婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

文字の大きさ
712 / 756

婚約者 4 (キャスバル)

しおりを挟む
出迎えた令嬢はエリーゼより一つ年下と聞いていたが、想像よりも落ち着いた理知的な令嬢だった。
受け答えもしっかりしているし、婚姻しても波風立てずにやっていけそうだと感じたが……レイを見た時の目がどうも気になる。あれは何かを企んでる者の目だ。
だがこの先の事を考えたら隠しておくことも出来ない。

「レイ。こちらは私の側近で常に側に置いているレイ・フォン・ディバン」

ゴル谷の日が翳っているせいで本当なら金茶の髪が明るい茶色に見えて少し地味に見えてしまっているが、一歩前に出て来て一礼したレイの顔は微笑んでいた。

「キャスバル様の側近をしております、レイ・フォン・ディバンでございます。お心を煩わせる事もあるかも知れませんが何卒寛大なるお心をもってお許し頂けると幸いでございます」

ラーラルーナ嬢も微笑み、軽いカーテシーをした。何も知らされてないのか?

「知っておりますわ。側近とはどう言う事なのか、承知の上で私はここに来ております。心が煩わせるなんて事ありませんわ、私こそよろしくお願いね」

……!?は?分かっていて微笑んでいる?王国内でも他領の者すら嫌な顔をするのが殆どだと言うのにか?帝国だとて同じかと思ったが違うのか?

「不思議そうなお顔ですのね。私、偏見は持ちたくありませんの。ですから気になさらないで頂きたいの……だって婚姻したら一緒にずっと過ごすのでしょう?」

さすが母上が薦めるだけの令嬢だ。俺の想像よりも遥に良い婚約者だ。

「そうですか、その様に言って頂けると有難い。実は今から昼食を取る所だったのです、もしお嫌でなければ一緒にどうでしょうか?町の食事が良ければそちらでも良いのですが?」

そろそろ肉を焼いたりしようかという頃合いだった。俺的には町中の味気ない料理よりも野営食の方が美味くて町には材料の買い付けしか行ってない。

「まあ!私、とても興味がありますわ!キャスバル様がどういった物を好まれるのか、是非とも教えて下さりませ!」

ほう?興味がある……か。

「では、是非とも!従者の方達は無理せず町中で食事をしても良いのでは?」

今日位、従者を無理に付き合わせなくても良いだろう。帝国風の食事を提供している店もあるんだ、この先シュバルツバルトの料理ばかりになるんだからな。
見やれば顔を見合わせ一礼すると町中へと歩いて行った。

「申し訳ありませんわ、でもありがとうございます。この先帝国の料理は中々味わう事も出来なくなるでしょう?キャスバル様のお気遣い、とても嬉しく思いますわ」

優しげな外見に見合った言葉に思わず笑みを向ける。

「いや、さ……あちらです」

煮炊きをする為に組まれた簡易竃の所までエスコートする。
一見地味そうなドレスだが、動きやすく汚れにくそうな物を纏ってくるなど本当にしっかりしている。
年は離れてるが上手くやっていけそうで俺は嬉しくなった。
しおりを挟む
感想 3,411

あなたにおすすめの小説

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

処理中です...