流れ者のソウタ

緋野 真人

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聖地動乱

いつか観た光景

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『――このツクモに住まう、善良なる全ての方々に告げます』


界気鏡の画面へと、そんな前置きめいた文言を言いながら登場し、演説を始めたのは――南コクエ、いや……正式名称で言えば、"コクエ共生共和国"における、最高意思決定権を保持する"皆導志かいどうし七人衆"の一人にして、その筆頭――ユキオである。


『――この世界を、平等と共営の理想郷とするために、これまで奮闘してきた……我ら皆導志七人衆と共佑党は、今日、重大な決断を致しました』

ユキオは、胸に手をあて感慨深げに目を閉じる。

『その決断とは、十一年前の革命に因り、世界に撒かれた平等と共営の種子を、このツクモの大地に芽吹かせるための最大の障害――根拠無き優劣を掲げ、それを理由に特権を主張し、皆が苦渋の末に得た恵みを搾取する、"君主"という存在を、打倒すべき時がついに来たと、善良なる全ての方々に宣言する事です』


「!」

界気鏡越しに、ユキオの演説を聴いていたサトコは、画面に向けて目を見張る。


『我々は――未だ、古からの根拠無き悪しき理に欺かれている、平等と共営の精神に達する事が成らない、悲しき方々に、これまでのツクモの歩みを、どうか総括してみて欲しいと、常々告げて参りました。

そこから感じ取って欲しかった、君主という存在の浅ましさと、その内に秘めるおぞましい権勢欲を、如実に示した事実を、我々は方々にお伝えするために、この様な早朝の占報と成りました』

ユキオは、まず、早朝である事を詫び、コホンと一つ、咳払いをして身を正す。

『その示すべき事柄とは――君主どもの様に、搾取こそはせずとも、究極の武力と標榜する"光刃"なる手品道具を持ち、常に方々を威圧している――"刀聖"と、自らを神の子孫などという根拠の無き戯れ言を流布し、皆の血税を貪って生きる――"皇"が手を結び、我々が創る"新しきツクモ"への潮流を、責止め様としている事実ですっ!』


「はぁっ!?、何を言い出してんだぁ?!」

ハクキの宿場で、占報を観ている、件の"刀聖"――ソウタは啞然とし――

「……!?」

――と、御所の大広間に居る、皇――サトコは、驚愕に震えながら更に目を見張る。


『皆さんも、先日の"光刃現眼"なるパフォーマンス酔狂の事は、既に聞き及んでいるでしょう――つまり、今、"武の象徴"などと、妄言甚だしき刀聖は、コウオウ一国――いえ、"皇一人"の尖兵と化しているのです!』


ユキオは、そう断言すると、今度は――

『少し――下世話な話となってしまいますが、やはり、お伝えするべきでしょう』

――と、ヒソヒソ話でも始める様に、声を潜めるフリを始める。

『刀聖とやらと皇は、既に!、"男と女の仲"でもあるという情報を!、我々は既に得ておりますっ!!!」



「!?」

「!?」

離れ離れであるはずの、ソウタとサトコは――図らずも、まったく同じな驚愕のリアクションをして、凍り付いた様に全身を固めた。


(!?、!!!!!!!)

その、半ば認めている様なソウタのリアクションを見て――彼と並んで、占報を観ていたシオリは、頬を赤らめて彼の横顔を見やり――

(うわぁ~っ!、マジぃ?)

――と、更に隣に居るハルは、口元を抑えて、ニヤニヤと破顔する。


『――ここに、翼域の街道宿場にある、とある旅籠の宿帳があります。

そして、この旅籠にて切られた手形は――国が、公費を使って支払う事を告げる、公労こうろう手形で、発行元を判別するための、手形に刷られた紋は――とぐろを巻いた龍!』

ユキオは、宿帳へとズームさせ、持った手形に刷られた紋を得意気に示す。

『この手形を使ったのは、公者とは思えない風体の若い男だそうです。

その男が持っていた、やたらと高級品が詰まった荷にも、とぐろ龍の印があった――我々は、その若い男こそが、刀聖なるペテン師ではないかと推測しています』


界気鏡越しに見聞きした、その手形に見覚えがあるソウタは、渋い顔をして額を押さえる。

(あっ、アタシの説――もしかして、大当たり?)

――と、ソウタの後ろで占放を眺めていたハナは、ソウタの解り易いリアクションを観て、自分の『ソウタが刀聖説』に自信を深める。



『つまり――皇は、刀聖を自らの色香で惑わし、民から搾取した金をも貢ぐ事で、刀聖を篭絡し、自らの戦力に加えた――その目的は即ち!、ツクモを共営社会へと生まれ変らせようとしている、我々を更に威圧するためである事は明白!』


「ろっ!、篭絡って――っ!、ソウタが……いえ、刀聖が、そんな事に惑わされるワケが無いでしょうっ!

だからこそ、神具には、持つ者を判別する意思が持たされているというのに!」

ユキオが並べた言葉に、サトコは立ち上がって激昂し、側で聞いていたタマは、うんうんと頷いて――

「使ってる言葉のイミは、あんま解んないけど――コイツ、すんごいムカツクわっ!」

――と、サトコの手を握って、同意を示した。

「タマ――俺も、お前の気持ちには賛成だ。

この男――自分の主張や理想、自己完結めいた思い込みという"酒"に……脳の隋まで酔った者の目だ」

何時もなら、何事も斜めから見ている様なギンでさえ、ユキオの言葉には嫌悪を抱いていた。


『――先日の戦で、専守の旨を廃してまで、皇軍を動かしたのは……来るべき、神格化された威圧感"だけ"は立派な、刀聖を加えた皇軍を用いて、我ら"共営社会への使徒"を駆逐するための予行だったのでしょう。

こうなっては――もはや、我々も手を拱いて居るワケにには参りませんっ!』

ユキオは拳を握り、その拳を頭上に掲げ――

『我々はここに!、コウオウ――いやっ!、"皇と刀聖"に向けて宣戦を布告しっ!、平等と共営の理想郷たるっ!、新しきツクモのために!、改めて矛を持つ事を宣言致しますっ!』

――側に立て掛けられていた槍を手にし、南コクエの国旗である、赤地の太極旗の前で突き上げて見せた。


――ガランッ!


サトコは――ユキオの宣言に対し、驚きのあまり玉座の側に置かれた机を倒してしまう。


「――タマ、お前の疑念……これで晴れたな」

「うん、カツトシを――コケツウチに、母さんに殺らせたのは、きっと南コクエ!

あたまを亡くして、皇軍を弱らせるハラだよっ!」

宣戦を受け、ここ数日の疑念が一気に解けたギンとタマは、演説を称えられているユキオの姿が映る、界気鏡を睨み付けていた。


「!?、せっ……宣戦、ですと?!」

広場の国葬会場には大きなどよめきが起き――まだ、弔辞の壇上に居たロクスケは、愕然として立ち竦む。


「まっ、また戦争?、どうして?、どうしてこんなコトにぃっ!」

「大将暗殺は!、きっと南コクエの仕業だぁっ!、皇軍の怒りの鉄槌を食らわせて、大将の仇を獲ってやれぇっ!」

「もう――疲れたよ。

やっと、やっと戦が終わったと思ってたのに……」

「――皇軍の強さは、この間で解ったんだ!

反皇の旗を揚げて、何かとケチを付けてくる南コクエなんて、良い機会だから滅ぼしてやりゃあいいっ!」


――と、国葬参列者たちの中から、抗戦と非戦――賛否両論の様々な意見が挙がり出す。


南コクエからの、"再びの"宣戦布告に、御所中が色めき立ち、外からは民たちの論戦が喧々諤々と漏れ聞こえる最中、サトコは、玉座に座ったまま――

「――また、それに、こんなに早く……この"いつか観た光景"を、再び見る事に成ってしまうだなんて……」

――そう呟き、頭を抱えながらうな垂れ、デジャヴュにすら感じる、占報を用いた宣戦布告の混乱を見やり、大きな溜め息を吐く。

「やはり、それは私が――愚かな、皇、だからなのでしょうね……」

サトコは下唇を噛み、その場にうな垂れたまま、玉座の敷物に大粒の涙を落とした。
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