流れ者のソウタ

緋野 真人

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知り過ぎた者たち

知り過ぎた者たち(後編)

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辺りへと拡がる、刃がぶつかる金属音を聞き、うっすらと笑みを浮べながら、リュウジも、暗衆が一人の小太刀と刃を交え始めた!

だが、その暗衆は鍔迫り合いを避け、一旦、距離を取る姿勢を覗かせる。


――その時、ヒュッとリュウジの左側から、別の暗衆の切っ先が迫っていた!


それもリュウジは、余裕を覗かせながらあしらうが、続いて、同じ様に距離を取ったはずの方が、改めて斬りかかって来た!


いわゆる、ヒット&アウェイ――暗衆らは、2名の連携でリュウジを追い詰める!


リュウジは、このコンビネーション攻撃から距離を取ろうと、後退りをしながら――

(――ちっ!、素早しっこくて、面倒な殺り口だぜ)

――と、苛立ちを見せ、並んで迫る暗衆2名を見据える。


「おらぁ、そーいうのが、大嫌ぇでなぁ!」

リュウジは、下がる姿勢を改め、またも一気に2名へ向けて突進する!


「――っ?!」

その、意外に思えた対応にたじろぎ、今度は、暗衆たちが下がろうとするが、力強い唸り音を纏い、リュウジの斬撃が上段から飛んで来る!

「くっ!」

頭巾の下から漏れる、力を込める声と共に、暗衆はその斬撃をなぎ払おうと、小太刀を上段に構えたが――なんと!、リュウジの斬撃は小太刀の刀身を圧し折り、そのまま暗衆の頭上を捉える寸前だったが、もう一人が牽制の一撃を放って来たため、リュウジは攻撃を断念し、一歩引いてまたも距離を取った。


「ちっ!、ホント、面倒クセェなぁ……ナマクラを提げてる割にはよ」

そう言うとリュウジは、またも峯を肩で担ぐ恰好で、暗衆たちを睨む。


(――確かに、この街の中では名の知れた侠客だと知ってはいたが……今の剛剣、只者ではないぞ)

――と、暗衆たちは気を引き締め、刃を圧し折られた方は2歩下がり、懐に潜ませている手裏剣風の暗器に界気を込め、刃が健在の方の援護体勢の構えを見せる。


「――だから、さっさとっ!、片付けさせて貰うぜぇ!」

その二人へ向けて、リュウジはそう宣言をすると、気合いを込める様で体内の界気を解放し、もう一度、突進を仕掛ける!

「!、やはり!、"界気を使った強化"かぁ!」

"小太刀ナシ"は、そう声を荒げながら、暗器を突進するリュウジへ向けて放ち、"小太刀アリ"の方は、それに呼応して、リュウジへと斬りかかる!


"界気を身体に纏わせ、堅い防具と化したり、同様に強力な武器と化す"のは――界気の戦闘への転用法としては、最もポピュラーな使い方である。

――だが、リュウジは、オウビの裏社会という殺伐としたヤクザ社会で育ち、生きてきたため、界気の進歩に必要な"想像力"という、一種の"学"が欠落しているため、実は量にも質にも才を抱えていた界気も、この様な不器用な使い方しか出来ず、戦闘それに特化された成長を遂げている。


そして、暗衆両者の攻撃が、リュウジに到達するのは、ほぼ――同時っ!


どちらかの攻撃を喰らってしまうのは、必至の状況だが、リュウジは、まったくそれを気にする事無く、二人へ向けて突進して――

「――おらぁ!、さっさと、くたばりやがれぇっ!」

――と、刀を強烈に打ち下ろし、迫る小太刀アリと、飛んで来る暗器をまとめて薙ぎ払った!


「――ぐぉあっ!!!!」

小太刀アリは、その刀身ごと、袈裟掛けに上半身を両断された。

その勢いのまま、リュウジはさらに突進!、目の前で小太刀アリが両断される様を、おののきながら眺めていた小太刀ナシも、今度は下段から逆袈裟掛けに斬り捨てた。



リュウジの方の決着とほぼ同時――サスケは、やっと一人の暗衆を斬り伏せ、息を荒げながら、更に"二人の"暗衆と対峙していた。


(――くっ!、この若造……意外とやれる!)

暗衆の一人が、頭巾越しの額の冷や汗を拭えず、緊張した面持ちで小太刀を構えている。


『一人で二人を~』

――と、リュウジは勝手に言ったが、戦闘とは、そう思う様には進まない。


状況としては、ヨシゾウはコウスケと一対一マンツーマン、リュウジには2人がかり――そして、サスケには、3人がかりで暗衆たちが襲いかかっていた。

暗衆たちの策は、恐らく――詳しい根拠は無いが、かなりの戦闘経験ばかずを踏んでいそうな、リュウジは精鋭2名で抑え、ヨシゾウには、頭目格のコウスケ1人で対処し、一番、戦闘経験に乏しいと思われるサスケを、まずは、3人がかりで早々に始末しようというモノだと見受けられる。

開戦当初としては、暗衆側の思うツボだっただろうが――リュウジが見せた圧倒的な一蹴劇、そして、彼らからして最大の誤算は、サスケの奮戦であっただろう。


サスケは、荒くなった息を瞬時に整え、右手に持った刀をダラリと足元へ下げ、左手に持った脇差を上段に構えて、暗衆たちの方へにじり寄る。


サスケの"意外な"強さのヒミツは――この、"ニ刀流"という戦闘スタイルだった。

ツクモの武術、武道に関する書物に、一対他の状況の対処法として、二刀流を推す記述は珍しくはないが――定番や定石とするほどではなく、それを選ぶのは珍しい類である。

だが、サスケは、第三軍の訓練の過程で、このスタイルを気に入っており、帯刀のスタイルも、ツクモでは珍しい"脇差"を加える恰好を好んでいた。

サスケが、武人を志した理由として、子供の頃に聴いた先の大戦での様々な英雄譚に、刀聖リョウゴと並び評されている、"二刀"の達人――ハヤトへの憧れがあったという、ミーハーな理由を知るのは、ヤマカキ事変に因り、もはやレンのみなのである。


「おい、若いの。

援護たすけ――要るか?」

一段落着いたリュウジは、やっと一対二に持ち込んだ態のサスケに、援護を望むのかと問う。


「――大丈夫です!、伏兵が居るかもしれないのでしょう?!、中のレンたちの方をお願いします!」

サスケは、そう言って援護を断わり、ナマイキにもリュウジに指示を出した。

「ほう?、ユキの力を解って、ちゃんと周りも見えてんじゃねぇか……上等だ♪」

サスケが、伏兵の存在を懸念しているのは、ユキが先程、感知していた暗衆の人数と、自分たちの前に居る数の間に、"相違がある"からである――つまり、"残り2名"の暗衆が、既に屋敷内に入り込んでいる可能性が高いというコトだ!

リュウジは、ニヤッと笑みを浮かべ、屋敷の方へと足を向ける。


「!?」

サスケの一言と、リュウジの動きで、伏兵がバレている事を察した、サスケから見て左側の暗衆が、リュウジを追おうと足を向けるが、月明かりに鈍く光る、サスケの脇差が眼に映り、追撃を躊躇する。

「――あんたたちの相手は、俺だよ?、行かせないっ!」

二刀の構えを、ブレる事無く続け、サスケは、さらに二人へ向けてにじり寄る!

「――ええっい!」

「やぁ――っ!」

ラチが開かない思いで、暗衆たちは一斉に、サスケへ攻撃を仕掛けた!


――ズバァ!、ズバァッ!


「ぐうぉ……」

「ぐはぁ……」

――サスケは、追撃に気を取られた暗衆たちの隙を突き、二人をまとめて斬り伏せた。





「大丈夫だ。

リュウジは、なんだかんだ結構強いからねぇ……心配要らないよ」

たすき掛けに袖をまくり、薙刀を側に立て掛けたオリエは、励ますようにレンとユキに声を掛けた


明かりを消し、居間の一角で寄せ集まりながら、身を潜めているオリエ、レン、ユキの3人は、庭から微かに聞こえる、剣撃の音に脅えていた。

レンも――もちろん、盲目であるユキも、万が一の時に自身を守る術など、持ち合わせてはいないはずなので、オリエは、護身用にかじっている薙刀を用意し、それに備えていた。


――ガタッ、ミシィ……

――と、その時!、先程と同じ様に天井裏から足音らしき音が鳴った!


「!、バレてる今度はぁ……堂々に、だってのかい!」


聞こえた場所に、オリエは薙刀の切っ先を突き刺す!


「ちっ!」

――しかし!、手応えは無く、オリエが悔しげに舌を鳴らすと、天井裏から、"淡い紅い光"と共に、不気味な音が響く。


「!?、オリエさん!、これって、火の界――」

「――解ってる!、伏せなぁぁぁっ!」

何かを告げようとするユキの言葉を遮る様に、オリエはユキたちに覆い被さり、『伏せろ!』と命じる。


けたたましい爆発音と共に、居間の天井が抜け落ち、平屋の家屋の一部は、屋根裏が剥き出しとなってしまった!

そして、落ちた天井の瓦礫を踏み荒らす、2つの足音をオリエたちは聞いた。


「――畜生め!、暗い上に、この埃じゃあ……どっから襲って来るか――」

オリエが、迫る2人の暗衆の所在を把握出来ない事に、あからさまに苛立っていた――その時!、刃が空を切る風きり音を感知したオリエは、咄嗟にその方向に薙刀を振るう!

金属同士の鈍い接触音が鳴り、オリエの薙刀は小太刀の刃を喰い止めていた!


「当たりだぁ!」

そのままオリエは、力任せに柄を振り切り、小太刀を側から退き離す。


埃が立つのが段々と止み、暗闇にも眼が慣れ始めたオリエは、薙刀の切っ先を凝視して――

「……見えて来たねぇ、こうなりゃ、そう簡単には、やらせねぇよぉ!」

――と、うっすらと見える、小太刀を持った人影に凄んで見せた。



「――ユッ!、ユキさん!、大丈夫ですか?!」

瓦礫から這い出たレンとユキは、その場に座り込んで、お互いの安否を確認し合う。


「うん――レンちゃん、私は大丈夫よ」

「ユキさん、良かったぁ……」

二人は抱き合う恰好で、互いの無事を喜ぶ――そして、レンがうっすらと眼を開けると、ユキの後ろに……"人影"が覗けた。


それを、オリエだと思ったレンは、ユキから身体を離し――

「あっ、オリエさん――」

――と、無事を知らせる声を挙げた。

「私もユキさんも、大丈――!?」

――だが!、埃が止み始めて見えたのは、長い柄の先の薙刀の刃ではなく、手元の柄から伸びる"小太刀の刃"だった!

その刃が、目が見えないユキの頭上へと振り下ろされようとしている!

「!!!!!!!、ユキ!、さぁ~~~~ん!!!!!」

レンは、声を振り絞って、ユキに危険を知らせようと叫ぶ!

「?!」

それを、鋭敏に理解したユキが振り向くと、高い風きり音と共に、頭上へと刃が降りて来た!

「――いやぁぁぁぁぁぁっ~!!!!」

レンは目を瞑り、惨殺されたユキの姿をイメージして目を逸らす――だが!

「?!、なっ……!」

――聞こえてくるのは、困惑した男の声……レンが、恐る恐る目を開けると、暗衆の一人が、両手で小太刀を振り被ってはいたが、その斬撃は、パントマイムの態で中空に制止したまま動かず、寧ろ、どうにか振り下ろそうと、必死に震わせている音が響いていた。


「……ふえっ?!」

レンは、その不思議な光景に唖然として、口をあんぐりと開ける。


そして、ふと、ならば、ユキはどうなったのかと、レンが視線をずらすと、見えて来たのは、後光の様な淡い光を放つ、細い腕の形をした界気を……背中から伸ばしている、ユキの姿だった!

「はぇ?!」

レンは、またも啞然とした表情で、驚き過ぎて素っ頓狂な声を漏らす。

「――"とっておき"のヒミツな使い方だったんだけどなぁ……人の命には、替えられないものね」

――と、ユキは残念そうにそう言うと『光の腕』とでも呼ぶのが適当そうな、ユキの背から伸びるその"界気の腕"を使い、中空に制止している小太刀を、暗衆から優しく奪い取る。


「――うっ!、うわわわぁぁぁぁぁっ!」

――見たコトはもちろん、聞いたコトも無い……奇妙にも程がある界気の可能性の一端を目の当たりにした、暗衆の男は……脅え、暗器やら何やら、暗殺道具をありったけユキに投げつける!

――が、光の腕は、それを全て受け止め、それら全てを中空に浮べた!

ユキは、微かに口元を緩め、"とっておき”、こと光の腕を巧みに操り、奪った小太刀や暗器の刃を、演奏前の指揮者が如く、ピンと真っ直ぐに立て――

「――視力の替わりに、神様がくれたもう一つの力……とっても、不気味でしょう?」

――そう、皮肉めいた笑顔を見せながら、躊躇い皆無に投てきし、脅えて錯乱し、すっかり腰を抜かせている、暗衆に向けて、次々に突き刺した。

「ふう――終わったよぉ、レンちゃん」

ユキは、大きく息を吐き、体内へと仕舞う様に光の腕を消失させる……

「……」

だが、レンは、今の衝撃的な光景に圧倒されてしまい、言葉を失っていた。



「――はぁ、はぁ……言ったろ?、簡単には、やらせないってぇ……」

防戦一方ではあったが、オリエも懸命に薙刀を振るい続け、暗衆を食い止めていた。


(でも――そろそろ、ヤバいよ……早く、誰か――」


「――よく、頑張ったなぁ、オリエ!」

――と、暗衆の背後から、野太い声が聞こえた!


「――!?」

暗衆も、その声の主に気付き、慌てて振り向くが、既に遅く――リュウジの強烈な斬撃が、暗衆の五体を真っ二つに両断した!

「ふぃ~!、リュウジ、助かったよ」

オリエは、決着したらしい、屋敷内での戦闘から解放されて、安堵の表情を浮かべた。



――残る、ヨシゾウとコウスケの鍔迫り合いにも、終局が近付いていた。


体力的には若さで勝る、コウスケの素早い残撃が、ヨシゾウに迫るシーンが増えてきたのである。


「――へっ!、言うだけはあるじゃねぇか。

雑務ばっかの、五軍の割りにはよぉ?」

優勢に傾いていると感じているコウスケは、嘲笑う様にそう言った。


「ふん!、言った、だろう?、戦えてこその……武人、だとなぁ!」

対するヨシゾウは、息を荒げている自分の様を、冷静に察して、劣勢であると悟っていた。

(――このままでは、消耗戦と化して……負ける!、次の一手で、仕留めなければっ!)

そう、心を決めたヨシゾウは、青眼に構えて――

「――ずあああああああっ!」

――と、裂帛の気合いを込め、コウスケに襲い掛かる!


青眼からの一撃目、返す刀で下段を狙った二撃目も、コウスケの小太刀にアッサリ捌かれ、刀を振り切ったせいで、ガラ空きとなってしまった、ヨシゾウの左胸へ――

「終わりだぁぁぁぁぁっ!、堅物オヤジィィィ!」

――コウスケは、鋭利な突きを放った!


――グサッ!


「――ぐはぁ!」

突かれた胸元に鮮血が滲み、吐血を垂らしながら――"コウスケ"は、そう呻いた。


これは、誤字でも誤認でもない――コウスケの放った突きは、ヨシゾウの左胸の寸前で止まり、逆に、コウスケの左胸には、ヨシゾウの手が添えられている!


「暗器――だとぉ?!」

その添えられた手――いや、正確には、手首を覆う袖の下から、小刀状の刃物が差し出されており、それがコウスケの左胸を、ピンポイントに突き刺していた!


「最近の、暗衆……はぁ、敵の経歴を、頭に入れていない、様だな?」

ヨシゾウは、息も絶え絶えにそう言って、彼の暗器の使用に驚いている、コウスケの様子を嘲笑って見せた。

「なっ……にぃ?」

「――俺と、サスケが……経緯を、知ってぇ……造反、するのは……想定内、だろう?

なのに、サスケの実力を読み違え、俺が――"暗衆上がり"で、暗器の類を使う可能性を、想定……していないのは、お前たちの――怠慢、以外に無いっ!」


――つまり、ヨシゾウが考えていた『次の一手』とは、その怠慢を突いた、この暗器を用いた一撃だったのだ!


「暗衆……上がりぃ?」

コウスケは、苦悶の表情でヨシゾウを睨む。


「俺は、十五年前――例の"革命"とやらまで、コクエに潜んでいたスヨウウチの暗衆よ。

丁度、女房を亡くして、一人娘を育ててくために、五軍への仕官を願い出たがな」

ヨシゾウは、何気に自分の過去をコウスケに語り、彼の胸に添えた掌を刺さった暗器の柄に置き――

「――悔むなら、"先輩相手"にっ!、ハンパな手を打った、自分を恨めっ!」

――グリッと、小刀をさらに胸の奥まで押し込んで、コウスケを絶命させた。
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