流れ者のソウタ

緋野 真人

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刀聖軍

圧倒

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「アンちゃんたち――この小屋に、いってぇ何の用だ?」

 狩人小屋を取り囲む体で林の中から出て来た、灰色の着物の袖に黄色い腕章を着けた恰好の、二十人は下らない若者の一団に対し、鍔の無い、白木の鞘に入ったドスを、肩に担いだリュウジが睨みを効かせて凄む。


「ふんっ!、学組に異を唱える不平学徒共め!、用心棒にヤクザ者を雇ったのか」

 若者の一人が、そんな事を呟きながら、一歩前に出て――

「――我らは!、オウレン大学風紀方っ!

 学組への抗議と表して徒党を組み、それを扇動して、学内の"自由への一挙"を尊ぶ風紀を乱した――アキト一回生以下、不平学徒らを捕らえに来た者だ!」

 ――と、ふてぶてしく腕を組み、偉そうにふん刷り返って凄み返した。


「オウレン風紀方と言えば――その卒業生の多くが、先のコクエ内戦で解放軍の主力を構成していたとして知られ、体育会の者を中心とした、学内の治安を司る学組の自警実力組織――」

「――へへ、スヨウの若ぇの……学のねぇ俺に、わざわざの解説をあんがとな♪」

 名乗りを挙げた者たちの素性を、側で呟くサスケに、リュウジはニヤッと笑って礼を言った。

「――てぇこたぁ、中の奴らをとっ捕まえに来た連中かい。

 なら、コイツの出番ってぇコトだな?」

 リュウジは、甲高い音の鞘走りと共にドスを抜き、白木の鞘をその場に投げ落とした。

「――でしょうね。

 今の私たちの任務は、その"不平学徒"を助ける事ですから」

 サスケも、両腰に差した二刀を抜き、風紀方の動きを見据えながら構える。

「ふむ――早速の槍働きだね、着いて来て正解だったよ♪」

 ヒロシも、抜刀しながらニヤッと笑う――ちなみに、威嚇効果が抜群にありそうな、例の浅黄色の羽織や白金の肩当は……シンジロウに預けて、砦から発っていたので、今のヒロシの風体は天警隊長格の"ソレ"ではない。


「ふんっ!、自ら連中の支援者である事を吐露したか!

 全員っ!、戦闘態勢っ!」

 前に出て、名乗りを挙げていた一人がそう叫ぶと、風紀方たちは一斉に抜刀し、小屋を取り囲んでいた全員が散開し、五人一組となって再集結する。


「なんでぇ?、気味の悪ぃ動きだなぁ。

 全員が、一斉に同じ構えをしてよ」

「あれが――コクエ内戦で、解放軍が勝利した最大の要因とされている、風紀方伝統の集団戦法の徹底か……

 侍ではなく、民者が中心だった解放軍は――それで生じた個々の戦闘力の差を補うべく、数の多さと連携に因って、その戦闘力の差を是正した――」

 ――と、苦々しくその陣形を見詰めているリュウジに、今度はヒロシが解説を被せる。

「――数の面では、むこうから見て、ざっと五倍は居る状況ですからね。

 正しい戦法と言えるでしょう」

 サスケは、辺りの気配を探り、苦々しくそんな補足を付けると、二刀の柄を握る力を強めた。


『――だったら、コッチも連携してやろうか?』


 その時――小屋の中から、そんなくぐもった声が聞こえた。


「けっ!、ああ、良いぜ――んじゃ、まずは正面の五人から!」

「――解った、キミが出て来るのが合図だ」

「了解――」

 三人はその声に、ほくそ笑みながら、小声で応じる。


『――んじゃあ、せーのっ!』


 その合図を示す声と同時に、小屋の引き戸がけたたましい音と共に中から蹴破られ、抜刀状態の鬼面を着けた者が飛び出したっ!

 その鬼面の動きを計っていた様に外の三人も駆け出し、居並ぶ様相で、正面で備えていた五人の風紀方に襲い掛かる!

「きっ!、鬼面の男ぉ?!、まさか刀――」

「――遅ぇっ!」


 鬼面の者の登場に驚き、現われた者の正体とその意味を悟った、風紀方の一人は――声を挙げた瞬間に切り伏せられた。


「おらぁっ!」

「――ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!!」

 その隣では、リュウジの刀が唸る様に振るわれ、膨大な量の界気を纏った彼の刃が、真っ二つに一人の風紀方の身体を両断し――

「――はぁぁぁぁっ!」

「ぐわぁっ!」

 ――もう一方では、サスケの二刀が八の字に振るわれ、その斬撃を喰らった一人は苦悶の表情で倒れ込む。


「――さぁて!」

「ぐはぁっ……!」

 ヒロシは、殆ど表情を変えず、実に淡々と『突き』で敵の左胸を貫き、一人が血反吐を垂らしながら膝を突き、絶命する。


 ヒロシは――突きを主体とした剣術で大武会を席巻した技巧派。

 的確に、敵の隙を突くそのスタイルは、士団の中でも稀有な存在と言える。


「ひっ!?、ひぃぃぃっ!」

 鬼面の者たちが瞬殺した、四人の他のもう一人――奇しくも先程、偉そうに凄み返して来た若者が、腰を抜かす恰好で、鬼面の者の前にへたり込んだ。

「へっ!」

 鬼面の者は、その若者の姿を一瞥すると、そんな風に鼻を鳴らし、他の一団へと目をやり、刃を下段に垂らしながら、また凄まじいスピードで駆け出す!

 それに呼応して、残りの三人も、鬼面の者に追従しようとはしたが、鬼面の者は空いている左手で、ブロックサインの様な動きをする。

 すると三人は、その意図を察して、別の一団へと瞬時に切っ先を向けた。


「うっ!、うわぁぁぁっ!」

 鬼面の者を視認した瞬間に、その正体を察した若者たちは一様に脅え、その恐怖に堪えきれず浮き足立ち、思う様には動けず、何の抵抗も出来ぬまま、次々と鬼面の男に切り捨てられた。


「くっ、くっそぉぉぉっ!」

 そんな中――決死の形相で刀を振り上げ、鬼面の者に襲いかかった若者の……

「――ぐぁっ!?」

 ――背に小刀状の暗器が幾本も刺さり、その勇気ある若者は苦悶の表情を浮かべて倒れ込む。

 その様を見て、鬼面の者は暗器が飛んで来た小屋の窓――そこから覗いているショウゾウに向けて、またもブロックサインの動きをして、何かの合図を送る。


「――くっ?!」

 すると、他の一団の足下に撒き菱がばら撒かれ、動き出しを躊躇させられた。


 鬼面の者の登場――つまり、先日の占報で目の当たりにした刀聖への畏怖の念に加え、的確に、そして――圧倒的に、この戦場を支配する四人の動きに、若者たちの士気は一気に急降下。

 反撃に及ぶものなどは現われず、風紀方はまさに、一目散に小屋から撤退し始めた。
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