流れ者のソウタ

緋野 真人

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継承

かつての世界

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 ここからの一篇は、チヨ――いや、アマノツバサノオオカミのモノローグとして描こう。


 まず――知ってのとおり、このツクモは元々、あなた方の先祖が、天船に乗って来て移住した世界――では、何故、移住しなければならなかったか?

 それも、何度も皆が言っているとおり、あなた方の先祖は、移らなければならない事情――元居た世界では、暮らしていくのが困難になったため。

 それはもはや、定説となっているコトだし、それは始祖神とされている私も認める事柄だわ。


 でも――誰もが知っていては、イロイロと面倒な事に成りかねない事柄だってある。

 それは、あなたたちが"神様"だと思っている私は、実際には神などではなく、あなた方の先祖が造った、世界管理型自立AI――今のあなたたちに解り易く言うと、"人造の神"でしかないという事。

 世界を管理し、運営して行く上で――"宗教"というモノは、その世界に住む人々の拠り所として無くてはならないモノなの.

 それが所詮、人が自ら"造ったモノ"だと知られては、その効果は意味を成さないモノとなってしまう。

 だから、この真実は最重要機密として――血統や、複数の他者の承認、鍵として設けた神具自体からの査定など、重度の縛りを掛けた神具かぎの保持者、五名のみに代々伝えられる秘密とした――それが『神言』よ。


 いきなり――核心に触れた様で、もう多くを語る必要はないのかもしれないけれど、この世界自体も、たまたま見つけた移住先"ではなく"――この世界もまた、かつての人々が造った"人造世界"。


 だから、その人造世界に先住していたとされている、あなたたちが亜人種と呼ぶ、半人半獣や異質な外見や特性を持つ人たちもまた――かつての人々が、この世界の創生期を担う先発隊として住まわせた、過酷なその時期に対応させるための遺伝子操作――言わば、造り替えた人種なのよ。

 それらは、流石にイロイロな問題が絡んできそうな非道なコト。

 世界自体が人造である事と同時に、これも重要機密として秘匿されている。

 "かつての人々"とは、世界も――神すらも造り出せる、超高度な文明と技術を有した人々なのよ。


 では――何故、そんな超絶な技術を持つ文明に生きる、かつての人々の世界から、このツクモへ逃げる様に来る事に至ったか?


 その疑問には、かつての人々が何故、世界を創り始めたかが関係しているわ。


 かつての人々を世界創造へと掻き立てた理由は実に単純――総人口の居住地や食料、水など、生活に欠かせない物を元々の世界だけでは賄いきれなくなったから。

 その窮地を打破しようと、持ち前の超文明を用いて、世界創造を成し遂げたかつての人々は、次々と新たな世界を創造――その結果、百を超える数の世界が創られた。

 ちなみに、このツクモは、その中でも九十九番目に創られた世界よ。


 新たな世界を創造する事で、見事人々の暮らしの存続は免れた。

 でも――窮地に陥っていた頃こそは、団結し、知恵を出し合って、世界創造という快挙に至ったはずなのに、苦難の思いは、既に過去のモノとなり、人々は不満を漏らし始めた。


 まず、起こったのは――存続の危機を脱したのだから、元々の考え方や暮らし方をしようという"懐古運動"だった。


 当時、危機を脱するため――人々は、人種や民族などの垣根を廃し、幾つにも分かれていた国家を統合して、"世界統一政府"を設立していたのだけれど、それを止め、元のカタチに戻そうという懐古運動は……人々の支持を集め始めた。

 民主主義を旨とする政治体制を敷いていた、世界統一政府にとって、それは人々の"望み"であり、"意思"でもあるため、それを無視する事は出来ず――統一政府の解散と、国家制度の復活が決まった。

 百数十に分かれた各国家には、一国家ごとに一つの創造世界の運営する権益が与えられた――だけど、まだ、それだけでは、人々の『欲』を満たす事を出来てはいなかった。


 次に起こったのは、その百有余の世界の奪い合い――そう、世界間の戦争いくさよ。


 言葉は悪いけれど、配分された各創造世界には『当たり』と『ハズレ』があった。

 肥沃な土地を持ち、農業に向いた世界もあれば、資源を潤沢に埋蔵している世界もあった――逆に、砂漠ばかりで物資の生産に向かない世界や、資源などは採れても、移り住むには向かない世界なども。

 その『当たり』を欲して、各国は争いを始めた――もっと生産性が高く、もっと資源が豊富で、もっと住みやすい世界が欲しいと。


 そんな発想に、各国が至ったのには、経済的な側面が影響していた。

 各創造世界は、それらの要素で格付けされ、それがその世界の土地の価格を決める――優れた世界を有していれば、それは国益に繋がると考えたの。

 超文明を誇った、かつての人々は――同時に、ビジネス商売の発想に関しても、貪欲で天才的だった。

 だって、どんな価値の無さそうな物にも価値を付け、それを商売へと変じさせるのですもの。


 次に――争いの火種となったのは、統一政府の設立前から度々問題視されていた、各宗教間の価値観の違いに因る対立。

 それが、国家の復活によって更に浮き彫りとなり、排他的な思想を翳して、戦争へと至る国々が続出した。

 新天地の創造に因って、肥大化した世界では、それらを抑制するための『秩序』もまた……正しくは働かないモノとなっていたのよ。


 これら二つの火種を、団扇が如く扇いだのが――皮肉にも、人々の意思。

『民意』を、最も尊ぶ必要がある"民主主義"という政治体制だった。


 統一政府が各国家に分かれた際、建国の条件にあったのが民主政治の徹底――『もっと優れた世界が欲しい』のも、『価値観が違う相手を排除して欲しい』のも、結局は"民意の発露"――だから、否応無しに戦端は開かれた。

 あなたたちに話しても、きっと解からないだろうけど――『人』という『獣』は、存続の危機を超えても尚、争いを止める様には出来ていなかった。


 そんな、獣の様に欲求を満たす事に終始する人々の姿に呆れ、嫌になった人々が集まったのが――この、九十九番目に創られた世界だった。


 九十九ツクモに集まった彼らは、神すら造る事が出来る、この超高度な技術を捨て去り、この世界で世界をやり直す事を決めた。

 そんな『彼ら』が望んだ世界とは――『必要以上には欲しがらず、必要以上には権利を求めない、そんな秩序が行き届いた世界』だった


『彼ら』が、その理想のために参考にしたのは、元々の世界にあった『ジャーペン』という国の、在りし日の姿。

 それは、封権政治を当たり前の様に享受し、それを不満どころか、特段苦だとは思わずに過ごしていたという歴史を持った、『彼ら』からすれば、想像出来ない価値観を持っていた国。

『彼ら』は、当時のジャーペンの文化や思想、果てには服装なども真似はじめ、自身に軽度の遺伝子操作までも行って、ジャーペン人の特徴だったという、黒髪や黄色の肌色へと自分たちを造り替えた。

 そんな『彼ら』が、今のツクモ人の祖先――ココへと移り住んだ『彼ら』は、超文明との関係を完全に絶つべく、ジャーペン人が行っていたという『鎖国』という施策を参考に、元々の世界や他の創造世界へと繋がるゲートを完全に閉じ、行き来を出来ない様にした。

 そして、『彼ら』は、自分たちが間違っていたと思う『全て』を捨て去り、この閉鎖された世界であるこのツクモで、一からやり直しを始めたのです。



「――ふぅ、五感を持たないはずの私だけれど、これが"疲れる"というコトなのかしら?」

 話を終えたチヨは、トレードマークでもある片眼鏡を外し、苦笑いを見せて目を閉じた。


「……」

 話を聞き終えたシオリは、愕然として顔面を蒼白にさせ、途方に暮れた体で口をあんぐりと開けていた。


「……大巫女先導者には、大抵クリ社の者が継ぐので、敬謙な萬神道信者ばかりだから、この事実には特に驚くのよね」

 ――と、チヨはシオリのリアクションを見やり、困った顔をする。


「――いや、今のは流石に、既に神言の秘密を知る、神具保持者おれたちでも面を喰らう……

 そういうコトなんだろうとは思ってはいたが、ああもアッサリと、"神様じゃねぇ"と言われちゃあねぇ……」

「そっ、それに――このツクモまでもが、かつての人々が"造ったモノ"だったとは、私たちの想像を遥かに凌ぐ驚きです」

 ソウタとアヤコも、驚きを隠せない表情で、息を呑んだり、冷や汗を額に滲ませたりしている。


 チヨは驚く三人を楽しげに見渡し、気を取り直してゆったりと微笑む。


「解かりました――ですから、チヨ先生は『目覚めた人々』に、懸念をお持ちなのですね?」

 ――と、アヤコは気を取り直す素振りで、話を終えたチヨへ、確認する様な問いを投げ掛ける。

「ええ、一からやり直した世界にも、いずれは民主主義思想は絶対に興るはずだと『彼ら』は思っていた。

 それを『人の目覚め』と呼んでいたのです――民主主義は『彼ら』の歴史の中でも、多くの人々に知恵が行き届く様になった頃から始まった、当時の革新的思想。

 それを、赤子が自我に目覚めた様なモノだと揶揄して、そう呼んでいたわ」

 これまでの語りに、納得して頷いているアヤコに、チヨはそう補足をした。


「萬神道の教えの中でも――経済活動に関する禁忌はとても多い。

 それも、絶え間なく、あらゆるモノを売り買いの道具にしようとした、かつての世界の姿を見ての教訓だったのですね」

「何せ――土地は勿論、通貨の価値を常に上下させて利損を生み出したり、借金を獲り立てる権利までもを売り買いしていたそうですから。

 だから、物品を介さない取引を禁じ、人が暮らす上で最も重要な住環境の売り買いや貸し借りを、商いの道具にしてはならないと決めたのよ」

 チヨの言葉に、萬神道の教えに通じるモノを感じたシオリは、険しい表情でゴクリと唾を呑み、チヨはこれにも補足を付けながら、呆れた様に両手を掲げた。


「――てぇ事は、宗教が"萬神道だけ"ってのも、その『彼ら』の企みてぇワケか……そーいう教えを、徹底させると同時に――」

「――宗教を一つに搾る事で、宗教間のイザコザ自体が、存在しない世界にしようとした……その通りです」

 チヨは、ソウタの言葉を遮り、後に言おうとしていた事柄を先取りして見せた。


「でも――勘違いはしないでくださいね?

 先日、アヤコにも言ったけれど――『彼ら』と私は、別に"民主主義が悪"だと、言っているのではないわ。

 ただ、かつての人々は、それを万能な術であると信じて邁進した結果、負の結果へと世界を向かわせた――それをこの世界の要に据えた、あなたたちに伝えたいだけなの。

 万能な主義思想や政治体制なんて、少なくとも『人』という『獣』が住む世界には――存在しようがないという事をね」

 チヨは、そう言いながら片眼鏡を付け直し、またいつもの妖艶な微笑みを讃えて話を閉じた。
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