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リンネの父
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まだ朝の霧が立ち込める中、たまたま顔を洗いに出た俺は、同じ目的で井戸に来ていたビャクヤに昨日の出来事を話した。
ビャクヤは話を聞きながら井戸から汲んだ水を桶に移し、仮面をとって地面に置くと、顔を洗いながら俺の報告を聞いて動きを止める。
俺はビャクヤとの情報共有をして気が済んだので、立ち去ろうとした。
「ちょっと! ままま待ちたま・・・。ちょっ、待てよ!」
途中でキムタクの物真似に切り替えやがった。ビャクヤの地球ギャグは一々古い。
「なんだ?」
「キリマルは今ッ! ヤイバと言ったかね?!」
「そうだが?」
「ああああああ! なんてことッ! この時代に伝説の自由騎士様が来ていたなんてッ! 幸せの野での暮らしを捨ててツィガル帝国に戻りッ! 幾度となく帝国に侵攻してくる他国の強敵難敵を討ち破った、あの伝説のオーガメイジ! 神の子ヤイバ様なんですぞッ!」
「知らねぇよ」
「ヴァカ! 無知! 恥知らず! 垂れ目! 眉無し! 人でなし! 君は凄い人と戦ったのだッ! 歴史に名を残す英雄とッ! 吾輩が生まれた頃にはすでに、お爺ちゃんだったヤイバ様はッ! このビャクヤが生まれた時にッ! 自分の孫が生まれたかのように喜んでくださったと、ナンベルお爺様が言っていたッ!」
自分の爺さんから伝え聞いたって事は、お前が物心ついた頃にはヤイバは既に死んでいるか、どこかに消えたかだな。
「お前の生まれた時の話なんかどうでもいいわ。だがよ・・・。そんな英雄が相手だったんならよ、俺様が負けても当然だわな」
「愚かッ! なんたる愚かッ! 君如きッ! 蛆虫はッ! ヤイバ様に踏みつぶされて当然の存在ッ! 勝てるかもしれないなどと一瞬でも思ったのなら、君の脳みそは寄生虫以下ッ!」
「ほぉ? 今日は珍しく辛辣じゃねぇか。あんまり調子に乗るなよ?」
どうにかして、コイツの顔面にパンチの一発でもくれてやりてぇ。
そう考えていると要らんところで、偽りを見抜くスキルが発動してビャクヤの顔にかかるモザイクが消えた。
少し怒り気味の超絶美形顔が見えてしまい、胸に妙な疼きを覚える。
「クッ!」
駄目だ、あの顔には抗えねぇ。攻撃的だった気分が萎えていく。
この世界の人間は能力を魔法で見抜いて数値化し、表す習慣がある。
リンネが【知識の欲】という鑑定魔法で見たビャクヤの魅力値は21と、人類でも最高値らしい。しかもその最高の魅力値に、何かしらの力でプラスアルファがあるそうな。つまり・・・、こいつの魅力値は21以上かもしれん。仮面がついていなければ、ビャクヤは人々を簡単に魅了する独裁者にもなれたわけだ。
魅力値は相手の好みによって効果が上下するので一番不安定な数値だ、とビャクヤは鼻で笑っていたいが、とんでもねぇ! 俺には死ぬほど効果がある。
「くそったれが・・・」
俺のこの奇妙な感情や苦悩を気にした様子もなく、ビャクヤは大根役者のような大げさな動きで天を仰いだ。
「ああっ! 吾輩もあの時ッ! 主様と戯れていないでッ! 君についていくべきだったよッ! そうしていればッ! 吾輩は英雄の若き姿を生で拝めたのだからッ! ヤイバ様の父上である神様はッ! 時々吾輩の前に姿を現して色々と教えてくださってはいたがッ! もう既にお亡くなりなったその神の子ヤイバ様は神ではないからッ! 吾輩の前に現れるなんて事はできない! 普通に死んでこの世から消えたッ! 魔法水晶の記録以外では見る事ができないレアキャラなのだよッ!」
レアキャラって・・・。ゲームじゃねぇんだからよ。
「キリマルはッ! ヤイバ様と握手をしたのかねッ! 我らに握手という習慣はないッ。だが、この国の人間や星の国のオーガにはあるッ! ヤイバ様の父上は星の国の出身なので、握手の習慣がありッ! 息子であるヤイバ様もそれをするんぬッ! 君はこの無駄に綺麗な手でッ! ヤイバ様とッ! 握手をしたというのかねッ! むふーっ! むふーっ!」
近い近い近い! 顔が近い! 近づくな! そして俺の手に頬ずりすんじゃねぇ! 心臓が煩くなってきただろうが!
「浮気は許さない」
ドロンと煙が上がってゴスロリ服を着たアマリが現れ、ビャクヤをドンと押す。助かった。
「アッ! しどい、アマリちゃん!」
ビャクヤはよろめいてから跪く。そしてヤイバの事を考えて激しく興奮していた自分が恥ずかしくなったのか、平静を取り繕って立ち上がった。
「おっとつい取り乱してしまったね。吾輩は英雄が大好物なものでッ!」
顔を手ぬぐいで拭くと、ビャクヤは仮面を装着した。
ふぅ・・・。危なかったぜ。ほんとあいつの素顔はマジで危険だ。アマリがいなければどうなっていたやら・・・。
俺は危機を救ってくれたアマリの頭を撫でる。アマリはなぜ撫でられたのか解らない、といった感じで不思議そうな顔をしたがニコリと笑った。
「うわぁぁぁん! ビャクヤァァァ!」
濃い霧の中に人影が浮かぶ。
「おい、ビャクヤ。霧の魔物だ。構えろ」
「なにを詰まらない戯言をッ! あれはどう見ても慌てふためく、我が愛しの主様ッ!」
ちったぁ乗れよ。俺の言葉に乗ってワンドぐらい構えろってんだ。
「こんな朝早く、どうしたましたかッ! 我が主殿ッ!」
「これ見てよぉ!」
リンネは手に羊皮紙の巻物を持っている。
「ははぁ? さてはあの魔剣がオークションで、とんでもない値段で売れたのですねッ!」
「それもあるけど、違うの! 私のお父さんが死んじゃったの!」
自分の父親が死んだのに軽い言い方だな。まぁアマリの蘇生を当てにしてるのだろうがよ。
「何で死んだんだ?」
「それが・・・。手紙の内容だとお父さんは敵前逃亡しようとして背中を斬られたって! 不名誉の死だって! お父さんはそんな弱虫じゃないのに!」
「ほぉ? リンネの父ちゃんってどんな見た目してんだ? 敵を怖がって逃げ出す程の貧弱な体つきなのか?」
「ううん。これ見て」
リンネは鞄から、手のひらほどの薄い石板を取り出すと俺に見せた。石板には家族三人が微笑んで映っている。
リンネによく似た母親、小さい頃のリンネ、それから・・・。鬼マッチョの父ちゃん・・・。こりゃあどう見ても超兄貴ってゲームのキャラクターだな・・・。
ビャクヤは話を聞きながら井戸から汲んだ水を桶に移し、仮面をとって地面に置くと、顔を洗いながら俺の報告を聞いて動きを止める。
俺はビャクヤとの情報共有をして気が済んだので、立ち去ろうとした。
「ちょっと! ままま待ちたま・・・。ちょっ、待てよ!」
途中でキムタクの物真似に切り替えやがった。ビャクヤの地球ギャグは一々古い。
「なんだ?」
「キリマルは今ッ! ヤイバと言ったかね?!」
「そうだが?」
「ああああああ! なんてことッ! この時代に伝説の自由騎士様が来ていたなんてッ! 幸せの野での暮らしを捨ててツィガル帝国に戻りッ! 幾度となく帝国に侵攻してくる他国の強敵難敵を討ち破った、あの伝説のオーガメイジ! 神の子ヤイバ様なんですぞッ!」
「知らねぇよ」
「ヴァカ! 無知! 恥知らず! 垂れ目! 眉無し! 人でなし! 君は凄い人と戦ったのだッ! 歴史に名を残す英雄とッ! 吾輩が生まれた頃にはすでに、お爺ちゃんだったヤイバ様はッ! このビャクヤが生まれた時にッ! 自分の孫が生まれたかのように喜んでくださったと、ナンベルお爺様が言っていたッ!」
自分の爺さんから伝え聞いたって事は、お前が物心ついた頃にはヤイバは既に死んでいるか、どこかに消えたかだな。
「お前の生まれた時の話なんかどうでもいいわ。だがよ・・・。そんな英雄が相手だったんならよ、俺様が負けても当然だわな」
「愚かッ! なんたる愚かッ! 君如きッ! 蛆虫はッ! ヤイバ様に踏みつぶされて当然の存在ッ! 勝てるかもしれないなどと一瞬でも思ったのなら、君の脳みそは寄生虫以下ッ!」
「ほぉ? 今日は珍しく辛辣じゃねぇか。あんまり調子に乗るなよ?」
どうにかして、コイツの顔面にパンチの一発でもくれてやりてぇ。
そう考えていると要らんところで、偽りを見抜くスキルが発動してビャクヤの顔にかかるモザイクが消えた。
少し怒り気味の超絶美形顔が見えてしまい、胸に妙な疼きを覚える。
「クッ!」
駄目だ、あの顔には抗えねぇ。攻撃的だった気分が萎えていく。
この世界の人間は能力を魔法で見抜いて数値化し、表す習慣がある。
リンネが【知識の欲】という鑑定魔法で見たビャクヤの魅力値は21と、人類でも最高値らしい。しかもその最高の魅力値に、何かしらの力でプラスアルファがあるそうな。つまり・・・、こいつの魅力値は21以上かもしれん。仮面がついていなければ、ビャクヤは人々を簡単に魅了する独裁者にもなれたわけだ。
魅力値は相手の好みによって効果が上下するので一番不安定な数値だ、とビャクヤは鼻で笑っていたいが、とんでもねぇ! 俺には死ぬほど効果がある。
「くそったれが・・・」
俺のこの奇妙な感情や苦悩を気にした様子もなく、ビャクヤは大根役者のような大げさな動きで天を仰いだ。
「ああっ! 吾輩もあの時ッ! 主様と戯れていないでッ! 君についていくべきだったよッ! そうしていればッ! 吾輩は英雄の若き姿を生で拝めたのだからッ! ヤイバ様の父上である神様はッ! 時々吾輩の前に姿を現して色々と教えてくださってはいたがッ! もう既にお亡くなりなったその神の子ヤイバ様は神ではないからッ! 吾輩の前に現れるなんて事はできない! 普通に死んでこの世から消えたッ! 魔法水晶の記録以外では見る事ができないレアキャラなのだよッ!」
レアキャラって・・・。ゲームじゃねぇんだからよ。
「キリマルはッ! ヤイバ様と握手をしたのかねッ! 我らに握手という習慣はないッ。だが、この国の人間や星の国のオーガにはあるッ! ヤイバ様の父上は星の国の出身なので、握手の習慣がありッ! 息子であるヤイバ様もそれをするんぬッ! 君はこの無駄に綺麗な手でッ! ヤイバ様とッ! 握手をしたというのかねッ! むふーっ! むふーっ!」
近い近い近い! 顔が近い! 近づくな! そして俺の手に頬ずりすんじゃねぇ! 心臓が煩くなってきただろうが!
「浮気は許さない」
ドロンと煙が上がってゴスロリ服を着たアマリが現れ、ビャクヤをドンと押す。助かった。
「アッ! しどい、アマリちゃん!」
ビャクヤはよろめいてから跪く。そしてヤイバの事を考えて激しく興奮していた自分が恥ずかしくなったのか、平静を取り繕って立ち上がった。
「おっとつい取り乱してしまったね。吾輩は英雄が大好物なものでッ!」
顔を手ぬぐいで拭くと、ビャクヤは仮面を装着した。
ふぅ・・・。危なかったぜ。ほんとあいつの素顔はマジで危険だ。アマリがいなければどうなっていたやら・・・。
俺は危機を救ってくれたアマリの頭を撫でる。アマリはなぜ撫でられたのか解らない、といった感じで不思議そうな顔をしたがニコリと笑った。
「うわぁぁぁん! ビャクヤァァァ!」
濃い霧の中に人影が浮かぶ。
「おい、ビャクヤ。霧の魔物だ。構えろ」
「なにを詰まらない戯言をッ! あれはどう見ても慌てふためく、我が愛しの主様ッ!」
ちったぁ乗れよ。俺の言葉に乗ってワンドぐらい構えろってんだ。
「こんな朝早く、どうしたましたかッ! 我が主殿ッ!」
「これ見てよぉ!」
リンネは手に羊皮紙の巻物を持っている。
「ははぁ? さてはあの魔剣がオークションで、とんでもない値段で売れたのですねッ!」
「それもあるけど、違うの! 私のお父さんが死んじゃったの!」
自分の父親が死んだのに軽い言い方だな。まぁアマリの蘇生を当てにしてるのだろうがよ。
「何で死んだんだ?」
「それが・・・。手紙の内容だとお父さんは敵前逃亡しようとして背中を斬られたって! 不名誉の死だって! お父さんはそんな弱虫じゃないのに!」
「ほぉ? リンネの父ちゃんってどんな見た目してんだ? 敵を怖がって逃げ出す程の貧弱な体つきなのか?」
「ううん。これ見て」
リンネは鞄から、手のひらほどの薄い石板を取り出すと俺に見せた。石板には家族三人が微笑んで映っている。
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