3 / 3
不老不死の妖怪
しおりを挟む
「ほらあそこの孤児院を見てご覧よ」
泥で汚れた白い寺院を指して祖父は言うが、孫娘は彼の昔話に夢中で、とっくにつまらない行商路では無くなり、
「いいから、いいから!話の続きは?なんでその人は成仏しないの!?」
と続きをせがんだ。
────美人の占い師と一緒に、青年は白塗りの孤児院の前に立っていた。
「貴女は霊を祓えると言った。なのにどうして真っ白な遊女は成仏しないのか?」
「私は霊を祓える。しかし師匠のような偉大な占い師ではない。
知っているか?この孤児院はここ数年、特に多くの子が預けられ、ある噂が立った。預けられた子は皆同じ母親の子で、その母親は子の生気を少しずつ貰っては生きながらえる、所謂不老不死の妖怪だ。
そして三つの噂や霊障が、この三里の間に起こった」
祖父は彼女が何を言っているのか理解できなかったが、何でも尋ねるのはよくないと思い、長い熟考の末、ある答えが浮かび、彼女に視線を向ける。
「成仏しない遊女、占いの妊婦、不老不死の妖怪…これらの話は、全て同じ女性のことなのか…??」
いつのまにか占い師の冷たい雰囲気も和らぎ、青年と視線をかち合わせ頷く。
「そうだ。私の師匠が占った妊婦は、その廃墟となった遊郭の遊女だ。
彼女が客の子を妊娠した時、客引きの合間をぬって占いに来たのだろう。そして自分の寿命が残り僅かだと知った。
出産した後も遊女として働き二子、三子と身ごもり、彼女の寿命は延ばされ続けた」
「でも堕胎させられるはずでは?
それなら十五歳になる前にとっくに子供は殺され、その女性も死んでるはずだ…。
もし子供が生きていたとしても彼女が何百年も生きるには、何百回も出産したということになる…体が持たないだろう…」
「ああ、確かに遊女にとって妊娠は恥とされ、堕胎させられる。しかし彼女はまたしても客引きの時に抜け出し、あの孤児院に預けた。
私の師匠はその未来も視えていたはずだ。
だから子が十五歳になるまでの命だと言ったのだろう。
そしてなぜ彼女が何百回もの出産に耐えられたのかだが…。彼女は二子目を出産した時点で死期が延ばされ、運命が変わってしまった。
つまり彼女はもう人じゃなくなっていたんだ」
不老不死の妖怪の噂は、遊女が何百人もの子を預けたことでできたのだろう。
「最初から孤児になると分かっていたのなら、なぜ生かしたのか…」
青年はそこまで言って自分の思考に怖くなった。
つまり小さな命なら将来を案じて殺しても構わないと…。
彼の言葉が震えたのを聞き、占い師の女は優しく言った。
「彼女はたとえ孤児になると知っていても堕胎させられなかった。なぜならそれは遊郭の店主や客と同じ様に、命を粗末に扱うことになるからだ。
なにより赤子の泣き声を聞いて、殺すことなどできなかったのだろう」
───夕暮れ時。
占い師は青年を遊郭の前まで送り、青年は彼女の背中を見送ったが、結局その遊女を成仏させる方法をはぐらかされたことに気づいて、慌てて呼びかける。
「お姉さん!どうしたら彼女を成仏させれるのか!彼女はあそこに留まり続けている!!」
占い師は目元をほんの少し緩ませ、振り返って言った。
「彼女は死んでいない。生きてもいない。私は霊しか祓えない。
ただ彼女の子供が寿命を全うするまで待ちなさい。
それと遊郭は早く取り壊した方がいい。あと彼女のために小屋を建ててやれば迷惑もかけないだろう」
不老不死の遊女は死者でも生者でもない、小さな命を大切にする一人の母親なのだ。
「今日は良い話を聞いたわ!」
西日が一人の老人と少女を紅く染める。
長い行商路だったが不思議な話を聞き、少女は色々な考えを得た。
二人の周りには前方から女の人が向かって来るだけで、ひと気も少なくなっていた。その女性は若くて美しく全身が真っ白で、二人とすれ違う時赤い口を綻ばせ、会釈をした。
その表情はとても穏やかで若いはずなのに、歳をとった老婦人を想わせる温かさがあった。
どうやら子供が大好きな人のようだ。慈愛に満ちた微笑みについ、少女も笑顔を返す。
少女は祖父の話を聞いて、一つだけ確かな考えを持った。
恐らく祖父も同じだろう。
不老不死の遊女が未だ生きているなら、きっと彼女の子供は今でも元気に生きている。
一人の母親の選択は、間違いではなかったのだと。
泥で汚れた白い寺院を指して祖父は言うが、孫娘は彼の昔話に夢中で、とっくにつまらない行商路では無くなり、
「いいから、いいから!話の続きは?なんでその人は成仏しないの!?」
と続きをせがんだ。
────美人の占い師と一緒に、青年は白塗りの孤児院の前に立っていた。
「貴女は霊を祓えると言った。なのにどうして真っ白な遊女は成仏しないのか?」
「私は霊を祓える。しかし師匠のような偉大な占い師ではない。
知っているか?この孤児院はここ数年、特に多くの子が預けられ、ある噂が立った。預けられた子は皆同じ母親の子で、その母親は子の生気を少しずつ貰っては生きながらえる、所謂不老不死の妖怪だ。
そして三つの噂や霊障が、この三里の間に起こった」
祖父は彼女が何を言っているのか理解できなかったが、何でも尋ねるのはよくないと思い、長い熟考の末、ある答えが浮かび、彼女に視線を向ける。
「成仏しない遊女、占いの妊婦、不老不死の妖怪…これらの話は、全て同じ女性のことなのか…??」
いつのまにか占い師の冷たい雰囲気も和らぎ、青年と視線をかち合わせ頷く。
「そうだ。私の師匠が占った妊婦は、その廃墟となった遊郭の遊女だ。
彼女が客の子を妊娠した時、客引きの合間をぬって占いに来たのだろう。そして自分の寿命が残り僅かだと知った。
出産した後も遊女として働き二子、三子と身ごもり、彼女の寿命は延ばされ続けた」
「でも堕胎させられるはずでは?
それなら十五歳になる前にとっくに子供は殺され、その女性も死んでるはずだ…。
もし子供が生きていたとしても彼女が何百年も生きるには、何百回も出産したということになる…体が持たないだろう…」
「ああ、確かに遊女にとって妊娠は恥とされ、堕胎させられる。しかし彼女はまたしても客引きの時に抜け出し、あの孤児院に預けた。
私の師匠はその未来も視えていたはずだ。
だから子が十五歳になるまでの命だと言ったのだろう。
そしてなぜ彼女が何百回もの出産に耐えられたのかだが…。彼女は二子目を出産した時点で死期が延ばされ、運命が変わってしまった。
つまり彼女はもう人じゃなくなっていたんだ」
不老不死の妖怪の噂は、遊女が何百人もの子を預けたことでできたのだろう。
「最初から孤児になると分かっていたのなら、なぜ生かしたのか…」
青年はそこまで言って自分の思考に怖くなった。
つまり小さな命なら将来を案じて殺しても構わないと…。
彼の言葉が震えたのを聞き、占い師の女は優しく言った。
「彼女はたとえ孤児になると知っていても堕胎させられなかった。なぜならそれは遊郭の店主や客と同じ様に、命を粗末に扱うことになるからだ。
なにより赤子の泣き声を聞いて、殺すことなどできなかったのだろう」
───夕暮れ時。
占い師は青年を遊郭の前まで送り、青年は彼女の背中を見送ったが、結局その遊女を成仏させる方法をはぐらかされたことに気づいて、慌てて呼びかける。
「お姉さん!どうしたら彼女を成仏させれるのか!彼女はあそこに留まり続けている!!」
占い師は目元をほんの少し緩ませ、振り返って言った。
「彼女は死んでいない。生きてもいない。私は霊しか祓えない。
ただ彼女の子供が寿命を全うするまで待ちなさい。
それと遊郭は早く取り壊した方がいい。あと彼女のために小屋を建ててやれば迷惑もかけないだろう」
不老不死の遊女は死者でも生者でもない、小さな命を大切にする一人の母親なのだ。
「今日は良い話を聞いたわ!」
西日が一人の老人と少女を紅く染める。
長い行商路だったが不思議な話を聞き、少女は色々な考えを得た。
二人の周りには前方から女の人が向かって来るだけで、ひと気も少なくなっていた。その女性は若くて美しく全身が真っ白で、二人とすれ違う時赤い口を綻ばせ、会釈をした。
その表情はとても穏やかで若いはずなのに、歳をとった老婦人を想わせる温かさがあった。
どうやら子供が大好きな人のようだ。慈愛に満ちた微笑みについ、少女も笑顔を返す。
少女は祖父の話を聞いて、一つだけ確かな考えを持った。
恐らく祖父も同じだろう。
不老不死の遊女が未だ生きているなら、きっと彼女の子供は今でも元気に生きている。
一人の母親の選択は、間違いではなかったのだと。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
姉の引き立て役の私は
ぴぴみ
恋愛
アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。
「どうしたら、お姉様のようになれるの?」
「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」
姉は優しい。でもあるとき気づいて─
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる