婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

文字の大きさ
289 / 756

僕のお転婆姫(トールの思い出)

しおりを挟む
「チョーにーたま!」

僕は妹が生まれた時、あんまり小っちゃくて触ったら壊れちゃうと思って触れなかった。
やっと最近になってからエリーゼが兄様の事を「ちゃーにーたま」と呼び、僕の事を「チョーにーたま」と呼んでくっついて来るようになった。
最も、キャスバル兄様がいない時に僕が居る時だけだけど。
でも良いんだ。エリーゼが兄様のお膝の上で幸せそうに笑ってるから。エリーゼが笑ってくれるなら、それが一番なんだ。だって僕はエリーゼの兄なんだから!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

いつの間にかエリーゼは僕の事を「トール兄しゃま」と呼ぶようになった。相変わらずエリーゼはキャスバル兄様のお膝の上が一番のお気に入りだ。そんなエリーゼは僕とキャスバル兄様では態度が違う。

「トール兄しゃま……だけ?」

「そうだよ。」

エリーゼは最近、フワフワした薄い黄色のドレスがお気に入りだ。僕の前に来るとクルクルッと回ってドレスの裾を広げて見せる。その様子がとっても可愛くて僕はとっても嬉しくて幸せなな気持ちになる。

「今日のエリーゼ、とっても可愛い!まるで黄色い花のようだよ!」

「ホント?ホントに?お花のよう?」

クルクルと回る。可愛い僕の妹。キャスバル兄様の時とは違う顔……僕の前だけの妹。

「本当だよ!」

キャッ!と小さく叫んでピタッと止まる。トタタタと走ってはクルクル回ってキャッ!と言っては止まる。あっちこっちでやって見せる。本人は面白いと思ってるし、僕は可愛いと思って見てる。気が済むまで一人でクルクルすると、僕の所にやって来る。

「ウフフ!たのしかった!」

そう声高らかに言うと、トタタタと走り寄ってくる。

「トール兄しゃま-!」

「おいで-!」

叫ぶと僕の腕の中目掛けて飛び込んで来る。とんでもないお転婆姫だ。勢い良く飛び込んで来るから、僕はエリーゼを腕の中で受け止めてクルクル回る。
キャッ!キャッ!と喜ぶエリーゼと、そんなエリーゼを見て喜ぶ僕の笑い声。

良いんだ。キャスバル兄様の前では、お姫様なエリーゼ。僕の前ではお転婆姫。僕はエリーゼの事をお姫様にしてあげられない。でも、こうやって一緒に遊ぶお転婆姫なら一緒にいられる。だからね、エリーゼ。僕とだけ、こんな風に遊ぼうね!
僕の可愛いお転婆姫!
しおりを挟む
感想 3,411

あなたにおすすめの小説

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風
ファンタジー
気がついたら、俺は乙女ゲーの悪役令嬢になってました。 こいつは悪役令嬢らしく皆に嫌われ、周囲に味方はほぼいません。 完全没落まで一年という短い期間しか残っていません。 この無理ゲーの攻略方法を、誰か教えてください。 ライトオタクを自認する高校生男子・弓原陽が辿る、悪役令嬢としての一年間。 彼は令嬢の身体を得て、この世界で何を考え、何を為すのか……彼の乙女ゲーム攻略が始まる。 ※書籍化に伴いダイジェスト化しております。ご了承ください。(旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

処理中です...