような、でも優しい声でそう言うと、私の前足を引き寄せてペロペロと毛づくろいをし始めた。
「……やめてよ、自分でできるわ。それに、仕方ないじゃない。あの泣き虫な下僕が一人で水場にいるんだから、誰かが監視しないと危ないでしょ」
私は強がりながら顔を背けたが、メグお姉ちゃんのザラザラとした舌の感触は、正直悪くなかった。
その会話を聞きつけて、メグお姉ちゃんの背中に隠れていた三女のベスが、おずおずと顔を覗かせた。
「ジョーお姉ちゃん、すごい……。
私、あんなザーザー音がする怖い場所、絶対に行けない……」
ベスは想像しただけで怖いのか、ブルブルと身震いしてメグお姉ちゃんにさらに擦り寄る。
「フフッ、ジョーお姉ちゃんってば本当に要領が悪いわね」
一番いい場所で仰向けになっていた末っ子のエイミーが、大きなあくびをしながら薄目を開けた。
「ここが家の中で一番暖かくて安全なのに。
わざわざ濡れるかもしれない場所へ行くなんて、信じられないわ。
下僕の機嫌を取りたいなら、こうやってお腹を見せて喉を鳴らしておけば、勝手に喜んで美味しいご飯を出してくるのに」
エイミーはタキシード柄の尻尾をゆらゆらと揺らし、いかにも自分は賢いと言わんばかりの顔をしている。
「……あんたたちは、あの下僕の扱いを全然わかってないのよ」
私はメグお姉ちゃんから前足を引き抜き、ツンと鼻先を上げた。
たしかに、ホットカーペットは暖かい。
ご飯をもらうために甘えるのも、猫としては正しい生存戦略だ。
でも、あの黄色い『洗面器の小舟』の心地よさと、そこから見上げるマユミの顔は、私だけが知っている特権なのだ。
お湯の中で、マユミはポロポロと泣く。
光る板の数字や、よくわからないことで傷ついて、私にだけその情けない顔を見せる。
そして、私が洗面器に乗って喉を鳴らしてやると、涙を拭ってフニャリと笑うのだ。
『ありがとう、ジョー』と、私だけを頼りにして。
(あの特別な時間は、私と下僕だけの秘密なんだから)
誰にも譲る気はない。私は心の中で密かに胸を張りながら、三姉妹から少し離れたキャットタワーの最上段へと優雅に飛び乗った。
ここからなら、お風呂上がりに少しだけスッキリした顔で戻ってくるマユミを、一番に見下ろすことができるからだ。
「さあ、早く戻ってきなさいよ。湯冷めして倒れられたら、明日からのご飯に困るんだから」
私は誰に聞こえるでもなく小さく呟き、琥珀色の目を細めて、リビングの扉が開くのを待った。
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