流れ者のソウタ

緋野 真人

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囚われの皇

戦勝の後先

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 その前に――何故、ソウタたちが今、このオウクに居るのかを語っておくのが筋であろう。

 始まりは、あのオウビ軍の大勝の直後――オウビの皆が敵味方問わず、遺体の片付けと戦死者の弔いを終えた頃、場所は流洲の関に放置された南コクエ軍の陣である。


「よぉ~し、弔ぇは終わった。

 野郎どもぉっ!、こっからはけんかに勝った、祝い酒と洒落込むぜぇ~っ!」


「――おぉぉぉぉ~っ!!!!!!」

 陣を制圧したオウビ軍の皆は、自分たちが兵糧として用意していた酒や食料を持ち込み、陣と同じく南コクエが放置して行った、同じ様に奴らが残した兵糧の類も織り交ぜて、破壊された陣内ではあったが、そこで戦勝の祝宴を開こうとしていた。


「――って、どうした刀聖?、戦支度のままじゃねぇか?」

 祝宴の音頭を取ったチョウゴロウは、顔に浴びた返り血を拭っただけで、兵装は解かずにテンの背へと跨ろうとしている、ソウタに向けて訝しげにその意図を問うた。

「ん~……すんませんね。

 ゆっくりもしてられねぇ事情もあるんで、俺はこのまま発たせていただきますよ」

 ――と、ソウタは少し残念そうに、チョウゴロウに会釈をしながら鞍上の人となる。

「"発つ"って、おめぇ……もう、夕刻だぞ?

 だから俺らだって、ココで一晩明かしてから、街に戻るコトにしたんだぜ?」

「逃げた南コクの残党よりも、先にオウクへ入っときたいんスよ。

 この戦の結果が、七人衆の耳に入るより前にね」

 納得が行かないチョウゴロウに、ソウタは含みを持たせた言い方で、その意図を応えた。


「だから、隊長やツツキの暗衆たちを――流洲ココには参じさせなかったワケですね?」

 したり顔でそう言い、ソウタたちの会話に割って入って来たのは――サスケだ。

「貴方たちにとって、この戦は行きがけの駄賃の様なモノのはず――本筋の目的とは、コウオウ自体の奪還やテンラク様の解放……なのでは?」

 得々と自分の推測を述べ、サスケは腰に差した二刀の位置を正し――

「私も――お供させて頂きたい。

 貴方を援護する事が、オリエさんからのご指示ですし、何よりも、貴方はレンの身を救け、ヤマカキ村の皆の仇を討ってくれた、我らヤマカキの者にとっての恩人ですので」

 その場に畏まり、彼は忠誠を意味する武官の作法を見せて、ソウタに同行を願い出る。


 この、ある意味では恋敵同士であるソウタとサスケ。

 機会を逸し、仔細な描写としては語っていないが、ソウタにとっては、船旅の最中にヨシゾウから仔細を聞かされ、先日の議場での事の後にオリエからも紹介された、ヤマカキ村出身の元スヨウ武士――浅からぬ因縁を持つ存在あいてと言っても過言ではない。


「んな、大層な思惑なワケがじゃあないよ……トンだ買い被りだ。

 俺は、ぶっ壊すか、皆殺ししか出来ねぇ、破壊するだけの鬼――感謝されたり、忠を尽くされたりするヤツじゃあねぇよ」

 ソウタは、気恥ずかしそうにポリポリとこめかみを掻き、そんな前フリを溢してから――

「確かに――ヨシゾウさんやアオイには、先発してオウクに潜んで貰ってる。

 皇様の安否や、元皇軍の皆の動きを確認するためにな」

 ――と、サスケが推測した、彼の思惑について吐露する。

「この敗戦を受けて、南コクが皇様にナニをやらかすか解らねぇからな……迅速に動ける様にしておかねぇと」

 ソウタは次に、早々にこの場を立つ理由の仔細を、チョウゴロウの顔を見据えて伝えた。

「そうか――解った!、おい、リュウジ!」

「へぇ、親分」

 ソウタの意思を受け入れたチョウゴロウは、その返事のついでにリュウジを呼び出し――

「俺らが今回、刀聖に受けた義理は、このスヨウの若造ガキどころじゃねぇ。

 おめぇも、ウチの若い衆を引き連れて、しばらくは刀聖の手駒として働け――良いな?」

 ――そう、据わった目付きで、淡々と彼に命令を下した。

「解りやした――というワケだ、よろしくな、ソウタ」

 リュウジは、ニィっと不敵な笑みを見せ、ソウタにふてぶてしく会釈をする。

「おいおい――その気持ちは嬉しいっスけど、どちらさんも話、聞いてました?

 暗衆を忍ばせてるぐれぇなんだから、人数増やしちゃ逆に困るんスよ」

 ソウタは片目を瞑り、困った表情でサスケとリュウジの顔を見やる。

「――んじゃあ、ハルやヒカリと一緒に、東砦の士団三番隊と合流してください」

「"火の玉の嬢ちゃん"たちと?、おめぇがオウクに連れてくんじゃねぇのか?」

 ソウタのその指示を聞き、リュウジは訝しげに彼の意図を探る。


 ちなみに――『火の玉の嬢ちゃん』とは、ヒカリの事。

 言わずもがな、戦での驚異的な活躍を観てのリュウジなりの揶揄だ。


「ええ、サスケが言う様に、俺がこれから行くトコも、ある意味じゃあ行き掛けのナンチャラだからね。

 更なる次の一手のために、二人にはシオリさんを連れて――士団の三番隊や六番隊との繋ぎを頼んでる」

 ソウタの説明を聞くと、リュウジは腕組みをして何度も頷き――

「――なぁるほど、次はテンラクを牛耳った連中ってワケか。

 解った……今の俺らは、刀聖おめぇの舎弟――大神官たちの事は任しとけ」

「解りました、それが刀聖様の命ならば、私もそのとおりに致します」

 ――と、リュウジは腰に提げたドスを掲げ、またも不敵に笑い、サスケはその場に跪いて頭を足らした。


「――というワケで、アタシとヒカリは、ココに残って、祝い酒に参加しまぁ~すっ!」

「さっ!、用意出来ましたよぉ~っ!、今夜は戦勝の祝宴でぇ~っす!」

 その彼らの後ろでは、ハルが兵糧の中の酒樽を割り、ヒカリは簡単に拵えた肴を用意し始め、早くも祝宴の序章が始まっていた。

「さっ、じゃあ二人も行った行った――宴会嫌いの俺は、早々にズラかるんでね。

 よし、行こうぜギン――あっ、ソコの馬から降りて、酒宴に参加しようとしてるタマもな?」

 ソウタと同様に、馬へと跨り、並足で近付いて来るギンとタマが乗った一騎に、出立の意思を告げた。

「ああ――解った。

 暴れては振り落とされるぞ?、タマ」

「やぁ~だぁ~っ!、みんなと一緒に呑んでからでも良いじゃなぁ~いっ!」

 タマは……鞍にしがみ付き、何とか馬から降りようともがいている。

「まったく――ソウタへの使者として発った俺たちが、一緒に行かない道理は無いだろうが……はっ!」

「あぁ~っ!、お酒とお料理が遠くなって行くぅ~!」

 三人が去った流洲の関には、祝宴を始めたオウビの面々の嬉々とした声と、タマの慙愧の声が交じり合って響いていた。
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