婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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ある日の帝国皇室

その日、ゴルゴダ帝国皇帝執務室に詰めていた宰相アーネスト・コレミツ・ド・シルヴァニアは頬に感じる風に何処からか便りがもたらされた事を感じた。

「主からの便りだ。」

姿を現したのは小型の水色のハーピー。これは末娘フェリシアのモノだと、分かっていた。
便りを受け取る為に差し出した手のひらに羽根を震わせ、手のひらに手紙をポトリと落とす。この不思議なハーピーが何であるか考える事はしない。丸められた手紙の封蝋を皇帝の机上に置いてあったペーパーナイフで切る。
アーネストは手紙をザッと読むと、どうしたものかと皇帝を見た。

「コレミツ、どうした。お前がそんな顔をするとはただ事ではなかろう。」

十代の頃から親密な関係を築いて来た。それ故、ちょっとした顔色や表情である程度の事は分かる。今のアーネストの顔は困ったような、嬉しいような顔だった。

「私の娘がオーガスタ王国の貴族に嫁いだ事は以前お話したと念いますが、その娘の娘。私からすれば孫娘にあたる娘が陛下の孫と婚姻する事となったと。」

肩眉を上げた皇帝アレクシオンは、少し迷った顔でアーネストを見つめた。

「陛下の孫。ジョルジオ皇太子殿下第三側妃ノーマ様の末子ルーク殿下の事は覚えてらっしゃいますか?」

ふむ……と考えた皇帝アレクシオンはおっ!と思い出した。

「確か外遊している皇子だな。うむ……アレは第五皇子だったな。除籍され市井で暮らしたいとか言っていた者だろう。コレミツの所から馬とバッグを贈らせた者だったな。そうか、アレがコレミツの孫娘を射止めたか!」

アーネストは一つ頷き、ニコリと笑った。

「今まで我がシルヴァニアは、誰一人としてゴルゴダの血を引く者を求めませんでした。ここにきて一緒になるとは思いもよりませんでした。」

皇帝アレクシオンもニコリと笑い、目を細めた。

「市井で暮らしたがったような変わり者だ、帝国に帰ってこらせるのは難しかろう。コレミツ、盛大に祝いの品を送り付け絆を深めるが良かろう。」

「はい。最近のオーガスタ王国はあまり良い噂を聞きませんでしたが、ここでシュバルツバルトと強い繋がりが出来れば何かと宜しいでしょう。いくら変わり者と言え、帝国皇子である事に変わりはありません。では、ジョルジオ皇太子殿下に伝えて参りましょう。半年後には婚姻式と言い出しておりますからな。」

ハハハ!と皇帝アレクシオンは大声で笑った。

「シルヴァニアの血とは怖ろしいな!それ程までに求められたか!」

アーネストも同じように大声で笑うと「良き事ですよ!」と返し皇帝執務室から消えた。
アレクシオンはアーネストの背中を見つめたまま、椅子の背もたれに深く体を沈め瞼を閉じた。
アレクシオンは帝国が出来てからずっと、ゴルゴダ皇家とシルヴァニア公爵家が婚姻で結ばれる事が無かった事を考えていた。ずっと今まで求められなかったのだ。それが第五皇子とはいえゴルゴダ皇家の血筋の者と、シルヴァニア公爵家の血を引く娘が婚姻する事の意味を思うと僅かに身震いした。

「何かあるのだろうか……それとも時代が変わるのか……」

皇帝アレクシオンの小さな呟きは広い室内に落ちて消えた。
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