殺人鬼転生

藤岡 フジオ

文字の大きさ
3 / 299

尾行、交尾?

しおりを挟む
「アホがぁぁぁ! ヒャハハハ!」

 俺は自身でも気に入っていない大きな垂れ目を見開いて、笑いながら街道をひた走る。
 
 すれ違う奴らが奇異の目を向けてくるが知ったこっちゃねぇ。逃げながら、周りの奴らを殺してもいいんだが、今はビャクヤのクソガキから遠く離れるのが先決よぉ!

「何が契約だ! 見てみろ! 俺を縛るものは何もねぇ! これこの通り逃げられるじゃねぇか! 俺は自由だ! ひゃぁぁはーーー!」

 快走する道の先で、大きな馬車が立ち往生していた。あと周りを羊がウロウロしてるし邪魔だ。道沿にそって川が流れてるから、避けるわけにもいかねぇ。もう片側はいばらの藪だ。

「おい! どけぇ! 糞爺!」

 そのてっぺん禿げを、かち割ってやろうか!

「ひぇ! どけと言われても、マァドハンドという魔物が車輪を掴んで離さないです・・・。こいつは普段は沼地にいるのですが、何故か最近は街道に出てきて悪さをするもんで、ワシも困っているんです。旦那様は腕っぷしが強そうなので、追い払ってくれませんか?」

「なぁーんで、俺が!」

 この爺は殴り殺すか。・・・しかしここで手間取っているとビャクヤが探しに来るかもしれねぇな。今は一にも二にも逃げる事を最優先だ。

「チッ! 仕方ねぇ。これか?」

 俺は馬車の後輪を掴んで離さない大きな泥の手に、ゲシッと蹴りを入れると、魔物は爆裂して泥の飛沫をまき散らした。緑野郎の時もそうだったが、なんでどいつもこいつも爆裂死すんだ?

「おわぁぁ! なんという事か! 泥だから攻撃しても直ぐに再生するマァドハンドを蹴りだけで! ありがとうございます! お礼に荷物にある農作物を好きなだけ持ってってください」

 俺は籠に入ってあったリンゴを一つだけ貰う。そういや腹減ってたんだわ。

「え! それだけでいいんですか? おおおお! なんという無欲な聖人か! 冒険者に依頼すると最低でも銀貨一枚は取られるのに! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 ペコペコ下げた頭の延髄あたりに、ナイフでも突き立てたい衝動に駆られたが、俺はリンゴを齧りながら先を急ぐことにした。こんなところで手間取ってるわけにはいかねぇ。しかしそんな俺を爺が呼び止める。

「旦那様! その先は二手に道が分かれていますが、左には決して行かないように。怪しい秘密結社の屋敷があります。それに、あの変一帯は岩に突き刺さる妖刀の瘴気のせいか、怪しい者が多いと聞きます。十分にお気をつけください」

「ん? ああ。モシャモシャ」

 正直、俺は爺の小さな声なんて聞こえてなかった。なんか情報を教えてくれてるのは雰囲気で解ったが、逃げる事で頭がいっぱいだったんだ。あとリンゴを食う音が、シャリシャリと頭に響いて聞こえねぇっつーの。

 心配そうな顔をして見送る爺を背にして、羊を掻き分けて俺は街道をまた走り出した。

 すると道が二手に分かれている。

「爺がなんか言ってたな。なんだったか。まぁいいや。左は山に続いている。隠れるにはもってこいか」

 なんてことない森の中の道をどんどん進むと、大きな屋敷が見えてきた。

「もっとがっつりと飯が食いてぇな。取りあえず中の奴らを殺して食いもん奪うか。もぉしもーし、誰かいねぇかー」

 一応大きな両開きの扉をノックする。すると中から直ぐに返事が聞こえてきた。両開きだと思っていた扉はガラガラと横にスライドして、中から髭の紳士が現れた。

「ようこそ、寵愛の館へ。貴方も入会希望者ですか?」

 何言ってんだこいつ。まぁいいや、飯食わせてくれそうならそれでよし。駄目だったら殺す。

「そうだ」

「ふむ、どうやら貴方のオーラが、我々の同志だと物語ってますねぇ。いいでしょう。本来はちょっとした質問で適性があるかどうか調べるのですが、貴方はその必要がなさそうだ」

阿保みたいな問答なんてしてられっかよ。とにかく俺はここに隠れる事にした。ここの住人が目障りになるようなら殺せばいい。

「腹減ってんだが、なんか食い物あるか?」

「勿論、遠方から来てそういう方もいますからね。では直ぐに食事の用意をしましょう。食堂まで案内します」

 飯作ってくれるのはありがてぇ。利用価値がなくなるまで生かしておいてやるぜ。

「ああ、頼む」




 ビャクヤとリンネは不自然にならない程度、にライアンの行動を監視していた。

「人を殺したのに平然としてる。こんな身近に危険人物がいるのは怖いわね」

「怖がる必要はありませんッ! 吾輩はいついかなる時も主殿を守りますから。さぁこの魔法のマントに包まれてください。このマントは、ちょっとやそっとの攻撃は弾きますゆえッ! 主殿の不安も弾き飛ばして差し上げましょうぞッ!」

「いやだ。変態に包まれたくない」

「しどいっ!」

「そんな事よりも、ライアン先生・・・、殺人鬼に先生なんてつけないでいいか。ライアンがキョロキョロしだしたよ」

「あちらの方には錬金術実験棟があったはず。【読心】の効果範囲外ですから、ライアンが何を考えているかは解りませんが、恐らく錬金術実験棟に向かうのでしょう。【透明化】の魔法で尾行しましょう」

「でも【透明化】は私は覚えてないけど」

「んんん、なるじ様! 吾輩が【透明化】の魔法を唱えるので、マントの中に入ってくださいッ! そうすれば主様も見えなくなりますからッ!」

「えー・・・」

「ぐはっ! そんな露骨に嫌がられると吾輩も傷つきますッ! いいですか、あるンじ様! 吾輩だけが透明になって、何かしらの証拠を掴んでも誰にも信用されません。なにせ吾輩、使い魔ですからッ! それに主殿は録画のできる魔法水晶をお持ちではないですか! それで証拠をばっちり撮影していただかないと困るのですッ!」

「・・・。わかった。じゃあマントの中に入る」

「流石は我が主様ッ! 今何をすべきかをしかと心得ておられるッ! ささ、マントの中に!」

 リンネはハァとため息をつくと、仮面の下でハァハァと息の荒いビャクヤのマントに包まれた。

「んんん、【透明化】!」

 魔法は成功し、二人は見えなくなる。

「急ごう。ライアンを見失っちゃう!」

「はいッ! 主様! 少し屈んで歩きましょう。マントから足が出てしまいますのでッ!」

「ちょっと! ビャクヤ! 私のお尻になんか硬いのが当たってる!」

「男の自然現象ゆえ、ご容赦をッ!」

 リンネは顔を真っ赤にして抗議した。

「もっと離れなさいよ! もうやだー!」

「これは、主様を心の底から愛している証拠! これ以上何かするという事はないのでご安心をッ!」

「当たり前でしょうが! これじゃあ尾行というよりは交尾だよ!」

「ん、上手いッ!」

「上手い事を言ったつもりはないよ! バカ!」

 言い合ってるうちに二人はライアンを見失ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...