現実(こっち)でユーチューバー、異世界(あっち)で冒険者やってます

三國氏

文字の大きさ
9 / 30

四神祭に参加してみた 其の三

しおりを挟む
 ゴルフボールをただ遠くへ飛ばす、たったそれだけの競技だったが、1650ヤード飛んだともなると別格にド派手な光景だった。
 というかもはやボールなんて見えもしなかったので、1650ヤード飛んだというアポロンの言葉も派手さをより盛り上げてくれた。
 ちなみにメートルに直すと1500メートルである。

 俺が打った直後の沈黙からの大歓声、今回こそ素晴らしい動画の完成に至ったという確信。
 この俺が異世界YouTuberとして世界を震撼させる瞬間が目前に迫っているんだ。
 そんなことを考えただけで気持ちが落ち着かず、もう既に何十回目ともわからない腕の組み直しを試みていた。

 ───などと浮かれていた数分前の自分が懐かしい。

 今の俺は腕を組むことすら億劫で、四神祭代表者の陣地の長椅子にどっかり腰を下ろしている。
 もう少し元気があれば、燃え尽きたぜ真っ白にとか言ったであろう。
 だがまるで足元から大地へと全てのやる気が吸い取られるように、俺のやる気メーターは減少の一途を辿っている。
 ただただ億劫でカメラに向かって喋ることもなく、ぼんやりと地面の土を見つめていた。

「ケン!ケン!しっかりしろケン!」

 肩を強く揺さぶられ名を呼ばれているが、反応するのも揺れる首に力を込めるのもひどく面倒。
 それほどに今の俺はやる気が削げ落ちていた。
 しかし唐突に頭に衝撃が走る、なかつの平手打ちが頭部に直撃した感覚に類似、いや完全に一致していた。

「痛っ!」

「無視すんなよケン。別にダメとは言ってないだろ、おたがうまく編集すればギリいけるから」

「でも地味なんだろ?さっきのナイスショットは」

「タイガー顔負けというか、人間離れしたショットだったというか、ドラコンの世界記録保持者が裸足で逃げ出すレベルだったし。だから今回はこれで動画上げればいいだろ?前回のやつとかも合わせればわりといいのが出来上がると思うぞ」

「そう……だな。これで動画を上げよう。再生数だって十分稼げるよな。別に妥協するわけじゃないし」

 ゴルフボールを1500メートル飛ばしたスーパーショットだったが、俺は数分前になかつとおたからダメ出しを食らっている。
 なかつ曰く、出来るだけ真後ろから撮るようにしたけど、このカメラでゴルフボールを追いかけるのは性能的に無理がある。
 ドライバーコンテストという、実際に存在するゴルフボールを遠くに飛ばす競技の世界記録を三倍も上回るなんてあり得ない。
 ボールが異次元的に飛び過ぎてて、胡散臭い動画になりそう。

 おた曰く、他の選手が剣とか蹴りでゴルフボールを飛ばしたのに対し、普通にゴルフクラブで打った時点で目立てていない。
 試合に勝って勝負に負けてね?

 そう二人に言われた俺のテンションは、前回の飛竜討伐の動画がお蔵入りした時並みに下がっている。
 それに俺自身よく考えてみたが、異世界に来たのにゴルフなんてやってる場合じゃなくね?とは思った。
 やるなら魔法とか見たこともない生物を発見したりとかのほうがよかったのかもしれない。
 もちろん今更言ってもしょうがないわけで、今回はこの動画と前回の動画の失敗した点を、おたに上手く編集してもらって投稿するしかないだろう。

「……いいや、違う」

 失敗した。という言葉が自分の頭の中で何故か引っかかった。
 そもそも失敗という考え方、それ自体が大きな間違いだったのではないかと。

「違うって、何が?」

 なかつとおたにこの違和感の塊をぶつけてみよう。
 もしもそう簡単に絆されないこの二人が納得したのなら、俺の考え方が正しかったと証明されるだろう。

「YouTuber百箇条その一、常にポジティブであれ!」

 今咄嗟に思いついた百箇条なのでまだ一つしかないが、今後動画の内容に合わせて追加していくのも悪くかもしれない。そんなことを思えるほど心にゆとりが生まれていた。

「ケン氏がまた壊れた。もうダメだ新しいのに買い替えるしか」

「いや、今度から動画で言おうかと思ったが、ダメか?」

「せめて十箇条くらいにしとけば?どうせすぐ忘れてそうだし」

「んー、そうかもなぁ。っ、じゃなくて、まぁその話は置いといてだな。二人ともこの状況をもっとポジティブに考えてみようぜ。まず飛竜討伐の動画、多少グロはあったがド派手なアクションが撮れたと思えばいい。動物愛護団体とかもあるから直接の表現のところは音声だけにすればいいし。今回だってドラコン世界記録の三倍の記録だろ?胡散臭いと思えるほど凄かった、それでいいじゃん。異世界に来たんだし、現実味に欠ける胡散臭さがあるくらいでちょうどいい。すぐにみんな思い知る、ここはほんとに異世界なんだって。違うか?」

 言い切ってやったぜ、これで反論があるなら返してみろ。今の俺の気分はそんな感じである。

「ケンがいいなら、それでいいんじゃね」

「某は、はなからどっちでもいいスタンスなわけで、やれと言うなら編集やるお」

 押してダメなら押し倒せ、それくらいの勢いで言ってやったわけだが、二人の反応は拍子抜けするほど軽かった。

「えっ、いいの?」

「別に最初から反対なんて一度もしてないだろ。一応確認で聞いただけなのにお前が勝手に、そっかー、そうだよなー失敗したー!とか言い出したんだし。俺はさっさと動画を上げて、いい加減稼ぎを出せって言ってるだろ。いつまで俺達をタダ働きさせるつもりだよ」

 タダ働きに関しては反論の余地もない。
 総再生が一万いかないチャンネルは広告非表示に設定ができ広告収入が入らない、なんていうルールも正直あまり関係ない。
 そもそも数百万再生いかない時点で、広告収入で暮らせるYouTuber足り得ないからだ。
 仮に一再生で0.1円の単価だとして、YouTubeだけで食べていくなら月単位で数百万再生は欲しい。

 それで有名になりチャンネル登録者数が増え名が広まり、そのうちどこかの企業から我が社の商品を宣伝してくれなんて言われて、チャンネルで紹介してお金をもらう。
 そうしてようやく暮らしていける一人前のYouTuberになれるのだ。

 だが今は途方も無く長い道のりの途中。
 普通にやっていたらいつ届くかもわからぬ状況で手にした異世界という最強のツール。
 二人にお金は、まぁなんというか、たまにご飯を奢ることで勘弁してもらっているが、それもここまで。
 元の世界に帰ってこの動画を上げたら、俺達は一瞬で有名人。
 伝説に語り継がれる、異世界YouTuberへの道はもうあと半歩くらいまで来ているのだ。

「なかつの言いたいことはわかってる。よーーくわかってるともうんうん。でも今回と前回の動画を上げたら一瞬で大金持ちなんだ、もうしばらく給料は待っててくれな。そのためにも四神祭の映像ちょろっと撮って、そんで帰ったら早速編集作業といこうぜ。な!」

「某がな」

「頼むよおた」

 俺は機械関係全くダメなのでその辺の作業はほとんどおた頼みである。
 もちろん全部お任せではなく、あれこれ演出の注文をつけたり、最終確認もするようにしているが。

 そんな話をしてる間にも第二種目が始まった。
 とりあえずノリで参加したことと、ボルギュス以外は名前すらよく知らないことも相待って、子供の運動会に参加した時の自分の子供が出ていない競技を見ている親の気分を味わえた。

 なんとなくノリで応援と、何故か急に求められ出したアドバイスをなんとなくで受け答えしてみたり。
 そんな感じで四神祭に参加していたのだが、俺のいた東地区が大健闘を繰り返し、なんと最終的には見事に東地区の優勝が決定した。

 俺としてはまぁ、優勝した方が盛り上がるかなぁ。程度の喜びだったが、他のみんなのはしゃぎようは相当なものだったと今でも思う。
 東地区は十四年ぶりの優勝ということらしく、みんなで万歳を始めたり、俺のことを胴上げしてくれたり、酒樽をハンマーで割ったりと。
 野球の日本シリーズ優勝と議員が選挙で当選した騒ぎをごっちゃにしたような大騒ぎであった。

 ただでいいと言われせっかくなのでその後の打ち上げに参加し、しこたま異世界の謎の肉を腹に納め、そして元の世界に帰った頃にはすっかり夜中になっていた。

 眠さもピークとなり、転がるように布団の中へ潜り込み、その日俺は泥のように眠るのだった。

 翌日起きる、大きな変化の波など知らぬままに。。。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...