終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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オトナの時間

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 真司達がゲートを後にし、残っていたのは第一ダンジョン学園の教師12名と、陸上自衛隊第4ダンジョン特科の20数名。
 ダンジョン特科の隊員達は半数ほどが負傷し、そのうち4名はかなりの深手を負っていた。
 ここから急いで病院へ向かっても助からない可能性の高い4名のため、笹田三等陸尉はある決断を下した。
 そして笹田は近くにいる朱夏の元へ歩み寄り、朱夏と視線が合わさった瞬間深々と頭を下げた。

「このままでは4名の隊員は助からないかもしれない。それに情けないことですが、半数もそれなりの負傷をしている。重症の4名はこちらのヒーラーで回復しつつ、動けるものでゲートの死守をする予定です。本来は我々の任務なのですが、ゲート死守にどうかお力をお貸し頂けませんか」

 笹田が下げている額からはポタポタと血が流れ土を湿らせ、それでも笹田は頭を下げたまま朱夏の言葉を待つ。
 しかし笹田の待ち望んだ答えは返って来なかった。

「すまんが、邪魔だ。巻き込む恐れがあるから生徒達を返したんだ、貴様らもさっさとそこのゲートを潜って帰れ」

 ゲートは守るが隊員達の事など知らない。怪我をして死ぬのが怖いならダンジョンに関わるな。
 朱夏の冷徹な言葉は笹田の中でそう解釈される。
 その瞬間勢いよくあげた頭から血が振り撒かれ、力んだせいで酷く痛む頭にはみるみるうちに血が上っていくのがわかった。

 大切なものを守るため、アビリティが劣るから攻略者は無理だと言われても、自衛隊に入りそれこそ血の滲む努力をしてきた。
 倒れている重症の4名もそう。
 劣る力でも組織として戦う事で戦える力を手に入れたのだ。
 それを邪魔だ、そんな風に切り捨てろと言われて黙る人間が、こんなところに立つはずがない。
 笹田は目の前の赤髪の女性に迫り、食ってかかろうとするが、笹田の怒りは音もなく消える。

 笹田の前にいたのは先程までいた、全身血のように赤で染められた凛々しい女性ではなく。
 まるで血に染まった獣。
 口角は不気味に釣り上がり、目は鋭く獲物を狙う猛禽類のようで、全身真っ赤のコーディネートは本物の血ではないかと疑わしき程。
 大の大人でも震え上がるハンターがそこにはいたのだ。

 笹田が思わず朱夏から視線を外すと、朱夏の後ろにいた他の教師陣も似たように不気味な笑みをこぼしている。

「……こ、こんな状況で何が面白いんだ、狂ってる」

 言わんとしていた言葉とは違う言葉を漏らした笹田に対し、朱夏は先程よりも少し声量を抑え諭すように呟く。

「ここから先はお前の言う狂った人間しか立てない場所だ。生徒達を帰したのも|まだ(・・)見せられないってのが本音さ。あと、勘違いするな。隊員を見捨てろと言ったわけじゃない、攻略者だって味方の命を誰よりも大切にするもんさ。仲間を見捨てりゃ、そいつは一生攻略者の爪弾き、それが暗黙の了解って奴だ。うちの養護教諭が一瞬で全員回復してやるから、そしたら帰れってことさ。そんで元気な隊長さんは、他のお仲間があたしらの邪魔をしないよう入ってくるなとだけ伝えてくれればいい。わかったな」

 笹田はただ静かに一度頷き、直後回復魔法が発動したのを確認すると、回復した隊員達を纏めゲートを通過し姿を消していく。

「さぁ、楽しい楽しい狩りの始まりだ。幽々子、斥候の方はどうだ?」

「数は多いですが大したことはなさそうですね。ゴブリン1000体、オーク300体、トロール300体、ミノタウロス100体、ケンタウロス100体、グリムリーパー30体。主なのはこんなところです。あと数分で来ます」

 幽々子の出した斥候、それは先程召喚したファントム達である。
 幽々子は自身の分身ともいえるファントム達で敵の本体の位置や数を探っていていた。
 先程倒したモンスター達はそのついででしかない。

「なるほどなるほど、それだけいれば少しは暇潰しに丁度いい。しかし全員で行っても混乱しそうですし、攻めと守り、ジャンケンで決めるのは如何ですか?」

 そう提案したのは羽切廉、そしてその顔には恐怖など微塵も感じさせることのない、薄い微笑が貼り付けられている。

「羽切先生の言うことも最も。しかし折角全員で来たわけだし、半分くらいで交代はしたいものですな。こう見えて私ジャンケン弱いもので」

「いやいや、見た目でジャンケンの強い弱いなんてわかりませんでしょう。まぁ、私はジャンケン鬼強ですがね、この人数でジャンケンではすぐ決まらないでしょうし、ここは私がバランスよく分けてもよろしいですか学園長」

 一際体の大きい無数の傷を持つ男性、二年A組の担任である安藤|鋼(はがね)が言い、眼鏡をかけた細身の男性、三年A組の担任である黒田|官慈(かんじ)が言葉を帰す。

「そうだな、じゃあお前に任せよう。現代の孔明と言われたお前にな」

「私など諸葛孔明には及ばないと幾度も言ってはいたんですけどね。結局それで浸透してしまい不本意なのですが、この際それは置いておきましょう」

 それでは、と黒田は眼鏡のブリッジ部分を右手中指で上げ、攻めと守りを半々に分け始める。
 元々そう決めてたと言わんばかりに黒田はスラスラと名前を呼び、攻めと守りはすぐに決まる。
 その班決めに文句が出なかったのは、黒田に対する信頼と、単にどう分けられようが問題ないという自信の表れでもある。

「それじゃあ行きましょうか」

「おい幽々子、ちゃんと私達の分も残しておけよ」

「わかってますよ」

「半分いったら交代だからな、交代って言われたら交代するんだぞ」

「わかってますって。朱夏さんじゃないんですから」

 ───なるほど、黒田先生が朱夏さんを最初守りに選んだのが疑問でしたが、朱夏さんを先頭にしたら途中で交代しないかもと思ったからかしら。


 幽々子が黒田の班分けを感心している間にも、すでに森の奥からは大量のモンスターによる地鳴りで、まるで地震のように地は揺れている。
 しかし当然のように誰一人としてその表情に不安の色はない。
 元S級として名を日本中に轟かせている彼らは、それぞれ得意なアビリティを発動し狩られる側とはつゆ知らないモンスター達の先手を取った。

 範囲魔法を得意とするものが、敵のど真ん中を吹き飛ばし、混乱するモンスターを召喚した自分の分身や、自身の力を数倍に強化し突撃、魔法の刃で的確に首だけを落としていく。
 その光景は戦闘ではなく、一方的な惨殺であり、圧倒的強者による狩りであった。

 そして20分も経たないうち交代という朱夏の声が響き、さらに15分後には教員12名を残して立っている者の姿はなく。
 辺り一面に広がっていた森は見事なまでに更地になっていた。
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