婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

文字の大きさ
663 / 756

静かなる波のように 4 (アーネスト)

カサリと執務机の上に手紙が舞い落ちる。
送り主は我が娘フェリシアだ。

「フェリシアからですね」

「ロバート、良く分かるな」

アーネストの執務室に打ち合わせの為に来たフェリシアの兄ロバートは事もなげに言った。

「フェリシアの手紙は必ずバラの香りがする。どういう方法かは知らないが実に貴族女性らしいと思いますがね」

ふむ?とフェリシアからの手紙を鼻先に近づける。
確かに淡いバラの香りがする。
年は取りたくないものだな……鼻も鈍くなるとはな。
それにしても王国は香りを楽しむ趣向でもあるのか?いや、そんな報告は受けてないな……だがフェリシアから届けられる紅茶や甘味はどれも香りも良い。

「ロバート。香りが良いのはフェリシアの所からだけだ。キャロライン皇女殿下からは特に香りが良かったとは思えんがな」

「……確かに。ではシュバルツバルト領特有の趣向なのですか?」

ロバートの疑問は尤もだ。これまで王国とは特に繋がりも無く過ごしてきた。

「父上、何か甘い香りもするのですが何ですか?」

「む?クッキーだな。フェリシアから送られてきたんだが……」

まさかロバート達の元には行ってないのか?

「クッキー?何ですかそれは……フェリシアから送られたとは……」

仕方ない。ここで振る舞わなければ父上はセコいだのケチだの文句をつけられかねん。

「丁度良い、一緒に一息入れるか。ロバートの分も紅茶とクッキーを、勿論フェリシアから送られた物をだ」

ニンマリと笑う我が息子にこやつは昔っからこうだったと思った。
執務室に漂う桃の香りと甘い甘味の香りがどうにも嬉しくて顔がニヤける。
サッサと立ち上がりソファセットへと歩み座る。当然とばかりにロバートも対面に座りソワソワとしている。
やがて目の前に並べられた紅茶とクッキーが数枚載せられた皿が置かれ、迷わずクッキーを手に取り齧る。
ホロホロと崩れる焼き菓子の甘さとコク、口の中に広がる甘い香りが口腔から鼻へと抜けていく快感。
桃の香りのする紅茶を口に含み飲み下すとえも言われぬ。

ホゥ……

自分の溜息かと思えばロバートも溜息を漏らしていた。
こんな所はやはり親子なのだと感じる。

「素晴らしい甘味ですね。フェリシアに私の分も送って貰えるよう頼んで下さい」

いずれ宰相となる兄の頼みだ、無碍にはしまい。

「ああ、頼んでおく。所でロバート、順調か?」

クッキーを摘まむ手を止めずに頷く。
ロバートよ、それは危ないぞ。

「はっ……ンぐっ!……ぐ……」

「紅茶を飲め!良い年をして!」

勢い良く紅茶のカップを掴んで、まだ熱い筈の紅茶を勢い良く飲み喉の詰まりを何とかしたようだが顔は必死だった。
こんな性格だったか?
顰め面でトントンと胸の辺りを叩いていたが、落ち着いたのだろう……いや、落ち着いてないな。顔は顰め面のままだ。

「王国の事は順調です。キャロライン皇女殿下からの手紙ではかなりの窮状だと……既に王都は疲弊しきっているとか……ただ、ここでもシュバルツバルト領からの救済が働いてるようで王都民が王都を捨ててると……」

「フェリシアからも聞いている。シュバルツバルト領は万年人手不足なので、助けるだけでなく領民を増やす為にも勧誘して連れて来ているとな……」

「フェリシアの策ですか?」

「いや、孫娘のエリーゼが発案者のようだ。フェリシアからしても最適な案なので採用し、実行したとあった」

「なる程。さすがフェリシアの娘だけありますね。ルーク皇子殿下との婚姻も良いように働きますし、ここはフェリシアの案に乗りましょうか」

「ああ。フェリシアが狙ってるのは察するに王国ではなく、シュバルツバルト領をかつての公国として独立させる事のようだからな」

ククク……とどちらともなく嗤い、頷き合う。
端から見れば悪巧みのようにも見えるが、至って真面目に民草の事を案じての考えであり行動であった。
感想 3,411

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん
恋愛
【モブ】シリーズ①(本編) 異世界を救うために聖女として、3人の女性が召喚された。しかし、召喚された先に4人の女性が顕れた。そう、私はその召喚に巻き込まれたのだ。巻き込まれなので、特に何かを持っていると言う事は無く…と思っていたが、この世界ではレアな魔法使いらしい。でも、日本に還りたいから秘密にしておく。ただただ、目立ちたくないのでひっそりと過ごす事を心掛けていた。 それなのに、周りはおまけのくせにと悪意を向けてくる。それでも、聖女3人のお姉さん達が私を可愛がって守ってくれるお陰でやり過ごす事ができました。 そして、3年後、聖女の仕事が終わり、皆で日本に還れる事に。いざ、魔法陣展開で日本へ!となったところで…!? R4.6.5 なろうでの投稿を始めました。