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ニコニコファミリアへようこそ
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「いらっしゃいませ、ニコニコファミリアへようこそ」
入り口を通って最初に見える光景は、人形のように整った綺麗な顔立ちをした2人の少女が小さく一礼する光景。
そして同時に言っていいほど2人の少女のピタリと合った言葉が室内に響く。
片方が若葉色の髪もう片方が薄紅色の髪であることを除けばほとんど同じ顔。
初対面の誰もが思う双子ちゃんかなという感想の通り、彼女達は双子である。
しかしこの双子というのが非常にマズイ。
生まれた瞬間に人生終了がほぼほぼ確定すると言っても過言ではないほど。
何故ならこの双子がエルフの出身だから。
人間に比べても遥かに双子の生まれてくることの少ないエルフにおいて、古くから双子というのは凶兆の証とされている。
産まれてすぐに村から追放されるのが掟であり、彼女達もその例外ではない。
しかも問題はそれだけでは終わらなかった。
それぞれ若葉色と薄紅色の髪の毛に隠れて見えないが、彼女達の耳は少し特徴がある。
人間の耳よりは長いがエルフより短いという特徴だ。
これが意味するところは彼女達は人間とエルフのハーフ、つまりはハーフエルフなのである。
厳しい戒律のあるエルフの世界において、人間と交わることは最もしてはならない掟の1つ。
当然エルフ界からは追放され、関わりを持つことすらきつく禁じられる。
この二つによりこの2人の少女、アミラとカミラの人生は波乱万丈なものであったわけだが、その話はまたいつかすることとしよう。
ニコニコファミリアと看板に書かれたギルドの扉を開け入って来る2人の男。
だらしなく伸びた無精髭を生やしながらもそれなりに鍛えられた肉体の男で名はロッチ。
背丈は普通肉付きも普通顔立ちもこの世界の基準からいえば普通の若い男で名はカムイ。
慣れた調子で受付の少女達に会釈を返すロッチに引き換え、カムイは室内をキョロキョロと見回している。
常に生死の掛かった戦場に身を置く冒険者に金を貸す。
ここに来る前幾度もロッチに確認しても尚、カムイは未だ半信半疑のままだった。
「本当にここで合ってるのか?」
(てっきり大金持ちが酔狂で貸しているのかと思っていたけど、ここは店?に近いような気がする。何はともあれ受け付けの子は凄く可愛いわけだが)
期待と同時にそれ以上の不安をカムイが再び口にすると、ロッチは当然と言わんばかりに大きく頷いた。
「合ってるとも。すまんねお嬢ちゃん、ここのギルド長はこの奥かな?俺の後ろにいるやつがギルド長に話があるんだ」
「少々お待ちを」
薄紅色の髪の少女アミラはそう言って扉の奥へと消える。
そして数分もしないうちに奥の扉が開き小さな手がひょこひょこと手招きし、ロッチとカムイは吸い込まれるように奥の部屋へと進んだ。
部屋に入ってカムイが最初に感じたのは身構えたくなるような威圧感。
ロッチは数度目なのでどうもどうもと媚び諂うように頭を下げているが、この男が最初にニコニーと対面した時は、曲がり角でばったりミノタウロスに遭遇したかのように声にならない悲鳴をあげている。
「中に入ったらどうだ?」
「は、はい」
(座っててもわかるすげぇでけぇ。しかもあの顔の傷間違いなくやばい人だ。ほんとに大丈夫だろうか?)
ニコニーにそう言われて初めて気付いたわけだが、カムイの足は部屋の前で止まっていた。
つまりは無意識のうちに気圧され足がすくんでいたということ。
こんな強面の人が新人冒険者のためにお金を貸してくれ優しい人なのだろうか、そんな疑問を抱きつつカムイは思い切って部屋の中へと足を踏み入れる。
部屋自体は全体的に片付いており、机の上に書類が少し山になっている程度。
それ以外に何か目に付くような物もなく、部屋自体はそこそこ広い。
大男が2人もいるせいで多少の圧迫感はあるが。
そんな中で最初に口を開いたのはロッチである。
「へへへ、どうも旦那。新しいお客さん連れて来ましたぜ」
「ご苦労だったな、これで5人目か」
「へい、5人目からは紹介料3万ヴィオーネでしたよね」
卑しく笑って差し出されたロッチの手にニコニーは小さな袋を投げて寄越す。
中身は銀貨が30枚入っており3万ヴィオーネである。
カムイがここに来る途中、「お前だから紹介するんだ」「いろんな冒険者を見てきたがお前は大成する」などとロッチに言われたものの。
紹介したのが5人目と聞きロッチに対する信頼は急激な下降線を辿ったのは言うまでもない。
ただ、お金を貸す冒険者を紹介したらさらにお金を渡すという行為を目にし、カムイの中で金銭欲がさらに高まっていく。
カムイは息を大きく吸ってゆーっくりと肺が空になるまで吐き出した。
「僕の名はカムイ、将来最高位のアダマンタイト級冒険者になる自信があります。そのために先ず武器を買うお金が欲しいです。先行投資だと思って貸しては頂けませんか?」
自分の覚悟がいかに強固なものかを示さんばかりにカムイは言い切った。
ガルシアは飲んでいたお茶を噴き出し、ロッチは目を丸くし、アミラは無表情のまま。
だが1人だけ明らかに違う反応を示したものがいる。ギルド長であるニコニーだけは満足げに手を叩き合格だと呟いたのだ。
ニコニコファミリアではニコニーの言うことが絶対、ニコニーが白と言えば黒でも白になる。
つまりニコニコファミリアはカムイに金を貸すということが決定した瞬間である。
「目標は高く設定するに越したことはない。カムイ君、君のように勇敢な若者が来てくれた今日という日に感謝したいくらいだ。それで、幾ら欲しい?」
先程までのガルシアとの会話が嘘のように、悪人と聖人君子の魂が混合していたかと思わせる態度の急変ぶり。
しかしカムイからしてみれば一世一代の宣誓を拍手で迎えられ気分は上々。
見た目が恐ろしかった分、そのギャップはより大きなものとなっていた。
「……ご、50万ヴィオーネ!」
「ほぅ、武器でも欲しいのか?例えばルドリックの工房とか。あそこなんかは掘り出し物も多いもんな」
「そ、そうなんですよ。パトリック・ルドリック武器を最近よく目にするんです」
「へぇ、次期工房長の筆頭候補様か。なかなか目の付けどころかいいじゃねぇか」
「ありがとうございます」
(凄い!ようやく会えた僕の理解者に。今まで出会ってきた人達とは意識レベルで合わなかった。結局高みに到達するのは自分みたいな人間なんだ、僕は間違ってなかったんだ)
初めて会ったばかりでここまで自分のことを理解してくれる人がいたという驚きの波状攻撃がカムイを襲う。
無理はしないでと心配の手紙ばかり寄越す田舎の母や、今までパーティーを組んだギルドに所属していないソロの冒険者達。
結局彼らとは意識レベルにおいて自分とは合わなかった。
遥か高みを目指す自分に周りが付いてこれない中で、初めて会えた理解者のような親近感をカムイは感じていた。
「いいだろう50万ヴィオーネ貸そう」
「ありがとうございます」
(やっぱり見る目がある人は違う。この人は本物だ)
そこでニコニーが机の引き出しから1枚の紙を取り出し机の上に置く。
「借用書だ。50万から手数料諸々引いて渡すのは35万。うちの金利は|10日3割(とさん)、つまり10日後に15万。いけるな」
「え、金利?」
「こっちも遊びじゃないんでな。普段は初回でこの額は貸さないが、将来性込みで貸してやる。まぁアダマンタイト級になるための1つの試練だと思ってくれ」
「……わ、わかりました。僕ならできますよね?」
「俺が保証する」
ニコニーの迷いの無い返事を聞いたカムイは書類にサインを書く。
そして35万ヴィオーネの入った革袋を大事そうに受け取ると、スキップでもしそうな勢いで直接ルドリックの工房へと足を運ぶのだった。
入り口を通って最初に見える光景は、人形のように整った綺麗な顔立ちをした2人の少女が小さく一礼する光景。
そして同時に言っていいほど2人の少女のピタリと合った言葉が室内に響く。
片方が若葉色の髪もう片方が薄紅色の髪であることを除けばほとんど同じ顔。
初対面の誰もが思う双子ちゃんかなという感想の通り、彼女達は双子である。
しかしこの双子というのが非常にマズイ。
生まれた瞬間に人生終了がほぼほぼ確定すると言っても過言ではないほど。
何故ならこの双子がエルフの出身だから。
人間に比べても遥かに双子の生まれてくることの少ないエルフにおいて、古くから双子というのは凶兆の証とされている。
産まれてすぐに村から追放されるのが掟であり、彼女達もその例外ではない。
しかも問題はそれだけでは終わらなかった。
それぞれ若葉色と薄紅色の髪の毛に隠れて見えないが、彼女達の耳は少し特徴がある。
人間の耳よりは長いがエルフより短いという特徴だ。
これが意味するところは彼女達は人間とエルフのハーフ、つまりはハーフエルフなのである。
厳しい戒律のあるエルフの世界において、人間と交わることは最もしてはならない掟の1つ。
当然エルフ界からは追放され、関わりを持つことすらきつく禁じられる。
この二つによりこの2人の少女、アミラとカミラの人生は波乱万丈なものであったわけだが、その話はまたいつかすることとしよう。
ニコニコファミリアと看板に書かれたギルドの扉を開け入って来る2人の男。
だらしなく伸びた無精髭を生やしながらもそれなりに鍛えられた肉体の男で名はロッチ。
背丈は普通肉付きも普通顔立ちもこの世界の基準からいえば普通の若い男で名はカムイ。
慣れた調子で受付の少女達に会釈を返すロッチに引き換え、カムイは室内をキョロキョロと見回している。
常に生死の掛かった戦場に身を置く冒険者に金を貸す。
ここに来る前幾度もロッチに確認しても尚、カムイは未だ半信半疑のままだった。
「本当にここで合ってるのか?」
(てっきり大金持ちが酔狂で貸しているのかと思っていたけど、ここは店?に近いような気がする。何はともあれ受け付けの子は凄く可愛いわけだが)
期待と同時にそれ以上の不安をカムイが再び口にすると、ロッチは当然と言わんばかりに大きく頷いた。
「合ってるとも。すまんねお嬢ちゃん、ここのギルド長はこの奥かな?俺の後ろにいるやつがギルド長に話があるんだ」
「少々お待ちを」
薄紅色の髪の少女アミラはそう言って扉の奥へと消える。
そして数分もしないうちに奥の扉が開き小さな手がひょこひょこと手招きし、ロッチとカムイは吸い込まれるように奥の部屋へと進んだ。
部屋に入ってカムイが最初に感じたのは身構えたくなるような威圧感。
ロッチは数度目なのでどうもどうもと媚び諂うように頭を下げているが、この男が最初にニコニーと対面した時は、曲がり角でばったりミノタウロスに遭遇したかのように声にならない悲鳴をあげている。
「中に入ったらどうだ?」
「は、はい」
(座っててもわかるすげぇでけぇ。しかもあの顔の傷間違いなくやばい人だ。ほんとに大丈夫だろうか?)
ニコニーにそう言われて初めて気付いたわけだが、カムイの足は部屋の前で止まっていた。
つまりは無意識のうちに気圧され足がすくんでいたということ。
こんな強面の人が新人冒険者のためにお金を貸してくれ優しい人なのだろうか、そんな疑問を抱きつつカムイは思い切って部屋の中へと足を踏み入れる。
部屋自体は全体的に片付いており、机の上に書類が少し山になっている程度。
それ以外に何か目に付くような物もなく、部屋自体はそこそこ広い。
大男が2人もいるせいで多少の圧迫感はあるが。
そんな中で最初に口を開いたのはロッチである。
「へへへ、どうも旦那。新しいお客さん連れて来ましたぜ」
「ご苦労だったな、これで5人目か」
「へい、5人目からは紹介料3万ヴィオーネでしたよね」
卑しく笑って差し出されたロッチの手にニコニーは小さな袋を投げて寄越す。
中身は銀貨が30枚入っており3万ヴィオーネである。
カムイがここに来る途中、「お前だから紹介するんだ」「いろんな冒険者を見てきたがお前は大成する」などとロッチに言われたものの。
紹介したのが5人目と聞きロッチに対する信頼は急激な下降線を辿ったのは言うまでもない。
ただ、お金を貸す冒険者を紹介したらさらにお金を渡すという行為を目にし、カムイの中で金銭欲がさらに高まっていく。
カムイは息を大きく吸ってゆーっくりと肺が空になるまで吐き出した。
「僕の名はカムイ、将来最高位のアダマンタイト級冒険者になる自信があります。そのために先ず武器を買うお金が欲しいです。先行投資だと思って貸しては頂けませんか?」
自分の覚悟がいかに強固なものかを示さんばかりにカムイは言い切った。
ガルシアは飲んでいたお茶を噴き出し、ロッチは目を丸くし、アミラは無表情のまま。
だが1人だけ明らかに違う反応を示したものがいる。ギルド長であるニコニーだけは満足げに手を叩き合格だと呟いたのだ。
ニコニコファミリアではニコニーの言うことが絶対、ニコニーが白と言えば黒でも白になる。
つまりニコニコファミリアはカムイに金を貸すということが決定した瞬間である。
「目標は高く設定するに越したことはない。カムイ君、君のように勇敢な若者が来てくれた今日という日に感謝したいくらいだ。それで、幾ら欲しい?」
先程までのガルシアとの会話が嘘のように、悪人と聖人君子の魂が混合していたかと思わせる態度の急変ぶり。
しかしカムイからしてみれば一世一代の宣誓を拍手で迎えられ気分は上々。
見た目が恐ろしかった分、そのギャップはより大きなものとなっていた。
「……ご、50万ヴィオーネ!」
「ほぅ、武器でも欲しいのか?例えばルドリックの工房とか。あそこなんかは掘り出し物も多いもんな」
「そ、そうなんですよ。パトリック・ルドリック武器を最近よく目にするんです」
「へぇ、次期工房長の筆頭候補様か。なかなか目の付けどころかいいじゃねぇか」
「ありがとうございます」
(凄い!ようやく会えた僕の理解者に。今まで出会ってきた人達とは意識レベルで合わなかった。結局高みに到達するのは自分みたいな人間なんだ、僕は間違ってなかったんだ)
初めて会ったばかりでここまで自分のことを理解してくれる人がいたという驚きの波状攻撃がカムイを襲う。
無理はしないでと心配の手紙ばかり寄越す田舎の母や、今までパーティーを組んだギルドに所属していないソロの冒険者達。
結局彼らとは意識レベルにおいて自分とは合わなかった。
遥か高みを目指す自分に周りが付いてこれない中で、初めて会えた理解者のような親近感をカムイは感じていた。
「いいだろう50万ヴィオーネ貸そう」
「ありがとうございます」
(やっぱり見る目がある人は違う。この人は本物だ)
そこでニコニーが机の引き出しから1枚の紙を取り出し机の上に置く。
「借用書だ。50万から手数料諸々引いて渡すのは35万。うちの金利は|10日3割(とさん)、つまり10日後に15万。いけるな」
「え、金利?」
「こっちも遊びじゃないんでな。普段は初回でこの額は貸さないが、将来性込みで貸してやる。まぁアダマンタイト級になるための1つの試練だと思ってくれ」
「……わ、わかりました。僕ならできますよね?」
「俺が保証する」
ニコニーの迷いの無い返事を聞いたカムイは書類にサインを書く。
そして35万ヴィオーネの入った革袋を大事そうに受け取ると、スキップでもしそうな勢いで直接ルドリックの工房へと足を運ぶのだった。
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