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その後の真司
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4月27日に起こった9番目のゲートが現れたという凶方は世界中を震撼させた。
それも当然だろう、15年前に大量に現れた現実世界とダンジョンを繋ぐゲートが、ここにきて一つ増えたのだ。
問題なのは一つ増えたというより、もしかすると今後も他の場所に出現する可能性が生まれたということだ。
日本を始め各国の専門家たちもそれぞれの見方を発表しているが、要約してしまえばどの文面も、その可能性も十分考えられます。という一文で帰結してしまう。
別に専門家たちが無能だとか怠惰的だったというわけではなく、それほどまでに今回の第9ダンジョンの出現は異例に過ぎたということの証明に他ならない。
ちなみにあれからの俺達はかなり多忙であった。
まずあの時の状況説明をあれこれして、その後被害の縮小のため危険を顧みずダンジョンに突入したとして、表彰やらインタビューやら何やらに追われ。
そして担任の教師である鬼嶋幽々子先生には逆にこってり絞られ、反省文を長々と書く羽目になる。
第9ダンジョンの出現という暗いニュースの中に見出した一筋の光とでも思われたのか、俺達の活躍は割と大きなニュースとして取り上げられてしまった。
一部の見出しではこんな風に書かれていたのを覚えている。。"未来の英雄、第9ゲートを死守す"
だが、そんな話題もすぐに消え、現在はいつも通りの学園生活に戻りつつあった。
───のだが。。。
そもそもその学園生活というのが最も多忙だということを忘れてはならないわけだ。
だから今、俺がこうして放課後のんびりとお茶できる環境に対し、最大限の謝意を込めてお礼しなければないらない。
「紅茶ご馳走様です会長。ようやく人心地つけました」
今俺がいるのは生徒会室。
広々とした室内の中央には縦10人程並んで座れるような大きな長机に、お高いソファーのようにクッションの効いた椅子。
机の上にはいくつかの書類が整理され置かれ、棚にある備品は綺麗に整頓されている。
という生徒会室のテンプレともいうべき部屋で、俺と会長、副会長、そして柳生の4人はお茶をしている。
もとい、生徒会の一員として仕事をしている。
自分の席で仕事を始めていた生徒会長は俺の言葉を聞くと、両手の指の腹をそれぞれ合わせるようなポーズを取り微笑んだ。
微笑むといっても僅かに口角を上げ、目を少し細めるという上品過ぎる微笑み。
真っ黒で腰まで届く長い髪に整った容姿、そしてこの淑女としての立ち振る舞い、まさに無敵艦隊である。それを考えるとファンクラブがあるのも納得がいくほどだ。
「それは良かった、去年の予算で小百合ちゃんを買ったのは正解だったわ。うちの使用人に負けないくらい美味しい紅茶淹れてくれるのよ」
生徒会長の視線の先にいるのは、株式会社マーズプロジェクトの出している、家政婦ロボットシリーズの小百合型。
体高は150cm程で見た目は10代後半くらいの女性の姿に近く、白と黒のエプロンドレスを着用している。
多少の肉感はあるもののやはりロボットとわかるような作りであり、表情の変化はない。
そして会話によるやり取りと、彼女の本職である家事全般は市場に出回っている中でもトップに入る性能を誇っている。
あと会長は戒能グループとかいうところの会長の孫なので、使用人がいたとかその程度でツッコミはいれないでおく。
生徒会長は小百合型から俺に視線を戻すと、「今度は私がお茶をご馳走してあげるわ」
と続けたので、社交辞令で是非とだけ答えておいた。
この人のことだ、間違いなくお茶を淹れるというのは、お抹茶を点てるということに違いない。
堅苦しいのは苦手なので本当に誘われたら断ることにしよう。
「会長、ところで自分達が今度行く林間学校ってどこでやるんですか?こうやって生徒会としての初仕事をしてる自分達ですら、教えてもらっていないってのは不思議なんですけど」
会長は再び両手の指の腹を合わせるようにして揃えると微笑む。
しかしさっきの微笑みとは様子がだいぶ違う。
なんというか魔性を秘めた微笑み、みたいな感じだ。
これはこれで会長の魅力を引き立たせているというか、いつもよりこっちの方が似合ってる気がしなくもない。
それは置いといて、今問題なのは多分林間学校の場所は、なかなかにヤバイところなのではないかということだ。
下手をすると俺の予想が当たってしまうということも考えられる。
そう林間学校はダンジョンで行うという。。。
いや、それは流石にありえないか。
第一それでは日帰りの遠足になってしまう。
そして会長の答えは肯定でも否定でもなかった。
「ごめんなさい、私は特別聞かせてもらったのだけど、今年はどれに行くのかまだ教えてあげられないの。海か山か、それとも砂漠か地下か」
何やら楽しげにそう言った会長の言葉に、それまで静かにしていた柳生が堪らず口を開く。
「あの申し訳ありませんが会長、海と山はともかく、砂漠や地下とはどういう意味でしょうか?」
「ふふ、そうねでもごめんなさい、内緒なの。たぶん来週辺りには発表されると思うから我慢してね」
「そうでしたね、失礼しました」
柳生は答えをそこまで期待していたわけでもないようで、淡々とした声音で返した。
単に真面目な柳生の性格上、不明瞭な会長の発言が気になったということで、開示されてしない情報を本気で聞き出そうとしたわけではないだろう。
「それより2人ともそろそろ原稿は完成したか?」
しかしそんな女子2人のやり取りをみて、気まずくなったのではと話題を変えたのは、俺の左側に座る沖田先輩。
この会長に心酔している先輩は生徒会で俺を除いて唯一の男で、性格は真面目で不器用、髪は短めで顔は一言で言うとシュッとしてる、そんな人だ。
初対面では様々な誤解のお陰でダンジョンで模擬戦をする羽目になったが、今では頼れる先輩である。
そして原稿というのは来週の集会のためのもの。
来週の集会では林間学校についての説明ともう一つ、俺と柳生が生徒会に入ったというお披露目会的なものがあり、そこで何か話せというので書かなければいけなくなったのである。
「まだです」「書き終わりました」
俺と柳生の声は重なるように生徒会室に響く。
もちろん俺はまだですと答えたほうだ、だって忙しくて書いてる時間が……。
「そうか、多桗はまだか。まぁそんなに長い文書じゃなくていい、風紀委員会に入った生徒とかも挨拶するからな」
「明日までには書いておきます。そういえば風紀委員会に入ったのは誰なんですかね、それも自分らみたいに風気委員長に勧誘されたとか」
俺がそう言うと、会長は首を傾け微笑み、対照的に沖田先輩は苦笑いを浮かべた。
「それはね───」
会長が口を開いた直後生徒会室の扉が強く叩かれた、それは指でノックというより拳でドアを叩いたというほうが正しいだろう。
そして会長の返事を待たずドアが勢いよく開かれる。
「やぁ生徒会諸君、粛清してやるぞ」
そこにいたのは赤い髪の少女。
背は小さく、というか全体的に色々と幼い体付きである。
喋り方もどこか舌足らず。
赤い髪も当然地毛ではないだろう、学園長を真似て染めているといった感じだ。
というか今この子凄く物騒なこと言わなかったか?
そう思い会長に視線をやると、驚いたりしている様子はない。
「いらっしゃいひーちゃん。今日はどんな御用かしら」
「もちろん仕事だぞ。なんたって私は風紀委員長だからな」
腰に手を当て無い胸を張り、えっへんとでも言わんばかりのポーズをとるひーちゃん。
俺はとりあえず隣にいる沖田先輩に少し近付き耳打ちする。
「沖田先輩、この学園に中等部なんてありました?」
そう言うと沖田先輩ではなく後ろから怒声と蹴りが飛んできた。
「馬鹿か貴様っ。私は中等部ではないぞ」
確かに中等部ではないかもしれない、そう、どちらかというなら初等部だ。
「それじゃ初等───」
「それ以上言うなよ一年坊主、粛清されたいか?」
凄まれところで、椅子に座ってる俺とあまり目線の変わらない少女は怖くないが、目が少し潤んでいる少女をこれ以上いたぶるのは俺の紳士道に反する。
「失礼しました、えーっと、ひーちゃん風紀委員長」
「ひーちゃんと呼ぶのはゆーちゃんだけだぞ。私の名は|千手千景(せんじゅちかげ)。千手千景風紀委員長様と呼ぶといいぞ」
微笑ましげな視線を送る会長、苦笑いを作ろうとして失敗したような表情を浮かべる沖田先輩、そして可哀想なものを見るかのような柳生の視線。
いよいよカオスになってきた。
しかも会長はこの場を楽しんでるようで、どうにかしようとする気配はない。
とはいえだ、光の丘孤児院で10年以上暮らしてきた俺に死角はない、小さい子供の相手なんてお茶の子さいさい。
「とりあえず、千手千景風紀委員長様は長過ぎるんで、千手先輩でいいですか?」
「先輩……千手先輩……。悪くない。もう一回言ってくれ」
目をキラキラ輝かせ頼まれては断りづらい、それに俺は結構子供好きなのである。
「なんの御用で生徒会室に来たんですか、千手|先輩(・・)」
「うんうん。仕方ないから答えてやろう、暇だからお茶しに来た」
その言葉に呆気にとられる俺達を尻目に、一人だけクスクスと笑っている人がいた。
もちろん会長だ、つまり初めから分かってて、俺達の反応を楽しんでいたということのようだ。
散々笑った後会長は千手にお茶と茶菓子を出し、本当にお茶だけしていった。
粛清してやるというのは単なる口癖のようなものだったようだ。
粛清してやるが口癖ってどうなん?とも思ったが口には出さないことにした。
もしかすると複雑な家庭環境があるかもしれないし、面倒ごとは避けて通るのが一番。
15分くらい雑談を重ねたところで、今度は丁寧に叩かれた生徒会室の扉から背の高い美人な女性が入って来て、千手は引き摺られるようにして強制送還された。
後で沖田先輩に聞いたところ、その美人な女性の名は敷島春風、風紀委員会の副委員長とのこと。
しかしどう見てもあの美人さんのほうが風紀委員長に合っているだろう、そう思い口にしたが、本人の前では言わないであげてとだけ沖田先輩は返した。
もちろんそれを言われた千手の顔を真っ赤にした顔が容易に想像がつくので、初めから言う気は無かった。
からかってやろうなんて微塵も思っちゃいない、本当だ。
「あらもうこんな時間、打ち合わせも終わったし帰りましょうか」
千景が強制送還されてから数分ほどして、会長が思い出したように言う。
まだ日は暮れていないが、部活動の生徒を残しほとんど校舎には残っていない時間のため、全員が同意する。
簡単に片付けを済ませ、生徒会室を出ると会長と沖田先輩は2.3年の下駄箱のある右へ、俺と柳生は左へと向かう。
「そういえば、まだちゃんと挨拶してなかったっけ。よろしく……えっと柳生さんって呼べばいいかな?」
とりあえず気まずいので話題を振ると、半歩前を歩く柳生は僅かに顔をこちらに向けまじまじと見つめてくる。
そして一拍間を開けゆっくり口を開く。
「……よろしく。好きに呼んでいいわ」
平坦な声でそう返した柳生は再び前を向き歩き出す。
「あははは、じゃあ柳生さんで。クラスは違うけど、何かあった時はこの前みたいに手伝ってね」
「えぇ、よろしく多田真司」
今度は前を向いたままそれだけ言うと若干歩調を早められてしまう。
「……何これ、気まずい……」
柳生に聞こえないほど小さく俺が呟いたところで、一年の下駄箱の前に着く。
数日前に死線を潜り抜けた仲だというのに、これは予想外だった。
柳生は男嫌いという、杏花から聞いた話は本当だったようだ。
(まぁ、ポジティブに考えれば俺が嫌いなんじゃなくて、男が嫌いなんだよな。それじゃあしゃあーなしだな。うんうん)
自分で自分を慰め気持ちを少しだけ切り替えた俺は、確実に柳生が反応するであろう話題をぶつけてみる。
「あっ、そういえばさっきの話だけどさ」
「……さっきの話?」
「林間学校の行き先の話。会長がこう言ってたの覚えてる?"今年はどれに行くのかまだ教えてあげられないの。海か山か、それとも砂漠か地下かって」
「えぇ、覚えてる。それで私は会長らしからぬ不明瞭な日本語に質問を述べたのだもの」
「それなんだけどさ。たぶん会長なりの大ヒントだったと思う」
「……大ヒント?」
クールな眼差しはそのままのように見えるが、柳生は興味深々という意思を隠しきれていない……ように見えなくもない。
「まず、"どこ"じゃなくて"どれ"って言ったこと、そして海、山、砂漠に地下。それぞれ第2第4第6第7のダンジョンのスタートの地形を指してる。つまりその4つのダンジョンのどれかってこと」
「……そ、そうね。私も本当はわかってたけどあそこでわかったフリをしたら、教えてはいけないというルールを会長自ら破ることに。って何笑ってるの」
必死に誤魔化そうとする柳生を見て、つい口元が緩んでしまっていたようだ。
このまま|揶揄(からか)うのも少し面白そうだが、これ以上距離を開けられるのも嫌なのでやめておいてあげよう。
「あぁ、すまん。わかってたならいいんだ。それじゃあまた明日」
「えぇ、さようなら多田真司」
別れの言葉を告げた俺は下駄箱を出て右にある男子寮へ、柳生は左にある女子寮へと向かい別れた。
まるで武士のように自分に厳しく、でも実はかなりの負けず嫌いで、ちょっぴり素直じゃない普通の女子。
柳生に対しての印象をそんな風に少し変わったというだけで、今日の生徒会は少しだけ有意義なものになった気がした。
それも当然だろう、15年前に大量に現れた現実世界とダンジョンを繋ぐゲートが、ここにきて一つ増えたのだ。
問題なのは一つ増えたというより、もしかすると今後も他の場所に出現する可能性が生まれたということだ。
日本を始め各国の専門家たちもそれぞれの見方を発表しているが、要約してしまえばどの文面も、その可能性も十分考えられます。という一文で帰結してしまう。
別に専門家たちが無能だとか怠惰的だったというわけではなく、それほどまでに今回の第9ダンジョンの出現は異例に過ぎたということの証明に他ならない。
ちなみにあれからの俺達はかなり多忙であった。
まずあの時の状況説明をあれこれして、その後被害の縮小のため危険を顧みずダンジョンに突入したとして、表彰やらインタビューやら何やらに追われ。
そして担任の教師である鬼嶋幽々子先生には逆にこってり絞られ、反省文を長々と書く羽目になる。
第9ダンジョンの出現という暗いニュースの中に見出した一筋の光とでも思われたのか、俺達の活躍は割と大きなニュースとして取り上げられてしまった。
一部の見出しではこんな風に書かれていたのを覚えている。。"未来の英雄、第9ゲートを死守す"
だが、そんな話題もすぐに消え、現在はいつも通りの学園生活に戻りつつあった。
───のだが。。。
そもそもその学園生活というのが最も多忙だということを忘れてはならないわけだ。
だから今、俺がこうして放課後のんびりとお茶できる環境に対し、最大限の謝意を込めてお礼しなければないらない。
「紅茶ご馳走様です会長。ようやく人心地つけました」
今俺がいるのは生徒会室。
広々とした室内の中央には縦10人程並んで座れるような大きな長机に、お高いソファーのようにクッションの効いた椅子。
机の上にはいくつかの書類が整理され置かれ、棚にある備品は綺麗に整頓されている。
という生徒会室のテンプレともいうべき部屋で、俺と会長、副会長、そして柳生の4人はお茶をしている。
もとい、生徒会の一員として仕事をしている。
自分の席で仕事を始めていた生徒会長は俺の言葉を聞くと、両手の指の腹をそれぞれ合わせるようなポーズを取り微笑んだ。
微笑むといっても僅かに口角を上げ、目を少し細めるという上品過ぎる微笑み。
真っ黒で腰まで届く長い髪に整った容姿、そしてこの淑女としての立ち振る舞い、まさに無敵艦隊である。それを考えるとファンクラブがあるのも納得がいくほどだ。
「それは良かった、去年の予算で小百合ちゃんを買ったのは正解だったわ。うちの使用人に負けないくらい美味しい紅茶淹れてくれるのよ」
生徒会長の視線の先にいるのは、株式会社マーズプロジェクトの出している、家政婦ロボットシリーズの小百合型。
体高は150cm程で見た目は10代後半くらいの女性の姿に近く、白と黒のエプロンドレスを着用している。
多少の肉感はあるもののやはりロボットとわかるような作りであり、表情の変化はない。
そして会話によるやり取りと、彼女の本職である家事全般は市場に出回っている中でもトップに入る性能を誇っている。
あと会長は戒能グループとかいうところの会長の孫なので、使用人がいたとかその程度でツッコミはいれないでおく。
生徒会長は小百合型から俺に視線を戻すと、「今度は私がお茶をご馳走してあげるわ」
と続けたので、社交辞令で是非とだけ答えておいた。
この人のことだ、間違いなくお茶を淹れるというのは、お抹茶を点てるということに違いない。
堅苦しいのは苦手なので本当に誘われたら断ることにしよう。
「会長、ところで自分達が今度行く林間学校ってどこでやるんですか?こうやって生徒会としての初仕事をしてる自分達ですら、教えてもらっていないってのは不思議なんですけど」
会長は再び両手の指の腹を合わせるようにして揃えると微笑む。
しかしさっきの微笑みとは様子がだいぶ違う。
なんというか魔性を秘めた微笑み、みたいな感じだ。
これはこれで会長の魅力を引き立たせているというか、いつもよりこっちの方が似合ってる気がしなくもない。
それは置いといて、今問題なのは多分林間学校の場所は、なかなかにヤバイところなのではないかということだ。
下手をすると俺の予想が当たってしまうということも考えられる。
そう林間学校はダンジョンで行うという。。。
いや、それは流石にありえないか。
第一それでは日帰りの遠足になってしまう。
そして会長の答えは肯定でも否定でもなかった。
「ごめんなさい、私は特別聞かせてもらったのだけど、今年はどれに行くのかまだ教えてあげられないの。海か山か、それとも砂漠か地下か」
何やら楽しげにそう言った会長の言葉に、それまで静かにしていた柳生が堪らず口を開く。
「あの申し訳ありませんが会長、海と山はともかく、砂漠や地下とはどういう意味でしょうか?」
「ふふ、そうねでもごめんなさい、内緒なの。たぶん来週辺りには発表されると思うから我慢してね」
「そうでしたね、失礼しました」
柳生は答えをそこまで期待していたわけでもないようで、淡々とした声音で返した。
単に真面目な柳生の性格上、不明瞭な会長の発言が気になったということで、開示されてしない情報を本気で聞き出そうとしたわけではないだろう。
「それより2人ともそろそろ原稿は完成したか?」
しかしそんな女子2人のやり取りをみて、気まずくなったのではと話題を変えたのは、俺の左側に座る沖田先輩。
この会長に心酔している先輩は生徒会で俺を除いて唯一の男で、性格は真面目で不器用、髪は短めで顔は一言で言うとシュッとしてる、そんな人だ。
初対面では様々な誤解のお陰でダンジョンで模擬戦をする羽目になったが、今では頼れる先輩である。
そして原稿というのは来週の集会のためのもの。
来週の集会では林間学校についての説明ともう一つ、俺と柳生が生徒会に入ったというお披露目会的なものがあり、そこで何か話せというので書かなければいけなくなったのである。
「まだです」「書き終わりました」
俺と柳生の声は重なるように生徒会室に響く。
もちろん俺はまだですと答えたほうだ、だって忙しくて書いてる時間が……。
「そうか、多桗はまだか。まぁそんなに長い文書じゃなくていい、風紀委員会に入った生徒とかも挨拶するからな」
「明日までには書いておきます。そういえば風紀委員会に入ったのは誰なんですかね、それも自分らみたいに風気委員長に勧誘されたとか」
俺がそう言うと、会長は首を傾け微笑み、対照的に沖田先輩は苦笑いを浮かべた。
「それはね───」
会長が口を開いた直後生徒会室の扉が強く叩かれた、それは指でノックというより拳でドアを叩いたというほうが正しいだろう。
そして会長の返事を待たずドアが勢いよく開かれる。
「やぁ生徒会諸君、粛清してやるぞ」
そこにいたのは赤い髪の少女。
背は小さく、というか全体的に色々と幼い体付きである。
喋り方もどこか舌足らず。
赤い髪も当然地毛ではないだろう、学園長を真似て染めているといった感じだ。
というか今この子凄く物騒なこと言わなかったか?
そう思い会長に視線をやると、驚いたりしている様子はない。
「いらっしゃいひーちゃん。今日はどんな御用かしら」
「もちろん仕事だぞ。なんたって私は風紀委員長だからな」
腰に手を当て無い胸を張り、えっへんとでも言わんばかりのポーズをとるひーちゃん。
俺はとりあえず隣にいる沖田先輩に少し近付き耳打ちする。
「沖田先輩、この学園に中等部なんてありました?」
そう言うと沖田先輩ではなく後ろから怒声と蹴りが飛んできた。
「馬鹿か貴様っ。私は中等部ではないぞ」
確かに中等部ではないかもしれない、そう、どちらかというなら初等部だ。
「それじゃ初等───」
「それ以上言うなよ一年坊主、粛清されたいか?」
凄まれところで、椅子に座ってる俺とあまり目線の変わらない少女は怖くないが、目が少し潤んでいる少女をこれ以上いたぶるのは俺の紳士道に反する。
「失礼しました、えーっと、ひーちゃん風紀委員長」
「ひーちゃんと呼ぶのはゆーちゃんだけだぞ。私の名は|千手千景(せんじゅちかげ)。千手千景風紀委員長様と呼ぶといいぞ」
微笑ましげな視線を送る会長、苦笑いを作ろうとして失敗したような表情を浮かべる沖田先輩、そして可哀想なものを見るかのような柳生の視線。
いよいよカオスになってきた。
しかも会長はこの場を楽しんでるようで、どうにかしようとする気配はない。
とはいえだ、光の丘孤児院で10年以上暮らしてきた俺に死角はない、小さい子供の相手なんてお茶の子さいさい。
「とりあえず、千手千景風紀委員長様は長過ぎるんで、千手先輩でいいですか?」
「先輩……千手先輩……。悪くない。もう一回言ってくれ」
目をキラキラ輝かせ頼まれては断りづらい、それに俺は結構子供好きなのである。
「なんの御用で生徒会室に来たんですか、千手|先輩(・・)」
「うんうん。仕方ないから答えてやろう、暇だからお茶しに来た」
その言葉に呆気にとられる俺達を尻目に、一人だけクスクスと笑っている人がいた。
もちろん会長だ、つまり初めから分かってて、俺達の反応を楽しんでいたということのようだ。
散々笑った後会長は千手にお茶と茶菓子を出し、本当にお茶だけしていった。
粛清してやるというのは単なる口癖のようなものだったようだ。
粛清してやるが口癖ってどうなん?とも思ったが口には出さないことにした。
もしかすると複雑な家庭環境があるかもしれないし、面倒ごとは避けて通るのが一番。
15分くらい雑談を重ねたところで、今度は丁寧に叩かれた生徒会室の扉から背の高い美人な女性が入って来て、千手は引き摺られるようにして強制送還された。
後で沖田先輩に聞いたところ、その美人な女性の名は敷島春風、風紀委員会の副委員長とのこと。
しかしどう見てもあの美人さんのほうが風紀委員長に合っているだろう、そう思い口にしたが、本人の前では言わないであげてとだけ沖田先輩は返した。
もちろんそれを言われた千手の顔を真っ赤にした顔が容易に想像がつくので、初めから言う気は無かった。
からかってやろうなんて微塵も思っちゃいない、本当だ。
「あらもうこんな時間、打ち合わせも終わったし帰りましょうか」
千景が強制送還されてから数分ほどして、会長が思い出したように言う。
まだ日は暮れていないが、部活動の生徒を残しほとんど校舎には残っていない時間のため、全員が同意する。
簡単に片付けを済ませ、生徒会室を出ると会長と沖田先輩は2.3年の下駄箱のある右へ、俺と柳生は左へと向かう。
「そういえば、まだちゃんと挨拶してなかったっけ。よろしく……えっと柳生さんって呼べばいいかな?」
とりあえず気まずいので話題を振ると、半歩前を歩く柳生は僅かに顔をこちらに向けまじまじと見つめてくる。
そして一拍間を開けゆっくり口を開く。
「……よろしく。好きに呼んでいいわ」
平坦な声でそう返した柳生は再び前を向き歩き出す。
「あははは、じゃあ柳生さんで。クラスは違うけど、何かあった時はこの前みたいに手伝ってね」
「えぇ、よろしく多田真司」
今度は前を向いたままそれだけ言うと若干歩調を早められてしまう。
「……何これ、気まずい……」
柳生に聞こえないほど小さく俺が呟いたところで、一年の下駄箱の前に着く。
数日前に死線を潜り抜けた仲だというのに、これは予想外だった。
柳生は男嫌いという、杏花から聞いた話は本当だったようだ。
(まぁ、ポジティブに考えれば俺が嫌いなんじゃなくて、男が嫌いなんだよな。それじゃあしゃあーなしだな。うんうん)
自分で自分を慰め気持ちを少しだけ切り替えた俺は、確実に柳生が反応するであろう話題をぶつけてみる。
「あっ、そういえばさっきの話だけどさ」
「……さっきの話?」
「林間学校の行き先の話。会長がこう言ってたの覚えてる?"今年はどれに行くのかまだ教えてあげられないの。海か山か、それとも砂漠か地下かって」
「えぇ、覚えてる。それで私は会長らしからぬ不明瞭な日本語に質問を述べたのだもの」
「それなんだけどさ。たぶん会長なりの大ヒントだったと思う」
「……大ヒント?」
クールな眼差しはそのままのように見えるが、柳生は興味深々という意思を隠しきれていない……ように見えなくもない。
「まず、"どこ"じゃなくて"どれ"って言ったこと、そして海、山、砂漠に地下。それぞれ第2第4第6第7のダンジョンのスタートの地形を指してる。つまりその4つのダンジョンのどれかってこと」
「……そ、そうね。私も本当はわかってたけどあそこでわかったフリをしたら、教えてはいけないというルールを会長自ら破ることに。って何笑ってるの」
必死に誤魔化そうとする柳生を見て、つい口元が緩んでしまっていたようだ。
このまま|揶揄(からか)うのも少し面白そうだが、これ以上距離を開けられるのも嫌なのでやめておいてあげよう。
「あぁ、すまん。わかってたならいいんだ。それじゃあまた明日」
「えぇ、さようなら多田真司」
別れの言葉を告げた俺は下駄箱を出て右にある男子寮へ、柳生は左にある女子寮へと向かい別れた。
まるで武士のように自分に厳しく、でも実はかなりの負けず嫌いで、ちょっぴり素直じゃない普通の女子。
柳生に対しての印象をそんな風に少し変わったというだけで、今日の生徒会は少しだけ有意義なものになった気がした。
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