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キンダー侯爵領・領主館別館
キンダー侯爵領の領主館には増築された部分がありそちらは別館と呼ばれ、次期侯爵となるハインリッヒの弟であるキャスバルが住んでいる。キャスバルの名前の由来ははっきり言えば、父親であるキンダー侯爵その人が尊敬し憧れるシュバルツバルト侯爵の嫡男の名前をそっくりそのまま命名したからである。この時も命名し発表した後、奥方から斧を三本程ぶん投げられたが全く反省せず開き直った事は領主館に古くから勤める者達には有名な話となっている。
さて、そのキャスバルも早々に婚姻した。年の頃合も合うと言う事でロズウェル伯爵の隣に位置するギョーム公爵家のレティシア嬢と幼少時に婚約し、一つ年下のレティシア嬢が学園卒業すると同時に婚姻し領主館別館で仲むつまじく暮らし二人の子供にも恵まれた。
夫婦仲も良く、子供達とも良好な関係を築き幸せなキャスバルは滅多に訪れない夫婦の危機を迎えていた。
「こ……これ程の美味……先に義姉様がお食べになってると言うの!それもシュバルツバルト侯爵様一家の皆様と帝国皇子も同席して!あんな……あんな伯爵家の娘が!」
元は公爵家令嬢だったレティシアには、とんでもなく不幸に感じれる事だった。レティシアと年頃の合う高位貴族令息は殆どおらず、居たとしても遠く離れている者ばかり。せめて次期殿でもあればと思えど、そのような令息は既に婚約者が決まっていた。そのため手近なキンダー侯爵家次男であるキャスバルと婚約をしたのだった。婚約者のいないシュバルツバルト侯爵家の令息達は、申し込みを何度もしたが断られた挙げ句に随分と後になってから次男がウナス伯爵家令嬢と婚約したと伝えられた。キンダー侯爵は意外とやり手で領内を上手く回していたため、割と裕福で他領よりは豊かな暮らしなのだがレティシアからすればそんな事より自分が一番になれない事に時折腹を立てるのだった。
キャスバルはこの料理も立ち寄った意味を考え、レティシアの怒りに立ち向かう事にした。
「レティシア、自分なら冷静に対処出来たかい?随分と夢中で食事を進めていたようだけど。」
レティシアはハタと考え込んだ。初めて食べたそれらの美味を前に、無我夢中で一心不乱に食べ続けた実に淑女とは言い難い己の姿に怒りも忘れ呆然とした。
「お客様の前でせめて落ち着いて食事出来たかい?」
余りの事にハラハラと涙を溢し、フルフルと頭を振ったレティシアは恥ずかしさの余り手で顔を覆ってしまった。
「私だって無理だよ。兄上と義姉上は頑張ったと思うよ、それにねレティシア。この料理……これ程の物は多分、王都のどの貴族も口にしてないと思うよ。」
その言葉を聞いてレティシアはいまだこぼれ落ちる涙をそのままに、手をパタリと落としキャスバルの顔を見つめた。
「お父様もお母様も口になさってない……?」
「そう、多分ギョーム公爵様もうちの両親もだ。我が家で作ったと言う事は、この先我が家にこれらの美味に近付く何かを授けて下さったと考える方が妥当だ。」
レティシアは恥ずかしさよりも悔しさよりも、この先も味わえるかも知れない未知なる美味に思いを馳せキャスバルに抱き付き涙に濡れたままの顔で微笑んだ。
「私ったら恥ずかしいわ!義姉様の事を悪し様に言うなんて!そうよね!我が家で作って下さったのなら、お父様やお母様をお呼びして味わって頂けば良いのよ!旦那様、ありがとう。私を諫めるだけでなく、大切な事を教えて下さるなんて!旦那様に嫁げて私、本当に良かったわ!」
レティシアはキャスバルの胸に縋りつき、可愛らしく微笑む。
キャスバルは妻の怒りが解け、一安心すると同時に可愛らしい妻の笑顔に今夜はうんと可愛がろうと決心をする。
まだまだ若い二人の夜は長い。
さて、そのキャスバルも早々に婚姻した。年の頃合も合うと言う事でロズウェル伯爵の隣に位置するギョーム公爵家のレティシア嬢と幼少時に婚約し、一つ年下のレティシア嬢が学園卒業すると同時に婚姻し領主館別館で仲むつまじく暮らし二人の子供にも恵まれた。
夫婦仲も良く、子供達とも良好な関係を築き幸せなキャスバルは滅多に訪れない夫婦の危機を迎えていた。
「こ……これ程の美味……先に義姉様がお食べになってると言うの!それもシュバルツバルト侯爵様一家の皆様と帝国皇子も同席して!あんな……あんな伯爵家の娘が!」
元は公爵家令嬢だったレティシアには、とんでもなく不幸に感じれる事だった。レティシアと年頃の合う高位貴族令息は殆どおらず、居たとしても遠く離れている者ばかり。せめて次期殿でもあればと思えど、そのような令息は既に婚約者が決まっていた。そのため手近なキンダー侯爵家次男であるキャスバルと婚約をしたのだった。婚約者のいないシュバルツバルト侯爵家の令息達は、申し込みを何度もしたが断られた挙げ句に随分と後になってから次男がウナス伯爵家令嬢と婚約したと伝えられた。キンダー侯爵は意外とやり手で領内を上手く回していたため、割と裕福で他領よりは豊かな暮らしなのだがレティシアからすればそんな事より自分が一番になれない事に時折腹を立てるのだった。
キャスバルはこの料理も立ち寄った意味を考え、レティシアの怒りに立ち向かう事にした。
「レティシア、自分なら冷静に対処出来たかい?随分と夢中で食事を進めていたようだけど。」
レティシアはハタと考え込んだ。初めて食べたそれらの美味を前に、無我夢中で一心不乱に食べ続けた実に淑女とは言い難い己の姿に怒りも忘れ呆然とした。
「お客様の前でせめて落ち着いて食事出来たかい?」
余りの事にハラハラと涙を溢し、フルフルと頭を振ったレティシアは恥ずかしさの余り手で顔を覆ってしまった。
「私だって無理だよ。兄上と義姉上は頑張ったと思うよ、それにねレティシア。この料理……これ程の物は多分、王都のどの貴族も口にしてないと思うよ。」
その言葉を聞いてレティシアはいまだこぼれ落ちる涙をそのままに、手をパタリと落としキャスバルの顔を見つめた。
「お父様もお母様も口になさってない……?」
「そう、多分ギョーム公爵様もうちの両親もだ。我が家で作ったと言う事は、この先我が家にこれらの美味に近付く何かを授けて下さったと考える方が妥当だ。」
レティシアは恥ずかしさよりも悔しさよりも、この先も味わえるかも知れない未知なる美味に思いを馳せキャスバルに抱き付き涙に濡れたままの顔で微笑んだ。
「私ったら恥ずかしいわ!義姉様の事を悪し様に言うなんて!そうよね!我が家で作って下さったのなら、お父様やお母様をお呼びして味わって頂けば良いのよ!旦那様、ありがとう。私を諫めるだけでなく、大切な事を教えて下さるなんて!旦那様に嫁げて私、本当に良かったわ!」
レティシアはキャスバルの胸に縋りつき、可愛らしく微笑む。
キャスバルは妻の怒りが解け、一安心すると同時に可愛らしい妻の笑顔に今夜はうんと可愛がろうと決心をする。
まだまだ若い二人の夜は長い。
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