現実(こっち)でユーチューバー、異世界(あっち)で冒険者やってます

三國氏

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神様に直撃してみた

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 美しい表情が一転、いや正確にいえば美しい顔のままでありながら、確かに怒りが浮かんでいるという感じだろうか。
 ともかくだ、おそらく神様である隣の席の女性は、たいそうご立腹の様子である。
 もちろん心当たりなど皆無、むしろ聞きたいことが山ほどあるのに今まで会う機会を作らなかった彼女にこそ、俺が怒ってもいいんじゃないかとも思っている。

 そして、「どうも始めまして、あんたが俺達を|異世界(こっち)に呼んだ神様かい」という問いに対しての返答は、言葉ではなかった。

 口の中で煌めいた八重歯を見て瞬時に察した。噛まれる、と。
 カウンターに置いてあった左腕を引き、すかさず逆の右手で頭を抑えにいく、しかしそれを左手で容易く弾かれた。
 恐ろしく速い払いのけ、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。と言いたくなるところだがその余裕は俺にはなかった。

 座った状態で再度体を無理に捻り、引いた左腕を戻しながら頭の抑え込みを仕掛ける。
 だが今度はそれを頭を僅かに下げるのみで躱される。
 その時僅かに目に入った彼女の口の中には八重歯の煌きは消えていた。
 むしろ食いしばっていたように見えた、いや実際彼女は歯を食いしばっていたのだろう。
 位置の高い椅子の上に座っており、俺ですら足がギリギリ付いている状態。
 彼女の足は確かに浮いていた、しかしそれを微塵も感じさせない鋭い腰の回転と同時に、己の脇腹に肘が擦れるほど絞られた腕と、固く結ばれた拳。
 そこから繰り出されるは鋭い矢のような一撃。

「ゴブッっファっ」

 体を捻り正対していたことと、小柄な体で懐に潜り込まれたことによりもろに食らった鳩尾へのショートアッパー。
 腹に大砲でも食らったかのような激痛に両手で腹を抱えながら見上げると、そこには勝ち誇った表情の女が見下ろしていた。
 俺はそれだけで十分に察した。
 女神ではなく、単なる依頼人の女冒険者かなにかだろう、と。

「あ、あんた一体何もんだ?」

「私は全知全能の神ゼウスの娘、戦略を司る守護神が一柱女神アテナである」

 嘘だ、嘘に決まっている。
 女神が渾身のボディブローを躊躇わず撃ってくるはずがない。
 しかもどこかやんちゃな子供っぽい表情が見え隠れしているのまおかしい、数千年生きてるであろう神がそんな表情を取るはずがない。
 なんかこう、慈愛に満ちた聖母マリアの強化版みたいなものが女神だろうと俺は思っている。

「今の躊躇ないボディブローを撃つのが女神とは信じ難い。何か身分を証明するものでも無いのか?」

 俺の言葉に一番の動揺を示したのは何故かマスターだった。
 口を閉じたままブルブルと首を振り、何か俺に告げようとしてくる。
 もしこれが本物の神なら、無礼はやめてくれ。
 もし偽物なら、店で騒ぐなといったところに違いない。
 そんなマスターの必死の対応に気付くことはなく、しかし何故か自称アテナは口をポカンと開けた。
 まるで俺が何か馬鹿なことを言ったという風に。

「正気か少年。証拠を見せるまでもなく私は正真正銘神じゃないか。ほら、信じろ」

 全くの暴論だろう、証拠はないけど信じろとはこれいかにである。
 一般庶民であれば身分証を出すだろうが、この異世界にそんなものは無いのは百も承知。
 俺が言いたいのは神なんだから奇跡の一つでも見せて証明してみろということである。

「証明するものがないんですかぁ?それじゃあ神様と認めることはできません。何か奇跡の一つでも起こしてもらえませんかねぇ?」

 しかし女神はキョトンと首を傾げる。こいつは何が言いたいんだ、そう顔にはっきりと書いてある。
 この時俺は思った、あぁやっぱり神ではなかったのだろう。
 単なる美女、もしくは単なる美少女でしかなったのだと。

「奇跡は私が起こすものじゃない。お前達が起こすものだろ?」

「えーっと、神(笑い)さんじゃなく俺達が奇跡を起こすんですか?」

「そうだ。太古の昔から人が奇跡を起こすものと相場が決まっている。我々はただその手助けをしてやるだけだ。それにお前は既に一度奇跡を起こしているではないか」

「……もしかして飛竜討伐のことを言ってたりします?」

 あれは神の奇跡でも何でもない。
 あれはただ物理的に危険なほど強力な炭酸のコーラに、メントスを突っ込んだだけ。
 それを勝手に奇跡ということにして俺達を丸め込もうとしているのかもしれない。
 もしそうなら宗教勧誘してくる変なおばさんの売り込みに匹敵、もしくはそれ以上のこじつけに違いない。
 そう思った矢先、彼女はすぐさま首を横に振った。

「違うぞ。お前が起こした奇跡は四神祭の時、よもや忘れたわけではあるまいな」

「……四神祭」

「ケンが打ったボールの飛距離か」

 俺の代わりに答えたのは、自称神と会ってからずっと口を閉じていたなかつ。
 なかつに限ってこの女に見惚れてカメラを回す仕事を忘れることはないとわかっていたが、頭の回転も少しも緩めていなかったようだ。
 しかし気掛かりなことに、なかつの目付きは真剣そのもの。
 まるで神であると信じているかのような口ぶりである。
 普段のなかつなら鼻で笑いそうな話に対し、こんな真剣な顔付きなのは異様にすら感じられるのだ。

「そうだ、あれはこの少年の力だけではあるまい。筋力強化か何かまでは正確な能力の詳細は言えんが、あの力を与えたのは私で間違いない」

「それはどういう意味だ?能力の詳細を教えるつもりはない、そういう意味で捉えて構わないと?」

「いいや、ちょっと違う。私に教える気はあるが、お前達が私に教えてもらう気があるかどうか。そういうことだ」

 なかつと自称神の会話は続き、正直俺の理解の範疇はとっくに超えている状態。
 おたに至ってはさらなる困り顔を浮かべてるマスターに、サンドイッチやら食べ物をいくつか注文している。
 なかつが聞いているからいいや、そんなことを思ってるに違いない。

 そして一度思案に入ったなかつが再び口を開く。

「話して欲しいなら金か何かを寄越せ。という考えでいいのか?」

「いいや、少し違う。私が欲しいのは物ではない、お前達自身。そう、つまり体目当てだ」

「……いやん、えっち」

「そっ、ば、バカもん違うわ」

「……体……労働力……いや、戦力だな」

 なかつと自称神が話しているのを横目で見ながら、マスターは大人立たぬよう静かにコーヒーとサンドイッチをカウンターに置く。
 もちろん俺とおたの分である。
 元々砂糖やミルクを入れない俺からしても少し苦味と渋みの強いコーヒー。
 俺が一番好きなサンドイッチの具はタマゴ。
 しかし異世界にタマゴサンドの味の決め手であるマヨネーズは無いだろう、と思いきや。
 皿の上のタマゴサンドの具からは間違いなくマヨネーズの風味が漂っている。

「うん、美味い」

 欲を言えば真っ白なパン生地にマヨネーズ多めの具であれば俺の好みのどストライクなのだが、ライ麦っぽい生地に挟まれたタマゴサンドもなかなかのものだった。

「こっちのハムカツみたいなのもまいうー」

「確かにそっちも美味そうだ。そのうち異世界のグルメみたいな動画撮るのも悪くないな。文化によって食べ物は大きく変わりそうだし。ここならマンガ肉とかあるかもしれんな」

「ケン氏の意見に大賛成。ってか次の動画それでよくね?」

「いやぁ、それより先に色々聞きたいことあるしなぁ」

 というわけで、色々聞きたい相手である自称神の方へと視線を戻す。こういう時サンドイッチは実に便利だ、なんせ手で持つことで机に向かわなくても食べれる。
 この異世界でもサンドイッチを考えた人物もまた、サンドイッチ伯爵のようにトランプゲームをやりながら片手で食べられるサンドイッチを開発したのかもしれない。

「なるほど。大体の事情はわかった。それで、ケン。どこまで話を聞いてた?」

 そうこうしている間に、なかつはおおよその話を聞き出してくれていた。

「まぁ、序盤から大体聞いてなかったな」

「おい大丈夫なのか?この男がお前達のリーダーだろ?」

 俺の膨らんだ頬をつつきながらアテナは不満そうな顔でなかつに尋ねる。
 しかし物事には適材適所というものがあるのだ。
 腹の探り合いやらなにやらは、俺がやるよりなかつに任せておくのがチームワークというもの。

「大丈夫だ、ケンは昔からこんな感じだ。それでお前にもわかるようにかなり要約するとだな。色々あって神々が色んな派閥に分かれて争いを始めて、そこからまた色々あってこの世界のダンジョンを制覇した人間の所属するファミリアの神がいる派閥の勝利という条件になった。そんでこのアテナが主神のファミリアに加われという話らしい」

「なるほどなるほど。えー、つまり俺達にダンジョンに行って戦えということか?」

「そんな感じだ」

「俺達を異世界に呼んだのは?」

「この女だ」

 なかつのおかげで大体の内容は察した。
 四神祭で俺達の所属していた東側陣営のリーダーボルギュスに、冒険者というのはファミリアに所属する必要があると聞いてから考えていたことはあった。
 それは俺達でファミリアを立ち上げるというものだ。
 しかしそれにはいくつか必要なものがあった。
 学園モノの定番、新たな部活創設においても欠かせない部員集め。
 そして顧問の先生である。

 今回に限って言えば、顧問ではなく必要になるのは主神。
 その主神に全くあてがなかった俺達としては願ってもみない誘いではある。
 ……ただ一つの問題を除いて。

「それで、なかつはどう思う?……こいつは本物の神なのか?」
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