20 / 46
2 マコト君と悠斗君
7
しおりを挟む
土曜日。あいにくの天気だ。梅雨の間少なかった雨を取り戻すかのように、けっこうな勢いで降っている。
待ち合わせの時間から逆算して、そろそろ家を出ようと思っていたときだった。悠斗君から、《すいません、行けません》とラインが届いた。《どうかしたの?》と返すも、既読にもならなかった。もしかして、やっぱりわたしたちと食事に行くのが億劫になったのだろうか。だとしても責めることなどできない。わたしは清風さんに電話をかけた。
「もしもし? もう家出ました?」
(今出たところよ)
「実は今連絡があって、悠斗君、来られないって」
(そうなの? どうして?)
「わからないんです。来られないって連絡があっただけで、そのあとラインしても既読にもならないし」
(そうなの……)
「どうします?」
(そうねえ。もうそのつもりで家出ちゃったから、二人で行かない? せっかく予約入れたんだし。悠斗君にはまた声かけてみればいいじゃない)
「そう……ですね」
二人だけでご飯を食べるとなると福山に買い物に行った日以来だ。お店ではほぼバイトごとに顔を合わせているし、バイト終わりで途中まで一緒に帰ることだってある。けれど、改めて二人だけで出かけるというのは、まだ何となくくすぐったい感じがしないでもない。
当初の目的からは外れてしまったけれど、わたしは清風さんと二人で焼肉を食べるべく家を出た。
一番街のアーケードを出てちょうど傘を開いたときだった。バッグの中で電話が鳴り出したので、一度アーケードの下に戻って傘を閉じた。
電話は清風さんからだった。
「もしもし?」
(あのね、今悠斗君に会ったのよ)
「そうなんですか? やっぱり行けるって?」
(そうじゃないの。おばあちゃんがまたいなくなったみたいなの。それで悠斗君、捜してるみたいで)
「今も?」
(そうなの。家の周りはぐるぐる捜し回ったみたいなんだけど、この前はリーフの方まで行ってたじゃない? もしかしたらもっと遠くまで行っちゃってる可能性もあるし、あんた駅の方とか捜してみてくれない? あたしもあたしで捜すから)
焼肉どころではなくなった。こんな雨の中、悠斗君のおばあちゃんがまたいなくなったなんて……。この前みたいに車道に出て行ったりしたら大変だ。車は雨で前が見にくくなっているはずだから、気づくのが遅れて轢かれてしまうかもしれない。
わたしは傘をさしてアーケードを飛び出した。
傘のせいで人とすれ違うのにも気をつかいながら、キョロキョロと辺りを見回す。
おばあちゃんは傘を差しているんだろうか。ちゃんと靴を履いているだろうか。あの日、リーフで奥さんが出したお茶をうれしそうにすすっていた顔が頭に浮かぶ。もし自分の祖父母がこんなふうにいなくなったらと思うととてもやりきれない。
駅の中に入ってみた。改札を行きかう人たちの間にそれらしき人は見当たらない。もしかしたらと駅員に尋ねてみたけれど、見かけてはいないとのことだった。
「交番で聞いてみたらどうですか?」
そうだった。なぜ思いつかなかったんだろう。あてもなく捜し回るよりはまずそうするべきだ。わたしは駅員にお礼を言って交番に向かった。
「いやー、そういう連絡は入ってませんね」
駅前の交番にいたのは、この前とは違う警察官だった。
「あの、他の交番にも連絡は入ってないんでしょうか」
「今のところはそうじゃと思いますけど、一応本署に確認とってみますね」
警察官はそういうと電話を取って何やらやりとりしていた。
「やっぱり今のところはそういったお年寄りの保護はないみたいですね。お名前は神山幸子さんでしたよね? いなくなったいう届け出は、久保交番の方にあったみたいですけど」
悠斗君か家族の人が届け出たようだ。
「そうですか。わかりました」
おばあちゃんはいったいどこにいるのだろう。当てずっぽうだとしても、とにかく捜すしかない。わたしは交番のすぐそばにあるポートターミナルや駅の反対側にも行ってみた。
清風さんや悠斗君からは依然連絡はない。彼らもきっと必死で捜しているに違いない。
自分の家の前を素通りして商店街の中も探し回ったけれど、悠斗君のおばあちゃんは見つからなかった。
ようやく雨は止んだ。時刻はもうすぐ二時になろうとしている。焼肉に行くつもりで何も食べていなかったから気が付けば腹ペコだ。とりあえず何か飲み物を買おうと自動販売機の前で立ち止ったとき電話が鳴った。おばあちゃんが見つかったのだろうか。わたしは慌てて電話を取り出した。清風さんからだ。
「おばあちゃん見つかったんですか?」
(そうなの。それがね)
清風さんによると、連絡が来て、おばあちゃんは今病院にいるらしい。
「事故にでも遭ったんですか!?」
(詳しいことはわからないの)
悠斗君が今から向かうのだという。
(それで、悠斗君一人で行かせるのもかわいそうだから、とりあえずあたしも一緒について行くわ。だからあんたは家に戻ってて。あとで連絡するから)
悠斗君のおばあちゃん、大丈夫だろうか。大事に至らないといいけれど……。
それにしても、こんな時に悠斗君以外の家族が誰も病院に駆けつけないなんてどういうことだろう。そんなに忙しいのだろうか。
ふと思った。この前家に行った時も誰もいなかったし、もしかしたら悠斗君はおばあちゃんと二人暮らしなのかもしれない。だとしたら、悠斗君のお父さんやお母さんはどこでどうしているんだろう……。
わたしは飲み物を買うのをやめて家に戻った。
待ち合わせの時間から逆算して、そろそろ家を出ようと思っていたときだった。悠斗君から、《すいません、行けません》とラインが届いた。《どうかしたの?》と返すも、既読にもならなかった。もしかして、やっぱりわたしたちと食事に行くのが億劫になったのだろうか。だとしても責めることなどできない。わたしは清風さんに電話をかけた。
「もしもし? もう家出ました?」
(今出たところよ)
「実は今連絡があって、悠斗君、来られないって」
(そうなの? どうして?)
「わからないんです。来られないって連絡があっただけで、そのあとラインしても既読にもならないし」
(そうなの……)
「どうします?」
(そうねえ。もうそのつもりで家出ちゃったから、二人で行かない? せっかく予約入れたんだし。悠斗君にはまた声かけてみればいいじゃない)
「そう……ですね」
二人だけでご飯を食べるとなると福山に買い物に行った日以来だ。お店ではほぼバイトごとに顔を合わせているし、バイト終わりで途中まで一緒に帰ることだってある。けれど、改めて二人だけで出かけるというのは、まだ何となくくすぐったい感じがしないでもない。
当初の目的からは外れてしまったけれど、わたしは清風さんと二人で焼肉を食べるべく家を出た。
一番街のアーケードを出てちょうど傘を開いたときだった。バッグの中で電話が鳴り出したので、一度アーケードの下に戻って傘を閉じた。
電話は清風さんからだった。
「もしもし?」
(あのね、今悠斗君に会ったのよ)
「そうなんですか? やっぱり行けるって?」
(そうじゃないの。おばあちゃんがまたいなくなったみたいなの。それで悠斗君、捜してるみたいで)
「今も?」
(そうなの。家の周りはぐるぐる捜し回ったみたいなんだけど、この前はリーフの方まで行ってたじゃない? もしかしたらもっと遠くまで行っちゃってる可能性もあるし、あんた駅の方とか捜してみてくれない? あたしもあたしで捜すから)
焼肉どころではなくなった。こんな雨の中、悠斗君のおばあちゃんがまたいなくなったなんて……。この前みたいに車道に出て行ったりしたら大変だ。車は雨で前が見にくくなっているはずだから、気づくのが遅れて轢かれてしまうかもしれない。
わたしは傘をさしてアーケードを飛び出した。
傘のせいで人とすれ違うのにも気をつかいながら、キョロキョロと辺りを見回す。
おばあちゃんは傘を差しているんだろうか。ちゃんと靴を履いているだろうか。あの日、リーフで奥さんが出したお茶をうれしそうにすすっていた顔が頭に浮かぶ。もし自分の祖父母がこんなふうにいなくなったらと思うととてもやりきれない。
駅の中に入ってみた。改札を行きかう人たちの間にそれらしき人は見当たらない。もしかしたらと駅員に尋ねてみたけれど、見かけてはいないとのことだった。
「交番で聞いてみたらどうですか?」
そうだった。なぜ思いつかなかったんだろう。あてもなく捜し回るよりはまずそうするべきだ。わたしは駅員にお礼を言って交番に向かった。
「いやー、そういう連絡は入ってませんね」
駅前の交番にいたのは、この前とは違う警察官だった。
「あの、他の交番にも連絡は入ってないんでしょうか」
「今のところはそうじゃと思いますけど、一応本署に確認とってみますね」
警察官はそういうと電話を取って何やらやりとりしていた。
「やっぱり今のところはそういったお年寄りの保護はないみたいですね。お名前は神山幸子さんでしたよね? いなくなったいう届け出は、久保交番の方にあったみたいですけど」
悠斗君か家族の人が届け出たようだ。
「そうですか。わかりました」
おばあちゃんはいったいどこにいるのだろう。当てずっぽうだとしても、とにかく捜すしかない。わたしは交番のすぐそばにあるポートターミナルや駅の反対側にも行ってみた。
清風さんや悠斗君からは依然連絡はない。彼らもきっと必死で捜しているに違いない。
自分の家の前を素通りして商店街の中も探し回ったけれど、悠斗君のおばあちゃんは見つからなかった。
ようやく雨は止んだ。時刻はもうすぐ二時になろうとしている。焼肉に行くつもりで何も食べていなかったから気が付けば腹ペコだ。とりあえず何か飲み物を買おうと自動販売機の前で立ち止ったとき電話が鳴った。おばあちゃんが見つかったのだろうか。わたしは慌てて電話を取り出した。清風さんからだ。
「おばあちゃん見つかったんですか?」
(そうなの。それがね)
清風さんによると、連絡が来て、おばあちゃんは今病院にいるらしい。
「事故にでも遭ったんですか!?」
(詳しいことはわからないの)
悠斗君が今から向かうのだという。
(それで、悠斗君一人で行かせるのもかわいそうだから、とりあえずあたしも一緒について行くわ。だからあんたは家に戻ってて。あとで連絡するから)
悠斗君のおばあちゃん、大丈夫だろうか。大事に至らないといいけれど……。
それにしても、こんな時に悠斗君以外の家族が誰も病院に駆けつけないなんてどういうことだろう。そんなに忙しいのだろうか。
ふと思った。この前家に行った時も誰もいなかったし、もしかしたら悠斗君はおばあちゃんと二人暮らしなのかもしれない。だとしたら、悠斗君のお父さんやお母さんはどこでどうしているんだろう……。
わたしは飲み物を買うのをやめて家に戻った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる