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遠い昔・語られなかった話(故・アレクサンドル)
エリーゼの祖父、マクスウェルが若い頃アレクサンドルという兄がいた。
剣技に優れ、性格は穏やかで次期領主として申し分ない若者だった。
*
どこまでも青い空の下、軍馬に跨がり側近であるパトリックと共に国境と大草原の間にある街へと私兵達と一緒に討伐の旅に出ていた。
アレクサンドルは可愛い婚約者アナスタシアとの婚姻の為に、少しでも多くの魔物……特に大型と呼ばれる大きく凶暴な魔物を討伐したかった。
大型は金になるだけでなく、その種類によっては美しい羽や爪などで装飾品を作る事も出来たからだ。
「アレクサンドル様、もうすぐ報告のあった場所です」
パトリックの言葉に一つ頷く。
なる程、確かに国境と大草原の間に間違い無い。
街道からは外れているが、大草原に幾つも抉れた箇所が見える。
「大分大きいな……」
爪だけではなさそうな抉れにアレクサンドルの眉は顰められる。
二番隊隊長として指示を出さねばならない……大草原の近くでは危ないかも知れない。
一人でも負傷者は出したくない。そんな事を考え、野営地は街の石壁の外側が妥当だろうと副隊長に命令を出す。
走り回る伝令、街の石壁の外に作られる野営地。
いつもと変わらない手順、風景……いつも通りなのにアレクサンドルはどこか不安を感じていた。
その日、野営地で隊員達と話し合いながら夕食を済ませそれぞれの天幕へと引っ込む。
報告を受けた大型を討伐するために、この場所で何日もここで張って待つのだ。
大抵は同じ狩り場に来るのが大型の習性とも言えたからだった。
その日の夜、アレクサンドルはパトリックをうんと可愛がった。
それこそパトリックが許しを請い、啜り泣くまで。
報告のあった場所まで移動速度を上げていた為……それこそ夜が明ける前から日が落ちるまで移動していたのだ。
夜は寝るだけで精一杯だったのだ。
その為、移動から解き放たれた故にどの天幕からも睦み合う音や声が漏れ聞こえていた。
翌朝、誰も彼もが疲れた顔で起き出していた。それはアレクサンドルとパトリックも例外ではなかった。
全員が朝食を食べ終わる頃だった……大草原に大型が飛来したのは。
鉄錆び色の見たことのない程の大きな飛龍が飛来してきたのだった。
疲れの取れきれない体で全員が飛龍の討伐へと向かった。
アレクサンドルとパトリックも軍馬に乗り飛龍目掛けて突撃した。
討伐慣れした隊員達は疲れを感じさせない動きで飛龍への攻撃の手を緩めなかったし、飛龍こらの攻撃も上手く受け流していた。
後方支援の魔法使い達の支援も功を奏し、大した怪我人を出す事なく隊員達はジリジリと飛龍を追い詰めていた。
やがて地面に伏すような姿勢になった飛龍に飛び乗り攻撃するチャンスが来ると、数名の隊員とアレクサンドルが飛龍の背中へと駆け上って飛び乗って行く。
いつもなら隣で共に攻撃するパトリックの姿が無い事に気が付いたアレクサンドルは振り返り、飛龍の背中から転がり落ちるパトリックの姿を見た。
誰も彼もがアレクサンドルがパトリックを追って飛龍から降りるだなんて思わなかった。
パトリックは背中から尾の付け根の方へと落ちて行き、アレクサンドルも追いかけ尾の付け根へと走り飛び降りた。
それはあっという間だった。
飛龍は最後の足掻きとばかりにその長い尾を滅茶苦茶に振り回した。
背中からの攻撃で飛龍は絶命し、無事討伐されたがアレクサンドルとパトリックは飛龍の尾により二人共やはり絶命していた。
隊員達は悲しみに暮れ、失意のまま領都へと帰った。
せっかくの大型討伐成功も次期領主であったアレクサンドルの死によって苦い思い出となった。
パトリックが原因ではないか?と言われたが、いつもならば後方支援の手によって救出されるのにあの時だけはアレクサンドルが追いかけた……と伝えられた。
誰も何も分からなかった。
ただ、分かるのはアレクサンドルとパトリックが死んだ……という事だけで。
あの時アレクサンドルはパトリックを追いかけた。
大分無茶をさせたパトリックを助ける為に。
可愛い婚約者であるアナスタシアの事はチラリとも掠めなかった。
転がり落ちて行くパトリックの姿に何もかも吹き飛び追いかけた……
そこに死が待ち構えているなぞ知らずに……
剣技に優れ、性格は穏やかで次期領主として申し分ない若者だった。
*
どこまでも青い空の下、軍馬に跨がり側近であるパトリックと共に国境と大草原の間にある街へと私兵達と一緒に討伐の旅に出ていた。
アレクサンドルは可愛い婚約者アナスタシアとの婚姻の為に、少しでも多くの魔物……特に大型と呼ばれる大きく凶暴な魔物を討伐したかった。
大型は金になるだけでなく、その種類によっては美しい羽や爪などで装飾品を作る事も出来たからだ。
「アレクサンドル様、もうすぐ報告のあった場所です」
パトリックの言葉に一つ頷く。
なる程、確かに国境と大草原の間に間違い無い。
街道からは外れているが、大草原に幾つも抉れた箇所が見える。
「大分大きいな……」
爪だけではなさそうな抉れにアレクサンドルの眉は顰められる。
二番隊隊長として指示を出さねばならない……大草原の近くでは危ないかも知れない。
一人でも負傷者は出したくない。そんな事を考え、野営地は街の石壁の外側が妥当だろうと副隊長に命令を出す。
走り回る伝令、街の石壁の外に作られる野営地。
いつもと変わらない手順、風景……いつも通りなのにアレクサンドルはどこか不安を感じていた。
その日、野営地で隊員達と話し合いながら夕食を済ませそれぞれの天幕へと引っ込む。
報告を受けた大型を討伐するために、この場所で何日もここで張って待つのだ。
大抵は同じ狩り場に来るのが大型の習性とも言えたからだった。
その日の夜、アレクサンドルはパトリックをうんと可愛がった。
それこそパトリックが許しを請い、啜り泣くまで。
報告のあった場所まで移動速度を上げていた為……それこそ夜が明ける前から日が落ちるまで移動していたのだ。
夜は寝るだけで精一杯だったのだ。
その為、移動から解き放たれた故にどの天幕からも睦み合う音や声が漏れ聞こえていた。
翌朝、誰も彼もが疲れた顔で起き出していた。それはアレクサンドルとパトリックも例外ではなかった。
全員が朝食を食べ終わる頃だった……大草原に大型が飛来したのは。
鉄錆び色の見たことのない程の大きな飛龍が飛来してきたのだった。
疲れの取れきれない体で全員が飛龍の討伐へと向かった。
アレクサンドルとパトリックも軍馬に乗り飛龍目掛けて突撃した。
討伐慣れした隊員達は疲れを感じさせない動きで飛龍への攻撃の手を緩めなかったし、飛龍こらの攻撃も上手く受け流していた。
後方支援の魔法使い達の支援も功を奏し、大した怪我人を出す事なく隊員達はジリジリと飛龍を追い詰めていた。
やがて地面に伏すような姿勢になった飛龍に飛び乗り攻撃するチャンスが来ると、数名の隊員とアレクサンドルが飛龍の背中へと駆け上って飛び乗って行く。
いつもなら隣で共に攻撃するパトリックの姿が無い事に気が付いたアレクサンドルは振り返り、飛龍の背中から転がり落ちるパトリックの姿を見た。
誰も彼もがアレクサンドルがパトリックを追って飛龍から降りるだなんて思わなかった。
パトリックは背中から尾の付け根の方へと落ちて行き、アレクサンドルも追いかけ尾の付け根へと走り飛び降りた。
それはあっという間だった。
飛龍は最後の足掻きとばかりにその長い尾を滅茶苦茶に振り回した。
背中からの攻撃で飛龍は絶命し、無事討伐されたがアレクサンドルとパトリックは飛龍の尾により二人共やはり絶命していた。
隊員達は悲しみに暮れ、失意のまま領都へと帰った。
せっかくの大型討伐成功も次期領主であったアレクサンドルの死によって苦い思い出となった。
パトリックが原因ではないか?と言われたが、いつもならば後方支援の手によって救出されるのにあの時だけはアレクサンドルが追いかけた……と伝えられた。
誰も何も分からなかった。
ただ、分かるのはアレクサンドルとパトリックが死んだ……という事だけで。
あの時アレクサンドルはパトリックを追いかけた。
大分無茶をさせたパトリックを助ける為に。
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