1 / 3
遊郭の亡霊
しおりを挟む
行商人というのは大変な仕事だ。
賃金が安く、商売の才能がなきゃやっていけない。それに長くて平坦な道を何十里と歩いていると頭がおかしくなりそうだ。
子供ならなおさらつまらない。
人生で初めて行商路を歩いた少女は、一里を歩いたばかりで首をもたげ、数分前に祖父に「ついて行く!」と言った自分を後悔した。
そんな孫娘の心中を予想していた祖父は「むか~し、むかし」といかにも物語の始まりといった口調で話し始める。
彼らの家から一里離れたこの更地は、かつて有名な遊郭のあった跡地だ。
男前な青年はなにやら周りの大人と同じように眉をひそめている。男前な青年は、勿論若い頃の少女の祖父だ。
「だから私は見たんだって!遊女が居たの!ホントよ!」
赤い二階建ての屋敷、所謂遊郭の前で女は必死に訴えていた。
「落ち着けって!一体何を見たって言うんだ?何かと見間違えたんだろう。ここに遊女なんているわけがない」
周りの人々も首を縦に振り、女の言うことを信じていない様子だ。遊郭に遊女が居るのは当たり前なことだが、ここにはいるはずがないのだ。
かつてこの町は歓楽街で、通りは長い遊郭の真っ赤な屋敷に囲まれ、小格子の隙間から覗く綺麗な遊女たちは商品のように並べられていた。
並べられていただけでなく、彼女たちは人として扱われていない。
外に出れるのは外出と言う名の客引きの時だけで、身売りされた遊女たちは幼いにも関わらず何度も妊娠、堕胎を繰り返させられた。
そんな無法地帯であったが数年前、役人の遊郭への取締が厳しくなり、店主は数百人の遊女を置いてトンズラし、残された遊女は屋敷から出れずそのまま餓死していった。
貴族の娯楽地である歓楽街など祖父たちのような平民は見たことがなく、周りの遊郭も取り壊せず廃墟のまま残され、行商路として使われた。
今思えば彼らの判断は正解だったと言える。
女が「遊女を見た」と騒いでから、封を切ったように同じ様な証言で溢れかえった。
「夜中、仕事の帰りにここを通ったら女の声が聞こえてきた!ありゃあ遊女の亡霊に違いねェ…」
「俺も夜だ!月の光で照らされた屋敷の中で、黒い遊女が煙みたいに蠢いていた!」
「誰も居ないはずの暗い小格子の奥から、真っ黒な腕をこっちへ伸ばしていたわ…恐ろしい!!」
遊女の死体は残らず埋葬されており、彼らはなす術無く震え上がり、祖父は霊を払えるという占い師へ助けを乞うことにした。
賃金が安く、商売の才能がなきゃやっていけない。それに長くて平坦な道を何十里と歩いていると頭がおかしくなりそうだ。
子供ならなおさらつまらない。
人生で初めて行商路を歩いた少女は、一里を歩いたばかりで首をもたげ、数分前に祖父に「ついて行く!」と言った自分を後悔した。
そんな孫娘の心中を予想していた祖父は「むか~し、むかし」といかにも物語の始まりといった口調で話し始める。
彼らの家から一里離れたこの更地は、かつて有名な遊郭のあった跡地だ。
男前な青年はなにやら周りの大人と同じように眉をひそめている。男前な青年は、勿論若い頃の少女の祖父だ。
「だから私は見たんだって!遊女が居たの!ホントよ!」
赤い二階建ての屋敷、所謂遊郭の前で女は必死に訴えていた。
「落ち着けって!一体何を見たって言うんだ?何かと見間違えたんだろう。ここに遊女なんているわけがない」
周りの人々も首を縦に振り、女の言うことを信じていない様子だ。遊郭に遊女が居るのは当たり前なことだが、ここにはいるはずがないのだ。
かつてこの町は歓楽街で、通りは長い遊郭の真っ赤な屋敷に囲まれ、小格子の隙間から覗く綺麗な遊女たちは商品のように並べられていた。
並べられていただけでなく、彼女たちは人として扱われていない。
外に出れるのは外出と言う名の客引きの時だけで、身売りされた遊女たちは幼いにも関わらず何度も妊娠、堕胎を繰り返させられた。
そんな無法地帯であったが数年前、役人の遊郭への取締が厳しくなり、店主は数百人の遊女を置いてトンズラし、残された遊女は屋敷から出れずそのまま餓死していった。
貴族の娯楽地である歓楽街など祖父たちのような平民は見たことがなく、周りの遊郭も取り壊せず廃墟のまま残され、行商路として使われた。
今思えば彼らの判断は正解だったと言える。
女が「遊女を見た」と騒いでから、封を切ったように同じ様な証言で溢れかえった。
「夜中、仕事の帰りにここを通ったら女の声が聞こえてきた!ありゃあ遊女の亡霊に違いねェ…」
「俺も夜だ!月の光で照らされた屋敷の中で、黒い遊女が煙みたいに蠢いていた!」
「誰も居ないはずの暗い小格子の奥から、真っ黒な腕をこっちへ伸ばしていたわ…恐ろしい!!」
遊女の死体は残らず埋葬されており、彼らはなす術無く震え上がり、祖父は霊を払えるという占い師へ助けを乞うことにした。
0
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
姉の引き立て役の私は
ぴぴみ
恋愛
アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。
「どうしたら、お姉様のようになれるの?」
「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」
姉は優しい。でもあるとき気づいて─
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる