684 / 756
噂 ある元王都民の話
「ねぇ、お母さん。ここの人たちはやさしいけど、私たちに早く出て行ってほしいのかな?」
いきなり娘がそんな事を言ってきてドキリとした。
それは最近良く聞く噂が原因なんだと分かってるからだ。
侯爵様がこちらに戻って来る時に一緒に来た連中は私たちみたいに後から来たのと余り親しくない。
大体が商人ばっかりが我先に侯爵様と一緒に来たって聞いてさすが商人は目ざといと夫と夜中喋ったことも一回二回じゃない。
でも子供にまで聞かせることじゃないし、そんな心配させるなんて親としてなっちゃいない。
「そんなこと無いさ。今だって皆良くしてくれるだろ?ほら、そんな顔しないで手を洗ってきな。ティナの好きなシチューだよ」
匂いで分かるだろうに言われると嬉しいのかニコッと笑って手を洗いに走って行く。
ここは寒いけど王都みたいに雪が積もることもないし、王都よりも何もかもが安い。
それに店じゃあ見たこともない物が店先に置かれ、扱い方を知らないと言えばていねいに教えてくれる。
今日のシチューだってそうだ。
白い汁を隣の奥さんが買ってるのを見て使い方を教えて貰った。
ほのかに甘いシチューは子供も夫もお気に入りだ、もちろんあたしも気に入ったさ。王都にはこんな物は無かった。
それだけじゃない。ショーユとかソースとかミソってのもあって、最近では高いけどサトウってのもある。
帝国から入ってくるワインも工芸品も何もかもが安い。
働く所もたくさんあって、夫もあたしもちゃんと暮らしていける程稼がせて貰ってる。
それでも流れてくる噂はどう受け取ったら良いのか悩む。
ー元王都民は皆新しい開拓地に移住させられるー
そりゃあ元王都民なら気兼ねなく暮らせるだろうさ。でもここより不便だったら?仕事はどうなる?荒れた土地を開拓するのか?ここでの暮らしに不満なんて無い。
「お母さーん!シチュー早くー!」
手を洗ってテーブルについたティナを見れば早く食べたいって顔に書いてある。
「ただいま。良い匂いだな」
「お帰りアンタ。アンタも手を洗ってきなよ」
夫の笑顔に笑って言う。
王都を出る前はこんな風に笑えるなんて思ってもいなかった。
「ああ」
大きくて深い木のスープ皿にシチューをたっぷりよそってティナの前にコトリと置く。
「早くお父さん来ないかな~」
「すぐ来るよ」
手にスプーンを持って待ち遠しそうに足をブラブラさせる娘の顔に安心する。
「待たせたな」
「ティナがね」
そう言って夫の分をよそって持って行く。
すでに切っておいたパンを軽く焼いてかごに入れてテーブルに置いてから自分のシチューをよそってテーブルにつく。
「美味しそうだ。さ、冷める前に食べよう」
「わぁ~い!」
夫のやさしい声とティナの幸せそうに食べる顔。
どうか……どうか噂が本当じゃありませんように。
この笑顔が続きますように……
いきなり娘がそんな事を言ってきてドキリとした。
それは最近良く聞く噂が原因なんだと分かってるからだ。
侯爵様がこちらに戻って来る時に一緒に来た連中は私たちみたいに後から来たのと余り親しくない。
大体が商人ばっかりが我先に侯爵様と一緒に来たって聞いてさすが商人は目ざといと夫と夜中喋ったことも一回二回じゃない。
でも子供にまで聞かせることじゃないし、そんな心配させるなんて親としてなっちゃいない。
「そんなこと無いさ。今だって皆良くしてくれるだろ?ほら、そんな顔しないで手を洗ってきな。ティナの好きなシチューだよ」
匂いで分かるだろうに言われると嬉しいのかニコッと笑って手を洗いに走って行く。
ここは寒いけど王都みたいに雪が積もることもないし、王都よりも何もかもが安い。
それに店じゃあ見たこともない物が店先に置かれ、扱い方を知らないと言えばていねいに教えてくれる。
今日のシチューだってそうだ。
白い汁を隣の奥さんが買ってるのを見て使い方を教えて貰った。
ほのかに甘いシチューは子供も夫もお気に入りだ、もちろんあたしも気に入ったさ。王都にはこんな物は無かった。
それだけじゃない。ショーユとかソースとかミソってのもあって、最近では高いけどサトウってのもある。
帝国から入ってくるワインも工芸品も何もかもが安い。
働く所もたくさんあって、夫もあたしもちゃんと暮らしていける程稼がせて貰ってる。
それでも流れてくる噂はどう受け取ったら良いのか悩む。
ー元王都民は皆新しい開拓地に移住させられるー
そりゃあ元王都民なら気兼ねなく暮らせるだろうさ。でもここより不便だったら?仕事はどうなる?荒れた土地を開拓するのか?ここでの暮らしに不満なんて無い。
「お母さーん!シチュー早くー!」
手を洗ってテーブルについたティナを見れば早く食べたいって顔に書いてある。
「ただいま。良い匂いだな」
「お帰りアンタ。アンタも手を洗ってきなよ」
夫の笑顔に笑って言う。
王都を出る前はこんな風に笑えるなんて思ってもいなかった。
「ああ」
大きくて深い木のスープ皿にシチューをたっぷりよそってティナの前にコトリと置く。
「早くお父さん来ないかな~」
「すぐ来るよ」
手にスプーンを持って待ち遠しそうに足をブラブラさせる娘の顔に安心する。
「待たせたな」
「ティナがね」
そう言って夫の分をよそって持って行く。
すでに切っておいたパンを軽く焼いてかごに入れてテーブルに置いてから自分のシチューをよそってテーブルにつく。
「美味しそうだ。さ、冷める前に食べよう」
「わぁ~い!」
夫のやさしい声とティナの幸せそうに食べる顔。
どうか……どうか噂が本当じゃありませんように。
この笑顔が続きますように……
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです
ほーみ
恋愛
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について
みん
恋愛
【モブ】シリーズ①(本編)
異世界を救うために聖女として、3人の女性が召喚された。しかし、召喚された先に4人の女性が顕れた。そう、私はその召喚に巻き込まれたのだ。巻き込まれなので、特に何かを持っていると言う事は無く…と思っていたが、この世界ではレアな魔法使いらしい。でも、日本に還りたいから秘密にしておく。ただただ、目立ちたくないのでひっそりと過ごす事を心掛けていた。
それなのに、周りはおまけのくせにと悪意を向けてくる。それでも、聖女3人のお姉さん達が私を可愛がって守ってくれるお陰でやり過ごす事ができました。
そして、3年後、聖女の仕事が終わり、皆で日本に還れる事に。いざ、魔法陣展開で日本へ!となったところで…!?
R4.6.5
なろうでの投稿を始めました。