婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

文字の大きさ
377 / 756

その頃のお母様

しおりを挟む
「それにしても、領民から上がって来る陳述書とか日に日に増えてるのには困りはしても嬉しい気持ちの方が強いわね。」

フェリシアは少しだけ微笑んで手紙の束を見つめる。それらは暮らしぶりが豊かな領民からの要望が書かれた物だった。元王都民から旅の間に振る舞われた料理や甘味の話を聞いたのだろう。領都にも、話に聞く料理や甘味を食べれる店を作ってくれ!特に甘味は贅沢品だが、是非とも味わってみたい!と強い関心が寄せられていた。我が領は豊かで、それなりに甘味はあるし領民も口にはしている。だが、エリーゼが振る舞った飴は幼い子供達も喜んで口にしていた。かく言う自分も気に入って口の中なコロリと含んでしまうのだ。

「如何なさいますか?」

「そうね。領都の料理店の者達に幾つか料理を覚えて貰いましょう。簡単な物ならばすぐに覚えて店に出せるでしょう。甘味についてはエリーゼが旅から帰って来た次第かしら?」

「畏まりました。では、そのように料理長と相談しましょう。」

「待って!相談なら早い方が良い気がするわ!エミリ、今すぐ行って頂戴。」

丁度この頃、厨房でのやり取りが終わりエリーゼはハインリッヒの執務室に突入する頃合であった。

「はっ!はいっ!」

慌ててフェリシアの部屋から飛び出るエミリであった。

「何故かしら?ちっとも嫌な感じが消えないわ。料理長だからかしら?……ジムなら大丈夫なのかしら?……あら?ジムなら平気だわ。」

シンシアとソニアはキョトンとフェリシアを見つめた。

「まぁ……ジムがいれば大丈夫だから良いかしら。」

「奥様、予感ですか?」

シンシアが気になったのか聞いてきた。

「そうね、予感と言えば予感ね。でも大した問題でも無いみたいだから、大丈夫だと思うわ。アニス、お茶を淹れて頂戴。」

エリーゼが旅立つまではエリーゼがくれた甘味は我慢よ!でも旅に出たら、食べちゃうわね。きっと。
……料理長だと食後に甘味は期待出来ないわね……はぁ……ジムが付いて行ったら善哉は暫く無理だわね。良かったわ、ショウロってアンコのお菓子作ってくれてて。

「お待たせ致しました。」

桃の香りのする紅茶を飲んで一息つく。

「せめて今日位はうんと甘い物が出てくると嬉しいのに。」

「そうですね。」

シンシアがそう相槌を打った後にエミリが飛び込んで来た。

「フェリシア様!料理長はエリーゼ様の旅に付いて行きます!こちらにはジムが残ると!」

エミリの言葉に反射的に立ち上がるフェリシア。

「でかした!これで食後に甘味を要求出来るわ!ジムならば幾つか作れる物があるものね!」

「あ……それは……良うございました。」



お母様のお部屋は平和な笑いに満ちたそうです。
しおりを挟む
感想 3,411

あなたにおすすめの小説

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風
ファンタジー
気がついたら、俺は乙女ゲーの悪役令嬢になってました。 こいつは悪役令嬢らしく皆に嫌われ、周囲に味方はほぼいません。 完全没落まで一年という短い期間しか残っていません。 この無理ゲーの攻略方法を、誰か教えてください。 ライトオタクを自認する高校生男子・弓原陽が辿る、悪役令嬢としての一年間。 彼は令嬢の身体を得て、この世界で何を考え、何を為すのか……彼の乙女ゲーム攻略が始まる。 ※書籍化に伴いダイジェスト化しております。ご了承ください。(旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

処理中です...