婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

文字の大きさ
291 / 756

僕のお転婆姫 2 (トールの思い出)

「トール兄さま!」

俺の姿しか無いのを確認して、全速力で走って来るエリーゼ。四つになったエリーゼは俺の前でだけ元気いっぱいに笑い、駆けていく。
母上と一緒に居るときは、立派な令嬢になるために礼儀やマナーを習い。兄上と居るときは、兄上のお姫様として過ごしている。俺の前でだけ、お転婆姫としてお日様みたいに笑うんだ。ただ、父上の前は母上とも兄上とも違う感じだ。何て言うか、女の子なんだ。令嬢とかお姫様とかお転婆姫じゃない。父上は忙しくて、余りエリーゼと一緒にいられないから仕方ないと思うけど母上は微笑むだけで何も言わないし俺も兄上も言わない。

「トール兄さま!お庭の向こうに行きたいの!」

エリーゼのここ最近のお気に入りは、俺と一緒に庭の森の中を探検する事だ。小高くて広い丘が我が家だけど、うんと広くて広くて広い。点在する森や林に入り込んで、薬草や花を採ったり何だか分からない葉っぱを摘んだりする。勿論、俺がだ!いくらお転婆姫でも、硬い土をあの小さくて白い指で掘らせるなんて恥知らずな真似は出来ない。だから俺は腰に小さなスコップと袋を付けてエリーゼと一緒にあちこちに行く。
エリーゼが指差した森に向かう。今の時間は兄上は座学の時間だから、俺と一緒の時間だ。

「うん、行こっか。はい。」

差し出した俺の指に絡まる小さくて白い指。柔らかい手がキュッと俺の指を掴む。お転婆なのは行動だけで、その指は女の子の優しい指だ。兄上が大事に大事にしてるお姫様。俺だってエリーゼは大事な大事な妹で目が離せないお転婆姫だ。
キラキラした瞳で色んな物を見つめる。

森の中、木漏れ日の中あちこちへと進む。
ああ……何か見つけた。ずっと何かを見つめてる。

「トール兄さま!あっちに気になるものがありますの!」

「うん、どこ?」

「あっちですの!」

俺の指をグイグイと引いて行く。一生懸命なエリーゼ。一本の木の前まで来ると、クルクルと木の周りを回る。何だか強い匂いがするけれど、良く分からない木だ。刺もあるし、危ないな。

「トール兄さま、私この木が気になりますの!お庭に植えたいのです!」

エリーゼがあんまり色々集めるから、庭師が専用の場所を作ってくれた。どうやら、この木もその場所に植えて欲しいらしい。

「エリーゼ、刺が刺さったら危ないよ。庭師に言って植えて貰おう。さ、今日はこれで戻ろう。」

そう言うとエリーゼはコクンと頷き、ゴソゴソと外遊び用のドレスのポケットから赤いリボンを取り出す。これは目印用のリボンだ。

「分かってるよ。目印付けておこうね。」

赤いリボンをエリーゼの手から受け取り刺に気をつけてリボンを縛る。

「さ、これで出来上がりだよ。戻ってお茶にしよう。」

「はいっ!」

俺とエリーゼの二人きりの楽しい冒険の時間。木漏れ日の中、俺のお転婆姫は俺の指を掴んで歩いてく。俺はいつでもエリーゼの冒険に付き合うからね、だから一人で冒険なんかするなよ。な、俺のお転婆姫。
感想 3,411

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん
恋愛
【モブ】シリーズ①(本編) 異世界を救うために聖女として、3人の女性が召喚された。しかし、召喚された先に4人の女性が顕れた。そう、私はその召喚に巻き込まれたのだ。巻き込まれなので、特に何かを持っていると言う事は無く…と思っていたが、この世界ではレアな魔法使いらしい。でも、日本に還りたいから秘密にしておく。ただただ、目立ちたくないのでひっそりと過ごす事を心掛けていた。 それなのに、周りはおまけのくせにと悪意を向けてくる。それでも、聖女3人のお姉さん達が私を可愛がって守ってくれるお陰でやり過ごす事ができました。 そして、3年後、聖女の仕事が終わり、皆で日本に還れる事に。いざ、魔法陣展開で日本へ!となったところで…!? R4.6.5 なろうでの投稿を始めました。