世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神

緋野 真人

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精霊の気まぐれ

歓待

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 ワァァァァァァッ!!!!!!!


 簡素に拓かれた様子の広場に集まった、総じて小柄な体躯をしている者たちは、その体躯に似合わなく思える程に興奮した様の歓声を上げ、その場は熱狂的な空気に包まれていた。


 旅立ってから四日後――コータたちは、そんな歓声と空気が場を包む、ホビル族の里……”クレルム”という名の村へとやって来ていた。


『里』と呼称している様に、ホビル族の中には『国』という概念は無く、彼らのコミュニティは、里として、民族単位で手にした土地を集落単位、村単位で分け合って運営する政治体制を取っている。

 その中でも、このクレルムという村は最大規模の人数が暮らす村であり、”最長老”として、民族自体を代表する立場に居る、"ヤーネル・ホビル・マイドスマ"が住む村なので、ココは言わばホビルの『国』の『都』なのである。


 ちなみに、ヤーネルのラストネームの意味は、職人を表す『マイト』の男性スマという意味で、マイ『ド』と訛るのは『偉大な』とか『長たる者』である事を意味する。

 ジャンセンのラストネーム……『ロドバスマ』にも訛りが加わっているのも、同様な理由でロドバとは『近衛隊長』という意味なのだ。


 さて、話は少し脱線したが、その村の中心部にある広場で、先の様な様相が拡がっている理由は……コータたち魔神封じの一行の表敬を受けてのモノで、コータは今、その様子を眼前としているのだった。


「こっ、こりゃあ驚いたね……」

 その様子を見渡したコータは、引き攣った笑顔をその眼前へと向けて、左隣に居るミレーヌに同意を求める素振りでそう呟いた。

「ふふ、ある意味では当たり前ですよ、この皆さんの反応は♪

 世界中を席巻していた魔神の脅威が失せたのです……皆が皆、その歓喜に打ち震えて居るのですから、これで驚いていては身が持ちませんよ、コータさん♪」


 ワァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!


 ――と、コータの問いかけに答えながら、眼前に満面の笑みを向け、手を振って見せたミレーヌに対し、先程以上の歓声の雨が降り向けられた。


「ミレーヌの言うとおりさ。

 きっと今は、世界中がこのクレルム村の方たちと同じく喜び、私たちの巡行を心待ちにしていたのだろうからね」

 右隣のアルムが、ミレーヌに同調する体でコータへそう言いながら、彼女と同様に手を振って見せると……


 ワァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!


 ――歓声が怒号の様に挙がったのは、言わずもがなである。


(……どこの世界でも、王族ってのにはこーいう力があるモンなんだなぁ)

 ――と、コータはその様に、二人が醸すいわゆるカリスマ性を感じ、それは世界を隔てても同じなのだと思っていた。



「皆の衆――まずは、よく無事で戻られた」

 一行の前に立ってそう述べたのは、背丈がコータの腰ほどまでしかないが、顔の様相は皺くちゃな老人の顔で、肩まで伸びた白髪を垂らした男だった。


 この男がヤーネル――このクレルム村の首長で、種族を代表する立場に居る者である。


「そして、ようやってくださったぁっ!、あのサラキオス様のお怒りを鎮めるという難行をっ!」


 ワァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!


 ヤーネルが、力を込めて両拳を震わせながら、声高に一行への賛辞を述べると、また怒号の様な歓声が群集の中から挙がる。


(ん?、今、お前を『様付け』して呼んでたな?)

 コータはヤーネルの言葉の端に、ミレーヌたちとは違う態度を感じて、サラキオスにその理由を問うた。

(ホビルは、我を悪神の様には思うておらんからな。

 彼奴らは少し、ヒュマドやエルフィとは信仰の対象が異なる故)

 ――と、サラキオスは珍しく、言い難そうな様子で言葉を濁した。


「あれ?、ソッチでは驚かないんだね」

 後ろからヒソヒソとそう尋ねて来たのはチュンファ――彼女は不思議そうに、ふいとコータの肩越しに首を伸ばして、彼の横顔を見やる。

「ホビル族の見た目の事か?

 そりゃあ確かに、子供ぐらいの背丈のおじいちゃんってのは、現世に居たなら結構なインパクトかもしれんが……一応は、予備知識として予習してたんだし、そーいうモンだと思って臨んだからな」

 一歩先に出て、ヤーネルと形式的な挨拶をしているミレーヌとアルムの様子を見ながらコータは、チュンファの質問に小声で答える。


「――では、この方が新たな『サラギナーニア』様かな?」

 ミレーヌたちとの挨拶を終えたヤーネルは、差し出した手をコータの方へ向け、ミレーヌとアルムに確認する様に尋ねた。


 "サラギナーニア"とは『サラキオスが宿りし者』という意味で、要は依り代の事を表す尊称である。


 ミレーヌが頷くのを確認して、更に歩を進めたヤーネルは、コータの前におもむろに歩み寄る。

「あっ、どっ、どうも……」

 コータは緊張した面持ちで、ヤーネルに引き攣った会釈を向けた。

「我々、クートフィリアの民とは、明らかに雰囲気が違う……確かに、異界から来られた方の様ですな」

 コータの会釈を前にしたヤーネルは、コータの様子をしげしげと見渡し、頷きながら一歩前に出て……

「ホビルの里、クレルムの首長であるヤーネルにございます……新たなサラギナーニア様」

 ――と、彼は儀礼染みた作法を見せながら、祈りでも捧げる様にコータの前で跪いた。

「えっ⁉、ちょっ……!」

 コータが、ヤーネルが見せた態度に驚いて動揺していると、集まっていたホビル族たちは、ヤーネルに追随する恰好で……皆が皆、一斉に同様の作法を見せて跪いた。


(何を驚く?、言うたであろう――ホビルは、我を悪神とは思うておらぬとな)

 目の前の光景に身を固めて驚愕している、コータの脳裏にはサラキオスの冷めた声が響いた。


「我らホビルに、この土地を手にするための力を貸してくださったのが、かつてのサラギナーニア様にございましてな。

 故に以来、我らホビルはサラキオス様を、恩神として敬っておるのです」

 ヤーネルは、コータの様子を慮って、サラキオスとの由来を語り始める。

「遥か昔――まだ、流浪の身だった我らホビル族をこの地へと集め、この地を里として定住出来る様にするために尽力したという逸話が残る、”チルナス”・ホビル・サラギナーニア首長。

 チルナス卿は、我らの定住を良しとはしなかった、当時のエルフィ族と戦となった際――身に宿したサラキオス様の御力を借り、それを追い返したともされております」

 ヤーネルがしみじみとそう語ると、それを聞くミレーヌはちょっと渋い顔をする…

「過ぎた事とはいえ、お恥ずかしい限りです。

 魔力の扱いに劣る事を理由に、他族の定住を拒んだ当時のエルフィの方針は、愚行の極みと言えましょう」

 ミレーヌは、その表情の意味を伝える体で、目を伏せてその語りに加わる。

「魔神封じ――いえ、当初は魔神討滅の術を探していた中で、ヤーネル様に出会った事は、一つの契機でした。

『――エルフィの中に残る、"魔力至上主義"こそが、このクートフィリア自体の対クアンヌ政策を狂わせたのではないか?、それが、魔の神の怒りを呼んだとは思えぬのか?』

 ――と、ヤーネル様から言われた事は、再びの封印へと方針の舵を切る一つのキッカケとなりましたからね」

「何より、このクレルムに残る、チルナス卿の手記に……

『――滅す事が叶うなら、むしろ滅して欲しい。

 その様な術が、どこぞにあると言うのなら』

 ――という、サラキオスから聞いたという一節を読んで、討滅論は完全に諦めるべきと判断したんだ」

 懐かしむ様に呟くミレーヌの肩に手を置き、今度はアルムも会話へと加わわる。


「――して、新たなサラギナーニア様。

 この後の手筈、ミレーヌ姫から聞いておられますかな?」

 ヤーネルは不意に話題を替え、何事かをコータに尋ねた。

「へ?、この後って、ワールアークってトコに……じゃなくて、ひょっとして領主になるとか、各種族の産物専売権とかの?」

 コータは、ヤーネルの言葉の端や場の意味合いから、彼が言う『この後』の意味を見出した。

「如何にもにございます。

 我らホビルからは、主要産業である織物の専売権の一部を、サラギナーニア様に献上させていただきます」

 ヤーネルは頭を垂らしてそう告げると、後ろに居る数人のホビル族の者を手招きして呼び寄せる。

「――つきましては、織物職人を20名、サラギナーニア様に託される土地へと派遣させて頂きます故、どうぞよしなにお願い致しまする」

 その20名を代表してなのか、後ろに立っていた女のホビル族へと、ヤーネルは手を差し伸べた。


 女の容姿は、まだ幼さも醸す妙齢と思われる様で、それをホビル特有の小柄な体躯が拍車を掛けている体。

 簡単に言えば、見た目はいわゆる『ロリ感』が漂う娘である。


「おっ!、お初にお目にかかりますぅっ!、あっ!、新たなサラギナーニア様ぁ……

 わっ!、私は臣下に加えて頂く職人マイトがひっ!、一人ぃ……”ヤネス・ホビル・マイトナラ”に、ごっ!、ございますぅっ!」

 ホビル女性は、ガチガチに緊張した体でそう名乗ると、コータの前に跪き……


 ――ゴンッ!


 ――拝礼をしようとしたが、ヤネスと名乗った娘は、勢い余ってそのまま地面に額を強打したっ!

「⁈⁉⁉、くぅ~~~~~っ!!!!、いったぁ~いっ!!!!」

「……失礼致しました、新たなサラギナーニア様を前にして、この様な……」

 ヤネスの醜態を取り繕う体で、悶絶している彼女の前にヤーネルが改めて跪く。

「恥ずかしながら、この娘は私の孫でして……本人が是非、これからお世話になるサラギナーニア様にご挨拶をと申しまして」

「ふふ♪、コータさんを前にして、随分と緊張したのね、ヤネス♪」

 渋い顔をして言い訳をするヤーネルを他所に、ヤネスに歩み寄ったミレーヌは彼女の額を摩り、楽しそうな様子で励まして見せる。

「ヤネス嬢は、精霊蚕のローブの制作にも関わった優秀なマイトでね。

 年も近いせいか、ミレーヌととても仲が良いんだ……きっと、久しぶりに再会する彼女に、良いトコロを見せようと思って張り切ったなのだろうね」

「実は、おっちょこちょいなキャラで、それをモロに出しちゃったって事ね?」

 ヤネスへの助け舟として、アルムが告げたエピソードを聞いたコータが、その意味合いを察した言葉を並べると、アルムは無言で苦笑いを浮かべながら頷く。

「うぅ……ミレぇーヌぅ~~、ごめぇ~ん」

「大丈夫よ、コータさんはとっても良い方なんだから♪」

 目尻に涙を溜めたまま謝るヤネスに、自信満々にそう告げる、ミレーヌの笑顔を見据えながらコータは……

(ハードル……好印象のハードルを上げないでよぉ、ミレーヌちゃぁ~ん……)

 ――と、彼は引き攣った笑顔をヤネスに向けては居たが、内心ではこれからの生活に一抹の不安を抱いていた。


 ロリドジっ子のヤネスが、果たして役に立つかどうかではなく――自分をこれから待っているのは、政治的な権限すらも持つ、”領主”という、重大な役割である事を。
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