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討伐の旅 キンダー侯爵令嬢
私、アンネローゼは侯爵令嬢でございます。
シュバルツバルト家程ではありませんが、我が父上も武を尊ぶ殿方でございます。
その為ことある毎に、やれハインリッヒ様は素晴らしい!だのハインリッヒ様に声を掛けて頂いた!だの……
シュバルツバルト侯に憧れるのは構わないが、娘の私に自慢なのか何なのか分からない話をするのは止めて欲しいものです。
今朝は大人しかった父上も、昼前から何やら騒ぎ出し煩いの何の………
少しでも心静かに、輿入れ前の一月を過ごそうと自室で刺繍をしている所でございます。
バタバタバタ………
石造りの邸で足音を立てるなんて……
バターンッ!
「アンナ!ハインリッヒ様が今日っ!今日、領地に帰ってしまうっ!」
煩くってよ!
エリーゼ様が婚約破棄されたのだから、いずれ領地に帰られるのは分かっておいでたでしょうよ!
「そのようですね。」
まぁ、私はエリーゼ様から伺ってましたけどね。
「なぜ、そのように落ち着いていられる!エリーゼ嬢も行ってしまわれるのだぞ!」
分かってますわよ。
エリーゼ様と私とミネルバの3人で、色んな話をしたわ。
学園に通っている時、ふと仰った事を私は忘れない。
「もし、殿下が私を遠ざけたとしても見放さないで欲しい。私はいつでも貴女達の味方であり続けるわ。万に一つの可能性では、あるけれど男爵令嬢では支えきれないでしょう。」
あの男爵令嬢を側から離さない殿下の姿に、ため息をつきながらも許していたエリーゼ様。
あぁ……詰まらない事も思い出してしまったわ。
「殿下が下位貴族であれば何ら問題が無かったのに、でも下位貴族であればあの男爵令嬢は話し掛けもしなかったでしょうね。」
今にして思えば、エリーゼ様は分かっておいでたのだ。
あの男爵令嬢が野心家なのだと。
「愚かな事。王家に輿入れなど、自ら苦労しに行くようなものなのに。」
そう、笑っていらっしゃった。
私は刺繍を刺す手を止め、ぼんやりと窓の外を見る。
「分かってますわ。私は後……後、一月もしたらジークフリート殿下の側妃として輿入れ致します。エリーゼ様に頼まれましたの、王家をお支えして欲しいと………」
「あの愚かな王子をか!」
父上、はっきり言い過ぎですわ。
「違いますわ、王子ではなく王家をですわ。」
そう、エリーゼ様は王家をと仰った。
学園の中庭で、静かに微笑み……ひそやかな声で。
「私が遠ざけられたら、王家は窮地に立たされるかも知れない。その時は側妃として入り込み、王家を支えて頂戴。」
私達はあり得ないと笑ったけども、でも……現実には殿下はエリーゼ様を遠ざけあの男爵令嬢を正妃として迎えた。
王都の物価は上がり続け、王都民は苦難を強いられている。
生活が逼迫すれば、王家へと反感が募るだろう。
民の流出も免れないかも知れない。
問題はそれだけでは無い、物が高ければ売れない。
売れない物を商人は扱わない。
何もかも売れないと思われれば、行商人自体が商いをしに来なくなる。
いや、売れなくても儲けが無ければ来なくなる。
来なくなる………それは、売る事で生活をしている者全てに関わる問題だ。
誰かが何かを行商人に売り、行商人がそれを商人に売って……それが滞れば…………
由々しき問題だ。
おそらく王家では、対応策を出すのに精一杯だろう。
まさに、今、窮地に立たされている。
きっと輿入れする頃には、更なる窮地に立っているだろう。
「学ばぬ者に明るい未来は来ない。学んだ分だけ選択が増えるわ。ですから、私達だけでもしっかり学び備えましょう。」
あの中庭で……寂しそうな微笑みで、私達をしかと見つめたエリーゼ様の言葉が響く。
そうだ、愚かであってはならない。
私は……私達は、時間が許す限り学んできた。
エリーゼ様……エリーゼ様は何を思い、仰ったのですか?
お側にいて欲しい……
ぼやけた視界に浮かぶ、エリーゼ様の笑顔。
瞬きと共に頬が濡れていく………
「アンナ……済まない。」
「いいえ……エリーゼ様は私の味方だと仰って下さった。それは………それは、エリーゼ様は王家の味方だと仰ったのと同然ですわ。」
そうだ、エリーゼ様はそういう方だわ。
あの男爵令嬢は決してエリーゼ様の言葉を聞こうとしなかった。
そして殿下も………
エリーゼ様は殿下の事を諦めた。
だが、王家の事を諦めた訳では無い。
私はエリーゼ様のご意志を継ぎ、王家の為に……誇りある貴族として王家をお支えする。
「父上、私は誇りある侯爵家の娘です。決して恥ずかしく無いよう、しかと輿入れの準備をお願いします。」
父上は私を見つめ、しかと頷いて下さった。
「勿論だ、我がキンダー侯爵家の誇りと意地がある。」
父上はそう言うと、踵を返し私の自室から去って行った。
私はアンネローゼ・フォン・キンダー、キンダー侯爵家の誇りを持って王家を支える。
私は一人じゃない、ミネルバも遠く離れるエリーゼ様もいる。
例え立場は側妃だとしても、侯爵令嬢として過ごしてきた時間が私にはある。
「胸を張り、顔を上げて。しっかり前を見つめていましょう。恐れていては何も出来ないわ。」
えぇ……エリーゼ様。
エリーゼ様の仰る通りです。
私の心に響くエリーゼ様の言葉の数々。
私は一月後、王家に輿入れする。
シュバルツバルト家程ではありませんが、我が父上も武を尊ぶ殿方でございます。
その為ことある毎に、やれハインリッヒ様は素晴らしい!だのハインリッヒ様に声を掛けて頂いた!だの……
シュバルツバルト侯に憧れるのは構わないが、娘の私に自慢なのか何なのか分からない話をするのは止めて欲しいものです。
今朝は大人しかった父上も、昼前から何やら騒ぎ出し煩いの何の………
少しでも心静かに、輿入れ前の一月を過ごそうと自室で刺繍をしている所でございます。
バタバタバタ………
石造りの邸で足音を立てるなんて……
バターンッ!
「アンナ!ハインリッヒ様が今日っ!今日、領地に帰ってしまうっ!」
煩くってよ!
エリーゼ様が婚約破棄されたのだから、いずれ領地に帰られるのは分かっておいでたでしょうよ!
「そのようですね。」
まぁ、私はエリーゼ様から伺ってましたけどね。
「なぜ、そのように落ち着いていられる!エリーゼ嬢も行ってしまわれるのだぞ!」
分かってますわよ。
エリーゼ様と私とミネルバの3人で、色んな話をしたわ。
学園に通っている時、ふと仰った事を私は忘れない。
「もし、殿下が私を遠ざけたとしても見放さないで欲しい。私はいつでも貴女達の味方であり続けるわ。万に一つの可能性では、あるけれど男爵令嬢では支えきれないでしょう。」
あの男爵令嬢を側から離さない殿下の姿に、ため息をつきながらも許していたエリーゼ様。
あぁ……詰まらない事も思い出してしまったわ。
「殿下が下位貴族であれば何ら問題が無かったのに、でも下位貴族であればあの男爵令嬢は話し掛けもしなかったでしょうね。」
今にして思えば、エリーゼ様は分かっておいでたのだ。
あの男爵令嬢が野心家なのだと。
「愚かな事。王家に輿入れなど、自ら苦労しに行くようなものなのに。」
そう、笑っていらっしゃった。
私は刺繍を刺す手を止め、ぼんやりと窓の外を見る。
「分かってますわ。私は後……後、一月もしたらジークフリート殿下の側妃として輿入れ致します。エリーゼ様に頼まれましたの、王家をお支えして欲しいと………」
「あの愚かな王子をか!」
父上、はっきり言い過ぎですわ。
「違いますわ、王子ではなく王家をですわ。」
そう、エリーゼ様は王家をと仰った。
学園の中庭で、静かに微笑み……ひそやかな声で。
「私が遠ざけられたら、王家は窮地に立たされるかも知れない。その時は側妃として入り込み、王家を支えて頂戴。」
私達はあり得ないと笑ったけども、でも……現実には殿下はエリーゼ様を遠ざけあの男爵令嬢を正妃として迎えた。
王都の物価は上がり続け、王都民は苦難を強いられている。
生活が逼迫すれば、王家へと反感が募るだろう。
民の流出も免れないかも知れない。
問題はそれだけでは無い、物が高ければ売れない。
売れない物を商人は扱わない。
何もかも売れないと思われれば、行商人自体が商いをしに来なくなる。
いや、売れなくても儲けが無ければ来なくなる。
来なくなる………それは、売る事で生活をしている者全てに関わる問題だ。
誰かが何かを行商人に売り、行商人がそれを商人に売って……それが滞れば…………
由々しき問題だ。
おそらく王家では、対応策を出すのに精一杯だろう。
まさに、今、窮地に立たされている。
きっと輿入れする頃には、更なる窮地に立っているだろう。
「学ばぬ者に明るい未来は来ない。学んだ分だけ選択が増えるわ。ですから、私達だけでもしっかり学び備えましょう。」
あの中庭で……寂しそうな微笑みで、私達をしかと見つめたエリーゼ様の言葉が響く。
そうだ、愚かであってはならない。
私は……私達は、時間が許す限り学んできた。
エリーゼ様……エリーゼ様は何を思い、仰ったのですか?
お側にいて欲しい……
ぼやけた視界に浮かぶ、エリーゼ様の笑顔。
瞬きと共に頬が濡れていく………
「アンナ……済まない。」
「いいえ……エリーゼ様は私の味方だと仰って下さった。それは………それは、エリーゼ様は王家の味方だと仰ったのと同然ですわ。」
そうだ、エリーゼ様はそういう方だわ。
あの男爵令嬢は決してエリーゼ様の言葉を聞こうとしなかった。
そして殿下も………
エリーゼ様は殿下の事を諦めた。
だが、王家の事を諦めた訳では無い。
私はエリーゼ様のご意志を継ぎ、王家の為に……誇りある貴族として王家をお支えする。
「父上、私は誇りある侯爵家の娘です。決して恥ずかしく無いよう、しかと輿入れの準備をお願いします。」
父上は私を見つめ、しかと頷いて下さった。
「勿論だ、我がキンダー侯爵家の誇りと意地がある。」
父上はそう言うと、踵を返し私の自室から去って行った。
私はアンネローゼ・フォン・キンダー、キンダー侯爵家の誇りを持って王家を支える。
私は一人じゃない、ミネルバも遠く離れるエリーゼ様もいる。
例え立場は側妃だとしても、侯爵令嬢として過ごしてきた時間が私にはある。
「胸を張り、顔を上げて。しっかり前を見つめていましょう。恐れていては何も出来ないわ。」
えぇ……エリーゼ様。
エリーゼ様の仰る通りです。
私の心に響くエリーゼ様の言葉の数々。
私は一月後、王家に輿入れする。
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