婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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好きになった人。

キンダー侯爵家領主館は朝からみんな、大忙しだった。
お父様は難しいお顔で、ブツブツひとり言を言っていた。
お母様はそんなお父様を見て、時折ため息をついていた。
シュバルツバルト侯爵様は辺境侯爵、うちと違ってずっと広い領地と多くの寄子貴族を抱える大貴族だって教えて貰った。

『ギル、私の憧れ。シュバルツバルト侯爵家のエリーゼ様、あれ程素晴らしい方はいないわ。いつか、貴方にも紹介したいわ。』

アンネローゼお姉様が会う度にいつも自慢していた方。美しくて完璧だと思ってるアンネローゼお姉様ご自慢のご令嬢。でも、最近聞いた噂ではとてもアンネローゼお姉様が自慢なさった方だと思わなかった。曰く、どこかの貴族令嬢をいじめた。曰く第三王子殿下を蔑ろにした。曰く令嬢をいじめた事で婚約破棄された……
アンネローゼお姉様の言葉は嘘だった?お姉様は騙されたの?
僕は悲しかった。アンネローゼお姉様を騙した女を令嬢なんて呼びたくなかった、でもそれは余りにも失礼だ。どうせ女なんて着飾っただけで、詰まらないお喋りしか出来ないんだ。僕が成敗してやる!

なのに、木剣で軽くいなされた。
ビックリする位、お美しかった。冬の朝みたいなキレイな方だった。明らかに高価だと分かる武装を身に纏った美しくて強そうな令嬢。
アンネローゼお姉様が自慢なさった方、完璧だと仰られる方。
婚約破棄されれば、相手は居ないと思ったから迎えに行くと言った。なのに……なのに、ゴルゴダ帝国の皇子様が新たな婚約者だって……
我が国の王子殿下に婚約破棄されて……なのに我が国と違って大国のゴルゴダ帝国の皇子様が新たな婚約者なんて……
勝ち目なんてなくて、恥ずかしくて思わず走って逃げた。
逃げ隠れする場所なんて無いから、自分の部屋に逃げた。

クルクルクル……

「なんか美味しそうな匂いする……」

アンネローゼお姉様よりも美しくて強い女性……エリーゼ様。
頭もよくってお心も優しい方。
あんなに美しい人もお腹とか空くのかな?ちょっとだけ自分のお腹に恨み事が浮かぶ。
エリーゼ様、僕が初めて好きになった人。
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