流れ者のソウタ

緋野 真人

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血染めの秋分

血染めの秋分

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「一服……どうです?」

御船板正門で、胡座を掻いているイゾウに、煙草が満ちたキセルを差し出しているのは、ジッと正門の様を見据えるルイである。


「おう、貰うぜ」

イゾウがキセルを受け取り、口に咥えると――ルイは黙ったまま、指先に火の界気を込め、煙草に火を突ける。


「ちょっと、頑張り過ぎでしたねぇ――"そちらの隊員れんちゅう"は」

ルイも、片手の指に挟んでいた、もう一つのキセルに火を点けながら、皮肉染みた口調でイゾウにそう言った。

「ああんっ?」

「"作戦の完遂には不必要よけい"な、市街での略奪、傷害や婦女暴行――そして、殺害。

聴こえの良くない報告が、随分と届いているんですよぉ……特に、公邸に向かって行く、羽織りを着た者たちの仕業だったって言うのがね?」

ルイは、煙をふうっと燻らせ、正門の攻防で果てた五番隊員たちの躯を見やる。

「ちっ!、あいつら――ったく、"好きにすりゃあ良い"とは言ったが、民間人カタギに手を掛けんのは、お門違いだろうよ!」

イゾウは、戦闘中でも見せなかった険しい顔をして、地面に反吐を吐き捨て、中空を睨んで煙を吐く。

「ふふ――流石は元々、オウビのヤクザ者の中で名を馳せていた侠客――やはり、その手の非道には怒りますか」

ルイは、イゾウの憤怒の顔を珍しそうに眺め、ニヤニヤと笑う。

「――解ったぁ。

俺がそいつらに、"落とし前"を……」

「ああ、それならご心配無く。

犯人それらしい方には、私の判断で五体を消し炭にさせて頂きましたから♪」

刀に手を掛け、制裁役を買って出たイゾウに、ルイは指先に点けた火種を見せ、楽しげに微笑む。

「早ぇ仕事だな」

「ええ――これから私たちは、しばらくこの街を統治しなければならない立場。

そういう、大勢の反感を買う様な事をした方には、早々にご退場願わないといけません……あの手の事柄は、事件の余韻を早く収拾させるためには、最も邪魔なモノですから」

迅速な対応に、関心した様子でそう言ったイゾウに対し、ルイは再び煙を燻らせながら、淡々と持論を述べる。

「私も、元は流者ですから、あまり言いたくはありませんでしたが……あなたが"ああいう手合い"を多く抱えている点は、あまり関心し難いですねぇ」

「ふん……別に、好きで集めてるワケじゃねぇよ。

戦に使えそうで、俺の言うコトを聞く様な奴を集めようとしたら、自然とああなっちまうんだよ。

士塾出身のご立派なガキどもじゃ、ロクに使えねぇし飲み込みが悪ぃからな」

元は流者である二人は、側に倒れている一番隊員たちの躯を横目に見ながら、そんな会話を交わす。

「とにかく――北コクエの連中がサッサと入って、統治なんていう厄介事からは外して貰わなきゃイケねぇ。

俺たちはこれから、担当地域じもとに戻ってる三番隊ヒロシや、六番隊ミスズと殺し合うコトになるんだろうしな」

「ええ、私たちは所詮、武に生きる立場の者――本質的には、政治に向かないのですからね」

イゾウの言葉にはルイも同意を示し、キセルを叩いてポンと煙草の吸殻を捨てた。


「――さて、そろそろ大巫女様の所へと参りましょうか?」

「ああ」

ルイとイゾウは居並び、改めて眼前の御船板正門をジッと見詰る。

そこには――正門に凭れかかったまま、無数の刃を突き立てられたジョウケイの躯が、彼らの方を睨んだままの格好で果てていた。

「稀代の好漢の遺骸に敬意を払い――通らせて頂きます、ジョウケイ殿」

「やっぱ、すんげぇ強かったぜ……アンタは」

ルイとイゾウは、そう言ってジョウケイの躯をすり抜け、正門を押し開く。

それに因り、門内へと倒れ込むジョウケイの遺骸を、二人は左右から受け止め、その場に横たわれさせた。




『――大巫女様、失礼致します』

紫珠輪の守を敷いていた、大巫女の支度部屋に――部屋の外からの声が響いた。


(!、この声は――七番隊長?)

それに驚いた様子で、ユリは襖の方に訝しげに凝視する。


紫珠輪の守は、守に因る結界内の音声は外に漏らさないが、結界外の音声は結界内へと届く。

ユリは、ジョウケイの去り際の様子で、謀反の類が起きている事は察していた――なので、その意外な来訪者を最大限に警戒する。

返答の遅さに、ルイはユリの警戒の素振りを瞬時に気付き――

『"外の騒乱"は、既に決しております。

それに関する事を、ご報告に参りました』

――と、言い含める様に、自分に敵意が無い事を示す。


「ミユ……守を解きます。

私の後ろへ――」

ユリは、表情を険しくしてミユにそう伝え、指示に従った事を確認してから、紫珠輪の守を解いた。


「守をお解き頂き、ありがとうございます」

結界が消え、ユリがおもむろに襖を開けると、ルイは両手を突いて深々と平伏し、畏まっていた。

その彼の斜め後ろには、同じく平伏したイゾウの姿も在る。


「七番隊長と、五番隊長ですか……何用です?」

ユリは、二人を睨み付ける体で見渡し、用向きを問うた。


「――はっ!、先刻に木霊した轟音についての仔細と、それに列なり起きたテンラク様内での騒乱に関し、七番隊長ルイが言上申し上げます」

ルイは、面を伏したまま、言上を願い出て――

「――轟音の原因は、全報本社への界気を用いた襲撃にございました。

その下手人は……"私"と、その配下の仕業にございます」

「!?」

――彼のアッサリ過ぎる自供に、ユリは毒気を抜かれた様子で驚く。


「ハッキリ……自分の行った非道を認めますかぁっ!」

ユリは、ギリっと歯を軋らせ、目の前にあるルイの旋毛をジッと見詰る。

「――続いて、当館への襲撃に関してでございますが……」

ユリの言葉を無視して、ルイは言上を続ける。

「――下手人は、これに居ります五番隊長イゾウとその配下の者。

そして、それらが当館の制圧を終えた事で、事の決着を迎えております」

そこまでを言い切った所で、ルイは面を上げ――真っ直ぐにユリと対峙する。

「自分たちの謀反の仔細を、堂々と大巫女わたしに伝えるとは、これはどういう酔狂なのです?」

ユリは、怯む気配など微塵も醸さず、目の前のルイに意図を問うた。


「私たちの行った事は……確かに、謀反という悪名に相応しい暴挙なのでしょう。

しかし、これは大巫女様に、我らや、ツクモに住まう『民の意思』をちゃんとお伝えするために、この様な運びと相成ったのでございます」

ルイも、臆する事無く、ユリに向けてそう言い切った。

「"民の意思"ですか。

貴方たちの後ろに居るモノの姿が、何となく見えて来ました――で?、貴方たちは大巫女わたしに、何を望むのです?」

「それについては、名目上――我らの首魁を務めている、二番隊長ショウから――時機にご説明があるかと思いますので、しばらくはそのまま、その場にてお待ちくださいませ」

ユリの問いに、ルイはあえて答えず、再び平伏して強引に話を閉じた。

「では、騒ぎが落着なったと言うのであれば、近習役を解放してあげたく思います。

館から出しても構いませんか?」

ユリは自分の後ろに居るミユに手を向け、ルイに了承を確認する。

「はっ……既に、公邸や市街の重要施設の占拠も解いておりますので、我らの方からは問題ございません」

「――解りました。

ミユ、姉の身が心配でしょう?、一旦、公邸に戻って姉と合流し――後の事は、騒乱から逃れた仕女せんぱいたちの指示に従いなさい」

「……はい」

ミユは、口を真一文字に結んで、ユリの言葉に大きく頷く。


その、ユリたちのやり取りを、伏したまま聞いていたイゾウは――

「嬢ちゃん――」

――と、部屋から出ようとすれ違った、ミユの背中を呼び止める。

「すまなかった……面倒がって、気軽な指示言いつけをしちまった、俺を恨んでくれて構わねぇ」

「――っ!?」

イゾウが背に掛けた言葉の意味を察した、ユリは口元を覆って慟哭し、ミユは頬を蒼白に変えて、部屋から駆け出した。



「はあ――はぁ……っ!」

公邸の様子と、姉の安否を心配したミユは、そこかしこで遺体の始末が始まっている御船板館からは飛び出す様に出て、夜闇に暮れた大神官公邸へと急いだ。


「!?、ス……スグル様ぁ!」

公邸へと辿り着き、その門の眼前で果てた、血だらけのスグルの躯を――月明かりの下に見つけたミユは、両手で口を抑えて慟哭する。

「!、姉さん――姉さんはっ!?」

その惨状から、マユの安否を、更に危惧したミユは、急いで敷地内へと入る。

「姉さんっ!、姉さんはどこぉっ!?」

駆け戻る体で、ミユは履き物のまま中に踏み入り、"もしや"と思い食材や飲み物の瓶が散乱した、客間へと入る。

「――!?、ああっ!!!」

そこには――着物をビリビリに破かれ、それも無造作に肌蹴け、あられもなく下半身を露出した姿で、マユが倒れていた。

「うっ!、うあああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

ミユは……錯乱気味に頭を抱え、まずは咄嗟に、姉の肌蹴た着物を直そう、動かないその肢体へと慌てて腕を伸ばす。

ふと触れた、その姉の肌には――血色既に無く、息も絶えており……渦中、辱めの類をうけたのであろうと、一目で解かる悲惨な姿ではあったが――不思議と、刀傷などの暴力的な傷跡は無かった。

だが――その顔には、両目一筋ずつの涙流の痕と、口元から漏れた血反吐の筋が見えた。

恐らく、辱められると悟り、それならばいっそ、舌を噛み切って自死に及び、物言わぬ性玩具となってしまう方が、萬の神に仕える巫女としての、己が尊厳が保たれると考えたのだろう……


そんな姉の遺志を、その様子から深く理解したミユは――こうなった事へ怒りと悲しみ、そして、後悔の念に心を満たされ、その場に泣き崩れた。



先に挙げた、カツトシの暗殺も含め――この日に起きた一連の重大事件は、後に『血染めの秋分』と名付けられ、この世界の歴史に深く刻まれる事となる。
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