婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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針仕事

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アタシの名前はマリー。仕事はお針子をしてる。
亭主と子供を連れて、シュバルツバルト領へ侯爵様と一緒に旅をしてる。
亭主は大工で野営の時に荷馬車の補修とかして小遣い稼ぎをしている。
もっとも小遣い稼ぎしても、使う所は殆どない。
朝晩出る食事はお腹いっぱい食べてもタダだてだけでもありがたいのに、驚く程美味しい。
それだけじゃなくて、必ず食後に甘い物か果物が出される。
お貴族様だけかと思ったら、アタシ達平民達にも食べろ食べろと進めてくる。
今じゃ、遠慮無く子供達は走って貰いに行く始末。
旅が終わってから、ねだられたら困っちまうと思ったが使用人の女達は笑って大丈夫だと言っていた。なんでも領地は桃が特産品で、ナリの悪い物なんかは平民が買うには手頃な値段で平民はそいつを買って干したりして食べるらしい。
王都じゃ桃は贅沢品で干した物の欠片でも、中々口にすら出来なかった。
それなのに、侯爵様のご令嬢が自ら料理をしたりお菓子って新しい食べ物を振る舞って下さる。
初めて食べた時は甘くて甘くて、ホッペタが落ちるかと思ったよ……
おっと、いけない!考え事をしてても針を止めないのがお針子だ!うっかり止まりそうになっちまった。
荷馬車が動いてる時は危ないから、針は持たないが野営の時の止まった時にと仕事を頼まれた。
依頼者は侯爵様で、依頼は後からやって来た連中に服を縫ってくれって事だった。連中は殆どが着のみ着のままやって来たようだった。準備も碌々出来ずに金を出し合ったらしい。家財道具の殆どを売って金を作ったらしい……私達みたいに大した金もかからずに侯爵様と一緒に王都を出て来た者は幸運だった。

「よし、女物のドレス上がったよ!」

「お次は子供用だよ。」

「なんだい!ちっとも終わりゃあしない。」

「あはは!旅が終わるまでの仕事さぁ!」

「そうそう、やったらやった分だけはずんでくれるんだ。」

「ありがたいこったよ。」

「そりゃそうだ!子供用かい、どっちを作れば良いんだい?」

「どっちだって良いよ、どっちもいるんだからさぁ!」

「男物のシャツが出来たよ、アタシも子供用を縫うかね。」

「あいよ!」

お針子仲間と一緒に一生懸命縫う。
縫うのが仕事だからね!それにね、うちの子供が言うんだよ「お針子してる母さんはかっこいい」ってさ。
子供にそんな事言われたら嬉しいじゃないか。
だから、頑張れるだけ頑張るのさ。
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