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その後の杏花と一夏
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派手過ぎず地味過ぎない、女の子らしい部屋をそのまま絵に描いたような女子寮の一室。
既に女子寮の半分ほどの部屋が明かりを消した夜更け、灰音杏花はお風呂上がりでまだ乾き切っていない髪を乾かしながら、日課の日記を引き出しから取り出す。
自分の部屋とはいえ下着で歩き回るような真似はせず、薄手の長袖の寝間着に袖を通し、まだフワッとした弾力のあるタオルを首に巻いた状態で椅子に腰を下ろす。
『5月1日曇り☁️
あの騒動から数日が経ちました。世間では未だ新たに出来たダンジョンについてのニュースで大いに賑わっています。
第二次ゲート誕生紀なのではないか?なーんて騒がれていますが、今のところあの公園の近く以外に新たなゲートは誕生していないようで少しホッとしています。
それにしてもダンジョンから現実に帰った後も忙しかった。ギルドの人が来てあれこれ尋ねられたり、幽々子先生から2時間ほどのお説教と反省文の提出。噂を聞きつけた学校の子たちには毎休み時間大いに囲まれるなどなどエトセトラ。
うん、まぁそれはいいんだけど。。。
そんなことより私としてはあの時の告白がお流れになってしまったことのショックが大きい。自分からまた話を切り出したほうがいいのかもしれないけど、それにはかなり勇気がいるし、何よりしつこい女とか思われたら流石に立ち直れない自信があるわけでして。。。
だがしかーし!
まだまだ私にだってチャンスはある。
なぜならもう直ぐ林間学校が始まるのだ、みんなでお泊りしていたら何かが起きちゃうかもしれない。
いやいや、もちろんそういうちょっとえっちなハプニングとかではなくてね。うん。
場所とかそういう情報は詳しく聞いてないけど、林間と言うくらいだからきっと森だ。
イェーイキャンプファイヤー!!
勝負の林間学校までのカウントダウン、残り17日……かな?
それまでに一回くらいは実家帰らないと。あぁ、お母さんのオムライスが恋しいなぁ。
それに5月はイベント盛り沢山、林間学校に実力テスト、部活だって本格的に忙しくなるのだ。
……そういえば真司くんと柳生さんの仲が、あの日を境にちょっと怪しいのではないと疑っているのは私だけだろうか?
うん、私だけかもしれない……
んー、でもでも。柳生さんは頼れる男の子とかにころっといっちゃいそうなタイプな気がするんだよなぁ……』
「いやいやいやいやいや。それはないよね……ないよね?」
一人で百面相を繰り広げながら書いていた手を止め、代わりに大きく首を振ることで、不安を追い払う。
日記の最後の言葉は半分くらい本気で書いているつもりだが、それで眠れなくなるほど考えるというたちでもない。
しばらくすれば心地よい睡魔が訪れ欠伸を誘う。
日記も書き終えタイミングとしては丁度いい。
「んーー、眠い。明日も学校だし寝よ」
右手で口を隠し左手は名一杯上に突き出し、欠伸と伸びを同時に済ませ立ち上がる。
日記を書いている間に髪も乾いたため、杏花はタオルを洗濯かごに入れると部屋の明かりを消した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
5月2日土曜日、5月に入ったとはいえ早朝は冷え込む日が多く、上着でも羽織らなければ体を震わす羽目になることだろう。
しかしそんな中、学園の敷地内にある剣道場で、ただひたすら模造刀を振り額から大粒の汗を流す少女の姿があった。
上は白で下は紺という昔からよくある道着袴姿の少女の名は柳生一夏。
長く真っ直ぐな黒髪を一つに縛り、青毛の馬尻尾を思わせるポニーテールを時に激しく揺らしている。
先日の騒動の折には真司達と行動を共にし、日本に出来た9番目のゲートを通り、少なからず死線を潜り抜けたダンジョン学園の一年生。
今日の柳生の稽古は常にモンスターを頭の中で、精密にイメージして行われる。
畳を擦るように細かく踏み出し、時には大きく踏み出し縦に横にと剣戟を浴びせる。
何も知らぬ人が見れば色々な型を見事に振る美少女だな。その程度だろう。
しかし真司が見ればまた違う感想を抱いたかもしれない。
おそらくあの騒動の中誰よりも多くのモンスターを斬り伏せ、屠っただろうあの動きをほとんど完璧に一夏は再現しているからだ。
ここまで完璧なイメージがあれば、実践となんら遜色無い、高度なトレーニングになっていることだろう。
だが、一夏の表情は刀を振るたびに陰りを増し、体に無駄な力みが加わるたび刀の最高速は失われていく。
ただ、その理由は単に疲労が溜まったから、などという類のものではなかった。
一夏はイメージ上のゴブリンを脳天から垂直に切り下げ、大きく踏み出した右足とともに両手で握った刀で、オークの右腕を切り落としたところで動きを止めた。
「違う!これじゃない。あの時はもっと……」
ポタポタと顎から畳に流れ落ちる汗を拭く事も忘れ、乱れた呼吸を大きく揺らす肩で緩和しつつ言葉を噤む。
第9ダンジョンと名付けられたあの場所での戦闘を思い出すと同時に、一夏は整った綺麗な顔の眉間に何本かの皺を寄せた。
あれから数日、何度も何度も感じた小さな違和感。
しかし今ではその何かのせいで、自分の刀捌きが見るも無惨になっている事を、一夏は強く自覚していた。
数日前の騒動で振るった刀はこんなものではなかった。
刀は自分の体の一部かのように馴染み、限界まで研ぎ澄まされた感覚は、モンスターの動きを止まっているかのように捉えた。
しかしあの感覚に近づこうと刀を振るほどに、逆に遠のいて行く感覚に襲われ余計に刀を鈍らせていた。
「これじゃあまるであの時みたいではないか。あんなものもうとっくの昔に克服したはずなのに」
だいぶマシになった呼吸の乱れを整えた一夏は、中学時代の苦い記憶を掘り起こす。
それは一夏が中学に上がったばかりの頃、幼少から磨いてきた己の技全てを侮辱した。
技を捨て力を欲した己の未熟さそのもの。
刀を何度も何度も振り、手には女の子らしくない蛸を作った。
小学校までは力でも技でも全てが同級生の男子達に優った。
しかしある日実家の剣術道場にやって来た父の知り合いの息子に一夏は完敗した。
今思えば勝てない相手ではなかった、一夏はそう冷静に分析しているが、その時は何も出来ずに負けた。
自分よりも強い相手に負けることなんてザラだった、父親や門下生の腕の立つ相手にはいつも軽くあしらわれていたのだから。
しかし一夏は同学年の相手に負けたことは一度もなかった。
それこそ出た剣術大会全てにおいて全勝、柳生一夏の名は全国にだって轟くほどだったのだから。
実際その男子には数年前完勝したことだってあった。
だが、それが覆った時の一夏の衝撃は、その後陥った大きなスランプが物語っている。
努力で、練習量で、技術で負けたのではない。
単純な腕力で一夏は負けた。
その時の一夏の戦闘スタイルは相手の力を探るため、敢えて真っ向からの撃ち合い。
そして相手の実力を測った上で技でいなし圧倒するというもの。
相手との実力の差が無ければ出来ない芸当だが、事実それまでの一夏はそれで無敗だった。
その日も技ではなく力で相手を試そうとして、そして力負けした。
誰よりも練習してきたはずなのに、いとも容易く一夏の一振りは弾かれ、さらに打ち合い気付いた時には場外まで押し出されていた。
それでも磨かれた技を使わず力で勝とうとしたのは一夏の意地であり、誰よりも研鑽を積んできたが故の誇り。
肩で息をしながら力の入らなくなった足で防戦一方になり、最後には全く力の入らなく手は一夏の意思を無視し木刀を床へと落とした。
その時初めて一夏は知ったのだ、男と女では腕力が違うのだと。
女の自分ではいくら力をつけても、自分よりも努力の少ない男には勝てないことを。
素振りをしても門弟達のように筋肉は付かない、クラスメイトの女子達と同じかそれ以上に胸は膨らみを増していく。
才能、男に生まれなかった自分の才能を認めたくなかった。
自分に無いものを求めた。
「……まるであの時と同じじゃないか」
一夏は再びそう呟いて静かに汗を拭った。
そして一夏は前を向く。
しかしその瞳に映っていたのは燃えるような、熱く滾った何か。
数年前は単純な腕力が欠けていただけ、しかしそれを見事乗り越えたてみせた。
今回も同じ、ただそれだけ。
一夏は自分にそう言い聞かせる。
違うことがあるとすれば今回はその足りない何かが何なのか、その正体を一夏は自分で理解できていなかった。
「多田……真司。多分彼とまた戦場を共にすれば何かわかるはずだ。私よりも劣った稚拙な戦い、あの動きはまるで剣の手解きを受けていないど素人。でも今の私に足りない何かを持っていたような気がする。それに……あの感覚……初めて誰かと一緒に戦った気がする」
授業でクラスメイトとダンジョンに入り、モンスターと何度も戦った。
パーティーで役割分担し、盾役、攻撃役、回復役で戦った。
しかしその中の一度でも数日前のような、あの誰かに背を任せても微塵の不安も感じなかったことはない。
常に全方位を警戒し、できれば刀の届くところに立たないでほしいという感覚もなかった。
これが仲間と戦うという感覚なのだろうか?
そして一夏にはもう一つ気になっていたことがあった。
「それにあの刀。ダンジョンを出る前に消えてしまったが、あの荒武者という刀は凄まじかった。斬れ味もそうだが、まるで私のためにあつらえたような手に馴染む感覚。長さや振りやすさだけではない、特に荒武者という刀の名だ。まるで私自身を見透かされているようだった。……いったいあの男は何者だ?」
そこまで考えたところで一夏の視界が時計の針を捉えた。
「しまった、考え事をしていたらこんな時間に」
朝稽古のために特別に貸してもらっている道場だが、授業に遅刻するようなことがあればしばらく貸してもらえない可能性もある。
校則の緩いダンジョン学園だとしても、生真面目な一夏の性格がそれを許さなかった。
それに急がなければビショビショに汗をかいたまま教室に行かなければならない。
年頃の女子としては飾り気の少ない一夏でも、そこまで体面を気にしないほど女子として大切なものを捨ててはいない。
一夏は道場にきっちりと一礼を済ませると、道場に完備されているシャワー室へと向かった。
汗でまとわりつく道着を脱ぎ、下着を外していく。
「やはり胸は邪魔だな。これ以上大きくならないでもらえると助かるのだが」
自分の胸にある周囲の女子と比べても成長の早い双丘を見下ろし、迷惑そうな顔で小さく呟いた。
既に女子寮の半分ほどの部屋が明かりを消した夜更け、灰音杏花はお風呂上がりでまだ乾き切っていない髪を乾かしながら、日課の日記を引き出しから取り出す。
自分の部屋とはいえ下着で歩き回るような真似はせず、薄手の長袖の寝間着に袖を通し、まだフワッとした弾力のあるタオルを首に巻いた状態で椅子に腰を下ろす。
『5月1日曇り☁️
あの騒動から数日が経ちました。世間では未だ新たに出来たダンジョンについてのニュースで大いに賑わっています。
第二次ゲート誕生紀なのではないか?なーんて騒がれていますが、今のところあの公園の近く以外に新たなゲートは誕生していないようで少しホッとしています。
それにしてもダンジョンから現実に帰った後も忙しかった。ギルドの人が来てあれこれ尋ねられたり、幽々子先生から2時間ほどのお説教と反省文の提出。噂を聞きつけた学校の子たちには毎休み時間大いに囲まれるなどなどエトセトラ。
うん、まぁそれはいいんだけど。。。
そんなことより私としてはあの時の告白がお流れになってしまったことのショックが大きい。自分からまた話を切り出したほうがいいのかもしれないけど、それにはかなり勇気がいるし、何よりしつこい女とか思われたら流石に立ち直れない自信があるわけでして。。。
だがしかーし!
まだまだ私にだってチャンスはある。
なぜならもう直ぐ林間学校が始まるのだ、みんなでお泊りしていたら何かが起きちゃうかもしれない。
いやいや、もちろんそういうちょっとえっちなハプニングとかではなくてね。うん。
場所とかそういう情報は詳しく聞いてないけど、林間と言うくらいだからきっと森だ。
イェーイキャンプファイヤー!!
勝負の林間学校までのカウントダウン、残り17日……かな?
それまでに一回くらいは実家帰らないと。あぁ、お母さんのオムライスが恋しいなぁ。
それに5月はイベント盛り沢山、林間学校に実力テスト、部活だって本格的に忙しくなるのだ。
……そういえば真司くんと柳生さんの仲が、あの日を境にちょっと怪しいのではないと疑っているのは私だけだろうか?
うん、私だけかもしれない……
んー、でもでも。柳生さんは頼れる男の子とかにころっといっちゃいそうなタイプな気がするんだよなぁ……』
「いやいやいやいやいや。それはないよね……ないよね?」
一人で百面相を繰り広げながら書いていた手を止め、代わりに大きく首を振ることで、不安を追い払う。
日記の最後の言葉は半分くらい本気で書いているつもりだが、それで眠れなくなるほど考えるというたちでもない。
しばらくすれば心地よい睡魔が訪れ欠伸を誘う。
日記も書き終えタイミングとしては丁度いい。
「んーー、眠い。明日も学校だし寝よ」
右手で口を隠し左手は名一杯上に突き出し、欠伸と伸びを同時に済ませ立ち上がる。
日記を書いている間に髪も乾いたため、杏花はタオルを洗濯かごに入れると部屋の明かりを消した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
5月2日土曜日、5月に入ったとはいえ早朝は冷え込む日が多く、上着でも羽織らなければ体を震わす羽目になることだろう。
しかしそんな中、学園の敷地内にある剣道場で、ただひたすら模造刀を振り額から大粒の汗を流す少女の姿があった。
上は白で下は紺という昔からよくある道着袴姿の少女の名は柳生一夏。
長く真っ直ぐな黒髪を一つに縛り、青毛の馬尻尾を思わせるポニーテールを時に激しく揺らしている。
先日の騒動の折には真司達と行動を共にし、日本に出来た9番目のゲートを通り、少なからず死線を潜り抜けたダンジョン学園の一年生。
今日の柳生の稽古は常にモンスターを頭の中で、精密にイメージして行われる。
畳を擦るように細かく踏み出し、時には大きく踏み出し縦に横にと剣戟を浴びせる。
何も知らぬ人が見れば色々な型を見事に振る美少女だな。その程度だろう。
しかし真司が見ればまた違う感想を抱いたかもしれない。
おそらくあの騒動の中誰よりも多くのモンスターを斬り伏せ、屠っただろうあの動きをほとんど完璧に一夏は再現しているからだ。
ここまで完璧なイメージがあれば、実践となんら遜色無い、高度なトレーニングになっていることだろう。
だが、一夏の表情は刀を振るたびに陰りを増し、体に無駄な力みが加わるたび刀の最高速は失われていく。
ただ、その理由は単に疲労が溜まったから、などという類のものではなかった。
一夏はイメージ上のゴブリンを脳天から垂直に切り下げ、大きく踏み出した右足とともに両手で握った刀で、オークの右腕を切り落としたところで動きを止めた。
「違う!これじゃない。あの時はもっと……」
ポタポタと顎から畳に流れ落ちる汗を拭く事も忘れ、乱れた呼吸を大きく揺らす肩で緩和しつつ言葉を噤む。
第9ダンジョンと名付けられたあの場所での戦闘を思い出すと同時に、一夏は整った綺麗な顔の眉間に何本かの皺を寄せた。
あれから数日、何度も何度も感じた小さな違和感。
しかし今ではその何かのせいで、自分の刀捌きが見るも無惨になっている事を、一夏は強く自覚していた。
数日前の騒動で振るった刀はこんなものではなかった。
刀は自分の体の一部かのように馴染み、限界まで研ぎ澄まされた感覚は、モンスターの動きを止まっているかのように捉えた。
しかしあの感覚に近づこうと刀を振るほどに、逆に遠のいて行く感覚に襲われ余計に刀を鈍らせていた。
「これじゃあまるであの時みたいではないか。あんなものもうとっくの昔に克服したはずなのに」
だいぶマシになった呼吸の乱れを整えた一夏は、中学時代の苦い記憶を掘り起こす。
それは一夏が中学に上がったばかりの頃、幼少から磨いてきた己の技全てを侮辱した。
技を捨て力を欲した己の未熟さそのもの。
刀を何度も何度も振り、手には女の子らしくない蛸を作った。
小学校までは力でも技でも全てが同級生の男子達に優った。
しかしある日実家の剣術道場にやって来た父の知り合いの息子に一夏は完敗した。
今思えば勝てない相手ではなかった、一夏はそう冷静に分析しているが、その時は何も出来ずに負けた。
自分よりも強い相手に負けることなんてザラだった、父親や門下生の腕の立つ相手にはいつも軽くあしらわれていたのだから。
しかし一夏は同学年の相手に負けたことは一度もなかった。
それこそ出た剣術大会全てにおいて全勝、柳生一夏の名は全国にだって轟くほどだったのだから。
実際その男子には数年前完勝したことだってあった。
だが、それが覆った時の一夏の衝撃は、その後陥った大きなスランプが物語っている。
努力で、練習量で、技術で負けたのではない。
単純な腕力で一夏は負けた。
その時の一夏の戦闘スタイルは相手の力を探るため、敢えて真っ向からの撃ち合い。
そして相手の実力を測った上で技でいなし圧倒するというもの。
相手との実力の差が無ければ出来ない芸当だが、事実それまでの一夏はそれで無敗だった。
その日も技ではなく力で相手を試そうとして、そして力負けした。
誰よりも練習してきたはずなのに、いとも容易く一夏の一振りは弾かれ、さらに打ち合い気付いた時には場外まで押し出されていた。
それでも磨かれた技を使わず力で勝とうとしたのは一夏の意地であり、誰よりも研鑽を積んできたが故の誇り。
肩で息をしながら力の入らなくなった足で防戦一方になり、最後には全く力の入らなく手は一夏の意思を無視し木刀を床へと落とした。
その時初めて一夏は知ったのだ、男と女では腕力が違うのだと。
女の自分ではいくら力をつけても、自分よりも努力の少ない男には勝てないことを。
素振りをしても門弟達のように筋肉は付かない、クラスメイトの女子達と同じかそれ以上に胸は膨らみを増していく。
才能、男に生まれなかった自分の才能を認めたくなかった。
自分に無いものを求めた。
「……まるであの時と同じじゃないか」
一夏は再びそう呟いて静かに汗を拭った。
そして一夏は前を向く。
しかしその瞳に映っていたのは燃えるような、熱く滾った何か。
数年前は単純な腕力が欠けていただけ、しかしそれを見事乗り越えたてみせた。
今回も同じ、ただそれだけ。
一夏は自分にそう言い聞かせる。
違うことがあるとすれば今回はその足りない何かが何なのか、その正体を一夏は自分で理解できていなかった。
「多田……真司。多分彼とまた戦場を共にすれば何かわかるはずだ。私よりも劣った稚拙な戦い、あの動きはまるで剣の手解きを受けていないど素人。でも今の私に足りない何かを持っていたような気がする。それに……あの感覚……初めて誰かと一緒に戦った気がする」
授業でクラスメイトとダンジョンに入り、モンスターと何度も戦った。
パーティーで役割分担し、盾役、攻撃役、回復役で戦った。
しかしその中の一度でも数日前のような、あの誰かに背を任せても微塵の不安も感じなかったことはない。
常に全方位を警戒し、できれば刀の届くところに立たないでほしいという感覚もなかった。
これが仲間と戦うという感覚なのだろうか?
そして一夏にはもう一つ気になっていたことがあった。
「それにあの刀。ダンジョンを出る前に消えてしまったが、あの荒武者という刀は凄まじかった。斬れ味もそうだが、まるで私のためにあつらえたような手に馴染む感覚。長さや振りやすさだけではない、特に荒武者という刀の名だ。まるで私自身を見透かされているようだった。……いったいあの男は何者だ?」
そこまで考えたところで一夏の視界が時計の針を捉えた。
「しまった、考え事をしていたらこんな時間に」
朝稽古のために特別に貸してもらっている道場だが、授業に遅刻するようなことがあればしばらく貸してもらえない可能性もある。
校則の緩いダンジョン学園だとしても、生真面目な一夏の性格がそれを許さなかった。
それに急がなければビショビショに汗をかいたまま教室に行かなければならない。
年頃の女子としては飾り気の少ない一夏でも、そこまで体面を気にしないほど女子として大切なものを捨ててはいない。
一夏は道場にきっちりと一礼を済ませると、道場に完備されているシャワー室へと向かった。
汗でまとわりつく道着を脱ぎ、下着を外していく。
「やはり胸は邪魔だな。これ以上大きくならないでもらえると助かるのだが」
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