終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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現役復帰

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 4月26日の14時を少し回った頃、ダンジョン学園学園長である|赤土朱夏(あかどしゅか)の元に一本の電話が届く。
 元々書類仕事が好きではなく、しかも休日返上で急ぎの案件を片付けていた朱夏は、事務所から内線で繋がった電話をめんどくさそうに受け答えする。

 しかし、その電話の相手からの言葉を聞くたび、朱夏の瞳になにやら輝きが増していく。
 そしてその時学園長室にいた|鬼嶋幽々子(きじまゆゆこ)が、それを見逃すはずがなかった。

 間違いなく面倒ごとだろう、こういう目をした時の朱夏に付き合うのは骨が折れる。
 同じく休日返上で朱夏の手伝いをさせられていた幽々子は、朱夏の表情を見てそう確信していた。

 しばらくして会話が終わった頃には朱夏の目は、数年前現役だった頃と寸分違わぬ鋭さを放っていた。
 一昔前にあった受話器のある電話ではないので、電話に付いているパネルをタップし通話を切り。
 トレードマークの赤い長髪をたなびかせ、幽々子に対し意気揚々と指示を出す。

「詳しくはよくわからんが外仕事だ。書類の山は後回しでいい」

「わかりました、それでどこまで行くんですか朱夏さん」

 朱夏とは長い付き合いの幽々子は、そう言うと思ってましたとばかりに、既に書類の山に何の未練もなく立ち上がっている。
 そもそも朱夏の手伝いであって自分の仕事ではない、書類整理に飽き飽きしていた幽々子にとって室内から出れるというだけで充分。
 しかし、幽々子は続く朱夏の言葉に言葉を失うのだった。

「聞いて驚け、ダンジョンに行くんだ。しかも出来立てホヤホヤ、9番目のゲートを通って未知のダンジョンで、ハイキングして来いと攻略者協会のお偉いさん直々のお達しだ」

「はぁ?……えーっと9番目の何ですか?」

 今のは幽々子が朱夏のハキハキとした声を聞き取れなかったわけではない。
 聞こえはしたが、言葉の意味をまるで理解できず、少しばかり間の抜けたような声で返してしまう。

「ゲートだゲート。新しいゲートが近くに現れて、そこから出てきたモンスターのせいで大騒ぎになってるらしくてな。しかもタイミングの悪いことに、この辺にいる主要な攻略者は皆30階層攻略に出払ってるときてる。そしたら超実力派である、我々第一ダンジョン学園教員に依頼が来るのは自然な流れだろ?」

「……マジすか朱夏さん」

「おいおい、口調が昔に戻ってるぞ。優しくて皆に慕われる教師像はどうした、ん?」

 朱夏に憧れ腰の辺りまで伸ばしていた長髪を肩口辺りまでバッサリ切り、緩めのパーマをあて優しさを最大限出したり。
 話し方も少しゆっくりにして丁寧にするなど、地道な幽々子の陰の努力を知っている朱夏はそう嗜めるが、幽々子は止まらない。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが。とりあえず他の教員も幸い学園の敷地内に住んでますから、声を掛けてくださいね。……それでゲート付近の安全確保はどうするんですか?中に入ればモンスターは余裕ですけど」

 そんな当たり前の質問を投げかけられるも、朱夏は平然と笑ってこう返す。

「はっはっは、そんなもん知らん。自衛隊が適当に何とかするだろ」

 その言葉を聞いた幽々子は盛大に溜息を吐き、肩を落とし顔を下げる。
 そしめしばしの間を開け次に幽々子が顔を上げた時、ほんの少し吹っ切れたような顔付きに変わっていた。

「相変わらずですね。そういうところ嫌いじゃないですけど」

 そんなやり取りを交わした後、朱夏はダンジョン学園所属で、元攻略者の教員全てに集合をかけた。
 注文は一つ、全員動きやすい格好で来い。
 詳しい説明の一つもなく呼ばれた教員一同だが、15分後正門に集合した時には全員、現役だった頃の情報網により呼び出された理由は把握していた。

「あちゃー、僕が最後ですかぁ?ってか皆さん早すぎ、どんだけ戦いたいんすか。無類の戦闘好きっすか?」

 20代そこそこのヒョロッとした体格の男が小走りで最後に現れる。
 彼の名前は|羽切廉(はぎりれん)。
 派手めな茶髪をワックスでだいぶ遊ばせ、ヒョウ柄のラインの入ったジャージを着た、見るからにチャラチャラしてそうな男。
 しかしこんななりでも、幽々子同様ダンジョン学園一年目の新任教師で、担当科目はダンジョン内での戦闘訓練の授業全般である。
 ただし、幽々子とは違い非常勤講師のため担任などは受け持っていない。

 学園長を含む総勢12名、これが第一ダンジョン学園のアピールポイントの一つ、優秀な元ダンジョン攻略者の教員達である。

「よし全員揃ったな。まぁ、事情は聞いていると思うが我々は今から9番目のゲートへと向かう。全員ついて来い」

 このあまりにも強引な朱夏の言葉だが、首を横に振るものは1人もおらず、むしろその瞳の奥では激しい炎が燃え盛っているように見える。
 特に幽々子の意気込みはかなりのもので、この中でも一番と言ってもいい。

「廉、のんびりしてると置いて行くからな。あと無駄口もやめろ。うざいから」

 緊張感のカケラもない羽切に対し幽々子は冷たく言い放った。
 これには流石の羽切もドキリと体を震わせ、下手くそな苦笑いを浮かべる。

「怖っ、教師になって雰囲気変わったと思ったのに、完全リアルガチモードじゃないっすか。モンスター皆殺しにする気っすか。しかも炎の魔王に|幽鬼の支配者(ファントムロード)、怪力無双、現代の孔明。そんでもって僕、不可視の剣聖。こんだけ有名人揃うってヤバすぎじゃないっすか。これで30階層行った方が早くねってか────」

「喋り過ぎだ廉。学園長が勝手に許可したせいで、私のクラスの生徒がダンジョンに入ってるんだ時間に猶予はない。それに今の攻略者のレベルも相当だ」

 幽々子は不満を露わにし朱夏へと冷たい視線を送るが、朱夏は珍しく気まずそうに先程のことを思い出す。

 この学園に入学したばかりの一年生の生徒で、幽々子の担当しているクラスの男子生徒から電話がきた。
 この忙しい時に何の用だと思い電話に出ると、電話の相手である多桗真司はどんな偶然か知らないが、9番目のゲートの近くにいるから中に入ります。そんなことを言ったのだ。
 本当なら止めるべきかもしれない、そうも考えたが、5年前だって多桗真司という少年は生き延びた。
 だったら今回も大丈夫だろう。まぁ、なんとかなるだろ。
 そんな程度の考えで朱夏はそれを許可した。
 しかし問題が起こったのはその後だ。その話を幽々子にした途端、みるみるうちに幽々子の表情が険しくなり。
「あなたは馬鹿ですか!」
 そう怒鳴られしかられてしまった。

 ───幽々子に本気で怒られたのは何年振りだったか。

 そう思い掛け直したが、既に電波の届かない場所、ダンジョンへと入ってしまっていたと諦めるより他なかった。

「───学園長、学園長」

 他の教員に何度か呼ばれようやく我に返った朱夏は、首を何度か振り気を取り直す。

「あぁ、すまん。これ以上生徒を待たせるわけにはいかないからな」

 そう言うと朱夏は真っ赤な髪をたなびかせ、校庭に用意されたヘリへと向かう。
 ちなみにこのヘリは学園のものではなく、WDCO(世界ダンジョン攻略機構)日本支部が用意したもの。
 ゲート付近では混乱が予想され、近づくにつれ事故などで間違いなく車が動かないだろうということで、迅速な対応で用意された。

 そして4人ずつ計3台のヘリに乗るとすぐヘリは離陸し、学園から少し離れた9番目のゲートが現れたという場所へと向かった。
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