終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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9番目のゲート その2

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 大通りの中央を俺達は一つの塊となり疾走している。
 普段であれば激しい交通量で道のど真ん中を走ろうものなら、クラクションの大演奏会が始まること間違いないが、今はクラクション一つ鳴ることはない。

 パニックで起きた連鎖的な玉突き事故により車が動かなくなり車を捨て逃げ出した人、車の中で身を縮ませ必死に隠れていた人。
 そのどれもがほとんどモンスターの餌食になったのだろう。
 あちこちの車から上がる火の手と地面を真っ赤に染める血を見ればそれは明らかだった。

「……これ以上はさせない。つい来いモンスター共」

 ある者は車から脱出した形跡のある、ほとんど潰れたボンネットから煙を発する車を金属バットで殴りつけ。
 またある者は金属バットを地面につけ走り音を鳴らし、声をあげモンスターの注意を集める。

 その音に集まり飛びついてくるゴブリンを走ったまま払うようにいなし、スピードを緩めることなくゲートの手前まで差し迫る。
 もう本当の本当に後には引けないところまで来てしまった。
 覚悟したとはいえ、後悔してないといえば嘘になる。
 実はほんの少しこの突撃に後悔している自分がいるが、それはみんなには黙っておくべきだろう。

 縦15m横10mほどの赤く巨大な柱で枠組みされたゲートはまるで神社の鳥居。
 しかし潜った先は下へ下へと続くダンジョンだ。
 精々戻らぬ片道切符でないことを祈ろう。

 先頭を走る東と慶瞬の姿が消え、その後ろに続く杏花達もゲートを潜り消える。
 そして最後尾を走る俺がゲートを通過すると、そこに広がるのは木、木、そして木。
 現実世界であれば樹齢100年とかを超えそうな、人の胴体の何倍も太く逞しい幹の木。
 見渡す限り木しか見えないおそらく森の奥深くが、この新たなダンジョンのスタート地点ということになる。
 周囲を見回し近場の敵を目視で探していると、東が物凄い勢いで詰め寄ってくる。

「はぁはぁ、全部連れて来られたのか?」

 先頭をひた走り、後ろを見る余裕のなかった東が最後尾で殿を務めていた俺に聞くのは当然のことだろう。

「いいや……精々半分。いや、もっと少ないかもしれない」

 恐らく数百以上現実で暴れているモンスターの内、通りで人を襲っていた約100体の半分程度はついてきたように見えた。
 つまり俺達が駆け抜けてきた道にで50体以上のモンスターが、未だ人々を襲っているということ。

「……そうか」

 それ以上口を開かない東の心の内なんて俺にはわからない。
 もう一度ゲートを通過して、現実で暴れているモンスターをもう一回連れてこよう。
 東ならそんなことを言いかねないとさえ思ったが、東はそんな無謀を口にはしなかった。
 東は確かにバカなことをいつも言ってるが、愚かではないということだろう。

 多少民間人の被害が減らせた。
 それ以上の成果を求めるには命という対価を引き換えにしなければならなくなる。
 それも1人ではなくここにいる数人のを。
 だから今はこれで満足しよう。
 これが今できる精一杯だった、これ以上求めるのは愚かであり傲慢だ。
 そう自分に言い聞かせ、自分を騙し納得するしかなかった。

(とにかく切り替えよう、このままじゃ戦闘の足を引っ張る)

「まずはゲートを死守する。森から来るモンスターと、俺たちに連れられてゲートから戻って来る両方に気を配れ」

「「「了解」」」

 間髪入れず返ってくる7人の返事。
 それが意味するところは戦闘に差し障るほど、現実で人が襲われ殺されたことを引きずってはいないという事実だろう。
 というか状況がそれを許してくれない。

「ゲートの前で円形に構えよう。中はヒーラーの3人、外を他で守ろう」

 アビリティを発動し攻撃用の魔法を展開していく慶瞬や蘭丸に続き、俺もアビリティで武器を具現化する。
 俺たちを追ってきたモンスター以外にも、森の中からモンスターがかなりの数集まり出している。

「ふぅ……ちょっちまずいな。音符がいりゃ楽だったんだが」

「何がまずいんだよ真司?」

 全くわかっていない様子の東がいつものように質問してきた。
 今度からは少しくらいは自分で考えてから質問するようにお小言を言っておこう。

「まず視界が悪くて敵を見つけるのが難しい。あと、さっき呼んだ助っ人の事も考えるとちょっとな」

 幸いゲートのすぐ近くは多少は拓けた空間になっており、散開して戦うスペースは確保できた。
 この太い木でも体の全てを隠しきれないであろうオークはともかく、ゴブリンがどこからくるのかは直前にならないとわからない可能性がある。
 しかもゴブリンの肌の色は泥などで汚れた深緑、それはまるで自衛隊などが使うような迷彩色の役割を果たし、発見が一瞬遅れる可能性が出てくる。

「なるほどな、それであの鼻歌チビの名前を出したわけだ。だが心配いらねぇ、木の間に隠れようが、結局は手の届くとこまで向こうからやって来る。それをこうしてこうすりゃいい」

 器用にも東は喋りながら飛びかかってきたゴブリンの首を手のひらで受け止め、近くにいたゴブリンに投げつける。
 もちろんドンピシャで命中し、近くにいた他の2体と吹き飛ぶ。
 そして間髪入れず転がるゴブリンに一筋の雷鳴。

「ちょっと雑だよまとめるの」

「悪りぃ悪りぃ」

 そう言って電撃を浴びせた本人である慶瞬が軽口を叩く。
 少し呆れ混じりだが本気で文句を言っているようではないので大丈夫だろう。
 それに慶瞬の腕前ならまとめなくてもどうにかするに違いない。

(こういう時は遠距離攻撃できるやつが羨ましいな)

 そんなことを思いつつも剣を横に振り、ゴブリンをまとめて2体薙ぎ払い、さらに剣先を切り返し上段からの振り下ろしで一体倒す。
 剣の素人ながらこんなことができるのはダンジョン内のため上がっている身体能力と、アビリティで作り出した剣の切れ味が成せる技だろう。
 勿論剣道くらいはせめて習っておけばよかったなと思うことがないわけではない。

 隣の柳生を見ているとそんな気持ちが更に強くなる。
 空間そのものまで切り裂くかのような鋭い居合斬り、その細腕では考えられないような凄まじい威力の兜割り。
 柳生がオークまでもを全て一刀のもとに制圧していく姿を見れば誰だってそう思うに違いない。
 ただ一つ残念なことがあるとすれば、柳生が使う得物は間違いなく刀のはずなのに、今使っているのが金属バットということだけ。
 雷や炎で戦う慶瞬や、武器を具現化して戦える俺とは違い、武器を持ち込んでいない柳生は金属バットしか使えない。

「残念だな。できれば刀を振ってるところが見たかった」

 横目で柳生を見つつそう呟いたところで、ふと柳生がこちらを向き視線がぶつかり、そして柳生の視線は下がり俺の持っている剣へと向く。
 羨ましい。その表情を一言で言えばそれが一番近いだろうか?
 しかし柳生はすぐ視線を外し目の前のゴブリンをたたき伏せる。

「真司君前っ!」

 そんな疑問も後ろから聞こえた杏花の声で消え去る。
 なんせ慌てて前を向くと、そこには醜い顔を歪め獰猛な笑みを浮かべるゴブリンがすぐ目の前にいたからだ。
 だがしかし俺は慌てることなく首を狙い横に一閃、ゴブリンの首を綺麗な切り口で切り落とす。

「どうした真司?あのポニーテールが気になって戦えねぇってか」

 確かに柳生の艶のあるサラサラとした長い黒髪が、後頭部で結われたポニーテールはお見事の一言に尽きる。
 一閃毎に揺れるその黒髪はまさに青毛の漆黒馬の尾の如き凛々しさを放ち、今日から俺はポニーテール好きだと宣言しても構わないと思えるほどではあった。
 ただそれはそれとして、そんなことで俺は戦闘中余所見をするバカではない。

「そうじゃない、柳生の本気を見たいと思っただけだ」

「確かにあれじゃ実力の半分どころか1割くらいしか出せないな。……あっ!いいこと思いついたぞ!無いんだったらお前がアビリティで武器出してやりゃいいじゃん」

「いやいや、俺が武器出してどうすん……出して……渡せばいいのか」

 今まで一度もやったことはないが、別に俺が出した武器を他の人間が使ったとしても問題はない。
 なぜそんなことに気付かなかったのかと叫びたくなる気持ちを喉元に押さえ込み、アビリティを発動する。
 出すのは勿論柳生用の刀。

 プレゼントは相手のことを思い浮かべて選べなんて言うが、この刀もそうしたほうがいいだろうか?
 最初に思い浮かべたのは鞘も刀剣も真っ白な日本刀。
 しかし真っ白な刀剣がモンスターの返り血を浴び、真っ赤に染まるのは忍びない気がする。

 仕方ない、もう一度最初から考えてみよう。
 俺のアビリティで最も大事なのは武器のイメージ。
 より精密に繊細にイメージすることでより精強な武器を具現化できるのだ。

 まず柳生の戦いを見て思ったのは、洗練された動きの中に感じたほんの少しの違和感。
 耳を澄ましても聞こえるかわからないような足運びに、金属バットでなければ音すら出さないであろう滑らかな一振り。
 一見僅かな波紋すらない静寂を纏った湖のような柳生の動作だが、心中でひしめき合う負の感情を荒々しくぶつけているような。
 暴雨で推移を増し荒々しくうねる川の濁流のような感情を、必死に自制しているかのようなそんな違和感。

「……よしっ、これだ。|武器具現化(ウェポンエンボディ)、|荒武者(あらむしゃ)」

 アビリティによって剣が形作られ、左手にズシリと重みが加わる。
 全長110cm、刃渡り90cm程の長刀。
 見るものによっては荒れ狂う波のようにも、激しく燃え盛る炎ようにも見えるであろう波紋を刻んである。
 刀の名は荒武者、柳生をイメージして作ったとは言え、本人に言うのは少し気が引けるネーミング。

「んー、かなりの業物に見えるけど……ちょっと柳生さんには長すぎるかもね」

 その剣を見た慶瞬からの一言。
 確かにその通りだ、長刀が似合いそうとか勝手にイメージして作ったせいだろう。
 何をするにしてもすぐ格好から入ってしまう俺の悪い癖だ、俺は扱いやすさという最も大事なものを失念していたようだ。

「だよな……柳生には長すぎるよな。あと20cmくらい短くしたほうがいいかもな。勿体無いけどこれは消して───」

「待って!!」

 上段からの一刀?でゴブリンの頭をかち割った柳生が俺の方へと反転し、ズンズンという擬音が聞こえてきそうな勢いで激しくポニーテールを揺らし近づいてくる。
 しかも柳生の目は俺の持つ荒武者へとはっきりと向き、まるで寄越せと言わんばかり。

「柳生のために作って見たんだが、少し長いよな。もう少し短いやつを作るから待っててくれるか?」

「いや、それで構わない。むしろそれがいい」

 俺がもう一度作る手間を取るのが申し訳ないとか、そんな感情は一切無く。
 本心からこれがいいと切望するような眼差し。
 本人がここまでこれがいいと言うのであれば、俺から言うことは何もない。

「なら使ってくれ。俺渾身の一作だ」

 俺は刀を握った左手を柳生の胸の前まで差し出し、柳生はそれを両手で大事そうに受け取る。
 そして柳生の目の色が変わる。
 それは今まで以上に鋭く、冷たく、無機質でもあった。

「……名は?」

 柳生は再び反転しモンスターの方へと向き直った柳生が、俺に背中を向けたまま口を開く。

「俺は真司、多田真司だ。って言ってなかったっけ俺の名前?」

「違う。この刀の名だ、無いのか?」

 ですよね~。
 今のは俺がどうかしてた。
 ってかめっちゃ恥ずかしい。

「……あらっ、ごほん。荒武者だ」

 恥ずかしさで声が裏返ったのを誤魔化し、そう答える。

「荒武者……か。つまりはそう見えたと言うこと……私もまだまだ修行が足りないということだな」

 その時、背中越しながら柳生が自嘲気味に笑った気がした。
 しかし、深く聞くつもりはない。
 それにこれが最初で最後の柳生へのプレゼントだろうし。
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