婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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真夜中の闖入者。

それは人々が寝静まる頃でした。
白い豪奢な馬車は、時折ギッギッと軋んだ音を出していました。
中では実に際どい恰好の女性が四人、思い切り汗をかきながらスクワットをしていました。
そんな音がしたとしても、家族の馬車は離れており隣は馬たちばかり。
馬車の中の音は遮音魔法で聞こえません。天幕も領主隊の馬車も遮音魔法で静かなものです。
そんな事を知らない若い男は自分の天幕からソロソロと出て来て、白い豪奢な馬車が軋んでいる事にゲスな想像をしていました。
フラフラと近付いても馬車の中からは物音一つしません、聞こえるのは馬車が軋む音だけ。
とうとう若い男は、己のゲスな想像で暴走してしまいました。
若い男は白い豪奢な馬車の扉を乱暴に掴み、開けようとガタガタと揺さぶります。が開くわけもなく、若い男は苛ついてドンドンと叩きました。

「エリーゼ!居るんだろう!あいつにもう、体を開いているのか!エリーゼ!」

叫んだ言葉に馬車の軋みは収まり……ガチンと内鍵が外れる音がしたと思った瞬間でした。
扉は勢い良く開かれ、若い男は馬車の階段の手前に尻もちを着いてしまいました。

「あいつとは、誰の事を指してらっしゃいますの?ジークフリート殿下。」

出てきたのはシュバルツバルト侯爵夫人でした。
上気した頬に紅い唇、コルセットなぞしなくても素晴らしい曲線が分かる恰好に若いジークフリート殿下は思わず見とれました。
馬車から出て来た侯爵夫人はジークフリート殿下の目の前まで来ると、その黒光りする長いブーツの先でジークフリート殿下のジークフリート殿下をキュッと踏みました。軽く痛むが絶妙な力の為、動く事も出来ず不格好なまま侯爵夫人を見上げてました。

「ねぇ、どなたの方の事ですの?」

クイと踏みにじられ、小さく呻きましたがジークフリート殿下のジークフリートはカチカチになってしまって誤魔化す事も出来ませんでした。

「あ……あの……申し訳ない…………その……勘違いで…………」

「ええ、そうでしょうね。私の馬車に向かってエリーゼの名を仰いましたものね。」

「フェリシア様、旦那様を呼ぶようにアレクに伝えました。」

「そう、後の事はハインリッヒに任せましょう。殿下もその方が宜しいでしょう?」

グリグリと踏みにじられ続け、辛抱溜まらん状態に追い込まれたジークフリート殿下はコクコクと無言で頷きました。
慌てて走ってきた侯爵は厳しい目でジークフリート殿下を見つめると、首根っこを掴んで何処かへと引き摺って行きました。
勿論、侯爵夫人は侯爵が首根っこを掴んだ瞬間に踏むのを止めました。
その後ジークフリート殿下がどうなったのかは、殿下と侯爵だけが知ってます。

ですが誰も見てなかった訳ではありません。
見張りの為に起きていた、領主隊の隊員がしっかり見ていました。
翌朝には報告され、ほぼ全員の隊員が知る所となりました。
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