流れ者のソウタ

緋野 真人

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決意

孤児院

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「――ミユっ!」

タマたちのハイタッチから間も無く、ミユを呼ぶ声が薄く暮れた辺りへと響いた。

その声の主と思しき、薙刀を携えた40代風の女性が現れ、ミユを囲んでいる様に見える、ハヤトたち3人に向け、彼女は薙刀の刃を突き出す。

「何者ですっ!?、その娘を離しなさいっ!」

女性は、敵意と警戒感満々ににじり寄り、同時に纏った緊張感からか、額には脂汗が滲んでいる。

「――ちっ!、だから言ったんだよ!

それに、良い兆しが見えたからって、おタマちゃんもギンも、流石にはしゃぎ過ぎ――おんや?」

薙刀女性の登場を受け、ハヤトはまた、背中の刀に手を伸ばし、面倒臭そうに薙刀女性に迫るが――彼は、"何か"に気付いて立ち止まる。

「アンタ――ひょっとして、おフジちゃんか?」

これもまた、チンッと音を立てて抜刀を止め、ハヤトは驚いた様子で懐かしそうに薙刀女性の姿を見やる。

「!、あなた――ハッ、ハヤト!?」

薙刀女性――フジも、驚きと懐かしさが混じる表情をして、薙刀を下ろして立ち竦んだ。

「――舎監様、幾分遅くなり、申し訳ございません……」

同時に、ミユが一歩前に出て、どうやら知り合いらしいフジに、畏まった謝意を述べる。

「……気になって様子を観に出たら、見知らぬ者たちに囲まれているのだもの――背筋が冷えたわ」

フジは、鋭い眼光をハヤトに向けたまま、ミユからの詫びに応える。

「舎監様、この方々に悪意は……」

「ええ――解っているわ。

特に、このアヤしげな男の事は……"イヤ"という程に知っていますから」

フジは、そう言って苦笑を浮かべ、対するハヤトも、面倒そうにこめかみを掻いた。



「まさか、旧友――いえ、"天下の大罪人"と、こんな時に出くわすとは驚きだわ」

場面は移り、ここはテンラクにある件の孤児院こと、御船下おふねもと孤児院の一室である。

その舎監を務めているフジは呆れ気味に、そんな愚痴を溢しながら茶を煎れていた。


「へへ――驚いたのは、お互い様だよ。

それにしても、ホント久し振りだよなぁ?」

「そうね、あなたがユリ――大巫女様と、駆け落ちして以来だものっ!」

フジは乱暴気味に、茶が入った湯呑みをドンと卓に置き、引き攣った笑顔をハヤトに向ける。

「ココは、"御船"の"下"で、子供たちを育む場ですから、お酒ではないことはあしからずっ!」

「わぁーってるよぉ。

歳はとっても、そのキツい性格は相変らずだなぁ?」


このフジという女性――大巫女ユリとは、この御船下孤児院で共に育った仲である。

ユリはその後、仕女を志して孤児院を出て、今では大巫女を継承したが――フジは、孤児院に残って働く事を選び、今では舎監の立場を任されている。


そして――"ユリの旧友"となれば、自ずとハヤトとも、昔からの知り合いなのだ。

ハヤトが言うトコロの『秘密の道』――宿場へとショートカットして降りられる太い綱が、孤児院の側から崖下に垂れているのは、例の駆け落ち騒動の際、このフジが製作を容認していたからで、言わば彼女も、件の駆け落ちの共犯者なのは、ユリを加えた三人の秘密である。


「――で?、あなたが連れて来た、あの猫族と狼族の青年たちは何?」

フジは、自分の分の茶を啜り、少し離れた場所でミユと話をしようとしている、タマとギンの方へと指を指し、ハヤトに関係を尋ねる。

「当世の刀聖サマの行方を探してんのに、唯一の足取りのココに入れねぇと困ってたから――アレを教えてやったんだよ」

ハヤトも出された茶を啜り、フジの問いに素直に答えた。

「大方――当世の刀聖サマとは、コウオウ戦役ん時の義兵仲間か何かだろうが……詳しくは知らねぇ」

「……そう」

フジは、ハヤトのそんな雑な説明もアッサリと咀嚼して、二人はタマたちとミユの会話に耳を傾けた。


「――ソウタは、やはり既に、ココを発っていたか」

ミユの話を聞いたギンは腕を組み、目を瞑って何やら考えを巡らし始める。

「あの――『決して美形ではない』スケコマシめ!

今度はっ!、ウワサの"凄い美人"のお供ぉ~?、サトコやコウオウのみんなが大変の時にぃ~~~~っ!

見つけたら、ぜぇ~ったい一発殴ってやるっ!」

タマは、ワナワナと拳を震わせて、個人的な怨みも多少混じった理由で激怒している。


「へへ♪、どうやら――刀聖サマの行き先は解ったみてぇだな」

ハヤトはニヤニヤと笑って、二人の様子を見定めると、徐に立ち上がり――

「アンタらの目的は、コレで達したんだ――今度は、俺の方を手伝って貰うぜ?」

――と、声高に二人の意思を確認する。

「ああ、解っている」

「『あれが道ぃ~?!』とは思うけど、助かったのは確かだしね――ただし急いでよ⁈、今度はあのスケコマシに追いつかなきゃならないんだから!」

瞑目なギンは小さく頷き、活発なタマはしっかり、ハヤトへの不満も吐露しながら大きく頷く。

「『俺の方の手伝い』って――ハヤト、あなたも用があって来たというの?」

顔をしかめて尋ねるフジに、ニヤッと不敵な笑みを造ったハヤトは――

「ああ、俺の"昔の女"がまた、"籠の中"に入れられようとしてるってぇハナシじゃねぇか?

それに――ダチを二人も殺られて、それを黙っていられる程、俺は恍けた野郎じゃあねぇ……"それ"を企んだっていう若造ガキどもに、ちょいとお灸を据えに来たのさ♪」

――と、口元の笑みとは真逆な、凄まじい殺気を込めた目線を、天警本陣がある方角に向けていた。





「大巫女様――では、この書状に花押を……」

時は若干経て、翌日――ユリの私室にやって来ていたのは、整った身形のハヤトとは正反対な印象の中年男。

"クリ社神官長"の肩書きを持つトモノリは畏まり、ユリに認証の花押を求めていた。


「……よく、私の前に顔を出せたモノですね、トモノリ。

貴方とは――結構長い付き合いのはずでしたが、これほど面の皮が厚い殿方だったとは、今まで知りませんでしたよ」

ユリは、重度の皮肉を込めた物言いをトモノリに浴びせ、彼が出している書状を毟り取る様に受け取る。


「――これも、一介の神職なりの処世術にございます……大巫女様」

ユリが放つ、殺気にも似た威圧感に、トモノリは少したじろぎながら、大粒の冷や汗を垂らす。

「ふっ……謀反の片棒を担ぎ、大巫女わたしに戒律を改めさせて、クリ社の長を気取る事を"処世術"と呼ばわるとは――物事とは、実に言い様ですね」

ユリはヒラヒラと書状を振り、ニヤッと不適な笑みをトモノリに送る。

「あっ、貴女が悪いのですよっ!、美貌みためから来る民の人気だけで、まだまだ実務経験に足りない"あの小娘"を、私の上に置くなどっ!」


トモノリが言う"小娘"とは――大神官シオリの事。

彼が、ショウたち謀反一派に賛同した理由とは、ユリが行った人事への不満だったのだ。


「ふふ……シオリに対して"人気だけで"とは、貴方の先見も痴れたモノの様ですね?

まあ、あの卓越した美貌を、まったく考慮していなかったと言えば、嘘にはなりますが――私は、実務経験を責任ある立場の中で積ませながら、彼女のその稀有な資質も活かそうとしたのです。

この世界に漂い続ける、混沌とした雰囲気を和らげ、民に愛されるクリ社を目指すために、私はあの子を抜擢した――だって、貴方みたいなモサっとしたおじさんでは、民の不安を助長させてしまうでしょぉ~?」

ユリは、これでもかというほど、トモノリを小馬鹿にする。


「ぐぬぬっ!、花押の印章が神具の守をおびていなければ、あなたを無視して事を運べるというのにぃっ!」

彼女からの侮辱を、口惜しそうに聞いていたトモノリは、ホンネらしき思いを口にする。


クリ社の書状や布れの決裁には、代々の大巫女が引き継いでいる印章が押されて初めて、施行されるのが決まりである。


つまり――大巫女の承認が無ければ、クリ社が提案した政策の類は一切実行出来ず、承認の印が押されていなければ、それが大巫女が認めていない、偽りの布れである事を晒しているのと同義なるのだ。

ユリは、謀反の仔細と終結をルイから聞いてから、懐に忍ばせていた花押の印に紫珠輪の結界を纏わせ、彼らに触れられないように仕組んだのである!


「これが――謀反一派あなたたちへの大巫女わたしの#意志__こたえ__です!

この聖地に混乱を起こした罪を認め、武装を解除して残りの隊の軍門に降るよう、二番隊長たちにお伝えなさい」

ユリは書状を破り、その端くれをトモノリに投げた。

「――ふんっ!、そんな態度が出来るのも、今の内だぁっ!

我らが決めた、新しい戒律は、貴女の承認が無くとも、きっと多くの民が望んで認める結果となる!

もはや長くはない、駄々を捏ねて居られる時間を、せいぜい楽しんでおれば良いっ!」

ユリが投げた、書状の端くれを握り締め、トモノリは憤慨して部屋から出て行った。



『――はは♪、年をとるってぇのは、恐ろしいねぇ……

天然ボケ気味だった、娘時分"ユリちゃん"を知ってるモンからすりゃあ、信じがたい毒舌だねぇ』


トモノリが出て行ってからしばらくして、私室の中にそんな男の声が響いた。
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