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決闘
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感じたのは強烈なまでの違和感。初めは単に会長に男を近づかせたくないだけと決めたが、目の前に立つ男から感じるのはそんな醜い感情ではないように思えてならない。
そんなことを考えている間にも、俺と沖田の間に立つ会長が口を開く。
「それじゃあ2人ともいいかしら。まずこれは私闘ではなく、生徒会立会いの元に行われる正式な模擬戦であると理解してください」
とはいえ、どちらにせよ戦わねばならないのだ、俺は会長の言葉に力強く頷き、考えることをやめる。
なにせ目の前に立つ男の放つ雰囲気は鋭さを増し、隙など一部も感じられない。そんな男と戦うのに今ある疑問など邪念以外のなにものでもなかろう。
「多田君は模擬戦も初めてだと思いますので、まずはルール説明をします。ルールは簡単、互いに15メートル離れた地点で待機、始めという合図と同時にアビリティの発動をすること。タレントについては合図の前に使用可能です。書記の聖奈さんが回復アビリティを使えますが、生死に関わるような攻撃は禁止、使用した際は直ちに敗北となります。勝利条件はどちらかの戦闘不能が確認された場合、もしくは参ったと言わせれば勝ちとなります。以上です、何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
特にわからないことはない、要は相手を倒せばいいというだけのこと。わからないことがあるとすれば、目の前にいるこいつをどうやれば倒せるかということだろう。
こうして向かい合えば嫌という程に実力差を感じる。実技試験の時にいた影の兵士なんかよりも明らかに数段やばいだろう。
それに相手の手の内もわからない、俺と同じ剣を使う近接タイプなのか、それとも魔法主体の中距離もしくは遠距離タイプなのか。これじゃあ対策の立てようもない。武器具現化で剣を出し、速攻で突っ込むだけじゃ100%勝てない。
必死に頭を捻っている間にも会長は少し離れたところへ位置取りを済ませてしまう。しかし合図が出るかという瞬間、沖田が口を開き間を取る。
「お前は剣を具現化して戦う近接タイプらしいね」
相手はこっちの手の内も知っているのらしい。いや少し考えてみれば当然か、会長もしくは、会長に試験の時のことをペラペラ喋ってくれた馬鹿野郎に聞けば一発だろう。状況はさらに不利、下手をしなくても俺の勝利は皆無かもしれない。
いや、まだ諦めるには早い。せめて相手の情報があれば……。
「そうだったらなんなんですか?」
「こちらだけ戦い方を知ってるというのも平等ではないからな。俺は純粋な魔法職、中距離から遠距離を得意としている。模擬戦では主に、氷系統の魔法を使う。他に聞きたいことはあるか?」
なんたるスポーマン精神だろうか、聞いてもないのにここまで教えてもらえるとは有り難い。ガセ情報という可能性はゼロではないにしてもまずないだろう。どちらにせよ今の発言を信じない限り勝ち目はない。
「じゃあタレントも教えて下さい」
せっかくのフェアプレー精神だ、それを尊重しなければ失礼というもの。これでようやく俺たちはフェアプレー精神で戦える。
そしてその質問に一拍の間を於いて口を開く。
「……いや、それに答える必要はない。俺はタレントを使わない。そっちは勿論タレントも自由に使ってくれていい」
傲慢とも油断とも取れる言葉ながら、何故かそれを微塵も感じない。むしろ力の差がより明確に現実を突き付けてくるような気さえしてくる。
とはいえ、こちらも元々タレントを使うつもりはない。目の前の相手のように敢えて使わないのではなく、俺のタレントは使うべきではない。そもそも模擬戦のルール上俺のタレントは使えないといってもいい代物なのだ。
「じゃあ、俺もタレント無しでいいっすよ。さぁ、始めましょうか」
しかし、使えないと馬鹿正直に言わず、敢えて挑発するように使わなくてもいいと答える。できれば少しでも冷静さを欠いて欲しいと、思うがその期待は軽く裏切られる。
「そうか。使いたくなったらいつでも使うといい。卑怯なんて野暮なことは言うつもりはないからな」
少しでも挑発に乗ってくれればやり易いものを、全く嫌になってくる。
俺たちの会話が済んだと判断し会長は右手を高らかに上げ、透き通るような澄んだ声を響かせる。
「それでは模擬戦を始めます。両者構え……始めっ」
「|武器具現化(ウェポンエンボディ)」「氷弾の射手」
生粋の魔法職相手に距離を取ってもいいように嬲られるだけ、俺は開始の合図と同時に一気に距離を詰める。
すれ違いざまに一撃、相手の懐まで入ればこちらの勝ち。
しかし沖田との距離半ばというのに、既に空中に無数の氷弾が並ぶ。十、二十、恐らくそれ以上の氷弾、急所を外しながらいったとしても振れるのは一回のみだろう。
眼前では沖田が準備を整えたようで、右手を振り下ろす。想像以上のスピードで展開され無傷では済まないことを悟るも、そこからさらに加速する。引くも地獄進むも地獄なら進んで地獄の門を切り倒すしかない。
左肩目掛け飛んでくる初弾に即座に体を捻るも、ナイフで切られたような痛みが走る。しかし致命傷ではない。さらに右肩、足を奪うために右太もも、左膝。それらを最小限の動きで直撃を避けつつ前進。これが本気の殺し合いであればとっくにやられているだろうが、生憎これは模擬戦。致命傷を与えぬよう攻撃する沖田は頭部や胴体を狙えない分、少しの動きで直撃は避けれる。
間合いは後3メートル、そこまで行けば刀身がギリギリ届く俺の間合い。
すると極限まで時間が圧縮されたかのように、時の流れが極端に遅くなる。
|所謂(いわゆる)ゾーンというやつだろう、そんな極限状態にあってふと脳裏に疑問符が浮かび上がる。なぜ奴はここまで平然としてられるのか?あと少しで俺の間合いに入ることがわからないわけでもなかろうに。
そして親切な沖田先輩はきっと素直な性格なのだろう、その疑問の答えをわざわざ教えてくださるようだ。
直後沖田の視線が俺の左側に向く。何かある、そう思い視線をずらせば一際大きな氷弾、なるほどこれが奥の手か。思わず口元がにやけたその瞬間右脇腹に激しい鈍痛が走る。
「ぐっ───」
一瞬わけもわからず吹き飛ばされ、何回も地面を転がる。15ポンドのボーリング玉で力任せにぶん殴られたようなこの衝撃。
つまりは目でフェイントをかけておいて本命の右からの強襲、対人戦まで手慣れているとはやってくれる。今にも意識を手放してしまいそうになるなか、なんとか現状を把握する。まぁ、把握できたところで万事休す、八方塞がりの四面楚歌。
ただお優しいことに沖田からの追撃はない、代わりにあったのは降伏勧告。
「勝負アリだ、負けを認めろ」
ここまで啖呵を切っておいて、一撃貰っただけで降伏しろ?冗談を言うには顔が大真面目過ぎる、まさか本気で言ってるのだろうか……。
それにだ、勿論認めたくはないが生徒会長達の話を聞くに、俺が野蛮で凶悪な新入生という噂があるのは事実らしい。それが入学初日に生徒会に喧嘩を売って、手も足も出ずに降参したなんて噂でもたてられたら死にたくなること必須。
ならばもう一度考えるしかない。幸い相手は人間、しかもご丁寧に俺が降伏してくれるまで待っていてくれるらしい。
短い時間の中でいくつも案を出し、即座に没送りにしていく。
「……全く……大したもんだよあんた」
心からの賞賛の言葉を贈ろう。打つ手がない程にこの人は強い。
「何か言ったか?降参か?」
打つ手が思い浮かばない現状、だが退けない退きたくない。これだけの強者相手と戦える機会を無駄にしたくはない。そう思えた。
「いや、まだだ」
全身至る所が痛いがアドレナリンのおかげか動けないほどではない。蹌踉めきながら立ち上がり、強がるように不敵な笑みを浮かべてみせる。
「さて……どうしたもんか」
がむしゃらに突っ込んでもさっきの二の舞、だが、ギリギリで意識を保っている今思い浮かぶ妙案などない。
であるならば、もう一度覚悟を決めよう。男の見栄など、この際もうどうでもいい。
「|武器具現化(ウェポンエンボディ)!折角だ、男の花道作ってやんよ」
残る魔力全てを使い、2メートル程の巨大な剣を左右に何本も並べ沖田までの道を作る。これで横からの強襲の心配をせず突撃できる。たったそれだけのことしか今はできない、正直上手くは行かないだろう。でもせめて、あの冷静さの塊のような男のヒヤリとする顔くらいは見せて貰おう。
「正気かっ??会長もう止めては───」
どうですか?と会長に問おうとするその瞬間、剣を盾代わりに再度突撃。
一瞬遅れていくつもの氷弾が嵐のように吹き荒れる。そこへただ真っ直ぐ突撃するしかできない自分の非力を笑い、一歩また一歩と踏みしめるように走る。
10m、8m、5m、そして2m。盾がわりの剣を振り上げればそこにあるのは、まさに見たかった沖田の焦る顔。しかしその表情はすぐ様切り替わり、代わりに不敵に笑う顔があった。たぶんさっき自分が浮かべていたのもこんな表情だろう。
「りゃあぁぁぁぁあ!!」「せいやあぁぁぁぁあ!!」
俺の振り下ろす剣を真っ向から迎え撃つべく、氷で作った剣をしたから振り上げる。走ってる勢いプラス上からの振り下ろし、条件的には俺の有利。
しかしレベル差という圧倒的ステータス差の前では、その有利など誤差にも入らず。強烈な腕の痺れとともに剣は吹き飛ばされ、振り上げから切り返した氷剣は俺の首ギリギリで寸止めされている。
いっそ清々しい程の完敗。もはや先程のいがみ合いの理由など忘れてしまうほどだ。
「……はぁ……はぁ……参りました。降参です」
いくつもの賞賛の言葉を思い付いたが、口に出す前に視界は急激にぼやけていく。そしてなんの抵抗も出来ぬまま、地面との距離が縮まる。今自分は倒れている真っ最中なのだろう、まるで他人事のようにそんなことを思いながら重力に身をまかせる。そして誰かの手でドサリと支えられた……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ぐっすりと眠った後の休日の朝のような目覚めだった。ただし目を開け出迎えたのは部屋の天井ではなく、ゴツゴツした岩の天井。そして聖母マリアのように慈愛に満ちた優しげな会長の顔だった。
「おはよう多田君。よく眠れたかしら?といっても5分程なのだけれども」
口元を抑えクスクスと笑う会長に見惚れつつ、後頭部の柔らかな感触にようやく気づく。
言わずもがなそれは膝枕、しかも会長自ら制服を土で汚してくれるそれ。これを素晴らしい目覚めと言わずなんと言うべきだろうか、いや、言わない。
「おはようございます会長。なんだかとても楽しい夢を見ていた気がします」
折角の行為なので会長の膝枕に気付かないフリをしつつ、横になったまま挨拶を返す。
おそらく大量にいるであろう会長のファンの人に見られれば、確実にタダでは済まないことだろう。
いや、ここには3人ほど会長ファンというか、俺に敵意を向けていた生徒会メンバーがいる。
そのことを思いだした俺は慌てて立ち上がり、視線を巡らせればすぐ横で4人の男女が立っている。生徒会メンバーと巻き込まれてしまった柳生だ。
「いいガッツだった。僕は君のことを随分と誤解していたようだ。これまでの非礼を詫びさせてくれ、すまなかった」
「あっ、いえこちらこそ先輩に随分と失礼なことを言いましたので」
俺の意識を失っている間に何があったのかはわからないが、身に覚えのない俺の悪名の誤解は解けていたようだ。
試合前は散々相手のことをボロクソに言っていた割に、試合直後まるで別人のように相手を褒め称えるボクサーを見て、大した茶番だなと思っていたが、その気持ちが少しわかったので今日ここで訂正しよう。そんなことを思いながら、沖田先輩から差し出された手を握り返す。
「それで多田君、起きたばかりで悪いんだけど少しいいかしら」
立ち上がり制服のスカートについた土埃を払い終える会長は、何やら嬉しげな表情を浮かべている。そして俺の心にはなんとも言えない不安が押し寄せている。
こういう表情をした時の女子は気をつけた方がいい。なにせ柑奈が輝かんばかりの笑顔で尋ねて来るときは大抵、俺と健悟の全く嬉しくないことを要求してきたという例がある。
不安を見せないよう恐る恐る会長に向き合う。
「……なんでしょうか」
「そんな緊張しなくてもいいのよ。もう一度あなたにお願いしたいことがあるの」
「お願い……ですか」
「えぇ。多田君、生徒会に入ってくれませんか?」
「いや、でもっ」
喧嘩していた理由なんてもう忘れてしまうほどにどうでもよかったが、他の生徒会メンバーが俺を歓迎するはずもないだろう。しかも俺は手も足も出せず完敗したばかりだ。
そう思い振り返ればコロリと態度を変えた生徒会メンバー。
「僕は賛成です。彼は非常に優秀な生徒です」
「私も賛成します。お見事な戦いでした」
「……私も賛成する」
いやはやどうしてこうなった?
俺が意識を失っている間にどんな魔法の言葉をかければ、こうも態度を変えられるのだろうか。
「敗者に選ぶ権利はないみたいですね……わかりました、生徒会に入ります」
「まぁ、嬉しいわ多田君。よろしくね」
勝負に負けたのだ、ここで我儘を言うのは男としてあまりにもみっともない。それに、沖田先輩との戦闘は実に心踊った。あの人から何か学べるのであれば、生徒会入りするのも悪くはないだろう。
会長の心中は全く読めないが、生徒会に入ること自体メリットは多い。将来のことを考えればいろんなところにコネクションを持つことも悪くはない。という言い訳をしておこう。
「はぁ、疲れた。早く帰って風呂入って寝たい」
「ふふふ、色々と手続きはありますけど明日にしましょうか。皆さんお疲れ様でした、帰りましょう」
回復魔法で体の痛みなどは嘘のように消えているが、精神的には疲労困憊。少しフラつきながら再びゲートを潜りダンジョンの外へと出る。
その後生徒会の方々に挨拶を済ませると真っ直ぐに寮の自室へと向かい、部屋に入るなりそのままベッドに倒れこんで目を閉じた。
「……全く、初日からえらい目にあったぜ」
そんなことを考えている間にも、俺と沖田の間に立つ会長が口を開く。
「それじゃあ2人ともいいかしら。まずこれは私闘ではなく、生徒会立会いの元に行われる正式な模擬戦であると理解してください」
とはいえ、どちらにせよ戦わねばならないのだ、俺は会長の言葉に力強く頷き、考えることをやめる。
なにせ目の前に立つ男の放つ雰囲気は鋭さを増し、隙など一部も感じられない。そんな男と戦うのに今ある疑問など邪念以外のなにものでもなかろう。
「多田君は模擬戦も初めてだと思いますので、まずはルール説明をします。ルールは簡単、互いに15メートル離れた地点で待機、始めという合図と同時にアビリティの発動をすること。タレントについては合図の前に使用可能です。書記の聖奈さんが回復アビリティを使えますが、生死に関わるような攻撃は禁止、使用した際は直ちに敗北となります。勝利条件はどちらかの戦闘不能が確認された場合、もしくは参ったと言わせれば勝ちとなります。以上です、何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
特にわからないことはない、要は相手を倒せばいいというだけのこと。わからないことがあるとすれば、目の前にいるこいつをどうやれば倒せるかということだろう。
こうして向かい合えば嫌という程に実力差を感じる。実技試験の時にいた影の兵士なんかよりも明らかに数段やばいだろう。
それに相手の手の内もわからない、俺と同じ剣を使う近接タイプなのか、それとも魔法主体の中距離もしくは遠距離タイプなのか。これじゃあ対策の立てようもない。武器具現化で剣を出し、速攻で突っ込むだけじゃ100%勝てない。
必死に頭を捻っている間にも会長は少し離れたところへ位置取りを済ませてしまう。しかし合図が出るかという瞬間、沖田が口を開き間を取る。
「お前は剣を具現化して戦う近接タイプらしいね」
相手はこっちの手の内も知っているのらしい。いや少し考えてみれば当然か、会長もしくは、会長に試験の時のことをペラペラ喋ってくれた馬鹿野郎に聞けば一発だろう。状況はさらに不利、下手をしなくても俺の勝利は皆無かもしれない。
いや、まだ諦めるには早い。せめて相手の情報があれば……。
「そうだったらなんなんですか?」
「こちらだけ戦い方を知ってるというのも平等ではないからな。俺は純粋な魔法職、中距離から遠距離を得意としている。模擬戦では主に、氷系統の魔法を使う。他に聞きたいことはあるか?」
なんたるスポーマン精神だろうか、聞いてもないのにここまで教えてもらえるとは有り難い。ガセ情報という可能性はゼロではないにしてもまずないだろう。どちらにせよ今の発言を信じない限り勝ち目はない。
「じゃあタレントも教えて下さい」
せっかくのフェアプレー精神だ、それを尊重しなければ失礼というもの。これでようやく俺たちはフェアプレー精神で戦える。
そしてその質問に一拍の間を於いて口を開く。
「……いや、それに答える必要はない。俺はタレントを使わない。そっちは勿論タレントも自由に使ってくれていい」
傲慢とも油断とも取れる言葉ながら、何故かそれを微塵も感じない。むしろ力の差がより明確に現実を突き付けてくるような気さえしてくる。
とはいえ、こちらも元々タレントを使うつもりはない。目の前の相手のように敢えて使わないのではなく、俺のタレントは使うべきではない。そもそも模擬戦のルール上俺のタレントは使えないといってもいい代物なのだ。
「じゃあ、俺もタレント無しでいいっすよ。さぁ、始めましょうか」
しかし、使えないと馬鹿正直に言わず、敢えて挑発するように使わなくてもいいと答える。できれば少しでも冷静さを欠いて欲しいと、思うがその期待は軽く裏切られる。
「そうか。使いたくなったらいつでも使うといい。卑怯なんて野暮なことは言うつもりはないからな」
少しでも挑発に乗ってくれればやり易いものを、全く嫌になってくる。
俺たちの会話が済んだと判断し会長は右手を高らかに上げ、透き通るような澄んだ声を響かせる。
「それでは模擬戦を始めます。両者構え……始めっ」
「|武器具現化(ウェポンエンボディ)」「氷弾の射手」
生粋の魔法職相手に距離を取ってもいいように嬲られるだけ、俺は開始の合図と同時に一気に距離を詰める。
すれ違いざまに一撃、相手の懐まで入ればこちらの勝ち。
しかし沖田との距離半ばというのに、既に空中に無数の氷弾が並ぶ。十、二十、恐らくそれ以上の氷弾、急所を外しながらいったとしても振れるのは一回のみだろう。
眼前では沖田が準備を整えたようで、右手を振り下ろす。想像以上のスピードで展開され無傷では済まないことを悟るも、そこからさらに加速する。引くも地獄進むも地獄なら進んで地獄の門を切り倒すしかない。
左肩目掛け飛んでくる初弾に即座に体を捻るも、ナイフで切られたような痛みが走る。しかし致命傷ではない。さらに右肩、足を奪うために右太もも、左膝。それらを最小限の動きで直撃を避けつつ前進。これが本気の殺し合いであればとっくにやられているだろうが、生憎これは模擬戦。致命傷を与えぬよう攻撃する沖田は頭部や胴体を狙えない分、少しの動きで直撃は避けれる。
間合いは後3メートル、そこまで行けば刀身がギリギリ届く俺の間合い。
すると極限まで時間が圧縮されたかのように、時の流れが極端に遅くなる。
|所謂(いわゆる)ゾーンというやつだろう、そんな極限状態にあってふと脳裏に疑問符が浮かび上がる。なぜ奴はここまで平然としてられるのか?あと少しで俺の間合いに入ることがわからないわけでもなかろうに。
そして親切な沖田先輩はきっと素直な性格なのだろう、その疑問の答えをわざわざ教えてくださるようだ。
直後沖田の視線が俺の左側に向く。何かある、そう思い視線をずらせば一際大きな氷弾、なるほどこれが奥の手か。思わず口元がにやけたその瞬間右脇腹に激しい鈍痛が走る。
「ぐっ───」
一瞬わけもわからず吹き飛ばされ、何回も地面を転がる。15ポンドのボーリング玉で力任せにぶん殴られたようなこの衝撃。
つまりは目でフェイントをかけておいて本命の右からの強襲、対人戦まで手慣れているとはやってくれる。今にも意識を手放してしまいそうになるなか、なんとか現状を把握する。まぁ、把握できたところで万事休す、八方塞がりの四面楚歌。
ただお優しいことに沖田からの追撃はない、代わりにあったのは降伏勧告。
「勝負アリだ、負けを認めろ」
ここまで啖呵を切っておいて、一撃貰っただけで降伏しろ?冗談を言うには顔が大真面目過ぎる、まさか本気で言ってるのだろうか……。
それにだ、勿論認めたくはないが生徒会長達の話を聞くに、俺が野蛮で凶悪な新入生という噂があるのは事実らしい。それが入学初日に生徒会に喧嘩を売って、手も足も出ずに降参したなんて噂でもたてられたら死にたくなること必須。
ならばもう一度考えるしかない。幸い相手は人間、しかもご丁寧に俺が降伏してくれるまで待っていてくれるらしい。
短い時間の中でいくつも案を出し、即座に没送りにしていく。
「……全く……大したもんだよあんた」
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「何か言ったか?降参か?」
打つ手が思い浮かばない現状、だが退けない退きたくない。これだけの強者相手と戦える機会を無駄にしたくはない。そう思えた。
「いや、まだだ」
全身至る所が痛いがアドレナリンのおかげか動けないほどではない。蹌踉めきながら立ち上がり、強がるように不敵な笑みを浮かべてみせる。
「さて……どうしたもんか」
がむしゃらに突っ込んでもさっきの二の舞、だが、ギリギリで意識を保っている今思い浮かぶ妙案などない。
であるならば、もう一度覚悟を決めよう。男の見栄など、この際もうどうでもいい。
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「正気かっ??会長もう止めては───」
どうですか?と会長に問おうとするその瞬間、剣を盾代わりに再度突撃。
一瞬遅れていくつもの氷弾が嵐のように吹き荒れる。そこへただ真っ直ぐ突撃するしかできない自分の非力を笑い、一歩また一歩と踏みしめるように走る。
10m、8m、5m、そして2m。盾がわりの剣を振り上げればそこにあるのは、まさに見たかった沖田の焦る顔。しかしその表情はすぐ様切り替わり、代わりに不敵に笑う顔があった。たぶんさっき自分が浮かべていたのもこんな表情だろう。
「りゃあぁぁぁぁあ!!」「せいやあぁぁぁぁあ!!」
俺の振り下ろす剣を真っ向から迎え撃つべく、氷で作った剣をしたから振り上げる。走ってる勢いプラス上からの振り下ろし、条件的には俺の有利。
しかしレベル差という圧倒的ステータス差の前では、その有利など誤差にも入らず。強烈な腕の痺れとともに剣は吹き飛ばされ、振り上げから切り返した氷剣は俺の首ギリギリで寸止めされている。
いっそ清々しい程の完敗。もはや先程のいがみ合いの理由など忘れてしまうほどだ。
「……はぁ……はぁ……参りました。降参です」
いくつもの賞賛の言葉を思い付いたが、口に出す前に視界は急激にぼやけていく。そしてなんの抵抗も出来ぬまま、地面との距離が縮まる。今自分は倒れている真っ最中なのだろう、まるで他人事のようにそんなことを思いながら重力に身をまかせる。そして誰かの手でドサリと支えられた……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ぐっすりと眠った後の休日の朝のような目覚めだった。ただし目を開け出迎えたのは部屋の天井ではなく、ゴツゴツした岩の天井。そして聖母マリアのように慈愛に満ちた優しげな会長の顔だった。
「おはよう多田君。よく眠れたかしら?といっても5分程なのだけれども」
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言わずもがなそれは膝枕、しかも会長自ら制服を土で汚してくれるそれ。これを素晴らしい目覚めと言わずなんと言うべきだろうか、いや、言わない。
「おはようございます会長。なんだかとても楽しい夢を見ていた気がします」
折角の行為なので会長の膝枕に気付かないフリをしつつ、横になったまま挨拶を返す。
おそらく大量にいるであろう会長のファンの人に見られれば、確実にタダでは済まないことだろう。
いや、ここには3人ほど会長ファンというか、俺に敵意を向けていた生徒会メンバーがいる。
そのことを思いだした俺は慌てて立ち上がり、視線を巡らせればすぐ横で4人の男女が立っている。生徒会メンバーと巻き込まれてしまった柳生だ。
「いいガッツだった。僕は君のことを随分と誤解していたようだ。これまでの非礼を詫びさせてくれ、すまなかった」
「あっ、いえこちらこそ先輩に随分と失礼なことを言いましたので」
俺の意識を失っている間に何があったのかはわからないが、身に覚えのない俺の悪名の誤解は解けていたようだ。
試合前は散々相手のことをボロクソに言っていた割に、試合直後まるで別人のように相手を褒め称えるボクサーを見て、大した茶番だなと思っていたが、その気持ちが少しわかったので今日ここで訂正しよう。そんなことを思いながら、沖田先輩から差し出された手を握り返す。
「それで多田君、起きたばかりで悪いんだけど少しいいかしら」
立ち上がり制服のスカートについた土埃を払い終える会長は、何やら嬉しげな表情を浮かべている。そして俺の心にはなんとも言えない不安が押し寄せている。
こういう表情をした時の女子は気をつけた方がいい。なにせ柑奈が輝かんばかりの笑顔で尋ねて来るときは大抵、俺と健悟の全く嬉しくないことを要求してきたという例がある。
不安を見せないよう恐る恐る会長に向き合う。
「……なんでしょうか」
「そんな緊張しなくてもいいのよ。もう一度あなたにお願いしたいことがあるの」
「お願い……ですか」
「えぇ。多田君、生徒会に入ってくれませんか?」
「いや、でもっ」
喧嘩していた理由なんてもう忘れてしまうほどにどうでもよかったが、他の生徒会メンバーが俺を歓迎するはずもないだろう。しかも俺は手も足も出せず完敗したばかりだ。
そう思い振り返ればコロリと態度を変えた生徒会メンバー。
「僕は賛成です。彼は非常に優秀な生徒です」
「私も賛成します。お見事な戦いでした」
「……私も賛成する」
いやはやどうしてこうなった?
俺が意識を失っている間にどんな魔法の言葉をかければ、こうも態度を変えられるのだろうか。
「敗者に選ぶ権利はないみたいですね……わかりました、生徒会に入ります」
「まぁ、嬉しいわ多田君。よろしくね」
勝負に負けたのだ、ここで我儘を言うのは男としてあまりにもみっともない。それに、沖田先輩との戦闘は実に心踊った。あの人から何か学べるのであれば、生徒会入りするのも悪くはないだろう。
会長の心中は全く読めないが、生徒会に入ること自体メリットは多い。将来のことを考えればいろんなところにコネクションを持つことも悪くはない。という言い訳をしておこう。
「はぁ、疲れた。早く帰って風呂入って寝たい」
「ふふふ、色々と手続きはありますけど明日にしましょうか。皆さんお疲れ様でした、帰りましょう」
回復魔法で体の痛みなどは嘘のように消えているが、精神的には疲労困憊。少しフラつきながら再びゲートを潜りダンジョンの外へと出る。
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ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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