婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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婚約者 18 (キャスバル)

日の出と共に目を覚ますが、隣で寝ていた筈のレイは既に起き出して目覚めた俺の為の準備を済ませていた。

「お早うございます。紅茶は少し冷ましておきました、どうぞ」

差し出された桃の香りの紅茶にエリーゼの笑顔を思い浮かべる。桃の香りの紅茶はエリーゼの一番のお気に入りだ。
いつだって笑顔を浮かべて口にする、その笑顔は小さな頃から何一つ変わらない。
飲みきってカップをレイに渡してクリーンの魔法で汗や汚れを取りきる。
昨夜レイを抱いた後もクリーンの魔法でこざっぱりしたが、寝汗は別物だ。

「お着替えを手伝います」

「頼む」

そう言って用意された服を着付けていく。一人でも着れるが、やはり手伝って貰った方が着終わった後が違う。
武装も気付けてしっかりと身嗜みを整えた後、レイがあちらこちらを点検するまで天幕の隅に置かれた椅子に座り地図を確認する。
新たに作られた地図はエリーゼの意見が幅広く採用され、今までの物より遥に見やすく正確だった。

「お待たせ致しました」

「ん?ああ、大丈夫だ。もう良いのか?」

「はい。このまま天幕を片付けさせても問題無いです」

「なら外に出るか」

「はい」

レイを連れて天幕から出ると数名の隊員が待っていた。夜の見回りを行っていた者達だ。俺はいつも通り報告を受け、レイは別の隊員へと天幕の片付けをする様に伝えていた。これはいつもと変わらない事だが、今日からは客用天幕の事もあるから少しだけ隊員達が浮き足立ってる様に感じる。
報告では異常は何一つ無く、いつもと変わらないとの事だった。
ラーラルーナ嬢も天幕から出て来る事も無く、至って平常で安心したと全員がホッとしている。
少し好奇心が強いかと思っていたが、弁えているようで良かったと俺も安心だ。
調理班が朝食の支度をしていて、今朝も美味しそうだと口元が綻ぶ。

「む?」

俄に騒がしくなり、そちらに目を向ければ小走りで向かって来る二名の伝令の姿が見える。

「お早うございます!第五隊から伝令です!」

「お早うございます!第六隊から伝令です!」

「お早う。何かあったか?」

「本日よりこちらに待機し、帝国賓客と合流し次第領都を目指します。我等も速度重視での装備をと言われております、なるべく第二隊に追い付く様にすると隊長から次期様に伝える様にと!」

第五隊伝令は少し緊張してるのか顔が赤い。

「私共も第五隊と同じく速度重視の装備です!無事帝国賓客の方々を送り届ける所存です!」

まだ年若い伝令も一生懸命に背筋を伸ばして伝えてくれる。

「分かった。こちらも朝食が済み、天幕の片付けが済み次第出発するつもりだ。だがこちらは帝国令嬢を抱えてる為、予定より時間が掛かるかも知れない。無理して合流をする必要は無いと思うから、怪我等に気を付けてくれ」

無用の怪我なぞ領主隊の名折れだ。送迎に大型討伐は含まれてない、せいぜい道すがら出て来た小型や中型を手早く討伐して道を進めた方が良い。

「はいっ!」

「はっ!」

「では、隊に戻ってくれ」

俺の言葉にパッと一礼して走って隊へと戻って行く後ろ姿に少しだけ懐かしい気持ちになる。誰だって若い頃には年上の経験豊富な隊長には緊張も憧れもある。
まぁ、俺は父上が凄かったから父上目指して討伐に出て回っていたが……お祖父さまには勝てないな。豪傑過ぎるからな……

「キャスバル様、朝食の用意が出来ました」

「分かった」

向かった先にはしっかりと旅仕度を整えたラーラルーナ嬢が立って待っていた。

「お早うございます。今日からはキャスバル様達に合わせて行ける様にと言っておきました、私も至らない所があるかも知れませんがよろしくお願いします」

スッとお辞儀をしたラーラルーナ嬢に合わせる様に少し離れた所に立っていた侍女も一礼する。
……普通、お付きの侍女とは主の近くで待機しないか?母上と専属侍女の距離を見慣れているとあの侍女は離れ過ぎな感じがする。
まぁ、良い。旅の間に分かる事だろう。

「少々勝手が違うと感じるかも知れないが慣れてくれると有難い。街道はかなり整備しているし、野営地も大抵は決まっているから安心して欲しい。時間は有意義だ、一緒に朝食を食べましょう。その間に天幕を片付けますが、天幕は使用者が分かる様になっているので荷物等が手違いで他の者へと渡る事は無いのでそこも安心して欲しい」

天幕の模様や垂れ幕等細かい所で区別がつくようになっているし、ラーラルーナ嬢の天幕は客用天幕でも一等良い物だ。勝手に誰かが入ろうとすればうちの隊員が止めるし、安心な筈だ。いや、侍女だけは自由に入れるが……まぁ、大丈夫だろう。

「嬉しいですわ。こちらの食事が美味しくて待ち遠しかったんですの」

「そうですか。では行きましょう」

ラーラルーナ嬢をエスコートしてテーブルへと向かう。彼女を座らせ、俺も席に着くとレイが小さく耳打ちしてきた。

「お付きの者達も既にこちらに集合しております」

俺もレイの耳元へと「片付け次第出発だな」と囁けばレイが頬を染めてはにかむ。
チリ……と視線を感じてさり気なく視線の先を辿る。
ラーラルーナ嬢が瞳をキラキラさせながらこちらをチラチラと見ている。何なんだ?
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