終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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鬼嶋幽々子の悩み

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 2037年4月10日金曜日、午後の授業も全て終わり校舎からほとんどの生徒がいなくなった頃。
 1人の女教師がある悩みを抱え学園長室へと足を運んでいた。
 その悩みとは教師であれば一度は考えるであろうよくある悩み。
 自身の教育方針について、これで本当に正しいのだろうか?そんな漠然としたありがちな悩みであった。

 そんな悩みを持った迷える教師の名は|鬼嶋幽々子(きじまゆゆこ)。
 元々ここの学園長、|赤土朱夏(あかどしゅか)とは攻略者時代からの知り合いで、この学園に赴任してから何度も呼ばれたり相談しに学園長室に足を運んでいる。

 幽々子はいつものように扉を軽く二回ノックし返事を待たずに扉を開ける。
 元来、朱夏が面倒くさがりであることをよく知っている幽々子は、いつも返事を待たずに入室しているし、朱夏もそれを許可している。
 それにわざわざ返事を待ったり名乗ったりせずとも、朱夏は誰が来たか扉の前に立たれただけでわかるから構わないと常々言っている。

「学園長、相談があるんですがお時間大丈夫ですか?」

「そろそろ来る頃だと思っていたよ幽々子。あと、2人だけの時は朱夏でいい。むしろ他の奴がいても朱夏と呼べと言っているだろ」

 学園長室に入って真正面にある学園長の席に座り、軽く手を挙げ朱夏は幽々子を招き入れる。
 朱夏はいつものように学園長の席名前にある対で置かれたソファーの片方に腰を下ろす。

「それで今日はどうした?先に言っとくが、昨日みたいに私に勉強の教え方を聞かれても答えられんぞ。なんせ私はお飾り学園長だからな」

「朱夏さん、それ胸を張って答えるようなことじゃありませんから。それで相談なんですけど……えっと、そのぉ」

「どうした、はっきり言わないなんてお前らしくもない。私とお前の仲だろ、答えられるかは知らんが言うだけ言ってみろ」

 幽々子の言いにくそうにしている態度を不思議に思った朱夏は、幽々子の目を真っ直ぐに見つめる。

「そう……ですね。では、聞くだけ聞いてみます。生徒の指導方針のことで───」

 ご相談があります。と幽々子が言おうとする言葉を遮り、朱夏が口を開く。

「すまん、私には指導方針なんてわからん。自分のやりたいようにやってくれ」

「ちょっと朱夏さん、最後まで聞いてくださいって」

「指導方針なんて私に聞いてわかるわけないだろ、そもそも生徒に何か教えたことなんて無いからな。この学園の先代学園長に頼まれたから、前線から退いてこの席に座ってるだけなのはお前も知ってるだろ」

「それは知ってますけど、この学園に何年もいるなら指導方針についてくらいは理解してるんでしょ」

 朱夏ぎこの学園に来たのは五年前、対して幽々子は今年が一年目。しかも教師歴はたったの五日間。
 他の教師達の指導方針なども理解しているだろうとここにやって来た幽々子だが、朱夏はよく知らんと首を横に振る。

「基本的に教師に丸投げ状態だからな。特にダンジョン関係の授業を教えるのは元攻略者達だろ。私がいつも言ってるのは、とにかく死なずに生還できる強い攻略者を育てろ。それのみだ」

「強い攻略者ですか……。なるほどなるほど」

 今日も適当に話題を逸らし、2人で一杯やろうとしたい朱夏だが、感心したように頷く幽々子を見て気を良くし口を開く。

「そうだ。時代は今強い攻略者を求めている。どんな苦境でも心が折れず、どんな強敵であろうと必ず倒し生還できる攻略者を育てるのだ。そのためだったら多少スパルタに教えようが文句は出まい」

「……スパルタでも構わない。そうか……どんなにスパルタにしてもいいんだ」

「あぁ、構わないとも。それに自分が攻略者になった頃を思い出してみろ。まだダンジョン学園なんてものがなかった10年前、国で行われた攻略者としての適性試験で半強制的に攻略者にさせられ。それでお前はどうした?死に物狂いでダンジョン攻略を進めたんだろ?だから今のお前がある、違うか?」

 ゲートが現れてから何年かの間、国で行われていたのは簡単に言えば攻略者の大量生産。
 もちろん選択の権利を奪ってまで攻略者にさせることまでしなかったが、優秀な力を持つものが戦わないのは罪だという風潮は確かにあった。

 今ではその時の名残である、満10歳になったらダンジョンに入り、どんな固有のアビリティやタレントを持っているのか調べ国に登録する。というものだけが残っているが、少し前まではそのデータを元にして、かなり強引な勧誘が行われていたことがある。

 黒い封筒に入っていたということで黒紙、黒の勧誘、地獄からの便り、などと呼ばれたダンジョン攻略者になるよう送られてきた手紙もその一例だ。
 もちろん断ることでペナルティーが発生することは無かったが、それで多くの攻略者が生まれたことは事実でもある。

 幽々子もそんな昔のことを思い出し、真司達1-Aの生徒達にとっては幸か不幸か、幽々子の迷いは吹っ切れた。

「朱夏さん、私決めました。私頑張りますから!それじゃあ明日の準備で色々やることあるのでこの辺で」

 それはもう屈託のない笑顔で立ち上がった幽々子を、朱夏は晩酌をできなかったことを少し残念に思いながその背を見送った。
 扉が閉まり1人残された学園長室で、朱夏はくるりと椅子の向きを変えると、薄っすらと浮かび始めた星空を見つめて呟く。

「あぁ、すまん1-A諸君。つい適当なことを言ったせいで幽々子の変なスイッチを押してしまったかもしれん。……スパルタでもいいと言ったが、あいつの場合は間違いなくやり過ぎるだろうな」

 そう言って立ち上がると、部屋の隅に隠してあった赤ワインを取り出しグラスに注ぐ。
 朱夏の大好きな赤ワインが注がれるグラスを満たしていきながら、ふと不安そうな声音で朱夏は再び口を開く。

「……もしかしてこれで生徒の数が半分とかになったら、私のせいになるのか?」
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