殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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妖刀のある森

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「どうです、私たちのコレクションは」

 どうですと言われてもねぇ。悪趣味だとしか思えねぇわ。

 ずらりと並ぶ美少年たちのはく製。俺は殺しには興味があるが、死体に興味はねぇ。

「これは会員が持ち寄った死体で作ったはく製なのか?」

「ええ、遺体さえ持ってこれば、私が剥製に致しますよ。勿論、自分でやる方が殆どですがね」

「うっかり誰かに見つかったりしねぇのか?」

「これはおかしなことを仰る。私は妖刀天邪鬼の突き刺さっている土地を買ったのですよ? 貴方もご覧になられたでしょう。木々が不気味に歪み、あちこちに食人植物が生えているこの森のさまを。妖刀の瘴気でこうなるのです。だから一般人はおろか、冒険者も近づきません」

「ああ、俺は遠方から来たんでな。この土地の事は何も知らねぇ」

「では、どうやってこの館の事を?」

 館の主の顔が疑いに染まった。やべぇ、なんも考えてなかったわ。

「まぁあれだ。例のアレを見てな・・・」

 こんな適当な言い訳が通じるとは思わないが、黙ってるよりはいいだろ。まぁバレりゃあ殺せばいいだけよ。

「ああ、アレですか。道中で見つけたのですかな? 木に青い瞳の目玉と、メモを突き立てたダガーを。正直言いますと、あれだけで同士を集められるか不安だったのですよ。同士求む、瘴気の森、と書いたメモと美少年の目だけで。ところが同じ嗜好の人はピンとくるようで、今現在十人ほど同志がおりますよ。貴方で十一人目です」

 どっちだ? 美少年を殺して剥製にする趣味なのか、ただ殺して剥製を作るのが趣味なのか。・・・前者だろうな。まぁ飯も食わせてもらったし、なんかその辺はどうでもよくなってきたな。

「会員は皆、暗殺者かなんかなのか? 人が消えたり、死体になったりしたら世間が騒ぐだろ」

「まぁ暗殺業の方もおりますが、殆どが一般人ですよ。だから証拠を残さずに殺せたとしても、死体を持ち去るのが難しいのです。今頃、四苦八苦している会員もいるでしょう。しかし、それらの困難を乗り越えて得た、美少年の剥製は何物にも代えがたい価値があるのです。見てください、この最高傑作を」

 館の主は、フリチン美少年の手に頬ずりをした。丁度頬ずりをしやすいように剥製の手は前に出ている。

「見た感じ、高貴な出身といった感じがするな」

「その通り! 我が国の若き国王の甥、オレガル・ニムゲイン閣下です!」

「そんな大物、どうやって?」

「大変だったと思うでしょう? ところが、国王にとって邪魔な存在だったらしく、彼が我が会員に殺されても、王室は大騒ぎしなかったのです。きっと側近の誰かが勝手にやったと思っていたのでしょうね」

「へぇ、それは運が良かったな。どうやって殺した?」

「鹿狩りに来て、はぐれた所を毒矢で。結局見つかってしまいして、お供と猟犬共々皆殺しに」

「ヒュー! いいねぇ! ただ暗殺者としては三流だな」

「ははっ! まぁ確かに。駆け出しの暗殺者ですからねぇ。それでも会員の中では一目置かれていますよ。この剥製は館一番の大物ですから」

「他の会員はやる気が無くなるな。これ以上の大物っていやあ、国王ぐらいしかいねぇんじゃねぇか?」

「ところが皆やる気に満ちていましてね。この逸品に敵わなくとも、二番手くらいの大物を仕留めると躍起になっています」

「まぁ俺も頑張らねぇとな。ところで中庭に見えるあの刀、あれが妖刀か?」

「ええ。東の大陸で使われている武器の一つですが、手に持つと意に反して人を殺しまくるという、恐ろしい呪いのかかった武器です。その昔、持ち主の武器コレクターは、ここで冒険者達に討たれて、刀を地面に突き立てて死にました。それ以降穏やかだった森に瘴気が溢れ、不気味に変貌していったのです。決して触れないようにお願いしますよ」

「ああ。(触るに決まってんだろ、アホが。俺向きの武器じゃねえか)」

「まぁ説明はこれくらいですかね。お部屋に案内しましょう。我が館は貴方のような、宿無し無一文にも衣食住を提供しております。見た所、貴方は東の大陸の御方でしょう? どうしてこの島国へやって来たのかはお聞きしませんが、ずっと狩りをせずにいると追い出しますから。一年に一度は狩りを成功させてください。そうすれば獲物の美しさに応じて報酬を支払います」

 へぇ。金をくれるのか。まぁそんなに金持ってんなら殺して奪うまでよ。俺の気が変わった時がお前の最期だ。そうだ! お前を剥製にしてやるぜ! ギャハハ!

「わかった。暫く世話になるぜ」



「ビャクヤが変なものを押し付けてる間に、見失ったでしょうが!」

「だって主様があまりに魅力的だからッ!」

「あんたに好かれても嬉しくない!」

「しどい! 使い魔は召喚主に好意を抱くようにできているのですぞ! その愛を無下にするのですかッ! ンハッ!」

 体育教師のライアンを見失った事で、隠れる必要のなくなったリンネはビャクヤをドンと突き放す。

「私はね、ほんとはロックゴーレムと契約するつもりだったの! でもあんたが出てきちゃったの! 悪魔なんて使い魔にしたくなかったのに!」

「しっ! 主様、ライアンが錬金術棟から出てきましたよ。さぁマントの中に!」

「またぁ?」

「んん、さぁ早く!」

 ビャクヤがリンネをマントで覆い、再度魔法で透明化すると、二人に気づいていないライアンは横を通り過ぎて校舎にある教員室へと戻って行った。

「証拠は必ずあの錬金術棟にあるはずですよ、主様」

 その時、予鈴が鳴り響いて授業の始まりを告げた。

「いけない! 教室に戻らないと!」

「ぐはっ! 結局、魔法点を無駄に失いましたッ! まぁ主殿とイチャイチャできたので、良かったですんんんがっ!」

「さぁ戻るわよ、ビャクヤ。それから、今度その変な棒を押し付けたらへし折るからね!」

「我が淫なる棒をへし折ると? なんと残酷なッ! あぁ! 主様には愛が足りない! しかしながらッ! 吾輩が愛をゆっくりと育んでいきますので、宜しくッ!」

「うるさい!馬鹿!」
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