終末のダンジョンアカデミア

三國氏

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林間学校

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 5月上旬、一年生全員が集まり学年集会が行われたのは記憶に新しい。
 学年集会ではまず生徒会に入ることになった俺と柳生、さらには各委員会に選ばれた数名の生徒達が呼ばれステージに並ぶ。
 ちなみに同じクラスの前田|慶瞬(けいしゅん)は風紀委員会に選ばれていた。

 代表して生徒会の俺と柳生が挨拶をした訳だが、俺なんかは超簡単に挨拶を済ませた。もちろんこれには深ーい訳があった。
 なんせその日のメインははっきり言って俺達ではなかったからだ。
 俺たちはせいぜい前菜、そして今日の集会のメインは、翌週に控えた林間学校の情報開示。
 場所やら日程やらを中年男性の教員が説明し、ようやく俺達は林間学校の全貌を把握する事になった。


 そして現在、5月18日月曜日の朝。今日がその林間学校の初日であり、俺達はその会場にもなる第四ダンジョンへと向かうバスの中でくつろいでいる。

 バスの微かな揺れに逆らうことなく目を閉じ寝ている人や、隣の席に座る誰かと林間学校についてあれこれ話を膨らませる人。
 ヘッドフォンをして音楽を聞く人に、静かに景色を楽しむ人。
 しかしじっとしてられない困った君の東は、景色も見飽きたとばかりに会話を振ってくる。

「なぁ、真司さんよー。第四ダンジョンってまだ着かねぇのかい?もうこれ以上バスに揺られるのはしんどいぜ」

「ったく。子供じゃないんだからもうちょい我慢しろよな。確か第四ダンジョンがあるのは富士山の少し上の方だったな。5合目までバスで行くとして、あと2時間はかかるな」

 第四ダンジョンに繋がるゲートがある場所は富士山の6合目付近、正直言って移動はかなりめんどくさい。

「なんで富士山にダンジョンがあるんだよお。てか、もっと近くのダンジョンでも良かったのに。例えば第ニダンジョンとかさあ」

「確かに第ニダンジョンなら埼玉だし近いな。でもそしたら林間学校じゃなくて、臨海学校になってたけど」

「あぁ、あれだろ。埼玉だけど海ありますってやつ。それならそれで良くねぇか?山も嫌いじゃないけどよ、女子の水着が拝めるなら海に分配が上がるわ」

「何それ聞いたことねぇけど、埼玉って海無いの?とにかく遊びに行くんじゃないから水着は着ないだろ。着るとするなら……ビキニアーマーとかか」

 そう返すとあからさまに落ち込んだ東は、ため息混じりに富士山の中腹へと視線を移す。

「はぁ、だいぶ近づいたな」

 静岡に入りしばらく経ち、東の言う通り東京から見える富士山よりもだいぶ大きくなっている。

 俺達が生まれる前は富士山を登る観光客が大量にいたそうだが、ダンジョンが出来てからは、富士山に登る人間=ダンジョン攻略者というのが常識であり、富士山は見るものだと子供の頃に教え込まれていた。

 しかし今考えてみると攻略者を目指すような子には育てない、という院長の意思のようなものがあったように思えなくもない。
 そんなことを考えると少し申し訳ない気にもなる。

「どうしたのバス酔い?」

 気難しい顔をしてるように見えたのか、通路挟んで左側の杏花は酔い止めあるよと、荷物から出そうとしているので止める。
 俺は基本的に車酔いなどしないし、今回のは単に物思いに耽るというやつなのだから。

「ちょっと考え事してただけだから、ありがとう杏花」

「そうだよね、真司君車酔いとかしなそうだもんね。私は昔すぐ酔っちゃうタイプだったから、念のため持ち歩いてるんだ、すぐ効くやつ」

 そう言って杏花は微笑んだところで、その逆に座る東からは別の意味の微笑み(というよりはニヤケ顔だろうか)が目に入る。
 言いたいことはわかる。
 結局あの日のデートではモンスターのせいで杏花の告白がうやむやになったわけで、俺自身なんとも言えない気まずさを感じているのだから。
 それでも気まずくならないよう変わらぬ態度で接してくれてる杏花に感謝はしているが、結局それでは答えを先延ばしにして逃げているだけという自覚はしている。
 だからタイミングをみて、傷つけぬようそれとなくお断りを告げなければならない。
 そう、逃げてるのではなく、俺はタイミングを見計らっているだけなのだ。

 自分でも言い訳がましいと思いつつ、出来るだけ平静を装った俺は普段通りに接してみせる。

「そうだな、あんまし酔った記憶はないな。もし酔った時は杏花に頼むよ」

「うん、任せて」

 そんな何気無い会話を続けて、いつしか途切れる。
 そして頃合いを見計らったかのように、バスに揺られていたせいか軽い睡魔がやってくる。
 もちろん逆らいはしない、眠い時は眠ればいい、というわけで俺は睡眠欲に身を任せ静かに目を閉じる。


 どれくらい経っただろうか、バスの中という割に深めの睡眠を取れたようで、若干頭が重い。
 誰に起こされたわけでもないが、ちょうど目的地に着いたところで目が覚めバスから降りる。
 ただしバスを降りたすぐ目の前にあったのは、富士山7合目という看板と巨大なゲート。
 観光地ではないのでwelcome toなんて言葉はどこにも書いて無いし、ゲートは俺達を威圧し呑み込もうという気さえ感じる。
 まぁ、そんなことどうでもいい。
 どうせいつも見てる第一ダンジョンと同じで何も変わらないのだから。

 それにしてもなんでここにゲートがあるのだろうか?と疑問に思っていたのだが、後からバスを降りてきた他の生徒の言葉ですぐに解決した。

「ゲートがあるからって7合目までバスで行けるようになって便利だよね~。つい最近繋がったんだっけ」

「そうそう、昔は5合目までだったらしいけど、5合目から武器とか運ぶの大変だもんね。林間学校が登山になっちゃうし、いや、それはそれで普通の学校なら間違ってないのかな」

「それな~。うちら普通の学校と違うし」

 クラスの女子の会話を聞き、なんで7合目までバスで来たのかようやく理解できた。
 つまり5合目から3泊4日分の着替えなどの荷物プラス、野営用の荷物やらその他武具全般を担いで、ハードな登山しなくていいということだ。

 きつい斜面をならし作られた駐車スペースで降り、バスの荷台から荷物を取り出し担ぐ。
 俺達が何度か足を運んだ第一ダンジョン同様、ゲートからモンスターが出ないよう要塞のように取り囲んだ鉄の扉の前に一旦集まった。

「A組とB組はダンジョンでの演習の班に別れろ」

 B組の担任教師の掛け声によって俺達はいつもの班に分かれ縦に並ぶ。
 班長の俺が戦闘でその後ろに東、蘭丸、杏花、音符が機敏な動きで並び終える。
 他の班も同様だ。
 これからダンジョンに入るのに、遠足気分で浮かれている顔はどこにもない。
 逆に緊張で顔を強張らせているほうが多いくらいだ、特にというのであれば同じ班の蘭丸はかなり顔が強張っている。

「それじゃあC組とD組の生徒もそれぞれ並んでくれ」

 俺達戦闘科のクラスの生徒が並び終えた後ろに、C組の攻略サポート科、D組のダンジョン調査科の生徒が2人ないしは3人並ぶ。

「各班、戦闘科の生徒5名に攻略サポート科とダンジョン調査科の5名。合わせて10名でダンジョンに入ってもらう。まず行うのは林間学校の定番ウォークラリーだ。5階層を超えた奥にある安息地帯まで来て野営の準備をする。制限時間は丸1日、遅れたものは置いていくからな。それと戦闘科生徒は当然非戦闘員である班員を守りながら進むよう。それじゃあ、最後に今回の林間学校で特別手伝いに来てくれた方々を先に紹介しておく。ちょっと前に来てくれるか」

 林間学校学校のしおりにも書いてある説明をなぞるようにB組の担任は話し。
 そして手伝いをしてくれるという人達が俺達の前に並ぶと同時に、あちこちからざわめきが起こる。

「なぁ、真司。あれ生徒会長だよな?他にも見たことある先輩いるけど」

 俺の後ろにいた東も驚きに満ちた声で俺の肩を叩いてくる。

「ん、あぁそうだな」

「そうだなってお前も聞いてなかったのか?生徒会なのに」

「あれもこれもヒ・ミ・ツとしか言わないからなぁあの生徒会長さんは。俺も名前だけは林間学校の実行委員だけど、正直言って何もしてないし、何も知らねぇのよ」

 確かによく見れば生徒会長に副生徒会長、風紀委員長にその他諸々。
 さらには学校では見かけない、というか年齢的に成人してるであろう女性が10名ほどいる。
 時代遅れなのか一周して時代の先取りかはわからないが、真っ白な特攻服にそれぞれ難しい漢字が書かれ、それを羽織る女性は皆真っ赤な紅をしている。

「……紅蓮乙女かなぁ?」

 後ろから聞こえてきた杏花の声で、俺の考えも確信に変わる。
 噂はかねがねとも言うべき有名なS級攻略者パーティーの一つ、紅蓮乙女の特徴と全く一致しているのだから。
 それに有名な攻略者達はかなり変わった装備をしているのは割と一般常識でもある。
 全身を黒の装備で揃えたちょっとアレなパーティーや、逆に白銀の装備で揃えたパーティーなど、一つ一つ挙げていればキリがないほどだ。

「紅蓮乙女……聞いたことねぇけどなんだそれ?知ってるか蘭丸?」

「あっ、うん。有名な攻略者パーティーだよ。単独での20階層の階層主攻略や、下層における新ルートの開拓とか第6次モンスター侵攻での殲滅戦とか、派手な活躍の仕方で有名かな。今は三代目のリーダー、由美って人が務めてるらしいよ」

 一般常識のようなものとはいえ東のように名前も知らなかったり、蘭丸のようにここまで詳しいのも少し珍しいが。

「常識だぜ東。それよりよくS級攻略者パーティー丸々雇えたもんだよ。この学園にいくら金があるからって、天下のS級が学生の子守なんて普通引き受けないだろうけど」

「確かにそうだね。何かしらコネが無ければ難しいかな」

 その言葉にすぐさま返したのは蘭丸である。
 どうやら興奮のせいでいつもより饒舌になっているらしい。

「はい、静かに」

 紅蓮乙女という名でざわめきたっていた全体に教師の一人から注意が促され、ざわめきは収束していくが妙な熱気は微かに残った。

(S級攻略者という目指すべき目標の一つが目の前にあれば仕方ないか)

 おそらく後ろを振り返れば多くの生徒が羨望の眼差しを向けていることだろう。
 俺の主観だが特に蘭丸なんかは強さへの憧れというのが強いようなので、必死に目に焼き付けようとしているかもしれない。
 その光景はきっと、ヒーローショーを見て憧れる少年ような感じに違いない。

 そんな雰囲気の中リーダーの結美という人物がマイクを受け取り口を開くのだった。
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