殺人鬼転生

藤岡 フジオ

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降伏

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 村の野次馬どもが遠のいていく。

 当たり前だが俺やビャクヤの近くにいれば、騎士団の攻撃に巻き込まれるからだ。

 案の定、最後までビャクヤに石を投げていた馬鹿な男が逃げ遅れて、神殿騎士の短矢(クォレル)の餌食となった。背中に一撃を喰らって前方に転げてから起き上がるも、男はまた倒れてパタリと動かなくなった。

 それは俺を狙って放たれた矢が、ビャクヤの防御魔法【弓矢そらし】によって軌道を逸らされた結果なのだ。

「あぁ! 酷い! 後ろに村人がいるのですよッ! 神殿騎士殿! 非戦闘員を巻き込むなんてッ! そんな事をして神がお許しになるのですかッ!」

 ビャクヤが神殿騎士を挑発した。こいつの挑発はスキルでもなんでもない、素の挑発だ。

「貴様たちが黙って撃たれれば、このような事にはならなかった。原因はこちらにはない」

「ななな! なんという言い草でしょうかッ!」

 憤慨するビャクヤのマントの中から、何かを掲げるリンネを見て俺はニヤリとした。

(ほぉ、リンネのやつ。中々強かじゃねぇか。魔法水晶で証拠映像を撮っているのか。どうやら神殿騎士たちも、リンネには気が付いていないようだな。いいぜ、ならもっと派手に挑発して注目をこっちに集めてやる)

「不意打ちや飛び道具に頼るしかできねぇのかなぁ? 騎士ってのは? 情けないねぇ?」

「挑発には乗らんぞ、悪魔。我々は過去に王城の地下にある迷宮で悪魔と遭遇し、その恐ろしさを知っている。お前たち悪魔に比べれば、そこいらの魔物など野生生物に等しい」

「へぇ。で、俺様にビビッて遠くからチクチクと攻撃するわけだ? 情けないねぇ」

 俺は威嚇するように刀を前方に向けると、その延長線上にある隊列が割れて、騎士達は回避行動をとる。

「前列で大盾を構える騎士ですら、逃げ出す強さなのか? 悪魔ってのは」

 ビャクヤにそう訊くと、変態仮面は肩を竦めてやれやれというポーズをとった。

「前にも言ったでしょうッ! 人が悪魔に勝つのは難しいとッ! あの伝説の現人神様でもッ! 聖騎士見習いとエリートオーガの自由騎士がお供にいなければッ! 勝てたかどうか怪しいというのにッ! まぁでも、悪魔もピンキリですけどッ!」

「現人神? 知らねぇよ! 誰だ、そいつは。お前の妄想の中の英雄か? 前からちょくちょく話に出てくるな?」

「そこの神を見た事もない胡散臭い、神殿騎士と一緒にしないでくれたまへッ! 吾輩のお爺様はッ! 神様と親友だったッ! 神様はこの星の神をやめてッ! チキュウとかいう世界に帰ってもッ! 時々我々に会いに来てくれたのだッ!」

(なぬ・・・? 神様が地球人だと? どういうこった?)

 もう目の前の神殿騎士とかどうでもよくなってきた。どうなってんだ? ここは異世界じゃねぇのか? 完全にファンタジーの世界だと思っていたが、地球と繋がりがあるのかよ。道理でビャクヤは地球のサブカルを知っているわけだわ。

 まぁでもその地球人も異世界人かもな。俺みたいに悪魔に転生する奴もいるんだ。ここに地球人がいてもおかしくはねぇ。

 俺が考え事をしている間にも、次々にクロスボウの短矢が飛んでくる。

 一回飛ばすと充填に時間がかかるようだが、俺が騎士どもに接近しないのを良い事に、奴らは次々と矢を飛ばしてくる。

「うぜぇな・・・。無駄なんだわ、飛び道具なんてよ。ビャクヤの魔法に守られていなくても当たらねぇぞ?」

 などと言っているが、実際俺はどの程度、矢を回避できるのかはわからねぇ。

「くっ! 流石は悪魔だな。やはり通常の攻撃など効かぬか・・・。仕方あるまい、ボィズー! あれをやれ!」

 隊長の目を治したボィズーと呼ばれた坊主は、緊張しているのか荒い息を吐きながら祈り始めた。

 可哀想になぁ。戦い慣れしてない僧侶がこんなところまで連れてこられてよぉ。ほんと悪い奴らだぁな、神殿騎士様ってのは。ヒヒヒ。

「いいか! お前ら! ボィズーの奇跡の祈りの邪魔をされないように、死ぬ気で悪魔から守れ!」

 なるほど。何をする気か知らねぇが、あの僧侶が神殿騎士の奥の手なわけだ。

 騎士たちが僧侶を囲んで陣形を組んだ。前衛に大盾を持った騎士。その後ろにスピアを構えた騎士。一番後ろを従者っぽい軽装の奴らと弓兵。

 ―――だったら。

「無残一閃!」

 かぁ~! 恥ずかしい! 俺がゾンビ(とエリー)の首を一気に跳ねた時の技の名を、アマリが感情を籠めて言うようになりやがった。学習してるなぁ・・・。

 この無残一閃は別名、大薙ぎ払いと呼んでもいいな。前方180度の範囲の敵を一気に薙ぎ払う。しかも刀のリーチの五倍も攻撃範囲がある。なので隠遁スキル等を使って虚を突き、接近して放てば集団を一刀両断だ。今回はしねぇけどよ。

 奴ら、俺の放った斬撃を大盾で防ぎやがった。いや、実際には大盾が切断されて防ぎきれてはいねぇんだがよ。

「うわぁぁ! 大盾がぁ!」

 雑魚騎士の悲鳴が聞こえる。

「意地でも守れ! どのみち、その悪魔に殺されても生き返るはずだ!」

 隊長さんよぉ・・・。この蘇生の力が憎くて、お前らの上司は俺を消せと命令したのだろうが? なのにその力を当てにして戦うってどうよ?

 俺はもう一度刀を鞘にしまって、無残一閃の構えをとった。

「ん・・・? なんだ? 激しく運動した後のような怠さがあるな・・・」

 急に襲ってきた疲労と眠気。なんだこれは・・・。

「当たり前。技は無限に放てるわけじゃない。短いスパンで発動させると疲れが溜まる」

 相棒が綾波レイみたいな声でそう教えてくれた。

「チッ! 都合の良い魔法があまり存在しないのと同じで、都合の良い必殺技もねぇってか」

「鍛えれば連発できるようになるから、頑張って」

 戦闘中に呑気な事言ってんなぁ。まぁ必殺技なんてなくてもよ・・・。

「ぎゃぁ!」

 大盾の壊れた騎士の目を横に斬った。これでこいつは戦闘不能だ。オープンヘルメットなんて被ってるからいけないんだぜぇ? はー、急所が狙い易いわ。

「わりぃが、絶対殺しはしねぇ。ヒヒヒ!」

 騎士に恐怖がさざ波のように伝達する。

「この悪魔! 俺たちを殺さねぇ気だ! きっと生ける屍みたいにするつもりだぞ!」

 ん? ああ、その手があったか。植物人間みたいにしてやろうか? それなら僧侶の魔法で体が治ったとしても、意識はないままだからな。だが難しそうだな。どうやんだ?

 騎士のどこを狙えばそうなるのかを考えていると、陣形の崩れた盾騎士の隙間から槍が勢いよく飛び出してくる。

「おっと!」

 俺は後ろに飛び退きつつ騎士たちの槍を切ったので、今はただの鉄の棒だ。

 槍の穂先を切られて騒めく騎士たちの中から、悲鳴に近い喚き声が聞こえてきた。

「ボィズー! 祈りはまだか!」

 戦闘開始時にニヤニヤしていたシンベーイ隊長の顔に余裕はねぇな。今は冷や汗を垂らして慌てふためいている。意外と小物なんだな。

 よし、混乱してゴチャゴチャとする陣形の隙間から、隊長を突いてやろう。もう一度目を狙うか? いや口に刀を突っ込むか?

 隊長を狙って刀を後ろに引いたその時、ビャクヤの声が聞こえた。

「馬鹿か! キリマルッ! 僧侶を真っ先に狙いたまえッ!」

 いつものふざけたビャクヤの声ではない。真剣な声だ。

 ビャクヤはいつの間にか数人の騎士に取り囲まれており、リンネをマントで守りつつも魔法で応戦していた。

「あぁ? 俺は好きなように人を斬るぜ? 誰の指図も・・・」

 そう言いかけたところで俺は異変に気が付いた。

 光の柱が俺の体を包んでいる。周りには天使の羽が降り注いでおり、聖なる力が働いているのが解った。多幸感と望郷の念が溢れてくる。が、あまりに白々しい感じがするので、俺はその感情に従う気はない。

「ハハ! 間に合った! 祈りが間に合ったぞ! 我ら神殿騎士の勝ちだ!」

 ああ? またシンベーイがニヤニヤしてやがるな。

「帰還の祈りが発動してしまったか・・・。もうおしまいだよッ! キリマルッ! 帰る場所のない君は、間もなく消滅する・・・」

 自分とリンネを襲う騎士を数人倒したビャクヤは、俺の近くまでやって来てそう告げた。テンションが低いな、ビャクヤさんよ。

 そんな二人を槍を構えた騎士が囲む。光の柱の中に立つ俺は眼中にないようだ。

「負けを認めて降伏しろ悪魔の主、リンネ。我らの目的は悪魔討伐。お前の処刑ではない。抵抗しなければ悪いようにはしない」

 リンネは神殿騎士の言葉を信じていいものかどうか迷っているのか、ビャクヤのマントから出てこない。

 主の返事の代わりとして、ビャクヤが魔法のワンドを地面に投げた。もうこれ以上抵抗しないという意味だ。

「素直だな、使い魔ビャクヤ! お前と戦うとなればこちらもそれなりの犠牲を覚悟しなければならないところだった。(実際、貴様のせいで隊は半壊しているしな)投降してくれて感謝する!」

 小物隊長の安堵する顔は、なんか腹が立ちますねぇ。

「すまない、キリマル。君も吾輩も終わりだ。短い間だったが君との思い出は最悪なものが多かったッ! それは濃縮したヘドロを飲まされたかのようなッ! 生臭く苦い経験ッ! だがッ! 楽しくもあったッ! ありがとう、そして、さようなら」

 ビャクヤは半ばで切れたシルクハットを脱ぐと黒髪を見せた。リンネがマントから静かに出てきて俯いている。

「人修羅キリマルのッ! 直の主はこの大魔法使いビャクヤッ! 全ての罪はリンネ様にあらず! 吾輩にありッ! さぁ首を持っていきたまえッ!」

 光の向こうでビャクヤが跪くと首を垂れた。

「なんと主思いの殊勝な心掛けか! 感じ入った! いいだろう! 貴様の首で、全てをなかった事にしてやる!」

 シンベーイが剣を儀礼的に構えると、大きく振り上げた。

(さっきまで優勢だったのによ・・・。人生ってのはわからねぇもんだな)

 俺は存在が消えつつある自分の体を見ても、特に何も思う事はなかった。

 そして他人事のようにビャクヤの首が跳ね飛ぶのを見て鼻くそを穿った。
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