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第1話 完璧な彼氏と🐾腐った卵の臭い(歩 視点)
しおりを挟む「まあ、竜一さん。そんな立派な志を持って働いていらっしゃるなんて」
母が感嘆の声を漏らし、トーストを運ぶ手が止まる。
ある日の日曜、午前九時。相沢家のダイニングテーブルには、焼きたてのパンケーキ、芳醇な香りのコーヒー、そして「完璧な婚約者候補」が並んでいた。
私、相沢歩(通称:AA)は、隣に座る麦田竜一さんの横顔を盗み見た。
シュッとした鼻筋に、誠実そうな眼鏡。マッチングアプリで出会った彼は、一流商社の海外事業部に勤めるエリートだ。
「いえ、お父様やお母様が歩さんを大切に育てられたからこそ、今の彼女の輝きがあるんです。
私はその幸せを、一生守りたいと考えているだけでして」
麦田さんが爽やかに微笑む。
父は鼻の下を伸ばし、「いやあ、歩にはもったいない男だ」と鼻高々だ。
平和だ。
私はこの穏やかな空気が大好きだ。
自分を主張して波風を立てるより、こうして誰かが笑っている空間に漂っていたい。
「ふんにゃあああ……ッ!!」
突如、食卓の調和を切り裂くような、禍々しい唸り声が響いた。
椅子の背もたれの上で、我が家の愛猫・テミスが毛を逆立てている。その黄金色の瞳は、親の仇でも見るかのように麦田さんを射抜いていた。
「テ、テミス! ダメよ、竜一さんはお客さまでしょう?」
私は慌ててテミスを抱き上げようとした。
しかし、テミスは私の手をすり抜け、麦田さんのブランド物のバッグの横に陣取ると、さらに低く、地響きのような声を上げた。
「ははは、野生の勘というやつですかね。
僕、動物には嫌われやすくて」
麦田さんは困ったように笑うが、その一瞬、眼鏡の奥の瞳が冷酷な光を放ったのを、私は見逃さなかった。……いや、見なかったことにした。
波風を立てたくない。
今日は、私の人生で一番大切な日なのだから。
「テミス、いい子だから。……ごめんなさい、竜一さん。この子、名前だけは『正義の女神』なんて立派なのがついてるけど、本当はお調子者で」
私は必死にテミスをなだめ、笑顔を作った。
けれど、テミスは私を冷ややかな目で見つめ、それからまた麦田に向かって牙を剥いた。
まるでお前は、何一つ分かっていないと言いたげに。
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