尾道海岸通り café leaf へようこそ

川本明青

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2 マコト君と悠斗君

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 土曜日。あいにくの天気だ。梅雨の間少なかった雨を取り戻すかのように、けっこうな勢いで降っている。

 待ち合わせの時間から逆算して、そろそろ家を出ようと思っていたときだった。悠斗君から、《すいません、行けません》とラインが届いた。《どうかしたの?》と返すも、既読にもならなかった。もしかして、やっぱりわたしたちと食事に行くのが億劫になったのだろうか。だとしても責めることなどできない。わたしは清風さんに電話をかけた。

「もしもし? もう家出ました?」

(今出たところよ)

「実は今連絡があって、悠斗君、来られないって」

(そうなの? どうして?)

「わからないんです。来られないって連絡があっただけで、そのあとラインしても既読にもならないし」

(そうなの……)

「どうします?」

(そうねえ。もうそのつもりで家出ちゃったから、二人で行かない? せっかく予約入れたんだし。悠斗君にはまた声かけてみればいいじゃない)

「そう……ですね」

 二人だけでご飯を食べるとなると福山に買い物に行った日以来だ。お店ではほぼバイトごとに顔を合わせているし、バイト終わりで途中まで一緒に帰ることだってある。けれど、改めて二人だけで出かけるというのは、まだ何となくくすぐったい感じがしないでもない。

 当初の目的からは外れてしまったけれど、わたしは清風さんと二人で焼肉を食べるべく家を出た。

 一番街のアーケードを出てちょうど傘を開いたときだった。バッグの中で電話が鳴り出したので、一度アーケードの下に戻って傘を閉じた。

 電話は清風さんからだった。

「もしもし?」

(あのね、今悠斗君に会ったのよ)

「そうなんですか? やっぱり行けるって?」

(そうじゃないの。おばあちゃんがまたいなくなったみたいなの。それで悠斗君、捜してるみたいで)

「今も?」

(そうなの。家の周りはぐるぐる捜し回ったみたいなんだけど、この前はリーフの方まで行ってたじゃない? もしかしたらもっと遠くまで行っちゃってる可能性もあるし、あんた駅の方とか捜してみてくれない? あたしもあたしで捜すから)

 焼肉どころではなくなった。こんな雨の中、悠斗君のおばあちゃんがまたいなくなったなんて……。この前みたいに車道に出て行ったりしたら大変だ。車は雨で前が見にくくなっているはずだから、気づくのが遅れて轢かれてしまうかもしれない。

 わたしは傘をさしてアーケードを飛び出した。

 傘のせいで人とすれ違うのにも気をつかいながら、キョロキョロと辺りを見回す。

 おばあちゃんは傘を差しているんだろうか。ちゃんと靴を履いているだろうか。あの日、リーフで奥さんが出したお茶をうれしそうにすすっていた顔が頭に浮かぶ。もし自分の祖父母がこんなふうにいなくなったらと思うととてもやりきれない。

 駅の中に入ってみた。改札を行きかう人たちの間にそれらしき人は見当たらない。もしかしたらと駅員に尋ねてみたけれど、見かけてはいないとのことだった。

「交番で聞いてみたらどうですか?」

 そうだった。なぜ思いつかなかったんだろう。あてもなく捜し回るよりはまずそうするべきだ。わたしは駅員にお礼を言って交番に向かった。


「いやー、そういう連絡は入ってませんね」

 駅前の交番にいたのは、この前とは違う警察官だった。

「あの、他の交番にも連絡は入ってないんでしょうか」

「今のところはそうじゃと思いますけど、一応本署に確認とってみますね」

 警察官はそういうと電話を取って何やらやりとりしていた。

「やっぱり今のところはそういったお年寄りの保護はないみたいですね。お名前は神山幸子さんでしたよね? いなくなったいう届け出は、久保交番の方にあったみたいですけど」

 悠斗君か家族の人が届け出たようだ。

「そうですか。わかりました」

 おばあちゃんはいったいどこにいるのだろう。当てずっぽうだとしても、とにかく捜すしかない。わたしは交番のすぐそばにあるポートターミナルや駅の反対側にも行ってみた。

 清風さんや悠斗君からは依然連絡はない。彼らもきっと必死で捜しているに違いない。

 自分の家の前を素通りして商店街の中も探し回ったけれど、悠斗君のおばあちゃんは見つからなかった。


 ようやく雨は止んだ。時刻はもうすぐ二時になろうとしている。焼肉に行くつもりで何も食べていなかったから気が付けば腹ペコだ。とりあえず何か飲み物を買おうと自動販売機の前で立ち止ったとき電話が鳴った。おばあちゃんが見つかったのだろうか。わたしは慌てて電話を取り出した。清風さんからだ。

「おばあちゃん見つかったんですか?」

(そうなの。それがね)

 清風さんによると、連絡が来て、おばあちゃんは今病院にいるらしい。

「事故にでも遭ったんですか!?」

(詳しいことはわからないの)

 悠斗君が今から向かうのだという。

(それで、悠斗君一人で行かせるのもかわいそうだから、とりあえずあたしも一緒について行くわ。だからあんたは家に戻ってて。あとで連絡するから)

 悠斗君のおばあちゃん、大丈夫だろうか。大事に至らないといいけれど……。

 それにしても、こんな時に悠斗君以外の家族が誰も病院に駆けつけないなんてどういうことだろう。そんなに忙しいのだろうか。

 ふと思った。この前家に行った時も誰もいなかったし、もしかしたら悠斗君はおばあちゃんと二人暮らしなのかもしれない。だとしたら、悠斗君のお父さんやお母さんはどこでどうしているんだろう……。

 わたしは飲み物を買うのをやめて家に戻った。


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