流れ者のソウタ

緋野 真人

文字の大きさ
172 / 207
聖狭間退却戦

下衆

しおりを挟む
「――さぁて、どうする?

 皇様と、次の大巫女様がああ言っても……まだ、俺に遊んで欲しいか?」

 ――と、包囲している八番隊員たちを見回し、ソウタは刀の柄を弄びながら、そう彼らに尋ねた。


「うっ……」

 八番隊員たちは返答に困り、刀を構えたまま言葉に詰った。


「とっ!、刀聖様に、申し上げぇ~るっ!」

 皆が押し黙る中、タケノリが逸早く刀を収め、そんな声を上げながら、ソウタの側へと駆け寄って来る。

 ソウタの前で跪いたタケノリは、声音を震わせながら――

「――我らはこれまで、隊長の命ゆえに、その思慮を疑う事無く、その命に付き従って参りました。

 さりとて――世界が"要"たる、三者の方々に矛を向けるという、此度の命に関しては……少なからずの疑義を抱いていた者も、大半にございました」

 ――と、隊長であるヤヒコへの不平を言い出した。


「!?、おいっ!、何を敵にぶちまける気だぁっ?!」

 ヤヒコは血相を変えて、周りの隊員たちを掻き分け、タケノリを制そうと前へと進む。


「隊長は"大神官様を唆した、あの刀聖を殺す事こそが俺たちに課せられた使命!、俺たちの成すべき事!"――と、仰っていたのに、今の大神官様のお言葉の力強さは、唆されて言わされた事柄とは到底思えませぬ。

 我ら天警士団員の使命は、世界の先導者たる、大巫女様が鎮座する聖地、テンラク様と翼域の治安を護る事――故に、当世刀聖様にお尋ね致したい!

 我ら士団員が真に成すべき事は、今の大神官様の御言葉や、他の隊の行動からして、大神官様と共に、俗世から退く事なのでしょうか?」

 タケノリは平伏したまま、自分が至った結論をソウタに打ち明けた。


「――あんの野郎ぉぉ~っ!」

 それを聞き及んだヤヒコは歩みを早め、怒った様子で握った刀を震わせる。


「――俺に聞くな。

 てめぇの好きにしたくて、何でも自分たちで決めてぇから、お前らは、政治から何からをひっくり返したいんだろ?

 だったら……どうしたいのかは、てめぇで決めやがれ!、それが、てめぇらの望みだろうが!?」

 ソウタは実に投げやりに、タケノリからの尋ねを一蹴する…


「――解り申した、でしたら……」

 タケノリはそう言うと、鞘を腰から外して目の前の地面に置き、軍装を解き始める。

「不肖――士団員タケノリ!

 此度の俗世からの撤退に、士団が一人として、末席に加えて頂きたい――無論っ!」

「!?、おいっ!、待てぇぇっ!」

 ソウタは、同時に聞こえた金属音を、抜刀に因るモノだと察し――そしてそれは、自分へと向けたモノでもなく……


 ――ズブゥウウッ!


「むっ……謀反にぃ、加わったぁ、贖罪……として、絶ったっ!

 このっ、"武士ものふふ"が魂と!、こっ……心のみ、をぉ――っ!」

 ――自らのみぞおちへと突き刺し、横へと掻っ捌くためだとも察し――それを止めさせようと、ソウタは駆け寄るが、タケノリはスッキリとした表情で地面に横たわる。

「――っ!!!、だから……だからっ!、おめぇらは面倒臭ぇんだよっ!」

 ソウタは、悔しげに地面に拳を押し付け、絶命したタケノリの手から離れた、彼の刀を腹から抜き、血まみれなそれを地面に突き立てた。


「……」

 タケノリの行為を目撃した、他の八番隊員たちの様子は真っ二つに分かれた。

 彼を真似ようと軍装を脱ぎ始め、自刃の用意をし、それを実行する者と――その思いを解さずに、啞然として、その様子を見詰める者の二通りだった。


「――やめろぉっ!、自分の間違いに気付いたんならっ!、俺もシオリさんも責めはしねぇっ!

 一緒に、樹海にシケ込んでくれても構わねぇんだぁっ!」

 ソウタが、赦免と懐柔を盾に、自刃への流れをくい止めようとするが――それは止まらず、次々と自刃は行われて行った……


「――っ!!!、バカ野郎どもがぁっ!」

「――ふふ、あははははっ!」

 悔しげに俯き、自刃した遺骸が多く転がる様子に、憤っているソウタの前に立ち、彼の姿を嘲笑う様な声が、この障害物がほとんど無い聖狭間に響き渡る。


「ホントに、ホントにバカだよなぁ?!、

 ワケの解らねぇ理屈を並べて、てめぇで腹掻っ捌いて逝くなんてよぉ?!」

 その声の主は、彼らを統べるべき存在であるヤヒコ――彼は、笑いを堪えきれない体で、楽しげに自分の顔を手で覆っている。

「俺が――俺たちが、やろうとしてる事は、こーいうバカげた思想かんがえをぶっ壊すためだっ!

 刀聖っ!、あいつらをバカだと思うなら、何でお前は俺たちの邪魔をする?!」

 ヤヒコは、鬼面越しにソウタの顔へと刃を突き付け、矛盾に思える彼の行動と言動を問い質す。

「へへ――確かにそうだな、自刃なんてモンは、本当にバカげてる」

 ソウタはなんと、ヤヒコの主張に同調を示してみせ、地面に突き立てたタケノリの刀を抜き放ち、それをヤヒコの顔に突き付け返したっ!

「!!!」

「――だがなぁっ⁈、どんなバカげた事でも!、それが脈々と受け継がれて来たのにはっ!、ちゃんとした意味があるからなんだよっ!、それを繋いできた人たちの、"思い"と一緒にっ!

 おめぇらはっ!、それを勝手に踏み躙って!、それを繋いで行こうとしている人たちを泣かせて、あまつさえ死にも追いやった!

 それはぁっ!、刀聖おれが思う、よこしまな行いに他ならないっ!」

 驚くヤヒコに、ソウタは荒げた声でそう告げると、彼の刀を弾いて見せる。


「ほら!、来いよ――俺が憎いんだろう?

 刀聖おれは、自由を!、平等を渇望する!、"新しきツクモの民"にとって、それを阻もうとする許し難い悪鬼なんだろうが!?

 光刃コイツは使わないでやる――その悪鬼を殺した、大手柄を立ててみせろよっ!」

 ソウタは、最大限の挑発をヤヒコに投げ、光刃の柄も地面へと放り、凄んだ表情のままに彼を睨み付ける。


「――おうよっ!、光の刀を持たないてめぇなんて!、ちいと腕が立つだけのただの流れ者だぁっ!」

 ヤヒコが激昂と共に、刀を振り上げると――

「――隊長っ!、助太刀致しますっ!」

 ――自刃に及ばなかった、数十人の八番隊員もそれに呼応し、彼の直衛に付いた。


「けっ!、大手柄の好機と思って、ワラワラと湧いて来たか。

 やっぱ、この場に至って自刃を選ばない様なヤツは――腹ん中が真っ黒いヤツばっかだって事か」

 ソウタは溜め息を吐き、呆れ気味にそう呟くと、彼の姿がゆらりと陽炎の様に歪み、まさに神速と言って良い勢いで駆け出したっ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...