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第一章:薄暮の月白
1-7.紅空
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ふわり、風が吹いた。日没後の黄昏が覆う薄暮の世界で、一羽の烏が風に誘われるように空へと飛び立つ。星と月の色が混ざり合い、その銀の翼に反射する。世界はまだ夢の中にあり、その羽音は誰にも届かない。
世界は動き出した。ならば、こちらも動き始めよう。
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ーMi capita spesso che si realizzi una cosa che ho sognatoー
眩しい朝日が窓辺で踊り、小鳥の囀りで意識が浮上する。
「う……んん…………」
重だるい体を持ち上げて目に入るのは、見慣れた天井、見慣れた部屋だ。
ガンガンと響くような頭痛と、胃の奥底から不快感な吐き気が込み上げる。
(う……昨日、飲みすぎたかなぁ……)
目を覚まして一番に脳裏へ浮かぶのは、昨夜の飲み会。参加者は♡と♢と♤の絵札四枚だ。
絵札は、首が胴体から切断されるか、肉体の大半を失わない限り死なない。どんなに強烈な毒素を盛られようと、たとえ海の底に沈められようと。
アルコールも立派な毒物だ。最終的には完全に分解されるとはいえ、許容上限を超えれば普通に二日酔いもする。
(みんなお酒強すぎだよ……)
昨夜の飲みの席で、間違いなく一番飲んでいたのはオルカ・ロッソだ。オマケに、酔が回る素振りも一切見せないのだから恐ろしい。
意外だったのは、クローネ・アルギスも、存外酒には強そうだったこと。彼女はあの場でも、ほとんど飲み食いしていなかったが、一切顔を赤らめる様子はなかった。
一方で、オパール・レ・フルールとマローネ・ニービオは、どちらかと言えば普通くらいか、やや弱い部類だ。が、フルールは弱めのカクテルをゆっくり味わっていたためか、最後まで意識を保っていたように思う。
そして、彼はと言うと……
(うぅ……どうやってここまで戻ってきたんだっけ……。頭痛い……)
とまあ、こんな有様だ。最終的にお開きになった記憶が無い……。どこかのタイミングで飲み潰れてしまったのかもしれない。ロッソかフルールが王宮まで連れてきてくれたのだろうか……。
(当分はお酒控えよ……うぅ……)
ガンガンと鳴り響く頭痛に抵抗しながら、重だるい体を持ち上げて、とりあえず正装に着替える。二日酔いだろうが寝不足だろうが、この国の山積みの問題に変わりはないし、JACKが仕事をこなさなくて良い理由にはならない。
今日の仕事の予定を思い出しながら、カーテンと窓を開く。
(♢8の部隊が演習やるんだっけ……それと、軍備の点検と……アルギスが今日の晩餐会出るって言ってた……気がするから、それの警護と……)
あんな状態で晩餐会に出席して大丈夫なのか……と、一瞬不安がよぎるが、彼女自身が行くと言っているのだから止める理由はない。
そうして身支度を済ませ、窓を閉める。そのタイミングで、トントントンと三つノックが響き、
「おはようございます、JACK。私です」
今しがた思い浮かべた銀髪の声がした。
「はぁい、入っていいよー」
乱れたカーテンを整えて、ベッドから転がり落ちた枕を拾いながら振り返ると、
「おはようございます、ご気分はいかがですか?」
両腕で書類を抱いた、正装のQUEEN OF DIAMONDの姿が目に入る。こんな早朝から仕事だなんて、大層なことだ。彼からすれば、あと2~3時間は寝ていたかったくらいなのに。
「Buongiorno、生憎最悪かな……。頭痛い……」
「飲み過ぎですね……。あぁ、KINGから言伝を預かっていますよ」
昨夜の疲れを一切感じさせないこの国の第二位たるQUEENが、流れるように仕事の話を持ち出すせいで、若干頭痛が酷くなった気がする。
「内容は?」
「『体調が悪いのならば、無理に仕事をする必要はない。むしろ、いつも以上にミスをされては、こちらの仕事を増やされれはたまらない』とのことです。いやはや、お優しいKINGですね」
「うぅ、耳が痛い……」
生憎、彼はお世辞にも仕事が得意ではない。遅いし、ミスも多い。おかげで、いっそ初めから別の誰かにやらせた方がマシだなんて言われる始末……。できることなら是非そうして貰いたいが、仮にもJACKはJACK。彼にしかできない仕事は、彼がやるしかない。
「うーん……でもまあ、書類仕事はやめておくよ。まともにできる気がしないし……」
思考も上手くまとまらない頭では、きっといつも以上にミスをする。そして、いつも以上にKINGに怒られる……。ならば、やらない方がマシだ。
「承知しました。では、そのようにお伝えてしますね」
「あ、そうだ。ねえ、QUEEN。今日の晩餐会出るの?」
足早に部屋を出ようとした彼女に、業務的な確認を口にした。仕事は嫌いだし、こんな早朝から考えたくもないが、ついでに聞いておいた方が後々楽そうだったから。
「えぇ。先日頂いたJACK OF HEARTの手料理のおかげですかねぇ……。すぐには食べられませんが……少しずつでも生活を戻していこうかと……」
彼女曰く、JACK OF HEARTの手料理はとても美味しかったそうだ。少しだけ嬉しそうに、自分には向けない穏やかな笑みを浮かべるあたり、相当気に入ったらしい。
(JACK OF HEART、ね……)
紅色の硬質なくせっ毛に、月のような鈍い金茶色の目。身長はマローネよりも少し高く、年齢は20代前半の青年……。
それが、マローネの実の兄、JACK OF HEARTだ。彼を探し始めてから早約70年……。まさか、他国のJACKだったなんて。
(あの人も……僕のこと、探してくれてたのかな)
マローネが半世紀以上、顔も名前も分からない兄を探していたように、彼もまた……同じくらいの年月を、弟を探していたのだろうか……。
(そうだったら、いいな……)
何か、過去を思い出す鍵になるかと思ったが……残念ながら、記憶は戻らなかった。未だにオルカ・ロッソを兄とは思えない……。でも、できることなら、思い出したい。
「JACK?」
怪訝そうな顔で、アルギスがこちらを見上げていた。
「なんでもないよ。気にしないで」
「そうですか……。では、私は職務に戻りますので」
そうして、彼の上司は、素っ気なく、かつ足早に部屋を出ていった。彼女が居なくなれば、静寂に秒針の音だけが響いている。
(……僕も仕事しよ。まずはご飯だよね)
今、失った記憶と、思い出せない兄のことを考えても仕方がない。まずは、目の前に積まれた仕事を片付けよう。
交わる剣の音、罵声と怒号と悲鳴によく似た雄叫びが響く。今日も、この国の兵士たちは元気が良い。その様子を、少し離れたところから、興味なさげに膝に肘をついて眺めている桃髪の青年こそ、彼ら兵の頂点に君臨する者なのだが……
「……はぁ…………」
その目にやる気なく、面倒くさそうに訓練の様子を眺めている。
演習や訓練が無意味だとは思わない。技術を磨くことは戦場に立つ上で必須だ。……が、この国のJACKは、訓練を面倒くさがる不真面目な男だった。
(太刀筋も甘いし、回避も防御も雑。あー……そのまま切り込んだら……)
ため息混じりに見つめていた先の兵が、重心の乗った剣を避けられ、後隙の切込みを無理に避けようとして派手に転倒する。
(あぁほら、そうなる)
もしここが戦場ならば、一瞬の隙が命取りになる。あれでは命を無駄に散らすことになるだろう。
今、彼が興味なさげに眺めているのは、♢8の部隊の実技演習。日頃の鍛錬の成果を確認するのも、JACKの大事な仕事の一つだ。しかし、No.8の数字を背負った部隊にも関わらず、兵たちの様子はあまりにお粗末に見えた。
面倒くさい。早く帰りたい。帰って、お茶でもするか、何もせずソファで一日を過ごしたい……。が、残念なことに、JACKには監督責任もあるわけで……投げ出す訳にはいかない。
(……♡、かぁ…………)
まだ見ぬ自分の出身国、海を超えた異国の地・♡……。一体どんな国だろう? そこで自分はどうやって育ったのだろう……?
一度全てが焼失したこの王宮では、他国の資料は容易に手に入らない。ましてや外交を司るQUEENの仕事もまだ始まったばかりで……。どうやって情報を集めたものか……。そもそも、知る必要はあるのか? ぐるぐると思考が澱んでいく。
そんな折、ふと、
「どうしたんですかJACK、浮かない顔してますよ」
声をかけられた。見れば、♢10だ。♢9が欠番になっているため、監督者として、彼もまた演習に付き合っている。
「ん~……ちょっと考え事」
「はは、珍しいですね。お力になれるかはわかりませんが……お聞きしましょうか?」
直属の部下であり、10年ちょっとの付き合いがある♢の10番……。彼が世話焼きなのは、昔から変わらないらしい。
「う~ん……」
言って良いものか。部下に。弱みなんか、見せられないし、もちろん、記憶を失っていることも話していないが……。
「……ちょっと用があってね、♡のこと知りたいんだけど……う~ん……」
「♡ですか……これまた随分遠い国を……」
「うーん……ちょっとね……」
♢10は困ったように首を傾げ、顔をしかめる。♡のことを知りたいのなら、実際に♡へ行くのが一番早いが……3つの国境を超え、海を超えたその先……。♡は、あまりにも遠い。
「やっぱ、実際に行くしかないかなぁ……。でも、もし、僕がいない間に何かあったら……」
目の前で繰り広げられる♢8の部隊の演習。素人目からすれば立派に見えるだろうが、JACKの目からすれば、まだまだお粗末。この国を任せるなんてできない。
「JACKは心配性すぎますよ。僕らもいるんですし、行ってきてはどうですか?」
「うーん……」
もしも、KINGやQUEENに何かあったら? もしも、自分がいない間に、また城が焼けるような事態になっていたら? もしも……もしも……。考えれば考えるほど嫌な思いばかりが脳を埋めていく。
しかし、過去に張り付いて剥がれない肉の焦げる匂いと人の悲鳴。もう二度と、絶対に、繰り返したくはない。絵札の仕事に、もしもがあってはいけない。
「とにかく、KINGに相談してみては? あの方のご判断ならば、間違いはないでしょう」
この国の、かの慈悲深いKINGならば、まず間違いなく行ってくるようにと言うだろう。彼は優しすぎる。
「うーん……じゃあ、まあ……とりあえず聞いてはみるよ」
とはいえ、いずれ相談はしなければいけない。JACKは♢10に促されるがままに頷いた。
「あ、そういえば、今日の晩餐会はQUEENもご出席なされるんですよね?」
「え、あ、うん」
♢10は唐突に話を変える。二日酔いの頭は、一瞬質問に戸惑ったが、ほぼ反射的に頷いた。すると、
「僕も警護に行って良いですか?」
と、予想だにしなかった質問が飛んできた。
「え、いいけど……」
人手は多いに越したことはない。……♢10が反旗を翻さなければ、だが。まあ、10年弱共に過ごして、彼が謀反を起こすような人物ではないと、JACKは知っていた。
「わ、ほんとですか!? ありがとうございます! いやぁ、着任式の時にお顔を拝見した以来で……。綺麗な方でしたし、お近付きにはなりたいんですけど……」
訂正、下心はそれなりにあったらしい。
「……QUEEN、今年で200歳らしいけど……?」
「え……」
間抜けな表情と、間抜けな声をあげて、♢10が固まる。まあ、見た目からは想像できなくても無理はない。
「ま、まあ、とにかく! お会いしたいのは事実ですから……」
執務室に缶詰にされているか、気まぐれに街に出かけているかQUEENに、会える機会は滅多にない。
「いいよ、人手はあった方が良いし。好きにしなよ」
「ありがとうございます!」
♢10は表情を明るくして、再度礼を口にする。
(晩餐会か……)
よいしょ、と腰を浮かせ、
「じゃあ、こっちはよろしく」
「はっ!」
退屈な監督業務は♢10に押し付けて、彼はその場を後にした。
***
ーEl lujo más grande es ser libreー
青い空、青い海。波の音が耳を埋め、不規則に揺れる床板に、潮風が髪を揺らしていく……。この映えのない風景には、もう随分見飽きてしまった。紅色の髪の青年は甲板の手すりに肘をつき、短いため息を吐いた。
水平線の向こうには、愛すべき自国・♡の国がある。産まれた育った国であり、守りべき国。それは弟にとっても同じ……はずだった。
「……ッチ」
考えたくなくても、脳は昨日の記憶ばかりを掘り起こす。反射的に、この日何度目か分からない舌打ちが出てしまった。
「どうしたの? 浮かない顔して。退屈?」
不意に隣にやってきた人物に声をかけられる。プラチナブロンドの髪に、海よりも青い目をした、青年にも美女にも見える美麗な人物だ。
青い目の人物は手すりに背中でもたれ掛かり、紅髪の青年を見やる。
「……落ちるぞ」
「怖いこと言わないでよ。お前が言うと、ホントにそうなりそうじゃん」
「……つか、んで着いて来んだよ」
この者との同行は、♤までの縁だったはずだ。それなのになぜ今、同じ船で♡へ向かっているのか……。
「あれ? 言ってなかったっけ? 俺、明日からQUEEN OF HEARTと対談だから」
金髪の男は悪びれずに笑って見せる。相当性格が悪いか、あるいはわざとやっているかのどちらかだろう。
「っていうか、お前、上司の予定くらい把握しとけよ。護衛もクソもないじゃない」
「……めんどくせぇ。いちいちそんなことするかよ」
JACK OF DIAMONDといい、JACK OF HEARTといい、サボり癖は兄弟揃ってのようだ。
……とは言ってみたものの、思考は依然として浮かばれない。
「……弟のこと?」
「……」
無言の肯定。昨日は、最終的にアルコールの勢いで全てを収めてしまった気がしなくも無いが……あの場にいた四人全員にとって、これ以上なく衝撃的な1日になった。
「良かったじゃん? 見つかって」
「……」
喜ぶべきなのか否か……。唯一の肉親が生きていたことは嬉しい。……しかし、マローネがロッソのことを忘れている以上、マローネが弟だということさえ、もしかしたらロッソのただの妄想なのかもしれない。
だってもう、70年も昔のことなのだから……。ただ面影が似ていた赤の他人かもしれない。
「……だから言っただろ? 他国の絵札の顔くらい覚えとけって」
「……るっせ」
ため息混じりに金髪の人物・フルールが笑う。もっと早く♢の絵札について調べていれば、きっと彼の半世紀は、もっと有意義になっただろうに。
「……どうするの? これから」
途切れ途切れに会話を繋いでいく。この哀れな兄弟がどうなろうが興味はないが、彼らの行く末を見届けてみたい気もする。
「……まずはアイツらに報告する。……あとはその後で考える」
「そう……」
俯いていたロッソの視線は、いつの間にか水平線の向こうを強く睨んでいた。その目に、迷いはない。
(……そういう顔してる時のお前、嫌いじゃないよ)
見上げると、青い空はどこまでも青く澄んでいて、高く白い雲がゆったりと遠くを流れていった。
「占ってやろうか。お前らの未来」
ただの気まぐれだ。所詮占いなんて当たるかは運次第……。けれど、足を突っ込んでしまったからには、少しくらい手助けをしても、バチは当たらないだろう。
短い沈黙が流れる。そして、
「……いい。……お前の占いなんか、信用ならねぇし」
ロッソは短く返した。
「なにそれ、酷いなぁ。俺もQUEENなんですけどぉ?」
「……お前みたいなのに務まるかよ」
「務まってるよ、全く。その言い方じゃぁ、♡のQUEENの占いなら信じられるって?」
「んなこと言ってねぇだろ!」
眉間に深くシワを刻んで、人相悪そうな顔で、ロッソはこちらを睨んだ。3cm差なんて大差ないなんて思いながら、盛大に吹き出して笑う。この厳ついJACKに、大人しい嘆き方なんて似合わない。
「笑ってんじゃねぇよ!」
「あはは、ごめんごめん? じゃあせめて、お前らに幸がありますように」
手すりから身を引き、後ろ手に手を振って、フルールは船内へ向かって歩き出す。
「……気持ち悪ぃこと言ってんじゃねぇ」
面倒くさそうな声が、波の音に混ざって甲板に響いた。じきに♡へも着く。その間に、上司たるQUEEN OF HEARTになんて説明するかでも考えておこうか。
そうしてロッソもまた、船内へ向かって歩き出した。
***
ーA ship in a harbor is safe, but it not what ships are built forー
ポタリ……インクが垂れて目が覚める。うたた寝してしまったらしい。時計を見れば、知らぬ間に半刻の時が流れていた。
ハッとして手元を見れば、インクは机にシミを作っていた。幸い、重要な書類には落ちなかったようだ。QUEEN OF DIAMONDは安堵に胸を撫でた。
脳裏を埋め尽くすのはこの後のこと。これから晩餐会に向かわなくてはならない。それが憂鬱で仕方なかった。できることなら、このまま部屋に缶詰にされていたい。もちろん、仕事をするのが楽しいわけではないが……。
(とにかく、まずはできることから始めなくては……。いつまでも甘えてなどいられません)
仕方なしにと重い腰を上げ、部屋の扉を押し開ける。
穏やかな雑音に満ちた晩餐会場。長机の両脇には来賓がずらりと並び、最奥の王座には我らが君主が御ざしている。
シミ一つない白いクロスの真ん中には、煌びやかに飾られた燭台とドライフラワーのアレンジメント。厳かながら華やかなオーケストラが雰囲気を演出し、シャンデリアが無数の影を落としている。
凛と背を伸ばし、靴音を響かせ歩く。KINGの傍へ、与えられた席へと。純白と黄金が彩るこの王宮で、着飾った貴族たちの中を、黒を基調とした軍服で。
異色の彼女へ降り注ぐ無数の視線は様々だ。純粋に美しいと感嘆する者、その腹の内を明かしてやろうと熱意を燃やす者、敵意、悪意、憎悪、嫌悪……。
QUEENの席から見る世界は、うっとりする程に鮮やかで……薄ら暗い灰色の町で生きてきた彼女にとっては、あまりに苛烈で、酷さに目眩と頭痛がした。本当に、自分には不釣り合いだと思う。
「……体調は大丈夫なのか?」
この国の優しき第一位が、心配そうに声をかけてきた。美しい白髪に、シャンデリアの暖色の灯りが反射している。
「えぇ。ご心配おかけ致しました。いつまでも環境に甘えてはいられません」
「……無理はするなよ」
我らがKINGはあまりにも心配性が過ぎる。いつかその優しさが、その身に降りかかる災いとならなければ良いのだけれど……。
否、そんなもしもが来るのなら、降りかかる火の粉の盾となろう。光が光たるように、影として支えることが、彼女の仕え方だから。
ふと視線をあげると、遠くに見慣れた桃色の髪が見えた。彼はこちらに気づいている素振りなく、その脇に控えたおそらく彼の部下らしき人物に何かを話している。
(……お忙しいのですね……)
真面目に仕事をしているところは、初めてみたかもしれない。普段の様子を知らなければ、彼も立派な絵札の一員だ。
運ばれてきた食事にゆっくりと手を伸ばし、洗練された所作で口に運ぶ。整った顔立ちに美しい所作。新しい女王に貴族たちの目が奪われていく。
(贅沢は言えませんが……何故でしょうね、JACK OF HEARTの手調理の方が、私の口に合うようです)
国内選りすぐりのシェフが作るフルコースであるはずなのに、まるで、どこにでもある平凡なものに感じてしまう。できることならもう一度、彼の料理を食べてみたい。
アミューズ、オードブル、ポタージュ、ポワソン……と、淡々と会は進行する。飛び交う貴族たちの話に適当に相槌を打ちながら……。
話題と言えば、どこの地域出身なのかだとか、王宮の生活には慣れたかだとか、そんな程度。出身地は♢と♤の国境付近だと暈し、当たり障りない回答を返していく。
コトリ、小さな音を立てて置かれた鴨肉のソテー。本日のメインディッシュだ。これだけでも静止画になりそうな、どこからどう見ても美味しそうなのに、ただ一つ……
「っ……」
襲い来る “嫌な予感” を除いて。
腕の外側を毛虫が這い回るような、胃の底面から冷やされるような、身の毛もよだつ不快感。本能が、制御できない能力が、危険を知らせている。
この状況で起きうる不幸なんて、一つしか思いつかない。自分の料理か? それとも、KINGの料理か? ……詳細が分からないことが、こんなにももどかしいだなんて。
確認する方法は……
「……少々よろしいでしょうか?」
スッと小さく手を挙げる。一瞬にして、ざわめいていた会場の視線が、彼女1人に集中した。
「あぁ。どうした?」
この場の主であるKINGが発言を許可し、続きを促す。
「……大変申し上げにくいのですが……こちらのソテー、毒味が不十分なのでは?」
♤出身特有の回りくどい言い方で、しかしはっきりと毒が入っていると言わないあたり、質が悪い。
会場が息を飲むのを感じる。しかし、動乱が起きないのは、我らがKINGが冷静を保っているからか、あるいはその威厳ゆえか……。
「そうか……。毒味係と医者を。既に手をつけてしまった者はいるか?」
淡々と指示を出し、周囲を見回す。1人の貴族が、おずおずと青い顔をして手を挙げた。
「奥の部屋へ。医者に見てもらいなさい。その他の者も、体調に変化があったらすぐに言うように。今日の会はここまでにしよう。申し訳ないが、調査が終わるまでは王宮に泊まってくれ」
そして、手早く会の終了と、参加者の帰宅禁止を言い渡す。この中に、毒を仕込むように根回しした者が居ないとは限らない。
ふと視線を周囲に向けると、桃髪のJACKの姿が無い。
(……こういう時は、行動が早いんですね……)
その様子に感嘆しつつも、彼女も他の参加者同様、部屋へ戻る。これ以上、彼女にできることはない。
騒動の少し前、バタン、戸が閉じる音がした。煌びやかなざわめきも、オーケストラの音色も、全ては厚手の扉の阻まれて、閑散と冷えた廊下には届かない。
「……」
QUEENが食事の手を止めた、その顔が見えた瞬間、彼はその場を♢10に任せて会場を出た。
しばらくあの変わったQUEENと共に過ごして、わかったことがある。彼女があの、苦虫を噛み潰したような顔をする時には、なにか理由がある時だ。
初めて彼女と出会った時も、KINGと会わせた時も。そして、だいたいその後には、ろくなことにならない。きっと、今回もそうだ。
考えられる可能性は1つ。毒物の混入……。となれば、向かう先は厨房だ。自然に調理していて、毒が混ざるなんて考えられない。誰かが、悪意を持って、入れたということだ。
彼が厨房へ到着する頃には、厨房にも会の中止の知らせが届いていた。そのせいか、不気味な静寂が、食料の匂いを包んでいる。
「Ciao?」
この状況においては、死刑宣告に近い、JACKの声が静寂に反響した。軍部の最高位であり、武力の象徴であるJACKが、こんな時にやってくるなんて、十中八九休憩ではない。……次に、誰の首がとんでも、文句は言えない。
「話は聞いてるでしょ? さっきの料理、準備したのは誰?」
可愛らしく甘い声なのに、背筋も凍るような殺気を帯びていた。
遅れて厨房へやってきたQUEENを待っていたのは、この場を取り仕切る厨房長だった。そして、奥の小部屋へと案内される。おそらくは休憩室か、厨房長の執務室だろう。簡素な机と椅子が数脚、仮眠用のベッドが置かれている。
中に入ると、クロスも何も引かれていない机の上に、湯気の消えた鴨肉のソテーが置かれている。そして、神妙な面持ちで中に控えている三人の女性と、感情を感じない冷たい目をしたJACKが待っていた。
JACKには、この3人に見覚えがあった。だって、つい数時間前、お茶した時に顔を合わせたばかりなのだから。
「……彼女たちがこちらを?」
「はい。間違いございません」
QUEENの質問に、厨房長が返す。
「……これ、食べられますね?」
QUEENが一言、冷酷に言い放った。回答なんて分かりきっているけれど。
「っ……」
「……」
「……」
給仕たちは答えない。否、答えられないのだ。
絵札に対する反逆……。大罪に値するが、今回は幸い大事には至らなかった。以後同じようなことがなければそれで良い。厳重注意か解雇で良いだろうと、QUEENが口を開きかけた瞬間、
「あぐっ……ッ、っ……!」
不意に後ろに控えていたはずのJACKが歩を進め、その後右手が給仕の一人の首を掴む。
苦しげに嗚咽を漏らし、彼の手に爪を立てる給仕を、ただ何も思っていないかのような冷たい目で見下ろして、
「どうしたの? 早く食べなよ。QUEENのご命令だよ? まさか、食べられないような物作ったんじゃないよね」
彼は無表情にそう告げた。数時間前に笑顔を交わしあった? 共にお茶をした? そんなこと、仕事には一切関係などない。
真冬の冷気にも勝る圧倒的な威圧を纏いながら、凍りついた空間で苦しそうな呻きと抵抗だけがこだましている。
(や、やりすぎです……。止めなくては)
せっかくこの件で死者が出ずに済みそうだというのに。確かに毒を盛るというのは許されることでは無い。……が、それにしても、だ。
給仕の首がJACKのうっかりでへし折れてしまう前に、と彼女が制止の声をあげようとした矢先、
「#僕__JACK#の仕事は、君たちとお茶をすることじゃない。KINGとQUEENの護衛だ。いい? 二度とやるな」
凍てついた音を発し、彼は自ら手を離した。彼の仕事は無駄に多い書類仕事でもなければ、国防を司ることも無い。守るべき我らが君主と新しき盟主へ手出しする者は、排除あるいは処分。
どさりと音を立てて床に転がった人型を、忌むべきものでも見るかのような目で蔑み、
「……もう用はないよね、行こ」
とJACKはQUEENの腕をとった。
「え、あ……はい」
半ば引きづられるように連れられて立ち上がり、一度給仕たちへ心配そうな視線を向ける。首を閉められていた女性は、苦しそうに悶えながら噎せているが、命に別状は無さそうだ。
返ってくる畏怖に近い怯えた目から視線を逸らし、
(……あとで医務室の方にお声をかけておきましょう……)
文句も言えないままに連れ出されながら、彼女は一人、こんな状況でさえ気遣いを落とす自分へ苦笑した。
***
ーInvestment in travel is an investment in yourselfー
「……JACK、……あの、JACK? どこまで行くのですか」
腕を引かれたまま、晩餐会へ戻ろうとしない彼に連れてこられたのは王宮の庭園。時期外れだが手入れが行き届いた種々が、冴える月光を反射している。春にはまだ早い冷たい風が通り過ぎてもなお、声をかけた青年は振り返らない。
それでも、次第に遅くなる足取りは、最終的には両足を揃えて立ち止まる。静寂が包む庭園。その静寂に耐えられなかったように、彼女の方が先に
「……らしくないですね」
と、呟いた。
きゅ、と腕を掴んでいる彼の手が強ばった気がする。だから、
「……悩み事ですか?」
続きを紡ぎながら、今度は彼女から手を引いた。誰かの相談を聞くなんて、ましてや気に食わないこのJACKの話を聞くだなんて、正気だとは思えないが……どうせ落ち着いて話すならば、立ち話は遠慮願いたい。
いつかの噴水に、いつかと同じように腰を下ろして月を見上げれば、いつかと同じ水音が耳を支配する。夜色に染まった世界、それを照らす月光、流れる薄雲の影は長く、美しい庭園に二人きり。寒く冷たい静寂さえ閉ざしていなければ、一体どれほど幻想的だったであろうか。
しかし、一向に彼は言葉を吐き出さない。
「……話すつもりがないのなら、戻りますよ。ここ、寒いので」
憂いに伏せたJACKの赤茶色の目を見上げる。8cm上。笑顔が良く似合う彼が、思い悩むなんて珍しい。
立ち上がろうとした時、腕を引かれる。
「……どうしたら、いいのかな……」
ぽつり、ぽつりと、言葉を選ぶように、彼は小さな悩みを口にした。
「……♡に、行きたいんだ……。そこが僕の故郷なら……。……でも、国内がこんな状態で、お城の治安も良くなさそうだし、♤の良くない噂も聞くし……。もしも、……もしも、僕がいない間に何かあったらって思うと、やっぱり行くべきじゃないのかな、って……」
些細なことだと言えばその通りだ。しかし、それで片付けてしまうにはあまりにもこの問題は難しい。
♡は島国で、♢は内陸国。♡へ渡るためには♧か♤を経由して、そして、船で海を越えなければならない。一日二日で帰ってこられる旅路ではないのだ。JACK OF HEARTである彼の兄、オルカ・ロッソはそれなりの頻度で♢へ訪れていたようだが、それは、♡の内政が安定しているからこそだろう。
ここは♢。海の恵み豊かな♡でも、大地の恵み豊かな♧でもなく、立ち塞がる食糧難に、いつ暴動が起きるかなんて予想できない。おまけに、QUEENに対する従者たちの態度も気に係る。毒程度で絵札は死なない。……が、もし本当に暗殺を企てる輩が現れたら……。そんなとき、もしも国に居られなかったら……。
絵札としての職務を優先するか、彼個人としての要望を優先するか……懸命な者ならば間違いなく前者だ。……しかし、そう簡単に自分の欲求を切り捨てられるほど、彼は強くない。
息を吸う。冷たい空気が肺を満たした。唇を緩やかに開き、告げる。
「行ってくれば良いではありませんか」
と。まるで他人事に。まるで、本当に些細な悩みだと一蹴するように。
「……え?」
「あら、聞こえませんでしたか? 行ってこれば良いと言ったのですよ」
「いや……うん、聞こえたけど……」
悩みの意図を、原因を理解しているのか、と聞きたくなってしまう返答に、彼は眉根を寄せた。
「何もありませんよ。あなたがいない間。長くとも1ヶ月程度でしょう? もしも1ヶ月後に大きな暴動が起こるならば、こんなに国が落ち着いているはずありません」
伊達に長く生きてはいない。隣に座る青年の倍近い時間を生きてきて、それくらい嫌でもわかる。3度の動乱をこの目で見てきたからこそ、今、彼が恐れるようなことは何も無いと、誰より確証をもって口にできる。
「でも、もし……」
「みっともないですよ、JACK。空が落ちてくるような心配をしてどうします? それを人は杞憂というのではないのですか?」
「うぅ……でも……」
脳裏を過ぎる、過去の記憶。怒号と悲鳴と絶叫が混ざり合い、肉の焦げる匂いが吐き気を連れてやってくる。あの日の悪夢、もう二度と繰り返したくはないあの出来事が……もしも、自分のいない瞬間に起こってしまったら?
焼け落ちた王城を、もう二度と見たくはない。誰一人守れなかった、あの状況を再現だなんてさせない。……しかも、今はあの時と違い、この城にはKINGもQUEENもいる。……今度こそ、職務を果たせなかった、それだけでは済まないのだ。
ぎゅっと握った拳を見かけるように、彼女は続ける。
「I'd rather regret something I did than something I didn't d. いつまでもそんな恐れを抱いて、どうやって前に進むのですか?」
月に歌うように、独り言を呟くように。
「……珍しいね。僕がサボるといつも文句言うくせに」
ふわり、口元に笑みが戻る。気に食わない。このQUEENに説得されるだなんて、これ以上ない失態だ。しかしなぜだろう。少しだけ肩の荷が降りた気がする。
「おや、お望みならば指摘致しましょうか? ただの気まぐれに任せておけば良いものを」
ふふ、と彼女も口元を隠して薄く笑う。到底友人同士には見えないけれど、やはり、月の夜に少し会話するくらいならば、こんな関係も許されるだろう。
軽い足音を響かせて噴水を離れ、数歩進んでくるりと後ろを振り返った桃髪の青年は、
「遠慮しとく! この後晩餐会に戻る気ないし!」
なんて言って可愛らしい笑顔を浮かべた。あぁ、やはり、らしくなかった。湿っぽい話も、過去に束縛される現在も、自分には似合わない装飾品だと笑い飛ばして歩き出す。
「ふふ……まあ、今日は見なかったことにしておきますよ」
些細な悩みを打ち明けてくれたお礼代わりには十分すぎるだろう。行く宛もなく歩き出した彼について、銀髪のQUEENもその場を離れる。漂う雲が流れて行ってしまえば、密会を知るのは空の月だけだ。
***
ーIl futuro inizia oggi, non domaniー
深い霧の立ちこめる午前三時。城門前の気温は五度にまで達し、吐く息は白き染っていた。寝静まったままの街に響かぬよう、トーンを落として集まった三つの人影のうち、最も背の高い白髪が言う。
「……粗相の無いようにな。お前にとって有意義なものが見つかることを願う」
「硬いなぁ、ヴァイスは~! もっと気軽にいこうよ?」
「うむ……」
友人である桃髪の青年が笑顔を向ける。
「お気をつけて。こちらはご心配なさらず。JACKが必要になれば、私が替わりましょう」
「うー……なんか、それはそれでいやだなぁ……」
この中で一番背の低い銀髪が、彼女の母国らしい嫌味を込めて続けた。
「まあ、長くても2週間で戻るから!」
桃髪の青年は、くるりとその場で回って、異国へ向かう不安をかき消す。知ることが怖くない訳では無い。城を離れることに不安がない訳では無い。……が、知りたい。それ以上に。自分の過去に近づくために。忘れてしまった何かを取り戻すために。
「じゃあ……行ってきます!」
いつも通りに笑顔を貼り付けて、まだ夢から覚めない街へ駆け出していく。大丈夫、長い旅路では無い。未踏の異国へ行ってみるだけだ。
そう思えば少しだけ笑顔は自然になる。知りに行こう。自分の母国を。駆けていく桃色の髪は、次第に霧に溶けて見えなくなった。
【3-1.紅く染まる霧の空】
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ー登場人物ー(トランプ史700年現在)
名前:黒羽 烏兎
偽名:クローネ・アルギス
役職:QUEEN OF DIAMND
能力:烏の知らせ(嫌な予感に気づく能力)
外見:銀髪、赤眼
出身:♤
性別:女
象徴:烏 / 銀
備考:意外と柔軟な思考
名前:茶岳 飛羽
偽名:マローネ・ニービオ
役職:JACK OF DIAMOND
能力:ーー
外見:桃髪、赤茶色の目
出身:♡
性別:男
象徴:茶 / 鳶
備考:意外と心配性
名前:ーー
偽名:オルカ・ロッソ
役職:JACK OF HEART
能力:湾曲(ものを曲げる能力)
外見:赤髪、金茶色の目
出身:♡
性別:男
象徴:赤 / 鯱
備考:船には乗り慣れている?
名前:花園 緋結
偽名:オパール・レ・フルール
役職:QUEEN OF SPADE
能力:ーー
外見:白に近い金髪、青眼
出身:♢
性別:男
象徴:青 / 豹
備考:占いが得意
世界は動き出した。ならば、こちらも動き始めよう。
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ーMi capita spesso che si realizzi una cosa che ho sognatoー
眩しい朝日が窓辺で踊り、小鳥の囀りで意識が浮上する。
「う……んん…………」
重だるい体を持ち上げて目に入るのは、見慣れた天井、見慣れた部屋だ。
ガンガンと響くような頭痛と、胃の奥底から不快感な吐き気が込み上げる。
(う……昨日、飲みすぎたかなぁ……)
目を覚まして一番に脳裏へ浮かぶのは、昨夜の飲み会。参加者は♡と♢と♤の絵札四枚だ。
絵札は、首が胴体から切断されるか、肉体の大半を失わない限り死なない。どんなに強烈な毒素を盛られようと、たとえ海の底に沈められようと。
アルコールも立派な毒物だ。最終的には完全に分解されるとはいえ、許容上限を超えれば普通に二日酔いもする。
(みんなお酒強すぎだよ……)
昨夜の飲みの席で、間違いなく一番飲んでいたのはオルカ・ロッソだ。オマケに、酔が回る素振りも一切見せないのだから恐ろしい。
意外だったのは、クローネ・アルギスも、存外酒には強そうだったこと。彼女はあの場でも、ほとんど飲み食いしていなかったが、一切顔を赤らめる様子はなかった。
一方で、オパール・レ・フルールとマローネ・ニービオは、どちらかと言えば普通くらいか、やや弱い部類だ。が、フルールは弱めのカクテルをゆっくり味わっていたためか、最後まで意識を保っていたように思う。
そして、彼はと言うと……
(うぅ……どうやってここまで戻ってきたんだっけ……。頭痛い……)
とまあ、こんな有様だ。最終的にお開きになった記憶が無い……。どこかのタイミングで飲み潰れてしまったのかもしれない。ロッソかフルールが王宮まで連れてきてくれたのだろうか……。
(当分はお酒控えよ……うぅ……)
ガンガンと鳴り響く頭痛に抵抗しながら、重だるい体を持ち上げて、とりあえず正装に着替える。二日酔いだろうが寝不足だろうが、この国の山積みの問題に変わりはないし、JACKが仕事をこなさなくて良い理由にはならない。
今日の仕事の予定を思い出しながら、カーテンと窓を開く。
(♢8の部隊が演習やるんだっけ……それと、軍備の点検と……アルギスが今日の晩餐会出るって言ってた……気がするから、それの警護と……)
あんな状態で晩餐会に出席して大丈夫なのか……と、一瞬不安がよぎるが、彼女自身が行くと言っているのだから止める理由はない。
そうして身支度を済ませ、窓を閉める。そのタイミングで、トントントンと三つノックが響き、
「おはようございます、JACK。私です」
今しがた思い浮かべた銀髪の声がした。
「はぁい、入っていいよー」
乱れたカーテンを整えて、ベッドから転がり落ちた枕を拾いながら振り返ると、
「おはようございます、ご気分はいかがですか?」
両腕で書類を抱いた、正装のQUEEN OF DIAMONDの姿が目に入る。こんな早朝から仕事だなんて、大層なことだ。彼からすれば、あと2~3時間は寝ていたかったくらいなのに。
「Buongiorno、生憎最悪かな……。頭痛い……」
「飲み過ぎですね……。あぁ、KINGから言伝を預かっていますよ」
昨夜の疲れを一切感じさせないこの国の第二位たるQUEENが、流れるように仕事の話を持ち出すせいで、若干頭痛が酷くなった気がする。
「内容は?」
「『体調が悪いのならば、無理に仕事をする必要はない。むしろ、いつも以上にミスをされては、こちらの仕事を増やされれはたまらない』とのことです。いやはや、お優しいKINGですね」
「うぅ、耳が痛い……」
生憎、彼はお世辞にも仕事が得意ではない。遅いし、ミスも多い。おかげで、いっそ初めから別の誰かにやらせた方がマシだなんて言われる始末……。できることなら是非そうして貰いたいが、仮にもJACKはJACK。彼にしかできない仕事は、彼がやるしかない。
「うーん……でもまあ、書類仕事はやめておくよ。まともにできる気がしないし……」
思考も上手くまとまらない頭では、きっといつも以上にミスをする。そして、いつも以上にKINGに怒られる……。ならば、やらない方がマシだ。
「承知しました。では、そのようにお伝えてしますね」
「あ、そうだ。ねえ、QUEEN。今日の晩餐会出るの?」
足早に部屋を出ようとした彼女に、業務的な確認を口にした。仕事は嫌いだし、こんな早朝から考えたくもないが、ついでに聞いておいた方が後々楽そうだったから。
「えぇ。先日頂いたJACK OF HEARTの手料理のおかげですかねぇ……。すぐには食べられませんが……少しずつでも生活を戻していこうかと……」
彼女曰く、JACK OF HEARTの手料理はとても美味しかったそうだ。少しだけ嬉しそうに、自分には向けない穏やかな笑みを浮かべるあたり、相当気に入ったらしい。
(JACK OF HEART、ね……)
紅色の硬質なくせっ毛に、月のような鈍い金茶色の目。身長はマローネよりも少し高く、年齢は20代前半の青年……。
それが、マローネの実の兄、JACK OF HEARTだ。彼を探し始めてから早約70年……。まさか、他国のJACKだったなんて。
(あの人も……僕のこと、探してくれてたのかな)
マローネが半世紀以上、顔も名前も分からない兄を探していたように、彼もまた……同じくらいの年月を、弟を探していたのだろうか……。
(そうだったら、いいな……)
何か、過去を思い出す鍵になるかと思ったが……残念ながら、記憶は戻らなかった。未だにオルカ・ロッソを兄とは思えない……。でも、できることなら、思い出したい。
「JACK?」
怪訝そうな顔で、アルギスがこちらを見上げていた。
「なんでもないよ。気にしないで」
「そうですか……。では、私は職務に戻りますので」
そうして、彼の上司は、素っ気なく、かつ足早に部屋を出ていった。彼女が居なくなれば、静寂に秒針の音だけが響いている。
(……僕も仕事しよ。まずはご飯だよね)
今、失った記憶と、思い出せない兄のことを考えても仕方がない。まずは、目の前に積まれた仕事を片付けよう。
交わる剣の音、罵声と怒号と悲鳴によく似た雄叫びが響く。今日も、この国の兵士たちは元気が良い。その様子を、少し離れたところから、興味なさげに膝に肘をついて眺めている桃髪の青年こそ、彼ら兵の頂点に君臨する者なのだが……
「……はぁ…………」
その目にやる気なく、面倒くさそうに訓練の様子を眺めている。
演習や訓練が無意味だとは思わない。技術を磨くことは戦場に立つ上で必須だ。……が、この国のJACKは、訓練を面倒くさがる不真面目な男だった。
(太刀筋も甘いし、回避も防御も雑。あー……そのまま切り込んだら……)
ため息混じりに見つめていた先の兵が、重心の乗った剣を避けられ、後隙の切込みを無理に避けようとして派手に転倒する。
(あぁほら、そうなる)
もしここが戦場ならば、一瞬の隙が命取りになる。あれでは命を無駄に散らすことになるだろう。
今、彼が興味なさげに眺めているのは、♢8の部隊の実技演習。日頃の鍛錬の成果を確認するのも、JACKの大事な仕事の一つだ。しかし、No.8の数字を背負った部隊にも関わらず、兵たちの様子はあまりにお粗末に見えた。
面倒くさい。早く帰りたい。帰って、お茶でもするか、何もせずソファで一日を過ごしたい……。が、残念なことに、JACKには監督責任もあるわけで……投げ出す訳にはいかない。
(……♡、かぁ…………)
まだ見ぬ自分の出身国、海を超えた異国の地・♡……。一体どんな国だろう? そこで自分はどうやって育ったのだろう……?
一度全てが焼失したこの王宮では、他国の資料は容易に手に入らない。ましてや外交を司るQUEENの仕事もまだ始まったばかりで……。どうやって情報を集めたものか……。そもそも、知る必要はあるのか? ぐるぐると思考が澱んでいく。
そんな折、ふと、
「どうしたんですかJACK、浮かない顔してますよ」
声をかけられた。見れば、♢10だ。♢9が欠番になっているため、監督者として、彼もまた演習に付き合っている。
「ん~……ちょっと考え事」
「はは、珍しいですね。お力になれるかはわかりませんが……お聞きしましょうか?」
直属の部下であり、10年ちょっとの付き合いがある♢の10番……。彼が世話焼きなのは、昔から変わらないらしい。
「う~ん……」
言って良いものか。部下に。弱みなんか、見せられないし、もちろん、記憶を失っていることも話していないが……。
「……ちょっと用があってね、♡のこと知りたいんだけど……う~ん……」
「♡ですか……これまた随分遠い国を……」
「うーん……ちょっとね……」
♢10は困ったように首を傾げ、顔をしかめる。♡のことを知りたいのなら、実際に♡へ行くのが一番早いが……3つの国境を超え、海を超えたその先……。♡は、あまりにも遠い。
「やっぱ、実際に行くしかないかなぁ……。でも、もし、僕がいない間に何かあったら……」
目の前で繰り広げられる♢8の部隊の演習。素人目からすれば立派に見えるだろうが、JACKの目からすれば、まだまだお粗末。この国を任せるなんてできない。
「JACKは心配性すぎますよ。僕らもいるんですし、行ってきてはどうですか?」
「うーん……」
もしも、KINGやQUEENに何かあったら? もしも、自分がいない間に、また城が焼けるような事態になっていたら? もしも……もしも……。考えれば考えるほど嫌な思いばかりが脳を埋めていく。
しかし、過去に張り付いて剥がれない肉の焦げる匂いと人の悲鳴。もう二度と、絶対に、繰り返したくはない。絵札の仕事に、もしもがあってはいけない。
「とにかく、KINGに相談してみては? あの方のご判断ならば、間違いはないでしょう」
この国の、かの慈悲深いKINGならば、まず間違いなく行ってくるようにと言うだろう。彼は優しすぎる。
「うーん……じゃあ、まあ……とりあえず聞いてはみるよ」
とはいえ、いずれ相談はしなければいけない。JACKは♢10に促されるがままに頷いた。
「あ、そういえば、今日の晩餐会はQUEENもご出席なされるんですよね?」
「え、あ、うん」
♢10は唐突に話を変える。二日酔いの頭は、一瞬質問に戸惑ったが、ほぼ反射的に頷いた。すると、
「僕も警護に行って良いですか?」
と、予想だにしなかった質問が飛んできた。
「え、いいけど……」
人手は多いに越したことはない。……♢10が反旗を翻さなければ、だが。まあ、10年弱共に過ごして、彼が謀反を起こすような人物ではないと、JACKは知っていた。
「わ、ほんとですか!? ありがとうございます! いやぁ、着任式の時にお顔を拝見した以来で……。綺麗な方でしたし、お近付きにはなりたいんですけど……」
訂正、下心はそれなりにあったらしい。
「……QUEEN、今年で200歳らしいけど……?」
「え……」
間抜けな表情と、間抜けな声をあげて、♢10が固まる。まあ、見た目からは想像できなくても無理はない。
「ま、まあ、とにかく! お会いしたいのは事実ですから……」
執務室に缶詰にされているか、気まぐれに街に出かけているかQUEENに、会える機会は滅多にない。
「いいよ、人手はあった方が良いし。好きにしなよ」
「ありがとうございます!」
♢10は表情を明るくして、再度礼を口にする。
(晩餐会か……)
よいしょ、と腰を浮かせ、
「じゃあ、こっちはよろしく」
「はっ!」
退屈な監督業務は♢10に押し付けて、彼はその場を後にした。
***
ーEl lujo más grande es ser libreー
青い空、青い海。波の音が耳を埋め、不規則に揺れる床板に、潮風が髪を揺らしていく……。この映えのない風景には、もう随分見飽きてしまった。紅色の髪の青年は甲板の手すりに肘をつき、短いため息を吐いた。
水平線の向こうには、愛すべき自国・♡の国がある。産まれた育った国であり、守りべき国。それは弟にとっても同じ……はずだった。
「……ッチ」
考えたくなくても、脳は昨日の記憶ばかりを掘り起こす。反射的に、この日何度目か分からない舌打ちが出てしまった。
「どうしたの? 浮かない顔して。退屈?」
不意に隣にやってきた人物に声をかけられる。プラチナブロンドの髪に、海よりも青い目をした、青年にも美女にも見える美麗な人物だ。
青い目の人物は手すりに背中でもたれ掛かり、紅髪の青年を見やる。
「……落ちるぞ」
「怖いこと言わないでよ。お前が言うと、ホントにそうなりそうじゃん」
「……つか、んで着いて来んだよ」
この者との同行は、♤までの縁だったはずだ。それなのになぜ今、同じ船で♡へ向かっているのか……。
「あれ? 言ってなかったっけ? 俺、明日からQUEEN OF HEARTと対談だから」
金髪の男は悪びれずに笑って見せる。相当性格が悪いか、あるいはわざとやっているかのどちらかだろう。
「っていうか、お前、上司の予定くらい把握しとけよ。護衛もクソもないじゃない」
「……めんどくせぇ。いちいちそんなことするかよ」
JACK OF DIAMONDといい、JACK OF HEARTといい、サボり癖は兄弟揃ってのようだ。
……とは言ってみたものの、思考は依然として浮かばれない。
「……弟のこと?」
「……」
無言の肯定。昨日は、最終的にアルコールの勢いで全てを収めてしまった気がしなくも無いが……あの場にいた四人全員にとって、これ以上なく衝撃的な1日になった。
「良かったじゃん? 見つかって」
「……」
喜ぶべきなのか否か……。唯一の肉親が生きていたことは嬉しい。……しかし、マローネがロッソのことを忘れている以上、マローネが弟だということさえ、もしかしたらロッソのただの妄想なのかもしれない。
だってもう、70年も昔のことなのだから……。ただ面影が似ていた赤の他人かもしれない。
「……だから言っただろ? 他国の絵札の顔くらい覚えとけって」
「……るっせ」
ため息混じりに金髪の人物・フルールが笑う。もっと早く♢の絵札について調べていれば、きっと彼の半世紀は、もっと有意義になっただろうに。
「……どうするの? これから」
途切れ途切れに会話を繋いでいく。この哀れな兄弟がどうなろうが興味はないが、彼らの行く末を見届けてみたい気もする。
「……まずはアイツらに報告する。……あとはその後で考える」
「そう……」
俯いていたロッソの視線は、いつの間にか水平線の向こうを強く睨んでいた。その目に、迷いはない。
(……そういう顔してる時のお前、嫌いじゃないよ)
見上げると、青い空はどこまでも青く澄んでいて、高く白い雲がゆったりと遠くを流れていった。
「占ってやろうか。お前らの未来」
ただの気まぐれだ。所詮占いなんて当たるかは運次第……。けれど、足を突っ込んでしまったからには、少しくらい手助けをしても、バチは当たらないだろう。
短い沈黙が流れる。そして、
「……いい。……お前の占いなんか、信用ならねぇし」
ロッソは短く返した。
「なにそれ、酷いなぁ。俺もQUEENなんですけどぉ?」
「……お前みたいなのに務まるかよ」
「務まってるよ、全く。その言い方じゃぁ、♡のQUEENの占いなら信じられるって?」
「んなこと言ってねぇだろ!」
眉間に深くシワを刻んで、人相悪そうな顔で、ロッソはこちらを睨んだ。3cm差なんて大差ないなんて思いながら、盛大に吹き出して笑う。この厳ついJACKに、大人しい嘆き方なんて似合わない。
「笑ってんじゃねぇよ!」
「あはは、ごめんごめん? じゃあせめて、お前らに幸がありますように」
手すりから身を引き、後ろ手に手を振って、フルールは船内へ向かって歩き出す。
「……気持ち悪ぃこと言ってんじゃねぇ」
面倒くさそうな声が、波の音に混ざって甲板に響いた。じきに♡へも着く。その間に、上司たるQUEEN OF HEARTになんて説明するかでも考えておこうか。
そうしてロッソもまた、船内へ向かって歩き出した。
***
ーA ship in a harbor is safe, but it not what ships are built forー
ポタリ……インクが垂れて目が覚める。うたた寝してしまったらしい。時計を見れば、知らぬ間に半刻の時が流れていた。
ハッとして手元を見れば、インクは机にシミを作っていた。幸い、重要な書類には落ちなかったようだ。QUEEN OF DIAMONDは安堵に胸を撫でた。
脳裏を埋め尽くすのはこの後のこと。これから晩餐会に向かわなくてはならない。それが憂鬱で仕方なかった。できることなら、このまま部屋に缶詰にされていたい。もちろん、仕事をするのが楽しいわけではないが……。
(とにかく、まずはできることから始めなくては……。いつまでも甘えてなどいられません)
仕方なしにと重い腰を上げ、部屋の扉を押し開ける。
穏やかな雑音に満ちた晩餐会場。長机の両脇には来賓がずらりと並び、最奥の王座には我らが君主が御ざしている。
シミ一つない白いクロスの真ん中には、煌びやかに飾られた燭台とドライフラワーのアレンジメント。厳かながら華やかなオーケストラが雰囲気を演出し、シャンデリアが無数の影を落としている。
凛と背を伸ばし、靴音を響かせ歩く。KINGの傍へ、与えられた席へと。純白と黄金が彩るこの王宮で、着飾った貴族たちの中を、黒を基調とした軍服で。
異色の彼女へ降り注ぐ無数の視線は様々だ。純粋に美しいと感嘆する者、その腹の内を明かしてやろうと熱意を燃やす者、敵意、悪意、憎悪、嫌悪……。
QUEENの席から見る世界は、うっとりする程に鮮やかで……薄ら暗い灰色の町で生きてきた彼女にとっては、あまりに苛烈で、酷さに目眩と頭痛がした。本当に、自分には不釣り合いだと思う。
「……体調は大丈夫なのか?」
この国の優しき第一位が、心配そうに声をかけてきた。美しい白髪に、シャンデリアの暖色の灯りが反射している。
「えぇ。ご心配おかけ致しました。いつまでも環境に甘えてはいられません」
「……無理はするなよ」
我らがKINGはあまりにも心配性が過ぎる。いつかその優しさが、その身に降りかかる災いとならなければ良いのだけれど……。
否、そんなもしもが来るのなら、降りかかる火の粉の盾となろう。光が光たるように、影として支えることが、彼女の仕え方だから。
ふと視線をあげると、遠くに見慣れた桃色の髪が見えた。彼はこちらに気づいている素振りなく、その脇に控えたおそらく彼の部下らしき人物に何かを話している。
(……お忙しいのですね……)
真面目に仕事をしているところは、初めてみたかもしれない。普段の様子を知らなければ、彼も立派な絵札の一員だ。
運ばれてきた食事にゆっくりと手を伸ばし、洗練された所作で口に運ぶ。整った顔立ちに美しい所作。新しい女王に貴族たちの目が奪われていく。
(贅沢は言えませんが……何故でしょうね、JACK OF HEARTの手調理の方が、私の口に合うようです)
国内選りすぐりのシェフが作るフルコースであるはずなのに、まるで、どこにでもある平凡なものに感じてしまう。できることならもう一度、彼の料理を食べてみたい。
アミューズ、オードブル、ポタージュ、ポワソン……と、淡々と会は進行する。飛び交う貴族たちの話に適当に相槌を打ちながら……。
話題と言えば、どこの地域出身なのかだとか、王宮の生活には慣れたかだとか、そんな程度。出身地は♢と♤の国境付近だと暈し、当たり障りない回答を返していく。
コトリ、小さな音を立てて置かれた鴨肉のソテー。本日のメインディッシュだ。これだけでも静止画になりそうな、どこからどう見ても美味しそうなのに、ただ一つ……
「っ……」
襲い来る “嫌な予感” を除いて。
腕の外側を毛虫が這い回るような、胃の底面から冷やされるような、身の毛もよだつ不快感。本能が、制御できない能力が、危険を知らせている。
この状況で起きうる不幸なんて、一つしか思いつかない。自分の料理か? それとも、KINGの料理か? ……詳細が分からないことが、こんなにももどかしいだなんて。
確認する方法は……
「……少々よろしいでしょうか?」
スッと小さく手を挙げる。一瞬にして、ざわめいていた会場の視線が、彼女1人に集中した。
「あぁ。どうした?」
この場の主であるKINGが発言を許可し、続きを促す。
「……大変申し上げにくいのですが……こちらのソテー、毒味が不十分なのでは?」
♤出身特有の回りくどい言い方で、しかしはっきりと毒が入っていると言わないあたり、質が悪い。
会場が息を飲むのを感じる。しかし、動乱が起きないのは、我らがKINGが冷静を保っているからか、あるいはその威厳ゆえか……。
「そうか……。毒味係と医者を。既に手をつけてしまった者はいるか?」
淡々と指示を出し、周囲を見回す。1人の貴族が、おずおずと青い顔をして手を挙げた。
「奥の部屋へ。医者に見てもらいなさい。その他の者も、体調に変化があったらすぐに言うように。今日の会はここまでにしよう。申し訳ないが、調査が終わるまでは王宮に泊まってくれ」
そして、手早く会の終了と、参加者の帰宅禁止を言い渡す。この中に、毒を仕込むように根回しした者が居ないとは限らない。
ふと視線を周囲に向けると、桃髪のJACKの姿が無い。
(……こういう時は、行動が早いんですね……)
その様子に感嘆しつつも、彼女も他の参加者同様、部屋へ戻る。これ以上、彼女にできることはない。
騒動の少し前、バタン、戸が閉じる音がした。煌びやかなざわめきも、オーケストラの音色も、全ては厚手の扉の阻まれて、閑散と冷えた廊下には届かない。
「……」
QUEENが食事の手を止めた、その顔が見えた瞬間、彼はその場を♢10に任せて会場を出た。
しばらくあの変わったQUEENと共に過ごして、わかったことがある。彼女があの、苦虫を噛み潰したような顔をする時には、なにか理由がある時だ。
初めて彼女と出会った時も、KINGと会わせた時も。そして、だいたいその後には、ろくなことにならない。きっと、今回もそうだ。
考えられる可能性は1つ。毒物の混入……。となれば、向かう先は厨房だ。自然に調理していて、毒が混ざるなんて考えられない。誰かが、悪意を持って、入れたということだ。
彼が厨房へ到着する頃には、厨房にも会の中止の知らせが届いていた。そのせいか、不気味な静寂が、食料の匂いを包んでいる。
「Ciao?」
この状況においては、死刑宣告に近い、JACKの声が静寂に反響した。軍部の最高位であり、武力の象徴であるJACKが、こんな時にやってくるなんて、十中八九休憩ではない。……次に、誰の首がとんでも、文句は言えない。
「話は聞いてるでしょ? さっきの料理、準備したのは誰?」
可愛らしく甘い声なのに、背筋も凍るような殺気を帯びていた。
遅れて厨房へやってきたQUEENを待っていたのは、この場を取り仕切る厨房長だった。そして、奥の小部屋へと案内される。おそらくは休憩室か、厨房長の執務室だろう。簡素な机と椅子が数脚、仮眠用のベッドが置かれている。
中に入ると、クロスも何も引かれていない机の上に、湯気の消えた鴨肉のソテーが置かれている。そして、神妙な面持ちで中に控えている三人の女性と、感情を感じない冷たい目をしたJACKが待っていた。
JACKには、この3人に見覚えがあった。だって、つい数時間前、お茶した時に顔を合わせたばかりなのだから。
「……彼女たちがこちらを?」
「はい。間違いございません」
QUEENの質問に、厨房長が返す。
「……これ、食べられますね?」
QUEENが一言、冷酷に言い放った。回答なんて分かりきっているけれど。
「っ……」
「……」
「……」
給仕たちは答えない。否、答えられないのだ。
絵札に対する反逆……。大罪に値するが、今回は幸い大事には至らなかった。以後同じようなことがなければそれで良い。厳重注意か解雇で良いだろうと、QUEENが口を開きかけた瞬間、
「あぐっ……ッ、っ……!」
不意に後ろに控えていたはずのJACKが歩を進め、その後右手が給仕の一人の首を掴む。
苦しげに嗚咽を漏らし、彼の手に爪を立てる給仕を、ただ何も思っていないかのような冷たい目で見下ろして、
「どうしたの? 早く食べなよ。QUEENのご命令だよ? まさか、食べられないような物作ったんじゃないよね」
彼は無表情にそう告げた。数時間前に笑顔を交わしあった? 共にお茶をした? そんなこと、仕事には一切関係などない。
真冬の冷気にも勝る圧倒的な威圧を纏いながら、凍りついた空間で苦しそうな呻きと抵抗だけがこだましている。
(や、やりすぎです……。止めなくては)
せっかくこの件で死者が出ずに済みそうだというのに。確かに毒を盛るというのは許されることでは無い。……が、それにしても、だ。
給仕の首がJACKのうっかりでへし折れてしまう前に、と彼女が制止の声をあげようとした矢先、
「#僕__JACK#の仕事は、君たちとお茶をすることじゃない。KINGとQUEENの護衛だ。いい? 二度とやるな」
凍てついた音を発し、彼は自ら手を離した。彼の仕事は無駄に多い書類仕事でもなければ、国防を司ることも無い。守るべき我らが君主と新しき盟主へ手出しする者は、排除あるいは処分。
どさりと音を立てて床に転がった人型を、忌むべきものでも見るかのような目で蔑み、
「……もう用はないよね、行こ」
とJACKはQUEENの腕をとった。
「え、あ……はい」
半ば引きづられるように連れられて立ち上がり、一度給仕たちへ心配そうな視線を向ける。首を閉められていた女性は、苦しそうに悶えながら噎せているが、命に別状は無さそうだ。
返ってくる畏怖に近い怯えた目から視線を逸らし、
(……あとで医務室の方にお声をかけておきましょう……)
文句も言えないままに連れ出されながら、彼女は一人、こんな状況でさえ気遣いを落とす自分へ苦笑した。
***
ーInvestment in travel is an investment in yourselfー
「……JACK、……あの、JACK? どこまで行くのですか」
腕を引かれたまま、晩餐会へ戻ろうとしない彼に連れてこられたのは王宮の庭園。時期外れだが手入れが行き届いた種々が、冴える月光を反射している。春にはまだ早い冷たい風が通り過ぎてもなお、声をかけた青年は振り返らない。
それでも、次第に遅くなる足取りは、最終的には両足を揃えて立ち止まる。静寂が包む庭園。その静寂に耐えられなかったように、彼女の方が先に
「……らしくないですね」
と、呟いた。
きゅ、と腕を掴んでいる彼の手が強ばった気がする。だから、
「……悩み事ですか?」
続きを紡ぎながら、今度は彼女から手を引いた。誰かの相談を聞くなんて、ましてや気に食わないこのJACKの話を聞くだなんて、正気だとは思えないが……どうせ落ち着いて話すならば、立ち話は遠慮願いたい。
いつかの噴水に、いつかと同じように腰を下ろして月を見上げれば、いつかと同じ水音が耳を支配する。夜色に染まった世界、それを照らす月光、流れる薄雲の影は長く、美しい庭園に二人きり。寒く冷たい静寂さえ閉ざしていなければ、一体どれほど幻想的だったであろうか。
しかし、一向に彼は言葉を吐き出さない。
「……話すつもりがないのなら、戻りますよ。ここ、寒いので」
憂いに伏せたJACKの赤茶色の目を見上げる。8cm上。笑顔が良く似合う彼が、思い悩むなんて珍しい。
立ち上がろうとした時、腕を引かれる。
「……どうしたら、いいのかな……」
ぽつり、ぽつりと、言葉を選ぶように、彼は小さな悩みを口にした。
「……♡に、行きたいんだ……。そこが僕の故郷なら……。……でも、国内がこんな状態で、お城の治安も良くなさそうだし、♤の良くない噂も聞くし……。もしも、……もしも、僕がいない間に何かあったらって思うと、やっぱり行くべきじゃないのかな、って……」
些細なことだと言えばその通りだ。しかし、それで片付けてしまうにはあまりにもこの問題は難しい。
♡は島国で、♢は内陸国。♡へ渡るためには♧か♤を経由して、そして、船で海を越えなければならない。一日二日で帰ってこられる旅路ではないのだ。JACK OF HEARTである彼の兄、オルカ・ロッソはそれなりの頻度で♢へ訪れていたようだが、それは、♡の内政が安定しているからこそだろう。
ここは♢。海の恵み豊かな♡でも、大地の恵み豊かな♧でもなく、立ち塞がる食糧難に、いつ暴動が起きるかなんて予想できない。おまけに、QUEENに対する従者たちの態度も気に係る。毒程度で絵札は死なない。……が、もし本当に暗殺を企てる輩が現れたら……。そんなとき、もしも国に居られなかったら……。
絵札としての職務を優先するか、彼個人としての要望を優先するか……懸命な者ならば間違いなく前者だ。……しかし、そう簡単に自分の欲求を切り捨てられるほど、彼は強くない。
息を吸う。冷たい空気が肺を満たした。唇を緩やかに開き、告げる。
「行ってくれば良いではありませんか」
と。まるで他人事に。まるで、本当に些細な悩みだと一蹴するように。
「……え?」
「あら、聞こえませんでしたか? 行ってこれば良いと言ったのですよ」
「いや……うん、聞こえたけど……」
悩みの意図を、原因を理解しているのか、と聞きたくなってしまう返答に、彼は眉根を寄せた。
「何もありませんよ。あなたがいない間。長くとも1ヶ月程度でしょう? もしも1ヶ月後に大きな暴動が起こるならば、こんなに国が落ち着いているはずありません」
伊達に長く生きてはいない。隣に座る青年の倍近い時間を生きてきて、それくらい嫌でもわかる。3度の動乱をこの目で見てきたからこそ、今、彼が恐れるようなことは何も無いと、誰より確証をもって口にできる。
「でも、もし……」
「みっともないですよ、JACK。空が落ちてくるような心配をしてどうします? それを人は杞憂というのではないのですか?」
「うぅ……でも……」
脳裏を過ぎる、過去の記憶。怒号と悲鳴と絶叫が混ざり合い、肉の焦げる匂いが吐き気を連れてやってくる。あの日の悪夢、もう二度と繰り返したくはないあの出来事が……もしも、自分のいない瞬間に起こってしまったら?
焼け落ちた王城を、もう二度と見たくはない。誰一人守れなかった、あの状況を再現だなんてさせない。……しかも、今はあの時と違い、この城にはKINGもQUEENもいる。……今度こそ、職務を果たせなかった、それだけでは済まないのだ。
ぎゅっと握った拳を見かけるように、彼女は続ける。
「I'd rather regret something I did than something I didn't d. いつまでもそんな恐れを抱いて、どうやって前に進むのですか?」
月に歌うように、独り言を呟くように。
「……珍しいね。僕がサボるといつも文句言うくせに」
ふわり、口元に笑みが戻る。気に食わない。このQUEENに説得されるだなんて、これ以上ない失態だ。しかしなぜだろう。少しだけ肩の荷が降りた気がする。
「おや、お望みならば指摘致しましょうか? ただの気まぐれに任せておけば良いものを」
ふふ、と彼女も口元を隠して薄く笑う。到底友人同士には見えないけれど、やはり、月の夜に少し会話するくらいならば、こんな関係も許されるだろう。
軽い足音を響かせて噴水を離れ、数歩進んでくるりと後ろを振り返った桃髪の青年は、
「遠慮しとく! この後晩餐会に戻る気ないし!」
なんて言って可愛らしい笑顔を浮かべた。あぁ、やはり、らしくなかった。湿っぽい話も、過去に束縛される現在も、自分には似合わない装飾品だと笑い飛ばして歩き出す。
「ふふ……まあ、今日は見なかったことにしておきますよ」
些細な悩みを打ち明けてくれたお礼代わりには十分すぎるだろう。行く宛もなく歩き出した彼について、銀髪のQUEENもその場を離れる。漂う雲が流れて行ってしまえば、密会を知るのは空の月だけだ。
***
ーIl futuro inizia oggi, non domaniー
深い霧の立ちこめる午前三時。城門前の気温は五度にまで達し、吐く息は白き染っていた。寝静まったままの街に響かぬよう、トーンを落として集まった三つの人影のうち、最も背の高い白髪が言う。
「……粗相の無いようにな。お前にとって有意義なものが見つかることを願う」
「硬いなぁ、ヴァイスは~! もっと気軽にいこうよ?」
「うむ……」
友人である桃髪の青年が笑顔を向ける。
「お気をつけて。こちらはご心配なさらず。JACKが必要になれば、私が替わりましょう」
「うー……なんか、それはそれでいやだなぁ……」
この中で一番背の低い銀髪が、彼女の母国らしい嫌味を込めて続けた。
「まあ、長くても2週間で戻るから!」
桃髪の青年は、くるりとその場で回って、異国へ向かう不安をかき消す。知ることが怖くない訳では無い。城を離れることに不安がない訳では無い。……が、知りたい。それ以上に。自分の過去に近づくために。忘れてしまった何かを取り戻すために。
「じゃあ……行ってきます!」
いつも通りに笑顔を貼り付けて、まだ夢から覚めない街へ駆け出していく。大丈夫、長い旅路では無い。未踏の異国へ行ってみるだけだ。
そう思えば少しだけ笑顔は自然になる。知りに行こう。自分の母国を。駆けていく桃色の髪は、次第に霧に溶けて見えなくなった。
【3-1.紅く染まる霧の空】
------------
ー登場人物ー(トランプ史700年現在)
名前:黒羽 烏兎
偽名:クローネ・アルギス
役職:QUEEN OF DIAMND
能力:烏の知らせ(嫌な予感に気づく能力)
外見:銀髪、赤眼
出身:♤
性別:女
象徴:烏 / 銀
備考:意外と柔軟な思考
名前:茶岳 飛羽
偽名:マローネ・ニービオ
役職:JACK OF DIAMOND
能力:ーー
外見:桃髪、赤茶色の目
出身:♡
性別:男
象徴:茶 / 鳶
備考:意外と心配性
名前:ーー
偽名:オルカ・ロッソ
役職:JACK OF HEART
能力:湾曲(ものを曲げる能力)
外見:赤髪、金茶色の目
出身:♡
性別:男
象徴:赤 / 鯱
備考:船には乗り慣れている?
名前:花園 緋結
偽名:オパール・レ・フルール
役職:QUEEN OF SPADE
能力:ーー
外見:白に近い金髪、青眼
出身:♢
性別:男
象徴:青 / 豹
備考:占いが得意
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